42.「成功体と失敗作」
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内域軍域内。以前は首都高速道路として使われていたコンクリートの下を通り抜けたところで、斗亜が足を止めた。
「おかしいな。内域軍の数が少なすぎる。中央でなにかあったかも」
遠くを見つめる斗亜に倣い、朝季と景子も振り返る。
ちょうどその時、南東方面から爆発音が響き、しばらくして黒煙が上がり始めた。
「予感的中か、斗亜」
「だな。研究所のほうだ。南に逃げ出して暴れたヤツいるだろ、未完成の人造人間兵器、アレらを作ってる場所だ」
「作ってるって……まさか今もまだ?」
「百体くらいあったかな。アレが来るならヤバイな、かなり強い」
ケラケラと笑う斗亜。
朝季と景子は目を見合わせた。
「斗亜、今さらだが中央を目指す理由は?」
「黒幕がいるんだ。まぁ、そっちは偽りだけど」
「黒幕?」
「戦場の街を企画した人間 、東京の街を管理している偉いヤツだ。たどり着いたら話くらいは聞いてくれるだろうって」
「話ってまさか、俺に説得させるつもりじゃないよな? 東京内戦をやめてくれって」
「そんなことで終わるわけないだろ。黒幕の心を動かすのはオマエじゃない。武器を作らない最終兵器がいる」
「武器を作らない最終兵器?」
「行くだろ、とりあえず」
走り出す斗亜、その後を追う朝季。
「隊長、私が言うのもあれですが……大丈夫でしょうか?」
「お前が言うことじゃないだろ、本当。まぁ、斗亜にしては説明に納得がいく。それに俺は夕季が見た景色を、同じ場所に行きたい」
「……はい」
それ以上は喋らず、ひたすら先へ進んだ。
山手線から五キロ南下したところで、朝季たちは再び足を止めた。行手を阻んでいたのは、黒服を纏い人間の形をした生き物。
橙色に爛れた皮膚、口は頬の位置まで裂けていて、眼球は全て黒色に染まっていた。右手で掴んでいるのは頭部だけの人間が三人、左手には肢体のついた内域軍の黒兵が二人。
「人造人間兵器だ、未完成の」
斗亜が言った。それと戦ったことがある朝季は軽く身をひき警戒態勢に入る。人造人間兵器を初めて目にした景子は息を呑んで佇んでいた。
人造人間兵器に捕らえられている黒兵の一人は意識があるようで、斗亜に目を向けた。
「ヒサンだな。なにがあった?」
斗亜の言葉に、黒兵の少年が軽く頷く。
「作戦に反対した学医が研究所の壁を破壊しました。百三体中半数弱が動き出して、各方面に散らばりました」
「壁壊した学医は?」
「死にました、一番最初に」
「だろうなぁ。ヤケになったらオワリだ。で、オマエらは?」
斗亜の言葉に、黒兵は涙を浮かべる。
「すみません、斗亜さん。声かけてくれたのに。水槽から出ようって、話してたのに」
言葉の途中で、人造人間兵器が彼の心臓を踏み潰した。口元から血が溢れ出る。
斗亜は笑みを浮かべていたが、黒兵の表情がなくなったことで唇を結ぶ。
「ここは水槽の中だから。時々ピラニアが現れてそれに怯えて暮らさないといけない場所だから、殺される前に飼い主に噛み付こうって、ロマンチックなヤツだったんだ」
ザッと一歩、前に歩み出る。
「そしたら別のヤツがライオンとシマウマが共生するサファリパークだとか、バルコニーにぶら下げられた鳥籠だとか、誰が一番うまく例えれるかで盛り上がった。内域軍の環境は外域軍と正反対の牢獄になってて、初めて誰かと冗談言い合って、アイツら全員、笑いながら泣いてた」
