12︰私はアオさんが良いんです
目の前にいる二人の反応はどうなのか——ジッと待っていると、はじめに口を開いたのはアステリアだった。
「私は信じますよ」
真っ直ぐな眼差しを向けるその表情は一切の曇りもない。ただ、俺の言葉を肯定していた。
「なるほど、実に面白い。異世界からの来訪者とは……その与太話を信じろと言うのかい?」
コランダム侯爵は問う。
俺にとっては真実であっても、こちらの世界の者が聞けば与太話と言われても仕方ない。
だからこそ、全肯定の雰囲気を醸し出しているアステリアについては、俺としても疑問符を浮かべたい。
そもそもアステリアって、こんなにも人の話をすんなり信じるようなキャラクターだったか?
「お父様、アオさんは嘘を吐いていませんよ」
「……しかしだな、常識的に考えると異世界という話は荒唐無稽が過ぎる」
「ですが、その『すまーとふぉん』は間違いない証拠だと思います。それ以外のモノについても、見たことのない文字が記されています」
アステリアがこれでもか——と援護射撃を撃つ。
「……まあ、娘を助けた者が偽りを語るとは思わんよ。しかし、仮に異世界人としたならば、なぜ君はこの世界にやって来たんだい?」
その疑問は尤もだが、そんなことは俺も知りたい。
どのような力が働いて、俺はこの世界に迷い込んだのか?
「わかりません」
こう答えるしかない。
「ふむ、わからないのかい?」
「はい。気がついたらこの世界にいたんです」
「……ならば、君には行く宛がないということかな?」
俺はコクリと頷いた。
家無し、金無し、戸籍無し。衣食住もままならない俺は全てを正直に曝け出した。
暫しの沈黙が場に満ちた時、アステリアがコランダム侯爵へ告げた。
「彼を——アオさんを私の守護騎士にします」
コランダム侯爵が「ふむ……」と考え込む。
いや、ちょっと待て。そもそも守護騎士は本来サイファの役割だ。
その役を俺が担うことになってしまえば、全てが大きく変わってしまう。
ただでさえ本来の道筋と異なっている中で、守護騎士に俺がなってしまうと——アステリアとサイファが引っ付く未来が完全に消滅しかねない。
本当ならサイファがアステリアを助けて、守護騎士になる。多くの困難の中で絆を育んだ先で二人は結ばれる——それが俺の知る結末だ。
今更、アニメの道筋云々を気にするだけ無駄だと思うかも知れないが、俺はまだ軌道修正ができると思っていただけに、その提案には大いに慌てる。
「お、俺に騎士なんて務まりません」
これは本音。暴漢からアステリアを助けることができたのも偶然でしかない。
だが、そんな俺の心境なぞ知る由もないコランダム侯爵が「ふむ」と頷いた。
「アステリアが望むのなら、是非もない。いや、身を挺して護った功績を考慮するなら相応しいか」
……相応しくないと思います。
「いやいや、冷静に考えてください。侯爵家の娘の守護騎士がどこの馬の骨ともわからない、貴族出身でもない男がなるなんて変な話ですよ!?」
「実績はあるじゃないか」
「いや、本当に運が良かっただけです。俺は剣の振り方なんて知らないんです」
「ならば、我が家の騎士に鍛錬を任せよう」
おかしい流れだ。
何か作為的なものを感じる。まるで俺がサイファの代わりに充てがわれているような気がする。
……いや、待て待て。
「私はアオさんが良いんです」
脳裏に投映されるアニメ本編の映像。
『私はサイファさんが良いんです』
俺は眉間を摘み、下を向いて小さく息を吐く。
「マジかよ……」
二人に聞こえないように、俺は呟いた。
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