第163話 訓練に向けて
「拠点占有に関しては、先ほど話した通りの分担でいこう。後は訓練時に適宜確認していくことにする」
「分かったわ」
「了解しましたわ」
続いて俺は、攻城戦についての説明をする。
拠点占有に関しては軍人時代の知識が役に立つが、攻城戦に関しては俺もまだ手探りなところがある。
こちらもしっかりと、全員で意識を共有していきたい。
何よりも今回の団体戦はチームワークが重要とされるからだ。おそらく、もともとそのようにルールを作り上げたのは間違い無いだろう。
「さて、攻城戦について話を進めよう」
黒板に攻城戦の詳細を書いていく。
「攻城戦は、攻めと守りに分かれて行う。ここで重要なのは、自分たちのチームがどちらサイドが強いか、ということを自覚することだ」
「わたくしたちはどちらですの?」
「……一概には言えない。が、俺としては攻める方が強いと思っている」
「その根拠はありますの?」
アリアーヌの質問に対して、すぐに応じる。
「まずは俺とアリアーヌの存在だな。性格的にも、攻める方が性に合っているだろう?」
「それは否定はしませんわ」
パーソナリティの問題は、魔術にも如実に現れる。それを考慮した上で、俺はそのように判断している。
「加えて、俺たちはサポートにアメリアがいる」
「私?」
「あぁ。アメリアの魔術は繊細なコード構築が真髄だろう。そうでなければ、因果律蝶々は使用できない。俺の持っている魔術でも、因果律蝶々に匹敵するものはそうそう無い。だからこそ、俺とアリアーヌで攻めつつアメリアが適宜サポートする。シンプルだが、これが最も効果的だろう」
黒板に城の絵を描いて、そこに三つのピースが攻めていく様子を書いていく。
視覚的に情報を共有したほうがいい、というのはキャロルが昔からよく言っていた話だ。
作戦会議の時は常にキャロルが話を進めていた。その際に、彼女は絶対に図や絵などを加えて作戦を説明していた。
そのおかげで作戦をスムーズにこなせた経験から、俺はしっかりと図示することで意識の共有を試みる。
「もし、防御側に回ったらどうしますの?」
「俺が先陣を切って守りに入ろう。アメリアとアリアーヌはフラッグの防衛だな。ただしここで、おそらくアメリアの因果律蝶々対策だろうが、あるルールがある」
そう。
攻城戦はフラッグを持ち出して、所定の位置に置くことで攻め側の勝利が確定する。一方で、防御側は二時間きっちりと守る必要がある。
そして、『フラッグには直接魔術を作用させてはならない』……というレギュレーションが存在している。
「フラッグに直接魔術を作用させてはならない。これは、アメリアの因果律蝶々ならばフラッグを『取ることはできない』という結果を生み出し続ければ、完全防御になるからな」
「そっか……確かに、私の因果律蝶々なら可能ではあるわね……まぁ、体力の問題はあるけど」
口元に手を持っていくと、アメリアは微かに頷く。
彼女の因果律蝶々に関しては適宜相談を受けている。現状では、あの夏の魔術剣士競技大会よりも制御できているのは知っている。
「アメリア。現在、因果律蝶々の使用時間は?」
俺はすでに知っているが、アリアーヌもいるということでここで聞いておくことにした。
「そうね……出力次第だけど、おおよそ一分かしら。それ以上は、ちょっと厳しくなってくるわね」
「了解した。では、本戦では絶対にその一分を守ってほしい」
「分かったわ」
「特に、防衛に関してはアメリアの因果律蝶々が鍵になってくるだろう。使うタイミング次第では、かなりの脅威になる」
そうしてさらに、フォーメーションやポジションなどを確認。
こればかりは、実際に体を動かして覚える必要があるので口頭で大まかな説明に留めておく。
そして最後に、俺は一番マークしておくチームについての情報を話す。
