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【完結】幼馴染への三度目の失恋を回避したい 〜激重な片思いを隠せなくなってきたら、彼女の瞳が揺れるようになってきた〜【ランクイン履歴あり】  作者: momomo
今日も破壊力100%の笑顔と進展0の現実に、精神的ダメージを受けている

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第2話

 頬杖をついて、教室の窓ガラスの向こうをぼんやりと見つめている。

 ぽかぽかとした春の始まりの陽光が、冷えた指先をじんわりと温めていた。


 中学最後の席替えで、私が大好きな窓際を引き当てたのは、日頃の行いが良かったからに違いない。


 今日で、学年末テストは終わり。

 今は、最後の教科の最中だ。


 すでにひと通りの見直しを終え、時間を持て余していた私は、淡い水色の空をゆっくりと流れていく綿菓子のような雲を、ただひたすらに観察していた。


 静まり返った教室には、カリカリと鉛筆を走らせる音と、ストーブが小さく唸る音だけが響いている。消しゴムのカスと、わら半紙の少し埃っぽい匂いがする。


(この匂い、好き)


 ――キーンコーン、カーンコーン。

 やがて、待ちわびたチャイムが鳴り響く。


「はい、そこまで。後ろから集めて」


 先生の声とともに、クラス中から一斉に「終わったー!」という安堵の溜め息が漏れる。


 プリントがカサカサとリレーされ、回収を終えた先生がガラガラと戸を閉めて出ていくと、教室は堰を切ったようにドッと騒がしくなる。


 机の上に散らばったペンや消しゴムを筆箱に詰め込んでいると、教室の出口付近から声が飛んできた。


「めぐー! 行くよー!」


 私の名前を呼ぶ声に顔を上げると、同じ掃除班の友達が手招きしている。


「あっ、ごめん! 今行くー!」


 すっかり頭から抜け落ちていた。

 テストの終わった解放的な日だというのに、よりによって体育倉庫の掃除当番になっていたのだった。


 慌てて筆箱を机に突っ込み、彼女のもとへ駆け寄る。


 同じ班の男子二人、女子二人で、グラウンドの脇にある体育倉庫へと向かって歩き出した。


「テスト終わって早々、体育倉庫掃除とかマジだりー」

「ほんとそれ。寒すぎだし」


 男子二人は、ジャージのポケットに手を突っ込みながらぶつぶつと文句を垂れている。


 廊下は暖房の恩恵が一切なく、しんしんと冷えた空気が足元から這い上がってくる。


「めぐ、テストどうだった?」


 隣を歩く友達が、顔を覗き込んでくる。


「うーん。まあ、高等部には無事に上がれるかな、くらいかなあ?」


 私は誤魔化すように苦笑いした。


 手応えは決して良くもないけれど、最悪ってわけでもない。

 エスカレーター式の一貫校だからといって、決して勉強をサボったわけではないが、いつも通りのパッとしない出来栄えだ。


 ワックスがけされたばかりのツヤツヤした床を歩いていると、ふと見慣れた顔を見つけた。


 少し先の、他クラスの教室の入り口。

 そこに、女の子二人に囲まれて談笑している幼馴染の姿があった。


(……あ、出た。学校用の営業スマイル)


 口角をほどよい角度に上げ、相手の目を見て相槌を打つその姿。

 先日うちの玄関で『遅刻すんなよ』とぶっきらぼうに言い放ったのと同じ人物とは思えない。


 学校でのなっちゃんは、いつもあんな感じだ。


 小学校の頃は、私と背丈も変わらず、むしろ可愛らしい感じの男の子だったのに。

 中学校に入学した途端、急激にぐんぐん背が伸びて、今では見上げるほどにすらりとしている。

 髪型も、わざわざ電車に乗って、オシャレな美容院で切ってもらっているらしい。


 マンションの中では私に対して遠慮の欠片もないが、一歩外に出れば、誰に対しても丁寧で人当たりが良い。

 そんななっちゃんには、中学生になってからちょっとしたモテ期が到来していた。


 前を通り過ぎる一瞬。

 私に気づいたなっちゃんと視線が絡んだ。


 けれど、彼の黒い瞳はすぐにスッと逸らされてしまう。


 中学三年間で、私たちは一度も同じクラスにならなかった。

 おまけに、同じマンションに住む幼馴染だということが周囲に知れ渡ったとき、一部の女の子たちから「馴れ馴れしい」と陰口を叩かれたことがある。


 本当は、昔みたいにもっと気軽にお喋りしたいけれど。

 でも、私が話しかけたら、変に注目されてなっちゃんを困らせてしまうかもしれない。

 それなら空気を読んで距離を置くのが一番だと思えて、学校ではすっかり話さなくなってしまった。


 ◇


 グラウンドに出ると、ピリッとした冷風が頬を刺す。

 辿り着いた体育倉庫の重い鉄扉を開けると、古いウレタンマットの湿った匂いと、土埃の匂いが喉に入り込み、思わず咳き込みそうになった。


 私たちは、それぞれほうきやちりとりを手に取り、無駄話をしながら手を動かし始める。


「そういえば、また女子に囲まれてたじゃん。朝井夏樹あさいなつき


 ほうきで床を掃いていた男子の一人が、からかうようなトーンで話を振ってきた。


「ああ、うん。相変わらず人気者だよね」


 私は手元から目を離さず、当たり障りのない相槌を打つ。


「幼馴染なんだろ?」


「うん」


「……てか、そういや小学生のとき、お前ら付き合ってなかった!?」


 ピタッ、と。私の手が止まった。


(……出た。黒歴史の掘り返し)


 まだそんな昔のことを覚えている人がいたなんて。


 エスカレーター式の小中高一貫校の厄介なところはこれだ。

 人間関係が持ち越される分、自分の黒歴史も一緒に進学してきてしまう。


「いや……あれは冗談だから」


 引きつりそうになる頬を必死に抑え、なんとか苦笑いを作って返した。



 あれは、小学六年生の冬――。


 なっちゃんと仲の良かった男子グループの中で、ゲーム感覚の「彼女をつくる対決」が流行っていたらしい。


 ある日の夕方、マンションの薄暗い共有廊下に呼び出された。


『……俺と付き合って』


 なっちゃんは、いつもとは違う、見たこともない真剣な顔でそう言ったのだ。


 私は心底驚いて、思わずドキっとしてしまった。


(付き合うって……一体何をするの?)


 頭の中がぐるぐると混乱したまま、その場の謎の空気に飲まれて、つい『うん』と頷いてしまった。


 けれど、翌日の教室で見た光景は、私の淡い動揺を簡単に吹き飛ばした。


『おまえ、幼馴染はズルだろー!』

『うるせーよ!』


 友人たちにからかわれ、照れ隠しのように笑い合うなっちゃんの姿。


(なんだ……ゲームみたいなノリで言っただけなんだ)


 そう気づいた瞬間、チクリ、と胸の奥を細い針で刺されたような痛みが走ったのを覚えている。


 結局、あとでなっちゃんに確認したら、やはり冗談だったというので、そのまま無かったこととして終わったのだ。



 ザッ、ザッ。


 硬いほうきの先が、コンクリートの床を擦る冷たい音が倉庫内に響く。


 舞い上がる小さな埃を眺めながら、ただ黙々と手を動かし続けた。

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