14:知ってるもなにも
婚約破棄騒動については、屋敷内でも緘口令が敷かれているのかまったく聞こえてこない。
まあ、俺としても可能な限り深入りする気はない。
翌朝、俺は食堂にてアステリアとコランダム侯爵の二人と朝食を共にしていた。
流石は貴族。メイドによる配膳等々の至れり尽くせりだ。
現代日本の一般人にとっては非日常であり、少しだけ恐縮してしまう。なお、朝食は非常に美味だった。
食後の紅茶を嗜みながら、コランダム侯爵が口を開く。
「さて、本日から我が家の騎士との訓練に参加してもらう予定となっているが、意気込みはどうかな?」
「意気込みですか? まあ、できる限り頑張りますとしか……剣なんて振ったことないですから、本当に期待しないでくださいね」
「アオさんなら大丈夫です!」
俺の自信のない言葉に、アステリアは弾む声で言う。
大丈夫じゃないんだよなぁ——もう引き攣った笑みを浮かべるしかない。
しかし、守護騎士になった以上はアステリアの顔に泥を塗るワケにもいかないことも事実。
と————、
「失礼いたします」
凛とした声と共に、騎士然とした姿の女性が現れる。そして、俺の方へ一瞥してから眉間に皺を寄せた。
……どうやら良く思われていないことは明らかだ。
「彼がお嬢様の守護騎士でしょうか?」
「はい。アオ・ロクジョウさんです」
すぐにでも斬って捨てたい感情を明らかに放つ女性に、上機嫌なアステリアは穏やかな口調で俺を紹介する。
「えーっと……アオ・ロクジョウです」
「ハレン・ノウゼンだ。貴様の指導役を任されている。個人的に貴様をお嬢様の守護騎士とは認めていない」
鋭い瞳で俺を睨むハレンに、すくみ上がりそうになる。
そりゃあ、納得できない者もいますよね。
侯爵家の一人娘の守護騎士がぽっと出の男となれば、懐疑的になるのも仕方ない。
俺自身も不安なのだから、なおさらだろう。
「ハレン。貴女が認めてなくても、私が認めたのですから納得してください」
「……ですが、身体つきは明らかに剣を振っていた者のものではありません。ただでさえ、アベル皇子の婚約者というポジションを奪い取ったサレンディア嬢の守護騎士が、今世紀最強と謳われるサイファ・クルルシファーなのです。嵌められたとは言え、婚約破棄の件もあります。お嬢様の守護騎士の質はコランダム家の信用にも関わるのです」
まったくその通りだ——って、ん?
俺は目を丸くして、ハレンへ問う。
「あの……先ほどサイファ・クルルシファーって言いました?」
「なんだ? サイファ・クルルシファーを知っているのか?」
知っているもなにも、そのサイファは本来アステリアの守護騎士になるはずだった人なんですが⁉
俺は顎に手を当て、考え込む。
サレンディアは確かアステリアを嵌めて、アベル皇子の婚約者の座を奪った典型的な悪役令嬢だったはず。しかし、彼女の守護騎士は確実にサイファではない。言い方は悪いが、冴えない男だったと記憶している。
「本当に、そのサレンディアの守護騎士がサイファで間違いないんですよね?」
「あ、ああ……どうしてそんなに食い気味なんだ、貴様は……」
先ほどまで怒り心頭だったハレンがドン引きしている。
俺としては食い気味にならざるを得ない。
サイファがアステリアではなく、サレンディアの守護騎士になっている。これは一体どういうことなのか?
…………まさか——。
俺の脳裏にひとつの仮説が浮かぶ。
確信は持てない。だが、俺という存在があるのなら、否定の材料にはならない。
「サレンディアは俺と同じ転移者? いや、転生者か?」
その呟きにハレンは首を傾げる。
しかし、アステリアとコランダム侯爵は違う。
「アオさん、それはどういう意味なのですか?」
「私も気になるね。それはどういうことかな?」
流石に誤魔化すワケにもいかない。
「確信があるワケではないです。ただの仮説にはなるので、それでも良ければお話しします」
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