表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
2/10

第2話 残存能力を見る

 

 介護技術の基本は、相手をよく見ることである。


 どれだけ職員側に技術があっても、利用者の状態を見誤れば介助は危険になる。

 逆に、利用者の状態を正しく見られれば、必要以上に手を出さず、本人の力を活かしながら安全に介助しやすくなる。


 介護とは、何でも職員がやってあげる仕事ではない。


 できることは本人にしてもらう。

 危ない部分を支える。

 足りない部分を補う。

 できない部分を介助する。


 この判断が重要である。


 そのために見るべきものが、残存能力である。


 残存能力とは、その利用者にまだ残っている力のことである。


 自分で立てるのか。

 少し支えれば立てるのか。

 立つことは難しいのか。

 座位は保てるのか。

 足に力は入るのか。

 手すりを持てるのか。

 声かけを理解できるのか。

 動作の手順を覚えているのか。

 体調によって能力が変わるのか。


 そうした力を見極める必要がある。


 介護では、大きく分けて三つの段階で考えると分かりやすい。


 全介助。

 半介助。

 見守り。


 この三つである。


 全介助とは、本人の力がほとんど使えず、職員が大部分を介助する必要がある状態である。


 立位が保てない。

 自分で体を動かすことが難しい。

 指示が通りにくい。

 身体機能がかなり低下している。

 安全に動くためには、職員側の介助量が大きくなる。


 こういう場合、職員は無理に本人へ動作を求めすぎてはいけない。

 できないことを無理にさせれば、転倒や受傷につながる。

 本人も不安になる。

 職員側の身体にも負担がかかる。


 全介助では、安全を第一にする必要がある。


 ただし、全介助だからといって、本人を物のように動かしてよいわけではない。

 声かけは必要である。

 今から何をするのかを伝える。

 身体に触れる前に一言かける。

 痛みや恐怖がないかを見る。

 表情や反応を見る。


 本人の反応が少なくても、尊厳は守るべきである。


 半介助とは、本人にできる部分があり、職員が足りない部分や危険な部分を支える状態である。


 介護技術として一番判断が必要になるのは、この半介助である。


 本人は立てる。

 しかし、ふらつく。

 手すりを持てば立てる。

 しかし、向きを変える時に不安定になる。

 声かけがあれば動ける。

 しかし、手順が抜けることがある。

 足に力は入る。

 しかし、途中で膝折れする可能性がある。


 こういう利用者には、全てを職員がやってしまうのはよくない。


 本人ができる部分まで奪うと、残っている力を使う機会が減る。

 本人の自信も失われる。

 身体機能の維持にも悪影響が出る可能性がある。


 だから、半介助では本人の力を活かす。


 立ち上がる時に、本人が足に力を入れる。

 手すりを持つ。

 声かけに合わせて動く。

 職員は、その動きを邪魔しないように支える。

 危ない部分だけ補助する。


 これが大事である。


 半介助で大切なのは、職員が動かしすぎないことである。


 職員が急ぎすぎると、本人の動きが追いつかない。

 職員が強く引きすぎると、本人の重心が崩れる。

 職員が全部支えようとすると、本人が自分で力を出す機会を失う。


 半介助では、本人の動きと職員の支えを合わせる必要がある。


 見守りとは、本人が基本的には自分で動けるが、転倒や判断ミスのリスクがあるため、職員が近くで確認する状態である。


 見守りは、何もしないことではない。


 ここを誤解してはいけない。


 見守りとは、手を出しすぎず、しかし危険があればすぐ動ける距離で見ることである。


 本人は歩ける。

 しかし、ふらつきがある。

 本人はトイレに行ける。

 しかし、ズボンの上げ下ろしでバランスを崩すことがある。

 本人は車いすへ移れる。

 しかし、ブレーキを忘れることがある。

 本人は薬を飲める。

 しかし、口に残りやすい。

 本人は食事ができる。

 しかし、むせ込みやすい。


 こうした場合、職員が全部やるのではなく、本人にやってもらいながら、危険なところだけ確認する。


 見守りとは、自立を支える介助である。


 ただし、見守りの判断を甘くすると危険である。


 見守りでよいと思っていた利用者が、実際にはその日の体調が悪く、ふらついていることもある。

 昨日できたことが、今日もできるとは限らない。

 朝できたことが、夕方にもできるとは限らない。


 利用者の状態は変わる。


 だから、介助量は固定ではない。


 この人は全介助。

 この人は半介助。

 この人は見守り。


 そう決めたとしても、それは絶対ではない。


 体調が悪い日。

 眠気が強い日。

 発熱がある日。

 薬の影響が出ている日。

 不穏が強い日。

 足の痛みがある日。

 気分が落ち込んでいる日。


 そうした日は、普段より介助量が増えることがある。


 逆に、調子が良い日は普段より動けることもある。


