表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】幼馴染への三度目の失恋を回避したい 〜激重な片思いを隠せなくなってきたら、彼女の瞳が揺れるようになってきた〜【ランクイン履歴あり】  作者: momomo
長すぎた無風時代の弊害。明らかに俺を意識し始めた彼女の反応に処理落ちしてしまう

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
23/54

第23話

 いよいよ明日から文化祭が始まる。

 校舎は、どこもかしこも前日の異様な熱気に包まれている。


 吹奏楽部も、放課後の練習は任意参加となっている。

 自主練したい人のために音楽室は開放されているけれど、クラスの出し物であるヨーヨーすくいの準備が終わっていなかった私は、教室に残ることにした。


 仕上げの色塗りに使っていた筆とパレットを洗うため、廊下に出た。


 どのクラスも、見慣れた空間がまったく別の姿へと変わりつつあった。

 あちこちからのざわめきや、机を引きずる音、誰かの大きな笑い声などが入り混じって響いている。

 まるで音が渋滞しているようだ。


 水道の前に立ち、蛇口を捻る。

 冷たい水に癒されながら、排水溝に流れていく絵の具の匂いを感じていた。



 洗い終え、濡れた手をハンカチで拭きながら戻ろうとしたとき、ちょうど教室の引き戸がガラッと開いた。

 出てきた人物と、バッチリ目が合う。


「あ」


 なっちゃんだ。


 彼は、昨日髪を切ったばかりだ。

 耳周りや襟足がすっきりと短くなって、元々大人びている顔立ちが、さらに洗練されて見える。


「わり。三十分くらい抜けるわ」


 やや申し訳なさそうに言う。


「もしかして、バンドの練習?」


 私が尋ねると、「そう」と頷いた。


「そっか。頑張ってね!」


「うん」


 なっちゃんは短く応えると、そのまま私とすれ違い、廊下を歩いていく。

 その後ろ姿をなんとなく見送っていた。


 すると、一番奥にある教室から、女の子が出てきた。

 彼女がなっちゃんに声をかけ、二人はごく自然に並んで歩き始めた。


(……あの子だ)


 以前、プレハブ小屋で見かけた、なっちゃんと同じバンドでピアノを担当する『由利さん』。


 由利さんがなっちゃんに話しかける、綺麗な横顔が見える。

 なっちゃんも彼女を見下ろし、穏やかに頷いている。


 二人とも背が高くて、すらりとしている。

 艶やかな長い黒髪と、少し短くなった黒髪。


 どこか落ち着いた、静かな雰囲気を纏う二人の背中は、なんだかすごくお似合いだった。


(……そりゃあ、付き合ってるって噂になってもおかしくないよね)


 胸の奥が、冷たくなる。

 慌ててパッと目を逸らし、逃げるように中に入った。


「あ、めぐ! ありがとう」


 戻った私に気づいた友達が、顔を上げる。


「あ……ううん!」


 心ここにあらずのまま、まだ小さな水滴の残るパレットに、新しい絵の具を出していく。



 先日、暗くなったマンションの共有廊下で、なっちゃんに好きな人の有無を聞いた。

 彼は――『いるよ』と答えた。


(なっちゃんの好きな人、誰なんだろう)


 作業に戻ってからも、いなくなった彼のことばかり考えてしまっていた。



 教室は、ヨーヨーすくいに似合う、夏のお祭りのような非日常の空間に仕上がりつつあった。

 ヨーヨーのプールを置くエリアでは、葵がブルーシートをガムテープで床にしっかりと固定してくれている。


「おい、ズレてるって! もっと右!」

「だから、上!? 下!? どっちだよ!?」


 脚立に乗って壁に赤提灯を飾り付けている葉山くんに向かって、下から男子たちが身振り手振りで騒がしく指示を飛ばしている。


 私は気を取り直し、女の子たちと一緒に、ダンボールで作った屋台の細かい色塗り作業に戻った。


 赤と白の絵の具を交互に塗っていると、不意に後ろで「カシャッ」とシャッター音が鳴った。

 振り返ると、織くんがカメラを構え、作業に集中している私たちを写真におさめてくれているところだった。


「お疲れさま」


 カメラを下ろして、ふわりと微笑んで近づいてくる。


「めぐちゃん。屋台のことで手伝えることある?」


「ううん、こっちは大丈夫だよ! 写真、楽しみだな〜」


 織くんは準備期間中、ずっとこうしてクラスの様子をたくさん撮ってくれている。

 まだ一枚も見せてもらっていないけれど。


 彼は小さく息を吐き、ゆっくりと近づいてきて、そっと私の隣にしゃがんだ。


「ん? どうしたの?」


 筆を止めて尋ねる。


 織くんは少し黙ったあと、周りの喧騒に紛れるような、けれどはっきりとした声で聞いてきた。



「……『めぐ』、って呼んでいい?」



「え?」



 ――『めぐ』。


 その響きを聞いた瞬間、男の子の中で私のことを唯一そう呼ぶ、黒い瞳の幼馴染の顔が真っ先に浮かんだ。


 先ほど廊下で、他の子と並んで歩いて行った、広い背中。



 私は、手元の筆をぎゅっと握りしめた。


「…………それは……ダメ」


 自分でも驚くほど迷いのない声で、そう言ってしまったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