47.「内部の敵」
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たすくと共に中央を目指す凪。
中央付近に近づくと、空襲のあとが顕著になってきた。爛れたアスファルト。鉄骨の骨組みに削れたコンクリートがぶら下がる、マンション跡のような建物。
「この辺を集中的に狙ったらしい」
凪の体力が持続せず一旦休憩するため立ち止まったところで、たすくが言った。
「九年前の異邦による奇襲、そのこと覚えてるか?」
「覚えてるよ、日本中が大騒ぎだったから。いつの間にか平和慣れしちゃったんだね、私たち」
「戦ってんのは俺らだし、人間兵器がいる限り外国も日本に手出せないってわかってるから、田舎のやつらが平和ボケする気持ちはわかる」
「……わかるんだ」
「……なー、茉理。聞いてるか?」
話を遮るように、たすくが正面を向いたままreactionバンドに語りかけた。
若干のノイズのあと、すぐに声が返ってくる。
『聞こえてる。どうした?』
「どうした、反応が遅……あぁ、景子たちのサポートしてんのか。忙しいとこ悪いんだけど、こっちも助けてくんね?」
たすくの視線の先には内域軍兵が十人ほど立っていた。
睨むように見つめたまま、たすくが言葉を続ける。
「俺は黒服が見えたらとりあえず、戦闘態勢に入るよう仕込まれてんだけど」
『内域軍の兵がいるのか? ちょっと待て、いま』
「たすくさん!」
突然の声に振り返ると、白羽織を着た兵が五人、凪とたすくの元に駆け寄った。
「よかった、追いついた。たすくさん、走るの速いから」
「お前らが遅ぇんだよ」
膝をついて息を整える外域軍の少年たち。顔を上げ、目に入った黒服に顔を強張らせる。
『大丈夫だ、敵じゃない。反逆派のやつらだ』
「……敵じゃないって保証は?」
たすくは黒兵を睨んだまま、reactionバンドに問いかける。
『リアバンの識別番号でわかる。そこにいるやつらは敵じゃない』
「識別番号? おいおい、初めて聞いたぞ」
『……悪い。今日のために隠してた』
「ふざけんな、俺ら現場は命預けてんだ。茉理、俺はお前を信用してる。もしお前が勧誘したやつらの中に敵がいたら、ごめんなさいって言えよ?」
そう言って足を踏み出すたすくだが、三歩進んだ所で、銃声が鳴った。
「……え? え? たすく君?」
銃声と同時にたすくの姿が消えた。
困惑する凪の背後にふわっと、白羽織が舞う。
「茉理」
拳銃を構えた外域軍の少年、その男の腕を拘束しているたすくの姿があった。
「ごめんなさい、は?」
『……悪い』
「ごめんなさいだろーがよ! 協力するふりしてこうやって仕掛けてくるやつだっているんだよ」
たすくは掴んでいた白兵の首を叩き、崩れ落ちる身体を地面に下ろす。
ややあって、reactionバンドの通信からため息交じりの声が響いた。
『ごめんなさい。そうだな、直前にこんな大勢に声かけるべきじゃなかった』
たすくは通信音量を上げ、残りの白兵を睨む。
「他のやつらはどうした?」
「……遅かったので、置いてきました」
「懐かしいメンツだな」
目の前にいる四人と地面に倒れている一人、訓練校でたすくが指導した生徒だった。
たすくより若い、十代半ばの少年たち。
「たすくさん」
そのうちの一人がたすくに歩み寄る。
大きめの瞳に白い肌、性別を間違うほどの可愛らしい顔立ちの少年。しかし短く切り揃えた黒髪は男らしく、髪型と顔がアンバランスだった。
「自分がなにしてるかわかってますか?」
「茉理から聞いたろ、東京内戦を終わらせるんだとよ」
「それがなにを意味するかわかってます?」
「……ああ」
「俺は中学上がる前に父親が再婚して、たすくさんと同じ孤児院に入れられました。田舎に帰っても居場所はないんです。内戦が終わって、人間兵器を育成する戦場がなくなったら、俺らはどこに行けばいいんですか?」
