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幼馴染への三度目の失恋を回避したい 〜好きすぎて涼しい顔が保てない。激重片思いが実った先は限界突破激甘モード〜  作者: momomo
長すぎた無風時代の弊害。明らかに俺を意識し始めた彼女の反応に処理落ちしてしまう
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第24話

 クラスの準備作業を一時的に抜けさせてもらい、僕は教室を出て軽音部のプレハブへと向かった。


 文化祭は明日と明後日の二日間あるが、僕たちの出番は、一日目の夕方だ。

 今日のこれが、本番前の最後の練習となる。


「朝井くん」

 廊下を歩いている途中、同じように教室から出てきた由利さんに声をかけられた。

「あ、お疲れ」

 短く挨拶をして、二人で連れ立ってプレハブの重い防音扉を開ける。


 狭い室内には、嶋だけが先に着いていて、スティックで軽くドラムを叩きながらリズムの確認をしていた。

「おす」

 僕が挨拶をすると、嶋は顔を上げ、一緒に現れた僕ら二人を見てニヤリと笑った。


「おー! 噂のお二人さんじゃん」

「……ん?」

 不意に投げられた言葉に、僕は眉をひそめた。

「何、噂って」

「いや、なんか今日、クラスの女子から聞かれたんだよ。お前らが付き合ってるかどうか。付き合ってんの?」

「は!? 付き合ってねーよ」

 予想外の話に、僕は思わず素っ頓狂な声で否定した。

(なんでそうなるんだよ。この練習くらいしか接点ないぞ)


 ふと横に立つ由利さんに目をやった。

 彼女は少し俯き加減になっていて、流れた長い黒髪のせいでその表情はうかがえなかった。

 こういう根も葉もない噂とかは、一番苦手そうだよな。


「なんだ。じゃあ違うって言っとくわ」

 嶋がケラケラ笑いながら、再びドラムを軽く叩き始める。


 その軽いスネアの音を聞きながら、僕はマイクスタンドの準備に取り掛かろうとして――ピタリと、手が止まった。


(……待てよ)

 背筋に、ぞわりと冷たい汗が伝うのを感じた。


 まさか。

 この前、自分の家の前の階段で、めぐみが急に聞いてきた変な質問。


『なっちゃん、彼女できたの?』

『好きな人とかいるの?』


 あれは、僕の恋愛事情にただ興味を持ったわけではなく……嶋が女子から聞かれたのと同じ、この由利さんとの噂をどこかで耳にしたからだったのか……!?


 だとしたら、あの時僕が『いるよ』と答えたことによって、めぐみの中で『あ、やっぱり噂通り、由利さんのことが好きなんだな』と完全に誤解されてしまったのではないか?


