10:さて、どんな反応を見せる?
穏やかな笑みを浮かべているコランダム侯爵に、俺は引き攣った笑顔で挨拶をする。
冷静に考えて貴族との付き合い方なんて知らないワケであり、何が正解で不正解なのかすら微塵もわからない。アニメにおけるコランダム侯爵の人柄からあり得ないとは思うが、対応をひとつ間違えると打ち首になりかねないので、俺としてはおっかなびっくりだ。
「六条蒼——こちら風に名乗るなら、アオ・ロクジョウです」
「では、アオ君と呼ばせてもらうよ。あの日、いろいろ事情があって私が娘を見つけた時、君は倒れているし、娘もあられもない装いで驚いたものだよ」
穏やかな口調で言うコランダム侯爵だが、内心ではあの暴漢にブチ切れていると思われる。アニメの描写からも、目に入れても痛くないほどにアステリアを溺愛しているので間違いないはず。
「えーっと……娘様を襲った男はどうなったのでしょうか?」
「ああ——君に斬られてはいたが、命に別状はなかったよ。まあ、適切な手続きを済ませた後に処断する予定だよ」
うーん、これは……。
コランダム侯爵の目の奥に怒りの色を感じ、俺の背筋に悪寒が奔った。
しかし、件の婚約破棄によって親子関係が拗れた様子はなさそうで、一安心ではある。
「アオ君には感謝してもしきれない。ゆっくり療養してほしい」
「ありがとうございます」
「ところで、だ」
チラリとコランダム侯爵の視線が、ベッドの傍にあるテーブルへ向く。
「アオ君の所持品だと思うのだが、私が知らない文字の記されたものがあった。それにあの薄い板のようなものは何かな?」
コランダム侯爵の問いに、俺は答えに苦慮する。
知らない文字の記されたもの——それはカップ麺とポテトチップス、コーラのパッケージや原材料表示のことだろう。そして、薄い板は恐らくスマートフォンだ。
まあ、下手に隠すよりも、素直に話してしまった方が良いか。誤魔化したところで意味もないだろう。
「……これから話すことは、たぶん信じがたいことだと思いますけど……大丈夫ですか?」
俺の言葉にコランダム侯爵はもちろん、アステリアも目を丸くする。
「信じがたいとは、大きく出たものだね?」
「大きく出たつもりはないんですけどね……」
俺は「ふぅ」とひとつ息を吐くと、まずはスマートフォンを手に取り、電源を入れた。
異世界を訪れてから電波も立たないので、電源をオフにしていた甲斐があったというもの。
「これは……何でしょう?」
スマートフォンの画面に映った表示に、アステリアが興味津々に問う。
コランダム侯爵も興味深そうに見ている。
「スマートフォンっていう道具です。えーっと、同じ道具を持っている者同士で会話ができたり、文字で文通みたいなことができます。あとは……インターネットを使っていろいろな情報を調べることが……って、インターネットの説明も必要ですよね?」
いざ説明しようと思うと、結構難しい。
俺は専門家ではないので、今持っている知識を総動員しながら説明を続ける。その内容が正しいかは別にして、何とかやり切った。
わざわざスマートフォンの説明をする機会なんてないのだから仕方のないことではある……と思いたい。
「このようなものを私は見たことがない。アオ君、君の出身はどこなんだい?」
確信を突くコランダム侯爵の問いに、俺は素直に答える。
「日本という国の出身です。ちなみに聞き覚えはありますか?」
アステリアとコランダム侯爵は首を横に振る。
ま、そうだろうね——俺は頷く。
「恐らくなんですけど、俺は別の世界からやって来た人間だと思います」
さて、どんな反応を見せる?
俺はふたりの反応を待った。
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