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幼馴染への三度目の失恋を回避したい  作者: momomo
もう悪夢は見ない。でも彼女の口から直接聞くまで安心できない

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第48話

 壁にかかった無機質な色の時計に目をやると、早いもので利用時間の終わりが近づいていた。


(そろそろ、これも入れようかな……)


 なっちゃんへのリクエストを入れてから、こっそりと「ある曲」も追加で予約しておいた。


 彼が最後の一曲を歌い終えたあと。

 スピーカーから、聴き慣れたイントロが流れてきた。


 それに気づいたなっちゃんは、自分へのリクエストだと思ったのか「おい。次はめぐだろ?」と言う。


「うん。私が歌うの」と、マイクを手に取った。


 それは、文化祭のライブで彼が二曲目に歌った、あの切ないバラードだった。

 口ずさんだことは何度もあるけれど、すごく難しい曲だ。


(うまく歌えるかな……)


 少し不安になりつつも、あの日のなっちゃんの声を思い出しながら、一言一言、大切に、丁寧に歌った。


 彼は、私がこの前の打ち上げでそうしていたように、画面に表示される歌詞をじっと見つめている。

 何も言わず、私のつたない歌を真剣に聴き込んでくれていた。



 曲の終盤。二人の想いが通じ合う、サビの部分。


『どうしようもないくらい 悔しいくらい 好きだよ』


 目の前にいるなっちゃんへのありったけの気持ちを込めた。



 歌い終えるとラストの美しいピアノが流れ、「……ふうっ」と小さく息を吐く。

 私はモニターから目を外し、黙ったままの彼に向かって「へへ」と照れ隠しに笑った。


「……えーっと。なっちゃんほどはうまく歌えないけどね」


 すると――。


 彼は無言で立ち上がり、私の隣にドサッと座った。


「…………」


「……なっちゃん?」


 そう呼びかけると、目を伏せたまま、静かに口を開いた。



「……俺、まだめぐから『好き』って、言われてない」



 突然の核心を突く発言に心臓が跳ね上がり、激しく動揺する。


「ええっ!? だって、付き合ってるんだし……もちろん……」


 続きの『もちろん、好きだよ』という言葉が喉に突っかかって出てこなくて、焦る。


(そうじゃん、私……まだちゃんと言えてない……!)


 タイミングがなかったし……っていうのは言い訳で。

 本当はきちんと、言葉にして伝えるべきだとわかってはいるのだけれど……。

 改めて面と向かって言うことを想像しただけで、顔がカアッと熱くなる。


 そこでハッと苦しい言い訳を思いついた。


「さ……さっき、曲の歌詞の中で言ったよ!」


「はあ?」


 その無理矢理な主張に、なっちゃんは呆れた声を出した。


 そして、さっき自分が「近い」と咎めたのも忘れたようにぐっと距離を詰めて、私を射抜くように見た。


「…………っ」


 あまりの近さと視線の熱さに、思わず目を逸らしてしまう。


「……俺の目を見て言って」


「…………」


「……めぐ。お願い」


「…………っ!」


 至近距離で、掠れた声ですがるように囁かれ、頭の奥がクラクラと痺れた。


(……逃げちゃダメ)


 意を決して、その黒い瞳をまっすぐに見つめ返した。



「…………なっちゃんが、大好きだよ」



(…………っ!)


 それだけをなんとか口にして、ブンッと勢いよく目を逸らした。


(『好きだよ』って言おうとしたのに、テンパって『大好きだよ』って言っちゃった……!)


 顔から火が出そうなくらい恥ずかしくなって俯いていると、腕を引っ張られ、身体が傾いた。



 息を呑む間もなく――唇に、柔らかな熱を感じた。


 それは、触れるだけの優しいキスだった。



「…………」

「…………」


 驚いて目を見開いたままでいると、なっちゃんも少し顔を赤くしながら私を見つめ返していた。


 もう一度、綺麗な顔がゆっくりと近づいてくる。


 今度は、さっきよりもそっと、少しだけ長く。

 お互いの体温と吐息を確かめ合うように、静かに唇が重なった。


 頭の中が、なっちゃんだけになる。


 唇が離れると、彼は額をくっつけたまま、吐息の混じった声で囁いた。


「……好きだよ」


「…………うん」


 震える声でそう返すのが精一杯だった。



 そのまま私たちは、利用時間終了を知らせる電話が鳴るまで、ゆっくり、何度か、キスを重ねた。


 ドアの向こう、別の部屋からわずかに聞こえてくる誰かの歌声を、遠くに感じていた。

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