「…………」

 最悪の可能性に思い至り、急激に焦りがこみ上げてくる。


 今すぐめぐみのところに行って訂正したい衝動に駆られたが、もう他のメンバーたちもプレハブに入ってきてしまっていた。

 マイクのケーブルを握る手に、じっとりと汗が滲む。


 動揺で心ここにあらずになっていた僕は、その時、ピアノの前に座る由利さんが、俯いたままそっとこちらに視線を向けていたことには、まったく気がついていなかった。


 ◇


 全員が揃い、最後の合わせが始まった。

 スティックのカウントとともに、プレハブの中に大音量が響き渡る。


 練習当初に比べ、五人の息はずっと合っていた。


 ボーカル、ギター、ベース、ドラム、そしてピアノ。

 それぞれの音がぶつかり合うことなく滑らかに重なり合い、ひとつの大きなメロディを作っていく。


 マイクに声を伝えていると、背後から彼らの奏でる音に大きく包み込まれるような不思議な感覚になる。

 僕はただ純粋に歌うことの喜びに夢中になっていた。


 二曲目を合わせ終え、最後の音が綺麗に消え去る。

 静寂が訪れた直後、誰からともなく拍手が起こり、五人全員で笑い合いながら拍手をした。


「いやー、久しぶりに人前で演奏できるって考えるだけでワクワクするわ!」

 嶋が満足げにドラムセットから身を乗り出す。

「由利さんのピアノは相変わらず最高だし……なんか朝井は、日に日に上達してるし!」

「マジ? よかった」

 手放しで褒められ、僕は少し照れながらホッと安堵の息を吐き出した。


「明日はマジで楽しもうな!」

 嶋の明るい掛け声で、僕たちの最後のバンド練習は最高の雰囲気で幕を閉じたのだった。


 ◇


「……おー。すげえ変わってんじゃん」

 自分の教室に戻ってくると、壁に等間隔で吊るされた赤提灯のせいか、この三十分少し抜けていただけで、すっかり夏祭りのお囃子が聞こえてきそうな雰囲気に仕上がっていた。


「お、帰ってきた」

 入り口の近くで段ボールを運んでいた葉山が声をかけてくる。

「わりい」

「おー」


 密室での練習で思いきり汗をかいた僕は、自分のリュックからペットボトルを取り出し、ぬるくなった水をゴクゴクと喉に流し込んだ。


「朝井の歌、明日十七時だっけ!? 俺らみんなで観に行くからな!!」

 近くで作業していた男子たちが、ニヤニヤしながら囃し立ててくる。

「……おう」

「なっちゃんカッコよすぎて、惚れちゃうかも〜!」

 わざとらしく両手を頬に当てて身悶えするふりをする葉山を、僕はペットボトルに口をつけたまま、じろっと冷たい横目で睨みつけた。


 空になったペットボトルをしまいながら、教室の中をぐるりと見渡す。

 めぐみの姿がない。


 壁の装飾を黙々と進めている金森の姿を見つけ、僕はさりげなく近づいた。


「……めぐは?」

 小さく尋ねると、金森は手を止めて僕を見上げ、教えてくれた。

「めぐなら、上の空き教室に机と椅子、運んでくれてるよ」

「……なるほど」

 短く返し、僕はサッと教室を飛び出した。



 階段を二段飛ばしで駆け上がり、上の階へと向かう。


(ここか……?)

 廊下から、使われていない空き教室の窓をそっと覗き込んだ。


 無造作に「1−5」と書き殴られた紙が壁に貼られたスペースに、めぐみが一人で、うちのクラスから運び出した机と椅子を並べている姿が見えた。

 どうやら、指定されたスペースにすべてを収めるため、試行錯誤しているらしい。


 ガラッ、と引き戸を開けると、彼女がパッとこちらを振り返った。

「あ……なっちゃん。練習終わったの?」

「うん」

 歩み寄りながら、区切られた白線の内側を見下ろす。


「……スペース狭いな。全部置けんの? これ」

「ねー。でも、クラスの教室は広く使いたいから、なるべくこっちに置きたいよね」

 机を眺めながら、うーんと考えこむ彼女。

「これ、三段重ねるのは無理かなあ」

 めぐみはそう言うと、目の前にある机の縁を掴み、「よいしょっ」と無謀にも持ち上げようとした。

 グラッと机のバランスが崩れる。

「おい、危ないって!」

 僕は咄嗟に手を伸ばし、彼女が持ち上げようとしていた机を横からガシッと奪い取った。


「……俺やるから、貸して」

「……あ、ありがと」

 めぐみは小さくお礼を呟いた。


 角度を少し工夫すると、一番上にも机を重ねられた。

 残りも僕が上に重ねていき、なんとか規定のスペースにうちのクラスの机と椅子をすべて収めることに成功した。


「おー、ぴったり! よかったあ」

 安堵の息を吐きながら、ふと隣を見ると、めぐみが自分の手のひらを顔の前にかざして、じっと見つめていた。


「なに、怪我した?」

 尋ねると、彼女は眉を寄せて自分の手を擦った。

「んー……なんか机の木のトゲ刺さったかも。ちょっとチクチクする」

「……見せて」

 僕は無意識のうちに手を伸ばし、めぐみの小さな手を掴んで手元に引き寄せた。

「えっ」

 少し驚いたような彼女の声を聞き流し、手のひらをのぞき込む。


 目を凝らしてみたが、トゲのようなものは見当たらなかった。

 ただ、古い木のささくれで引っ掻いたような、小さな赤い傷跡がうっすらとできている。


「……トゲはないけど、少し擦りむいてそう。あとでちゃんと水で洗えよ」

 そう言いながら顔を上げた瞬間。


 めぐみは、自分の手のひらではなく――至近距離で、なぜか僕の顔をじっと見つめていた。


 そのまま、視線が絡み合う。


「…………」


 彼女の大きな瞳に吸い込まれそうになり、僕はパッと手を離すことも、「何?」と強がることもできず、ただ無言で固まってしまった。


 夕暮れの空き教室。

 遠くから聞こえる文化祭準備の喧騒が、急に薄い膜の向こう側に行ってしまったように遠く感じる。


(……今しかない)


 彼女に視線を逸らされる前に、僕は少しだけ乾いた唇を開いた。


「……明日」

 自分でも驚くほど、低くて真剣な声が出た。


「……真ん中あたりで観てくれない? ライブ」


 その言葉を聞いためぐみは、数秒間、瞬きもせずに僕の目を見つめ返した。

 そしてふっと目尻を下げて、柔らかく微笑んだ。


「……うん」


 その小さな、けれど確かな頷きに、僕の心臓はうるさいくらいに高鳴りを早めていったのだった。

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