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【完結】幼馴染への三度目の失恋を回避したい 〜激重な片思いを隠せなくなってきたら、彼女の瞳が揺れるようになってきた〜【ランクイン履歴あり】  作者: momomo
もう悪夢は見ない。でも彼女の口から直接聞くまで安心できない

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第47話

 今日はめちゃくちゃ暑い。

 冷房が効いた音楽室にいたはずなのに、閉め切った窓からジリジリと伝わる熱気のせいか、合奏に集中していたらじんわりと汗をかいていた。


 部活が終わってせっせと楽器を片付け、トイレに向かう。

 早足で廊下を歩きながら、スマホでなっちゃんにメッセージを入れておいた。


『終わったよ! 時間通りに着きそう』


 トイレの鏡の前に立ち、自分の姿を確認する。


(……うわ! ボサボサかも)


 湿気と汗で崩れかけていたポニーテールを急いで結び直し、ほんのり色づくリップを塗った。

 再度、鏡の中をじっと覗き込んで仕上がりを確認していると、個室から葵が出てきた。


「あっ、今日だっけ? 初デート」


 そわそわしている私に気づき、葵が尋ねる。


「うんっ!」


 私が元気に答えると、葵は手を洗いながら微笑んだ。



 なっちゃんと付き合ったことは、葵に一番最初に伝えた。

 葵は「えー! よかったねえ、朝井くん」と、すぐになっちゃんの名前を出した。


「えっ!? 葵、なっちゃんの気持ち知ってたの!?」


 私が驚いて聞き返すと、葵は当然というような顔で頷いた。


「うん。だって、朝井くんめちゃくちゃわかりやすくない?」


「えっ……」

(そうだったんだ……! やっぱり、私が絶望的に鈍感なだけなのか……)


 なっちゃんの『いい加減、気づけって』という言葉が思い出され焦る私に、葵は続けた。


「だから、朝井くんは置いといて。めぐの『好き』は、幼馴染としての『好き』なのかな、どうなんだろうって思ってたんだけど……そっかあ」


 普段はクールな葵が嬉しそうに目を細める姿を見て、私はなんだかすごく照れくさくなってしまった。


「……葵〜!」


 思わず飛びつくように抱きつくと、葵も「えっ、何?」と戸惑いながら照れていた。



 そんなことを思い出しながら、トイレを出て途中まで一緒に廊下を歩き、私はそのまま下駄箱へ、葵は荷物を取りに音楽室へと戻っていく。


「じゃあ、楽しんでね〜」とひらひら手を振ってくれた葵に、「ありがとうっ!」と元気いっぱい手を振り返して別れた。


 ◇


 昇降口を出た瞬間、思わず「あっつ!」という声が漏れてしまった。

 文字通り、ジリジリと太陽が肌を焼き付けるように照りつけている。アスファルトからの照り返しもすごい。


(なっちゃんに会うのに、汗だくになりたくない……!)

 私はこまめにハンドタオルでおでこや首元を拭きながら、小走りで彼の元を目指した。


 待ち合わせ場所に近づくと、この酷暑の中でも涼しげに立っているなっちゃんの姿が見えた。


 彼はすぐ私に気づいてくれた。

 嬉しくなって、つい手をブンブンと大きく振って駆け寄ってしまう。


「なっちゃーん! ごめん、お待たせ! 今日ほんとあっついね」


「……暑いよな」


 なっちゃんは少し目を逸らしながら、短く同意してくれた。


 ◇


 案内されたカラオケの部屋に入り、私はソファに鞄を置いた。


(なっちゃんの歌、楽しみすぎる……!)


 文化祭の打ち上げにクラスで来た時は、彼はみんなに囲まれてリクエスト攻めに遭っていたので、私は何もお願いできなかった。

 だから今日は、なっちゃんを独占するつもりだ。

 もちろん、歌ってほしい曲をすべて歌わせたら喉が枯れちゃうから、数日かけて悩みに悩み抜いた厳選リストをスマホに用意してきている。


 手始めに、私は誰もが知っている有名なほんわかアニメの主題歌を入れた。

 歌いながらチラッと向かいの席を見ると、浮かれている私に対してなっちゃんが妙におとなしい。


(あ、私、はしゃぎすぎてうるさかったかも。それに、最初はもっとしっとり系から入ればよかったかも……)


 少し後悔しながら、私は一曲目を歌い終えた。


 次の曲をなっちゃんがまだ入れていなかったので、私は自分のスマホの『なっちゃんへのリクエストリスト』を一緒に見られるよう、立ち上がって彼のすぐ隣へと移動した。


「なっちゃん、これ歌える?」

「うん」

「じゃあ、これは?」

「……歌える」

「えー、どっち先にしようかな……。あ、なっちゃん自分が歌いたいのあったら、もちろん先に入れていいからね!」


 私がスマホの画面を見せながら喋っていると、ふいに低い声が降ってきた。


「……めぐ。近い」


「?」


 顔を上げると、なっちゃんの頬が、触れそうなほどすぐ横にあった。

 彼の黒い瞳が、戸惑うように揺れている。


(うわっ! ……暗くて、距離感間違えた……!)


「ご、ごめんっ!」


 私は慌てて距離を取った。


「……いや、いいんだけどさ」


 なっちゃんの顔を盗み見ると、嫌がっているというよりは、少し恥ずかしそうにしていた。

 私は大人しく、元の向かいの席に戻る。


「……どっちが先がいい?」


 なっちゃんに聞かれ、私はテーブル越しに「……こっち」と、明るくてみんなで盛り上がれる系のポップソングをそっと指さした。


 なっちゃんは、文化祭のライブで歌った二曲とはまた違った雰囲気のその曲も、器用に歌いこなしてみせた。

 私はさっきの恥ずかしさも忘れ、すっかりテンションが上がってしまった。


 無限になっちゃんのいろんな歌を聴いていたかったが、疲れさせないように、私も比較的得意なものを選んで交互に歌った。

 彼も私の歌に合わせて、遠慮がちにタンバリンを振ったりしてノッてくれた。


 でもやっぱり、こういう密室でラブソングを歌うと……。

 なんだか、曲の歌詞を目の前の本人に捧げているみたいで、照れくさくて隠れたくなる。


 ◇


 一曲歌い終えるごとに、「えっと、次はねー」と言いながらリストをスクロールして悩む私。

 それを見て、なっちゃんが呆れたように笑った。


「どんだけあるの。そのリスト」


「えー、だって! この前、私全然リクエストできなかったし!」


 なっちゃんに言っても仕方ないのだが、私はクラスの打ち上げの時の不満を、口を尖らせながら言った。


「今日は私が、なっちゃんの歌を独り占めだもん」


 私がそう言うと、彼は「……へー」と、少し意地悪そうに目を細めて笑った。


(……なんか、なっちゃんのこの『へー』って、こそばゆくなるんだよな)


『へー。そんなに俺のこと好きなんだ?』と言われているように感じるのだ。

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