第27話
「三組のお化け屋敷、思ったより凝ってて面白かったね」
「ねー! あっ、このシフト終わったら、先輩の劇観に行かない?」
「おっ、いいねいいね」
ヨーヨーすくいのレジ役をしながら、葵とこれからの回り方について色々と相談していた時のことだ。
教室の入り口に、キョロキョロと中を見渡している見慣れた姿が現れた。
「あっ、お母さん!!」
私が大きく手を振ると、お気に入りのお出かけ用ワンピースを着た母がパッと顔を輝かせて近づいてきた。
「あらっ、葵ちゃん?」
隣にいる葵に気づいた母が声をかける。
葵とは中学時代から仲が良く、家にも遊びに来たことがあったため、覚えていたようだ。
「ご無沙汰してます」
葵がペコッと丁寧に頭を下げる。
「葵ちゃん、すごい大人っぽくなったわね〜! 二人とも、お祭りの衣装、すっごく似合ってる!」
母はニコニコと褒めてくれてから、お金を払ってヨーヨー釣りのプールへと向かっていった。
「めぐとお母さん、そっくりだよね」
葵が、母の背中を見ながらポツリと言った。
「えっ、ほんとー? どちらかというと、お父さんに似てるって言われることが多いんだけどな」
「見た目っていうか、雰囲気かな。お母さんもふわふわしてて、一緒にいたら眠くなりそう」
「えっ、葵、私といるといつも眠くなってるの!?」
私が目を丸くして聞くと、葵は「うん」と笑った。
しばらくして、母は私たちが必死で紙紐を通した釣り針を見事に使いこなし、水風船のヨーヨーを一つ釣り上げて笑顔を見せてくれた。
「レジ見てるから、下駄箱まで見送ってきたら?」
葵が気遣ってくれたので、お言葉に甘えて私は母と一緒に廊下を歩いた。
「お父さんねえ、来られなくなっちゃったのよ。入院している子で少し具合の悪い子がいて、ちょっと病院を離れられなくてね……」
母が、申し訳なさそうな顔をして事情を説明してくれた。
「そうなんだあ。残念だけど、仕事だもん、仕方ないよ。お父さんによろしく伝えておいて」
うちのお父さんは無口でおとなしいけれど、動物にも、もちろん家族にも、深い愛を注いでくれる人だ。
来られなかったお父さんが一番残念がっているだろう。
下駄箱に着き、母がスリッパから靴に履き替える。
「めぐみが楽しそうにしてるのを見られてよかった。葵ちゃんにも会えたし」
母は満足そうに目を細めた後、ふと思い出したように顔を上げた。
「あっ、そういえば。なっちゃんも同じクラスよね? 教室にいなかったけど」
「っ!」
急になっちゃんの名前を出され、私の肩がピクッと跳ねた。
今朝、屋台の裏で髪に触れられた時の、至近距離の彼の顔がフラッシュバックする。
「な、なっちゃんは今シフトじゃないから……どっか回ってるんじゃないかな!?」
動揺のあまり、声が見事に裏返ってしまった。
「そうなんだ。なっちゃんのはっぴ姿も見たかったわ〜。じゃあ、なっちゃんにもよろしくね!」
「……うん!」
(……普通に話せたらね)
心の中でこっそりと付け足しながら、私は大きく手を振って母を見送った。




