↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幼馴染への三度目の失恋を回避したい  作者: momomo
懲りもせず毎日好きになる。ただただ、薔薇色の日々

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
49/54

第49話

 季節は巡り――僕たちは二年生になった。



 風に乗った花と緑の香りが、頬を掠める。



 僕は、およそ一年ぶりに軽音部の部室へと足を運んでいた。


「はい! じゃあ今年もこの五人で、よろしくー!」


 バンドマスターである嶋の元気な声が、狭い部室に響き渡る。

 話題は――約二か月後にある文化祭でのライブのことだ。


 嶋たち男子三人のバンドには、まだ専属のボーカルがいない。

 ちょっとしたイベントでは、部内の他のバンドの女子に助っ人を頼むことが多いらしい。

 ただ、その子も自分の練習で忙しく、そして何より、去年の僕らの演奏が好評だったこともあり、今年もこのメンバーで再結成することになったのだ。


「あの……私、いる?」


 遠慮がちに口を開いたのは、少し離れたパイプ椅子に座る由利さん。


「まだ曲も決まってないから、ピアノが必要かもわからないけど……」


 やや俯きながらそう呟く、彼女の横顔を見る。


 背中までかかっていた綺麗な黒髪はばっさりと切られ、すっきりとしたショートヘアになっていた。

 以前より、表情がよく見えるようになっている。


「何言ってんだよ! 一緒にやろーぜ!」


 嶋がすかさず笑い飛ばした。


「ピアノが映える曲を選べばいーだろ。あ、嫌じゃなければ、キーボードとかもあるし」


 他のメンバーも、そして僕も「そうそう」と、大きく頷いた。


 みんなの反応に、由利さんは頬を緩める。


「……ありがとう。キーボード、やってみたいかも」


 ◇


 和やかな雰囲気のまま、曲決めに移る。


 前回同様、嶋たちが事前に、演奏できる曲ややりたい曲を絞ってきてくれていた。


 今回も、持ち時間はだいたい二曲分だ。

 ノートに書かれた候補リストと睨めっこをする。


 ざっと目を通し、直感で二つのタイトルを指差した。


「俺は……これと、これかな」


 一つは、恋の楽しさをストレートに歌う、ハッピーでアップテンポなナンバー。

 もう一つは、恋人への深く温かい想いを歌い上げる、幸せなバラードだった。


「おっ、いいじゃん! うん、相性いいと思う!」


 僕の意見に、嶋が身を乗り出して賛成する。


「一曲目はキーボード、二曲目はピアノで弾けば、由利さんもどっちも楽しめるしな」


「それいいな」


「うん、賛成」


 他のメンバーからも次々と同意の声が上がり、あっさりと今年のセットリストが決まりそうになった。


 そのとき。


「……って、おい。待てよ」


 リストを見つめていた嶋が顔を上げ、ジト目で僕を見た。


「ん?」


「前回はさ、二曲ともどっちかっていうと『切ない系』だったじゃん? でも今回は、どっちもゴリゴリの『ハッピー系』だな……」


 そこまで言って、ニヤリと笑みを浮かべ、僕をビシッと指差してきた。


「まさか、朝井! お前の選曲、その時の自分の恋愛状況が反映されてないか!? これ、完全に私的な選択だろ!」


 全員から一斉に好奇の目を向けられる。


「……いやいや。普通に、好きな曲を選んだだけだって」


 鋭い指摘に返しが遅れたものの、笑って誤魔化しておいた。


 ◇


 無事に曲も決まり、教室に戻ってきた。


 入ってすぐ、黒板に向かって一番右前の席に腰を下ろす。

 今年も最初の席順はあいうえお順の名簿通りで、僕、『朝井《あさい》』の位置はここだ。


 次の授業の教科書を探そうと、ゴソゴソと机の中を漁っていると――。



「なっちゃん」



 後ろから、柔らかい声が飛んできた。


 その声に、大きく息を吐きながら振り返る。



「……その呼び方、やめてくれない? ……織田」



 真後ろの席から声をかけてきたのは――去年から継続して同じクラスになった、織田だ。


「えーなんで。俺もなっちゃんって呼びたい」


「やだ。だめ」


 間髪入れずに断る。


 なんだかこいつの、こうして遠慮なくワガママを言ってくる感じとか、どこか天然な雰囲気が、若干めぐみと似ているところがあって気に食わない。


(……いやいや、今のなし)


 めぐみは、こんな奴とは比較しようがないくらい可愛い。

 僕は脳内で即座に訂正を入れた。


『なっちゃん』呼びを否定された織田は不満そうに口を尖らせたが、すぐにへらっと目尻を下げた。


「まあいいや。俺、人見知りだからさ。朝井と同じクラスになれてよかったわー。今年も仲良くしてな」


「……どうしよっかな」


 わざとそっけなく返すと、織田は身を乗り出してきた。


「えー、いいじゃん。女の子の趣味も合うしさ!」


「…………」


 その言葉に、僕はジロリと織田を睨みつけた。


「こわっ! 冗談だって〜」


 織田はビクッと肩を揺らし、怯えたふりをしている。


(……ほぼ冗談じゃないだろ!)


 心の中で激しくツッコミを入れた。


 織田はたしかに、一時的だがめぐみに想いを寄せていた時期があった。

 僕とめぐみが付き合い始めてからは、特にアプローチする気配もないし、肝心のめぐみもこいつの気持ちにはまったく気づいていないようだから、とりあえず見逃してやってはいるが。


 でもまあ、こんなふうに全然面白くない冗談を言うところはあるが、根は優しくて穏やかな奴だ。

 話すのが楽なので、意外にもよく話す仲になっているのだった。


 ◇


 体育の授業があるため、ジャージに着替え、何人かの男子と喋りながら校庭へ向かっていた。


 廊下を歩き、角を曲がろうとしたその時。

 勢いよく向こうから来た人影とぶつかりそうになった。


「あ、ごめんなさい……って、あ! なっちゃん!」



 ぶつかる寸前で止まった僕を見て、パアッと顔を輝かせたのは。

 紛れもない、僕の恋人。


「……めぐ」


 ――めぐみだった。



「……朝井、先行ってるぞー」


『彼女』の登場に、気を遣った男子たちは去っていった。


 めぐみは、どうやら移動教室先で忘れ物に気づき、教室まで取りに戻ってきたところらしい。


「忘れ物してよかった〜! なっちゃんに会えた」


 そう言って、「へへ」とはにかむ彼女。

 世界一可愛い。


「また忘れ物かよ」


 愛しく思いながら呆れ半分で笑うと、めぐみは少し唇を尖らせた。


「またって言わないで」


「で、何忘れたの?」


「筆箱」


「それじゃあ、何も勉強できないな」


 思わずふっと吹き出してしまった。


 授業開始のチャイムまで時間もない。

 名残惜しいが別れることにした。


「じゃあ、あとでね」


「ん」


 今日は昼休みに二人で会う約束をしているのだ。


 去り際、めぐみは誰にも見えないようにこっそりと、僕の手をキュッと握る。

 そして嬉しそうな微笑みを見せたあと、パタパタと駆けていった。


 そんな愛らしい行動に、僕の心もあわせて鷲掴みにされる。


 ……僕は相も変わらず、こうやって彼女に夢中にさせられている。



 めぐみとは、二年生ではクラスが離れてしまった。


 けれど、こんなふうに偶然会えたときに彼女がすごく喜んだり、昼休みに会う約束をしたりするのは、また違った良さがあるな、と感じていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。