第4話 排泄介助と道具選び
排泄介助は、介護技術の中でも非常に重要である。
外から見ると、トイレへ連れていく、おむつを交換する、パットを当てる、汚れたら更衣する、という仕事に見えるかもしれない。
しかし、排泄介助はただの後始末ではない。
排泄介助は、利用者の清潔、尊厳、体調、生活リズム、事故予防、職員の業務負担に関わる技術である。
ここを軽く見てはいけない。
排泄介助が上手くできている現場は、汚染が減る。
更衣が減る。
寝具交換が減る。
臭気が減る。
皮膚トラブルも減りやすい。
利用者本人の不快感も減る。
職員の後始末も減る。
逆に、排泄介助が雑だと、現場は一気に重くなる。
トイレ誘導が遅れる。
失禁する。
衣類が汚れる。
椅子や床が汚れる。
寝具が汚れる。
おむつやパットがずれて漏れる。
更衣が必要になる。
清掃が必要になる。
記録も必要になる。
他の利用者対応も遅れる。
排泄介助は、現場全体の流れを左右する。
だから、単に「排泄があったから対応する」では遅いことがある。
大切なのは、排泄の前後を読むことである。
この利用者は、どの時間帯にトイレへ行きたがるのか。
食後に訴えが出やすいのか。
水分摂取後に頻回になるのか。
夜間に多いのか。
歩けるが誘導しないと間に合わないのか。
声かけすれば行けるのか。
声かけしても拒否するのか。
汚染していても本人が気づきにくいのか。
「もう行った」と言うが、実際には確認が必要なのか。
こうした利用者ごとの特徴を覚える必要がある。
排泄介助でまず大きく分けるなら、利用者は三つの状態に分けられる。
自分でトイレに行く人。
歩けるがトイレ誘導が必要な人。
全介助が必要な人。
もちろん、実際の現場ではもっと細かく分かれる。
しかし、最初はこの三つで考えると分かりやすい。
自分でトイレに行く人は、基本的には自立している。
ただし、完全に放置してよいとは限らない。
歩行が不安定な人もいる。
トイレ内で立ち上がる時にふらつく人もいる。
ズボンの上げ下ろしでバランスを崩す人もいる。
トイレに行けるが、排泄後の処理が不十分な人もいる。
認知症症状によって、トイレの場所が分からなくなる人もいる。
自分で行ける人でも、必要に応じて見守りや確認がいる。
ここで職員が過剰に手を出しすぎれば、本人の自立を妨げる。
しかし、見守るべき場面で見守らなければ、事故や汚染につながる。
だから、自立しているように見える人でも、その人がどこまでできるのかを見なければならない。
次に、歩けるがトイレ誘導が必要な人である。
このタイプは、現場ではかなり多い。
歩行能力はある。
しかし、自分から適切なタイミングでトイレへ行けない。
訴えが遅い。
頻尿で何度も行きたがる。
認知症症状で、行ったことを忘れる。
尿意や便意はあるが、間に合わない。
声かけがあれば行ける。
職員の誘導があれば安全に行ける。
こういう利用者には、タイミングが重要になる。
トイレに誘導できそうなタイミングがあれば誘導する。
表情やそわそわした動き、立ち上がり、同じ訴え、落ち着きのなさなどから、排泄希望を読み取る。
頻尿で頻繁に行きたがる場合は、その都度対応せざるを得ないこともある。
もちろん、現場の時間には限りがある。
毎回すべてに完璧に対応するのは難しい。
しかし、対応できるタイミングで誘導しておくことは、後の失禁対応や不穏を減らすことにつながる。
「後で行こう」と思って後回しにした結果、失禁することがある。
そうなると、トイレ誘導だけで済んだはずのものが、更衣、清掃、記録に変わる。
排泄介助では、今の一手間が後の大きな手間を減らす。
声かけも大事である。
基本は、優しく丁寧に声をかける。
「トイレに行っておきましょうか」
このような言い方は使いやすい。
ただし、利用者によって反応は違う。
「さっき行った」
「行かない」
「出ない」
「大丈夫」
「もう済ませた」
そう言う人もいる。
しかし、実際にはトイレに行っていなかったり、汚染確認ができていなかったりすることがある。
そういう時に、正面から否定すると拒否が強くなる場合がある。
「行っていませんよ」
「汚れているかもしれません」
「確認しないと駄目です」
こう言うと、相手によっては不快感や怒りにつながる。
だから、言い方を変える。
「確認だけさせてくださいね」
「念のため見ておきましょうか」
「少しだけトイレに寄っておきましょう」
「今のうちに行っておくと安心ですよ」
こうした言い方で誘導できることがある。
介護の声かけは、言葉の正しさだけではなく、相手が受け入れやすいかどうかが大事である。
また、職員によって利用者の反応が変わることもある。
ある職員の声かけには応じる。
別の職員には拒否が出る。
同性の職員なら受け入れやすい。
特定の職員には安心して任せる。
逆に、特定の職員には警戒する。
こういうことは現場で起きる。
その場合、無理に自分だけで対応しようとしない方がよい場合もある。
その利用者に通りやすい職員にお願いする。
タイミングを変える。
声かけの言い方を変える。
これも技術である。
排泄介助は、利用者の羞恥心にも関わる。
トイレやおむつ、汚染の話は、本人にとって恥ずかしいことである。