昨日のハナシだ、と言いながら斗亜が飛び上がる。
翼を模した紙切れの集合体を背中で羽ばたかせ、宙を舞った斗亜が高い位置からライフルを連射するが簡単に避けられ、打ち損じた一発が黒兵の顔に当たった。
爪先から針金を生やし十本のそれが至る場所から人造人間兵器に伸びるが、黒兵の身体を盾にして防御した。
斗亜の爪の刃が黒兵の身体を突き破る。
「……ヒサンだな」
「ムセイゲンノ、アテンダー」
そのとき突然、人造人間兵器が声を発した。
斗亜は後ろに飛んで間合いをとる。
「ビデオ、ミセラレタ。コンな風ニ戦え。オレ失敗ダカラ廃棄。羨まシ、カンペキな人間になれた兵器」
どこかで聞いたことのある台詞に、朝季はゾクリとして身を引いた。そんな朝季の眼前に、まるで瞬間移動のように人造人間兵器が姿を現わす。
人間の目で追える速度ではなかった。斗亜と景子は人造人間兵器の姿が消えたことで、辺りを見渡す。
ただ一人、朝季だけがその動きを追い、しかし逃げることが出来なかった。
「羨まシい交換してくれ」
「は?」
「部品がホしイ。ウラヤマし羨ましイコウカんして」
「なに……言ってる?」
「おマえの体、ほしい。そシタラ、完全なアテだーに生きル、カエれル」
「生きかえる? ……っ」
頭痛がして、朝季はその場に蹲った。
その間も、片言の言葉を浴びせる人造人間兵器。
「部品があれば、心臓が……俺の、身体があれば」
頭を抱えたまま呟く朝季の髪に、人造人間兵器の指が触れた。
瞬間的に朝季は起き上がり、人造人間兵器の首を掴んだ。
「隊長?」
景子が駆け寄ろうとしたが、朝季の鋭い視線に背筋が凍り、その場に立ちすくんだ。
両手に力を入れる朝季。
人造人間兵器はジッと朝季を見下ろし、小さく呟いた。
「……カエリタイ、のに」
その言葉に、朝季は目を見開いた。
聞き覚えのある、生まれる前に聞いた言葉。
死んだ人間の細胞を使って作った人造人間兵器、死んだ人間の、意思。
「……ごめん」
人造人間兵器の身体から力が抜け、涎が地面に落ちる。朝季が手を離すと、その身体はぐしゃっと地面に落ちた。
景子が近寄ろうとするが、朝季は片手を上げてそれを制す。
「悪い、景子。先に行ってる」
次の瞬間、朝季の姿がなくなった。
背後まで確認するが、どこにも見当たらない。
「動体視力弱いな、オマエ。中央に向かったよ。殺さなかったんだな、すげーな」
上下する人造人間兵器の肩を見ながら斗亜が言う。
「……なぁ、内域軍の環境ってどんなだったか知ってる?」
「後で聞かせてください。私はもう、逃げたくない」
カチ、と空気銃を構える景子。
銃口の先で、黒い影が飛び跳ねた。
「ここを生き延びればきっと、自由にゆっくり、お喋りできると思うので。女子会しましょう」
「すげー、いいな、ソレ。内域軍に僕の妹分がいるんだけど、ソイツも呼んでいいか?」
「私は喋りませんけど、ぜひ」
「楽しみが一つできたな……生き抜こうか、ケーコ。偽りの戦場を」
斗亜が回転式拳銃を作り出して引き金を引くと、出てきたのは空気弾。ビー玉大のそれが七発、人造人間兵器に向けて飛んでいく。
目を丸くする景子に、斗亜が笑みを見せる。
「オマエと同じ白銃にはならなかった。けど、連射と匂い弾は覚えた」
「……匂い弾、いま必要ないですよね?」
斗亜から目線を外し、景子は面倒くさそうにため息をついた。
「生き抜いて世界を変えましょう。偽りの色で塗りつぶされたこの街を、白に」




