43.「真実へ」
同時に発砲する景子と斗亜。
二、三発打ったところで、互いに目配せを交わした。景子が一歩前に突き出て、白銃をくるくると回す。
弾倉に追加されていくカラフルな色の空気弾を一瞥した斗亜は地面を蹴って人造人間兵器に向けて飛び上がる。
景子のそばを通り過ぎる際、彼女の空気銃に手を添えて。
「いちお聞くけど、最初の弾は麻酔の類だよな?」
「正解です。随分前、貴女と対峙した際に隊長が使用した弾です」
「りょーかい」
景子が引き金をひく、その弾道上に斗亜が飛び乗った。
直径一メートルある弾丸が周囲の空気ごと人造人間兵器を取り囲み、景子がさらに別の弾丸をぶつけて動きを封じた。
「次は連射します。当たったら死ぬやつです」
「硫酸だな」
「それも含め色んな種類ありますが、貴女にぶつけるわけじゃないので割愛します」
景子の放った弾は全て、人造人間兵器の手で軽々握りつぶされた。ジュッと音を立てて消える弾丸。その頭上から斗亜が大鉈を振りかざすが、やはり易々と素手で受け止められる。
その隙を狙って発砲した景子の弾も、反対の手で弾かれてしまった。
人造人間兵器の背後に着地した斗亜が、ケラケラと笑声をあげる。
「すげー、死角がないな」
「でも頭は悪いみたいですね、早く捕らえてください」
「りょーかい」
地面に手をついた斗亜が、そこから糸を引っ張り上げた。ボコっと土が盛り上がり、地面の下から出てきた網が人造人間兵器の身体を包み込む。飛んで逃げようとしたそれだが、景子の発砲した弾が頭上を掠め頭を上げることができず、斗亜が網をキツく縛り人造人間兵器の身体を拘束した。
そして最後の仕上げというように、頭部に麻酔をかぶせる。瞬時、気を失った人造人間兵器が地面に倒れ込んだ。
「余裕でしたね」
景子の言葉に、斗亜はニィッと笑みを浮かべる。
「僕ら人間兵器と同じで強い弱いの差はあるからな」
そして背後に振り返る。
斗亜の視線を追う景子の目に入ったのは、白羽織が二着とピンク羽織一着。
「サルとEMPと……凪、貴女どうして戦用人間兵器を示す白羽織着てるんですか?」
「白が似合うって朝季に言われたから!」
「てめぇ、景子! サルって呼ぶなって言ってんだろ!」
「EMPでも一種だからな、医者だからな俺。ついでに修二って名前もあるからな」
景子に追いついた凪とたすく、修二はそこで足を止める。しかし安堵したのもつかの間、斗亜の存在に気付いたたすくが身を引き、武器を生成し始めた。
だがその右腕を景子に、左腕を凪に掴まれた。
「攻撃しちゃダメ、たすく君」
「この人は敵ではないです」
「な、んだよ、お前ら。どういうことだよ?」
『内域軍って……斗亜! そこいるのか?』
緊迫した茉理の声に、斗亜は軽い調子で「はーい」とたすくのreactionバンドに呼びかける。
『お前リアバンの通信切ってるだろ?』
「? ……あぁ、アサキとケーコにつられて切った」
『朝季と景子も! お前らもなんで切ってんだよ!』
「アサキなら先に行った。人造人間兵器と戦ってる最中に頭おかしくなってた」
『頭おかしくなった? 朝季いないのか? 景子は?』
「…………」
『景子も朝季と行ったのか』
「ケーコなら僕の隣いるけど」
『じゃあ返事しろよ!』
「隊長なら人造人間兵器と戦って、そのまま一人で中央を目指しましたけど」
『反応が遅い……まあ、いいや。凪ちゃん、行ける?』
「ふあっ! え、あ、はい」
コントのようなやりとりに笑いを堪えていた凪だが、話を振られて慌てて声を整えた。
もしかしたら、変な声が出ていたかもしれない。
「大丈夫です、行きます」
『じゃあ斗亜、なにかあれば凪ちゃんを援護してくれ』
「ナギ? ああ、このオンナがそれか」