認知症症状があっても、羞恥心が完全になくなるわけではない。
むしろ、うまく言葉にできないだけで、不快感や怒りとして出ることもある。
だから、声かけや対応は丁寧にする必要がある。
人前で大きな声で言わない。
汚染を責めない。
急かしすぎない。
必要以上に恥をかかせない。
本人の尊厳を守る。
これはきれいごとではない。
羞恥心を傷つける対応をすると、次から拒否が強くなることがある。
職員への不信感が出ることもある。
結果として、介助がさらに難しくなる。
丁寧な対応は、利用者のためであり、現場を安定させるためでもある。
次に、全介助が必要な人である。
全介助の人は、自分でトイレへ行くことが難しい。
おむつ交換やパット交換が中心になることが多い。
場合によっては、ベッド上での交換が必要になる。
ここでは、用品選びと当て方が重要になる。
おむつ、紙パンツ、パットは、ただ使えばよいわけではない。
その人に合ったものを選ぶ必要がある。
自分でトイレに行く人。
歩けるが誘導が必要な人。
全介助の人。
この大きな分類だけでも、必要な用品は違う。
自分で動ける人に、動きにくい用品を使えば不快になる。
歩ける人に合わないパットを使えば、動いている間にずれることがある。
全介助の人に吸収量の足りないものを使えば、夜間や長時間で漏れる可能性がある。
その人の状態に合った道具を選ぶ必要がある。
さらに、尿量、便の状態、皮膚の弱さ、体型、寝る向き、日中の活動量、夜間の排泄量も関係する。
尿量が多い人。
便汚染が多い人。
横漏れしやすい人。
動きが多くパットがずれやすい人。
皮膚が弱く、蒸れやかぶれに注意が必要な人。
夜間に長時間交換できない時間帯がある人。
それぞれ、必要な対応は違う。
パットを上手く当てることも大事である。
当てる位置が悪ければ漏れる。
隙間があれば漏れる。
体型に合っていなければ漏れる。
動きに合っていなければずれる。
吸収量が合っていなければ漏れる。
漏れれば、更衣や寝具交換が必要になる。
本人は不快になる。
皮膚トラブルにもつながる。
職員の負担も増える。
だから、パットを当てる技術は現場を軽くする。
上手く当てられる職員は、漏れを減らす。
漏れが減れば、汚染対応が減る。
汚染対応が減れば、他の業務にも余裕ができる。
利用者本人も快適に過ごしやすくなる。
介護技術は、こういうところに出る。
一見地味な技術が、現場全体の負担を減らす。
排泄介助では、汚染を広げないことも重要である。
汚れた衣類を脱がせる時。
パットを外す時。
身体を拭く時。
寝具を交換する時。
ポータブルトイレを掃除する時。
雑に行えば、汚染が広がる。
床やベッド柵、衣類、職員の手袋、周囲の物品に汚染がつくことがある。
そうなると、清掃範囲が増える。
だから、汚染対応は落ち着いて行う必要がある。
急いでいても、広げない。
本人を不安にさせない。
必要な物品を準備する。
交換後にきちんと確認する。
衣類や寝具、床周りに残っていないかを見る。
排泄介助は、清潔を守る技術でもある。
ただし、現場ではいつも理想通りにはいかない。
人手が足りない。
時間がない。
他の利用者が待っている。
センサーが鳴る。
同時にトイレ希望が重なる。
入浴や食事の時間が迫っている。
その中で、排泄介助を行う。
だからこそ、先回りが重要になる。
この人はそろそろトイレに行きそう。
この人はこの時間帯に失禁しやすい。
この人は早めに誘導した方がよい。
この人は頻回に訴えるが、危険は少ないから観察を増やしてピンポイントで対応しよう。
この人は放置すると不穏が強くなるから早めに対応しよう。
利用者ごとのパターンを覚えることで、現場は少し楽になる。
大体の行動は同じであることが多い。
もちろん毎回同じとは限らないが、傾向はある。
その傾向を覚えれば、上手く誘導できる。
排泄介助では、利用者の生活リズムを知ることが大きな武器になる。
いつ行きたがるのか。
どの声かけなら応じやすいのか。
どの職員なら受け入れやすいのか。
どの用品なら漏れにくいのか。
どのタイミングで交換すれば汚染が減るのか。
これを覚えるほど、介助は安定する。
新人のうちは、これが分からない。
だから、最初は先輩職員に聞くことが大事である。
この人はどのタイミングでトイレ誘導すればよいのか。
この人は紙パンツなのか、おむつなのか。
このパットでよいのか。
この人は拒否が出やすいのか。
どういう声かけが通りやすいのか。
漏れやすい方向はあるのか。
交換時に注意することはあるのか。
分からないまま自己判断で進めると、後で大きな手間や事故につながることがある。
排泄介助は、介護の中でも避けて通れない仕事である。
そして、負担も大きい。
しかし、ただ嫌な仕事として扱うのではなく、技術として見れば改善できる部分がある。
誘導のタイミング。
声かけの仕方。
用品選び。
パットの当て方。
汚染を広げない手順。
羞恥心への配慮。
利用者ごとのパターンの把握。
これらによって、利用者の不快感も、職員の負担も減らせる。
排泄介助は、後始末ではない。
現場を安定させるための重要な介護技術である。




