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第十七話 好奇心の申し子


「まあまあ、落ち着いてよ。もしかしたら、まだ決着付いてないかもしれないからさ。帰るのはもうちょい、後でも良いじゃん」


 佐藤はそう言って俺の腕をぎゅっと掴んだ。コイツも悪魔なのだろう。物凄い力だ。しかも、側から見れば仲の良いカップルか何かにしか見えないのも悪質である。


「この前、俺の家に来たのは偵察か......?」


「うん。楓クンのことは前に街中で見たときから目を付けてたんだよね。ボク、鼻が効くんだ。キミからはサキュバスの匂いが遠くからでも微かにした。でも、確信が持てなかったから家を訪ねたワケ。あの時、キミの家にお姫様が居なかったからボクの勘違いかと思ったんだけど。今日、確信したよ。だって、暁クン、近くで嗅いだらサキュバス臭凄いんだもん」


 呆れるほどに佐藤はペラペラと喋った。いや、佐藤花子というのはきっと、偽名なのだろう。偽名にしてはあまりにも偽名臭すぎる気がするが。


「サキュバス臭って......アイツ、そんな匂いを俺に付けてやがったのか」


「前に家を訪ねた時より暁クンの匂い、強くなってるよ。交尾でもさせられた?」


 高校生、下手したら中学生の容姿を持つ少女が顔色一つ変えずに『交尾』という単語を発する様は何ともグロテスクなものがあった。

 というか、匂いが強くなってるって......確実にアレ(ほしょく)のせいだろ。


「してねえよ。クイーンサキュバス様はその辺のサキュバスと違って尻軽じゃねえんだろ。......なあ、良い加減に離せよ。家に帰らせろ」


「いやあ、まだ、決着付いてないかもしれないからさ。二人の戦いの。こっちの世界の民間人、巻き込んだら色々と面倒なんだよ。キミの既読が付かないように、こっちも戦闘終了の報告貰ってないし」


 彼女がステラの潜伏している家を炙り出し、其処の住民を足止めし、もう一人の敵がステラを襲撃する、という作戦だったらしい。


「カッ。戦闘終了の報告がねえってことはテメエの仲間が逆に殺されてんじゃねえか? 既読が付かないのはアイツがテメエの仲間の死体処理に手間取ってるからなのかもな」


 俺はまるで自分に言い聞かせるようにそう言った。俺の顔は相当、情けない強張った笑みを浮かべている筈だ。


「仮にボクの仲間が負けたとして、お姫様なら魔法で死体なんて消し炭にして直ぐに捨てられると思うけど」


「......チッ」


「後、あんまり暴れないでね。周りの人に警察とか呼ばれたらボクも流石に離さないといけないから。......殺すのは駄目でも、ちょっと傷つけるくらいならボクも出来るんだよ?」


 冷たく、低い声で俺を脅すと彼女は何処からか取り出したナイフを周りに見えないように俺の体に押し付けた。


「ケッ。どうせ一度捨てた命なんだよ。好きにしろ」


「ふーん。......キミ、多分、お姫様と出会ってから大して時間経ってないよね。何でそんなにあのサキュバスに肩入れしてんの?」


 その質問は俺を煽るようなものではなく、純粋な彼女の興味によって俺に投げかけられたようだった。


「一応、同居人だからな。飯も作って貰ってるし」


「あのサキュバスに操られているとかではなく?」


「あ?」


「私、何度もチャームでキミを操ろうとしてたんだけどさ。効かないんだよね。ほら、何度か私に見つめられたことあったでしょ。多分、効かないのはキミがお姫様のチャームに掛かってるからだと思うんだよね。チャームって強弱があって、弱いチャームは強いチャームを上書き出来ないんだ」


 ニヤニヤと俺を小馬鹿にするような笑みを浮かべ、彼女はそんなことを言う。確かに彼女には初めて会った時も含めて何度も目を合わされた。しかし、チャームに掛かった実感はない。


「アイツがチャームで俺を操ってるから俺はアイツのことに執着している、テメエはそう言いたい訳だな?」


「あんな環境で育ったんだから無理もないけど、お姫様、メンタル弱いからねえ。......『下等生物の人間でも良いから味方にしておきたい』とか、そんな考えに走ることは想像に難くない」


 ......不味い。普通に有りそうで困る。


「だとしても、だ。俺はアイツにチャームを掛けて貰ってたお陰でテメエの下等チャームに掛からなくて済んだ訳だ。感謝してる。それに......」


「それにー?」


「俺がチャームに掛かってるからアイツのことで感情が忙しくなってんだとしても、俺は良い。俺はアイツに救われた」


「あららー、虜になっちゃってる。だ、か、ら、その気持ち自体がチャームによるものなんだって。あの人、悪魔だよ? サキュバスだよ? そんなのに夢中になるなんて人としてどうなの?」


「悪いが俺は無宗教、何なら無神論者だからな。テメエらの存在でそれは揺らいでるが。悪魔でも、天使でも、何にでも、潜在的な忌避感は一切無い」


 俺の言葉を聞いた彼女は暫し沈黙し、満足そうな表情で『んふふ』と笑った。


「面白いね、キミ。凄く面白い。......『好奇心の申し子』フィーネの感性に訴えかけてくるものがあるよ。ふふふっ」


 恍惚とした表情で俺を見つめる佐藤、もとい、フィーネ。彼女の目は何処か狂気に満ちていた。


「ハッ。他称か? それ」


「勿論、自称だよ〜。でも、ボクを説明するのにこれ以上無い二つ名じゃないかな、『好奇心の申し子』」


「知らねえ。さっさと、手を離せ」


「良いよ。キミ、面白いから。早く帰ろ。もし、お姫様がお姉ちゃんにまだ殺されてなかったら、お姉ちゃんを止めてあげるよ、ボク」


「は?」


 フィーネは突如、掴んでいた俺の腕を離し、そう言った。あまりにも支離滅裂過ぎるフィーネの発言に俺は頭上に無数の疑問符を浮かべた。


「『カプ』って言うんだっけ。『ステラ×カエデ』のカプ、結構良さそうだからさ。見届けたいなあ、って。ヒュフフフ......この世界、面白いもの多いよね」


「......サキュバスには変なのしか居ないのか」


「あ、ボク、サキュバスと吸血鬼のハーフだよ。ほら、牙あるでしょ」


「それ八重歯じゃなかったのか」


「ほら、こんな所で喋ってないで早く行こ。ボク、バイク乗りたいなあ......」


 もう一度殴った。

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