『もしもの時は二手に分かれろ。敵にぶつかった場合、凪ちゃんは中央に進んで、斗亜はそれについて行って援護。残りは人造人間兵器が現れた時のために常に三人で行動しろ』
「なんで凪が中央に行くんだよ? 一番戦えねぇやつだぞ?」
「偽りの戦場を終わらせるんだよ」
たすくの問いに答えたのは凪だった。たすくはじっと、凪を見つめ返す。
「だから、そのためになんでお前が行くんだよ?」
「冬那さんが言ってたの。黒幕は私の……」
言いかけたところで、ザアアッと突然の豪雨に襲われた。
一同唖然となり、空を見上げる。多少の雲はあるが雨を降らせるような分厚い雲はない。
「これ、なにかの薬品混じってたらヤバイですね」
景子の呟いた一言にはっとし、斗亜が硝子板を作って雨を凌いだ。
「オマエら、三人だけで戦える?」
頭上を見て笑みを浮かべる斗亜が言った。つられて顔を上げた面々がそれに気づいて硝子板の下から抜け出す。
斗亜は凪を抱え真横に飛んだ。凪たちの頭上にいた人造人間兵器の一体が、硝子板を割って地面に着地する。
異常なほど黄色い肌、黒目の眼球。
「僕戦ってもいいけど……マツリ、どうする?」
『たすく、いけるか?』
「人造人間兵器だろ? 無理に決まって……」
「いけます、三人で。さっき戦ったのより動きが鈍い、このメンバーならいけます」
空気銃を右手に持ち、景子は斗亜に視線を送る。
「隊長を追うんでしょ? 先を急いでください」
「おい、景子」
「幹部レベルの戦用人間兵器三人とEMPが一人。充分な戦力です」
「え、待って。俺、戦用人間兵器とEMP、一人二役になってんだけど」
「期待してます、元特攻隊長」
「いやいやいや、だから! 俺の身体は一つだから! 俺はEMPであって……」
「戦用人間兵器でもあるだろ、修二お前は」
火炎放射器をぶっ放しながら修二に目線を送るたすく。
それを援護するように、景子が空気銃を撃った。
「てことで、凪、斗亜」
目線は人造人間兵器に向けたまま、景子が言う。
「隊長をよろしくお願いします」
「こっちは心配ねぇ。つーか、てめぇらこそくたばんなよ」
「え、いや、マジで? 三人で戦うの、このバケモノ相手に?」
攻撃を続ける景子とたすく、その背後で頭を抱える修二。
「いってきてください」
「いってこい」
真実へ――…と、背中で凪たちに語りかけた。
「ありがとう、いってきます!」
斗亜に抱えられたまま、叫ぶ凪。
「ぐっとらっくー」
凪を抱えたのと反対の手をヒラヒラさせ、走り出す斗亜。
「マジで?」
修二は去った二人の背中を見送り、目の前にいる二人の背中に目を向けた。
「あ、頑張って……」
「なにいってるんですか?」
「接近戦はお前の専門だろ?」
「いってきてください」
「いってこい」
元特攻隊長――…と、二人分の声が修二を前に突き出した。
「行きたくねぇー、なにこの死亡フラグ」
「安心しろ、修二。そういうこと言ってるやつは大抵死なない」
「貴方に突き刺さってるのは逆死亡フラグです」
「逆死亡フラグってなに!? 突き刺さってるってダメじゃん! あぁ、こんなことなら×–––とかやりたかったし女の子の×––とかみたかったし」
「なんですか、貴方。気持ち悪いですよ」
「あー、景子。お前知らねーだろうけど、これが修二の通常運転だ」
「キモいことがですか? そしてサルもその仲間なんですか?」
「俺は違う! つーかサルって呼ぶな!」
「やめて、俺のために争わないで!」
「キモいこと言ってんなよ、修二!」
「フラグ折りますよ? さっさとやってきてください」
ドンっと背中を蹴られ、再び人造人間兵器と対峙した修二。
「あっはは、救護班……元特攻隊唯一の生き残り、がんばりまーす」
涙目で、人間とは思えない風貌をした男と向き合った。




