第36話
「……っ、朝井くんのことが好きです! 付き合ってください!」
休み時間、人けのない学校の裏庭。
「……ごめん」
僕は、目の前で頭を下げる女の子に、短く謝罪の言葉を告げた。
足早に教室に戻ると、待ち構えていたかのようにクラスの男子たちからひやかされた。
「おいおいおい。今の呼び出しで、もう三人目だろ!?」
「いやー、文化祭マジック半端ないな!」
「まあ、しょうがないな。あのライブには、男の俺でも惚れたもん」
葉山たちがニヤニヤと笑いながら囃し立ててくる。
「…………」
不用意な反論はせず無言のまま自席につき、リュックから次の授業の教科書を取り出して机の上に置いた。
彼らの言う通り、僕は文化祭の後、すでに三人から告白をされていた。
以前同じクラスになったことがある子もいれば、一度も話したことがない他クラスの子もいた。
(……まだ、肝心の本命からは返事をもらえていないというのに)
チラッとめぐみの方に目をやる。
当の彼女は、僕が裏庭に呼び出されていたことなどまったく気にも留めていないそぶりで、金森たち女子と集まって楽しそうに笑っていた。
――『モテるのに、一番好きな子とはまだ付き合えてないんだね』
ふいに、中庭のベンチで由利さんに言われた、あの的確に抉ってくる言葉が脳裏に蘇る。
(あ、そういえば……由利さんも一応、告白みたいなものをしてきたんだから、これで四人目か……)
……忘れていたわけではない。
ただ彼女のあれは、返事を必要としていない、宣言のような、ちょっと変わった想いの伝え方だったため、僕の中で特殊枠として分類されてしまっていたのだ。
あの大熱狂の文化祭が終わった後、僕たちは間髪入れずに期末テスト期間へと突入した。
そして昨日、ようやくその地獄の全日程が終わったところだ。
終わった昨日の放課後こそ、何かめぐみからアクションがあるのではないかと密かに期待していたのだが。
めぐみの所属する吹奏楽部は、今月末に夏のコンクールや定期演奏会を控えていて一年で一番忙しい時期らしい。
そのせいか彼女は、放課後のHRが終わると、僕が声をかける間もなく教室から風のように消え去っていた。
またしても肩透かしをくらってしまったのだ。
――キーンコーン、カーンコーン。
チャイムが鳴り、授業が始まった。
僕はノートにペンを走らせるふりをしながら、黒板を見つめている斜め前方のめぐみの背中を、じっと眺め続けた。
あの非常階段で、僕の想いを受けて限界までパニックになり、真っ赤になった顔をコップで隠していた。
『めぐの頭がクールダウンできるまでは、待つから』
あの時、僕は確かにそう言って、余裕のある態度で身を引いた。
引いたけれど。
(……一体お前のクールダウンは、いつまでかかるんだよ!)
心の中で、強めのツッコミを入れる。
待つとは言ったが、さすがに長すぎる。
あれからもう二週間以上経っているんだぞ?
そして僕はその間に、他の女の子に告白されたりしているんだぞ?
しかも、四人にもだ!
……いや、待てよ?
僕の手を握り返してくれたのは文化祭の熱で盛り上がっていただけで、めぐみの気持ちが『別の意味』でクールダウンしてしまったわけではないよな……?
いつものネガティブ思考が顔を出し始める。
『冷静になって考えてみたら、やっぱりなっちゃんは幼馴染だし、付き合うとかはないわー』……と。
あの熱気から完全に冷めてしまったのではないか。
彼女のあの反応は、ただ単に急に好意を向けられて戸惑っただけだったのではないか。
(…………)
窓の外の空はすっかり高く青い真夏の空模様となり、ジージーとうるさいほどに蝉が鳴き乱れている。
そんなうだるような暑い外の景色とは対照的に、最悪の可能性に行き着いた僕の心は、サーッと冷や汗をかいて凍りついていくのだった。




