38.「前哨戦」
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恭吾と別れた景子は、巣鴨駅周辺から真っ直ぐに南下した。不思議なことに、内域軍の兵には出会わなかった。
なにかがおかしい。
そう思ってふと、学校のような建物の前で立ち止まる。以前、朝季と共に内域軍域を攻めに入ったときに逃げ込んだ建物。
自然と、景子は建物の中に足を運んだ。三階まで登ると、窓ガラスは散乱し廊下には穴が開いて崩れていた。
「なんでここ入ったんだよ、オマエ。ウケる」
声が聞こえ、横を向くと廊下の先に斗亜が立っていた。
「マイナス6まで行けって言われたろ? なに寄り道してんの?」
ケラケラ笑う斗亜を、景子は掌を握り締めながら睨んだ。
知っている……外域軍内で通達された、景子自身しか知らないはずの指示書の内容を、知っている。
「執行人……この街のシステムに気付き探り始めている反逆の芽を潰す役。あなたがそれですよね?」
「そこまで知ってんの? ユルユルだなー、情報管理。正解、処分対象者の防衛ラインは手薄になるからな。外域軍のシステムは面倒だよな、楽しい街を演出してある日突然、殺される。内域軍は真反対、全て知ってて人を……時には仲間さえその手で命を奪う」
「……真実を知らなければ、気付かなければ外域軍は、山手線外側は楽しい街でした」
「だろうな。実験してんだ、上層部のヤツら。対なる二つの環境で、どちらがより有能な兵器を生み出せるか」
「あなたは、人間ですか?」
「……人間という名前がついた生き物は、自分が大事だからって安易に人を傷つけたりしない」
「悲惨ですね、そちらの環境も。それで、私の罪はなんですか?」
「罪?」
「なにか理由があって私は、殺されるんですよね?」
無表情だが淡々と語る、景子の顔は真剣だった。
斗亜はふっと笑みを浮かべ、景子と向き合う。
「オマエはなんだと思う、理由……今まで殺されたヤツらはどうして、この街で生きていけなかった?」
「……東京の街に、馴染めなかったから」
「あぁ、ソレいいな。正解にしといてやる……この街を管理する上層部、その中で最も発言力のあるオッサンが一人いるんだけど、ソイツが全部決めてんだ、この街の仕組みも、ここで暮らしてる人間の命も。ピラミッドの底辺はいくらでもいるからな、頂点に立つヤツの機嫌を損ねれば、簡単に殺される」
「……三十文字以内でお願いします」
「『強者が自身の利益の為に弱者を食い潰す、それがこの街、虚偽の戦場、東京』、句読点省いた漢字有効の三十、字余り」
「……合格にしといてやります。で、その発言力の強いおじさんとはどのような方ですか?」
「ハゲかけててぽっちゃりしてる、というかほぼ肥満な態度も体もでかいオッサンだな」
「その方が、私に処分命令を下したと?」
「あー、違う違う。アレ、嘘」
「嘘?」
「僕は反対したんだけどな。演出なんていらないから、さっさと終戦にすればいいって」
「しゅう……終戦?」
「派手な祭りはこれから始まる、さしずめこれは前哨戦。だから言ったろ、オマエは殺したくない……処分命令も出てないのに無謀なことするな、反旗を翻すのは今じゃないって」
タンっと斗亜が地面を蹴る。
景子は一歩後ろに引くが、動きが読めなかった。
目の前に現れた斗亜が片足で景子の足を拘束し、右手で景子の両手を壁に押さえつける。
左手で顎を掴み、顔を近づけると、景子は歯を食いしばって斗亜を睨んだ。
「ああ、やっぱり、綺麗だ」