「茉理が就職先探してくれるってよ」
「仕事なんか無理ですよ! 戦い方しか、融合生成能力しか取り柄がない」
「それでいいだろ、敬語も使えてんだからマナーも問題ねぇ」
「それに! ねぇ、たすくさん、わかるでしょう? 田舎になんて帰れない、帰りたくない。来年も豚汁作りましょうよ、今度は作りたての餅入れますから」
「だから、豚汁に餅は入れねーよ」
「楽しいんですよ! ここの生活が!」
「……だろうな。お前らの顔ぶれ見たとき、味方じゃねぇってわかったよ」
途端、残りの白兵たちも声を上げる。
田舎で罪を犯した、名前が晒されたからもう戻れない。
学校に馴染めなかった、きっと社会にも馴染めない。
ゲームの世界を体感できる東京が楽しい。
理由はそれぞれだが、帰結は同じだった。
田舎より、東京のほうが良い、と。
「たすくさんや朝季隊長のおかげですよ。ここでの生活は楽しかった。死と隣り合わせって言うけど下手しなければ死なないし、田舎に帰るくらいならここで死んだほうがいい。どうして今さら、この街を変えようなんて」
「病んでんなぁ、お前。あぁ、そっか、俺と同じ……いらないって捨てられたやつらが入る施設の出身だったな」
自身のことと照らし合わせ、たすくは大きくため息をついた。
家族がいた、だけど……その人は自分をそうだと認めてくれなかった、必要としてくれなかった。
くしゃりと前髪をかきあげ、再度息を吐く。
「茉理、向こうの黒兵は信用できんのか?」
『大丈夫だ、内域軍内は精鋭しか声かけてない』
「そうか……凪、先行ってろ」
「え?」
「あそこの黒兵んとこまで走れ。茉理、そっからはよろしく頼む」
「ちょっと待って、たすく君は?」
「見りゃわかんだろ。俺はここでこいつらと話がある」
「でも私一人って……」
たすくはあからさまな舌打ちをし、凪を睨みつける。
「だから! あっちの黒兵がお前をサポートするんだよ」
「でも、あの人たちが絶対に味方って保証はないってさっき……」
「茉理が大丈夫って言ってんだろ? 茉理、今度は信用していいんだよな?」
『ああ、問題ない』
「だ、そうだ。行け」
「い、行かせませんよ!」
白兵の少年が歩み出るが、たすくが睨みを利かせて、彼を制止した。
「やめましょうよ、こんなこと! 今ならまだ間に合う。凪ちゃん、朝季隊長を説得して! 内戦を終わらせようなんてバカなこと言わないでって」
「え、……なんで?」
言葉が勝手に出てきてしまった。
凪の返答に、白兵の少年は目をみはる。
「あんただって好きだろ、この街が! それに自分の意思でここに来たって、田舎が嫌で逃げてきたんだろ?」
そうではない、とすぐに返事できなかった。
田舎に馴染めなかったのは事実で、東京の戦場でも後方待機で直接死と向き合ったわけではない。
休戦日や日没後は仲間と笑い合い、衣食住を与えられ、傷を受けるかもしれないリスク以外は不自由ない生活。
違和感を気にしなければ、見ないふりをすれば、喋らなければ。
傍観者のままでいられたのならとても、楽しい街だった。
「でも、違うと思う……」
言いたいことはたくさんあるが、今は一つにまとまらなかった。
「東京だから、戦場だから好きだったわけじゃなくて、違うと思う」
背を向ける凪の、白羽織がひらひら風に揺れた。
後を追おうとする白兵の少年たちだが、たすくが前に立ち塞がった。
「行かせてやれ、俺だって朝季のことが気になるんだ」
たすくの言葉に、先頭に立っていた少年が唇を噛む。
しかしその奥で、別の少年が拳銃を掲げていた。
「おい、相手は凪……EMPだぞ」
たすくが止める間も無く響く銃声。
弾丸はたすくの手をすり抜け、凪が走る方向に飛んで行った。
だが腕を伸ばすとほぼ同時、ポンっとたすくは肩を叩かれた。