 だから職員は、毎回見る必要がある。


 前回できたから大丈夫。

 いつもこうだから大丈夫。

 この人は見守りだから大丈夫。


 そう決めつけると危ない。


 介護技術とは、固定された分類を暗記することではない。

 その時の状態を見て、必要な介助量を判断することである。


 残存能力を見る時に大切なのは、身体機能だけではない。


 認知面も見る必要がある。


 足腰はしっかりしている。

 しかし、認知症症状によって手順が分からない。

 立てる。

 しかし、どこへ向かうのか分からなくなる。

 歩ける。

 しかし、危険な場所へ行こうとする。

 トイレに行ける。

 しかし、トイレの場所が分からない。

 薬は飲める。

 しかし、飲んだことを忘れる。


 このような利用者の場合、身体能力だけを見て「できる」と判断すると危険である。


 介護では、身体能力と判断能力の両方を見る必要がある。


 身体は動くが、危険判断ができない人もいる。

 身体は弱いが、理解力はしっかりしている人もいる。

 声かけがあれば安全に動ける人もいる。

 声かけをしても混乱する人もいる。


 その人に合わせて、介助の形を変える。


 残存能力を見るとは、単に筋力を見ることではない。

 身体、認知、理解、意欲、不安、体調、その場の状況を合わせて見ることである。


 ここで重要なのは、職員の思い込みを入れすぎないことである。


 この人はできない。

 この人は危ない。

 この人はどうせ無理。

 この人は自分でやらせると遅い。


 そう考えて、すべて職員がやってしまうと、本人の能力を奪うことがある。


 一方で、


 この人はまだできる。

 この人は前もできた。

 このくらいなら大丈夫。


 そう考えて、必要な介助をしなければ事故につながる。


 過介助も危険である。

 介助不足も危険である。


 介護技術とは、その間を見極める技術である。


 本人にできることはしてもらう。

 しかし、危険は見逃さない。

 本人の力を活かす。

 しかし、無理はさせない。

 自立を支える。

 しかし、事故は防ぐ。


 このバランスが難しい。


 だから、介護は誰でも同じようにできる仕事ではない。


 たとえば、移乗介助で考える。


 本人が立てるかどうかを見る。

 足を床につけられているかを見る。

 手すりを持てるかを見る。

 立ち上がる意思があるかを見る。

 声かけが通じているかを見る。

 重心がどこにあるかを見る。

 立った後に向きを変えられるかを見る。

 座る時に急に落ち込まないかを見る。


 この確認をしながら介助する。


 残存能力を見ずに介助すれば、力任せになる。


 力任せの介助は危ない。


 利用者が怖がる。

 拒否が出る。

 身体がこわばる。

 職員の腰に負担がかかる。

 重心が崩れる。

 転倒リスクが上がる。


 逆に、残存能力を正しく使えれば、介助は軽くなる。


 本人が立つ力を使う。

 本人が手すりを持つ。

 本人が足を動かす。

 本人が座るタイミングを理解する。

 職員はそれを支える。


 利用者も職員も楽になる。


 残存能力を見ることは、利用者のためだけではない。

 職員のためでもある。


 本人の力を活かせば、職員が全部抱え込まなくて済む。

 無理に持ち上げる必要が減る。

 腰への負担が減る。

 介助がスムーズになる。

 拒否や不安も減りやすい。


 だから、残存能力を見ることは、介護技術の土台である。


 新人が最初に覚えるべきなのも、この視点である。


 全部やってあげることが介護ではない。

 放置することも介護ではない。

 その人ができることを見て、必要な分だけ支えることが介護である。


 分からなければ、勝手に判断しない。

 この人はどこまでできるのか。

 どこから危ないのか。

 どの程度支えればよいのか。

 どの職員なら上手く対応できるのか。

 不安なら先輩職員に聞く。


 新人のうちは、それでよい。


 介護現場で危険なのは、分からないまま独断で動くことである。


 残存能力の判断を誤れば、事故につながる。

 過介助になれば、本人の力を奪う。

 介助不足になれば、転倒や受傷につながる。


 だから、報告、連絡、相談が大事になる。


 利用者の状態は変わる。

 介助量も変わる。

 昨日の正解が、今日も正解とは限らない。


 だからこそ、介護職は利用者を見る。


 歩き方を見る。

 立ち上がりを見る。

 表情を見る。

 反応を見る。

 声かけへの理解を見る。

 体調を見る。

 不安を見る。

 その日の違いを見る。


 介護技術の第一歩は、手を出すことではない。


 見ることである。


 そして、見たうえで、どこまで本人に任せ、どこから職員が支えるかを判断することである。


 残存能力を見極めることができれば、介助は安全に近づく。

 本人の力も活かせる。

 職員の負担も減らせる。


 介護技術は、ここから始まる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