「それで最後になるが、現在はまだ出場してくるチームが全て揃ったわけでは無いが……おそらく、優勝候補筆頭はルーカス=フォルストの率いるチームになるだろう」
「……魔術剣士競技大会本戦の優勝者。あの剣技は正直、ゾッとするものがありますわね。それにしてもやはり、出てくるのですか……」
アリアーヌもまた、あの魔術剣士競技大会でルーカス=フォルストの試合を見ていた。
思い出すのは、あの圧倒的な剣技。
本戦決勝まで、たった一振りで快勝してきたその実力はすでに学院の生徒ならば誰もが知るところだ。
「それで、残りの二人は誰なの?」
と、アメリアがその間に入ってくる。
放課後前に部長から教えてもらった情報を、公開することにした。
「アルバートとエヴィだ」
「「……え!!?」」
流石に予想していなかったようで、二人ともに驚きの声を上げる。
俺もその情報を入手した時は驚いたものだった。部長にその話を聞いたのは、偶然だったのだが早めにそのことを知ることができて良かったと思っている。
ルーカス=フォルスト。
メルクロス魔術学院では孤独で孤高。誰も近寄らせることはなく、一人で淡々と鍛錬をこなしているらしい。演習場も、気がつけば彼専用のスペースができているとか。
そんな彼が誰かと組むことは考え難い。そのような背景もあり、ルーカス=フォルストは出場を見送るのでは無いか。そんな噂も立っていたが、まさかのアルバートとエヴィと組むとは……流石にそれは、予想していなかった。
「……アルバートですの。それにエヴィというのは、二人のお友達ですわよね?」
「あぁ」
「そうね」
「それにアルバート……彼は確かに、魔術剣士競技大会で戦ったときに変わったと思いましたが。思えば、それもレイの影響ですの?」
俺はアルバートの件をアリアーヌに話すことにした。
すると彼女は額に手を当てて、「はぁ……」とため息をついた。
「なんというか……以前のアルバートならやりそうなことですわね」
「しかし、彼は成長している。自分の立ち位置を正確に把握し、努力に努力を重ねている。だが、まさかルーカス=フォルストと組むとはな……」
その意味が分からないほど、俺は鈍感では無い。
アルバートとエヴィ。
その二人が声をかけるのなら、まずは俺に来てもおかしくは無い。これは少し自意識過剰かもしれないが、俺たちは仲の良い友人だ。
アリアーヌではなく、先に声をかけられていれば了承していただろう。
しかし、敢えて二人はルーカス=フォルストのところに行った。
それが意味するところは……。
「やっぱり、レイと戦いたいんでしょうね」
アメリアの凛とした美しい声が、教室内に通る。
「ふふ。やっぱり、燃えますわね! これは宣戦布告ですのよ、レイ」
「……やはり、そういうことだろうな」
友人だからといって、馴れ合うわけではない。
俺たちは、切磋琢磨できる友人であると。
二人はそう言いたいのだろうか。
それにルーカス=フォルストは、俺と戦いたいと言っていた。
団体戦で一騎討ちを申し込んでくる、またはそのような状況に引きずり込んでくる可能性もある。
大規模魔術戦。
どうやら一筋縄ではいかないようだ。
「戦力的にはどうなのでしょう。わたくしたちの方が有利に思えますが」
「俺が全力で戦えるのなら、有利だとは思うが……魔術領域暴走の件がある。おそらく俺は、内部コードがメインになる。一方で、相手は全員が全力で戦える。不利だろうな。何よりも、ルーカス=フォルストの存在が大き過ぎる」
「そっか……でも、レイのことだから考えがあるんでしょう?」
「そうだな。何も真正面からぶつかり合う必要はない。やりようはあるさ」
まだ予選も突破していないが、おそらく俺たちも、彼ら三人も予選は突破できると考えている。
本戦で戦うことをすでに想定しているのも、本当だ。
しかしそれはきっと……ある意味で辛い戦いになるのは間違いなかった。
「よし。では、情報の共有はこれで終了だ。今からすぐに訓練に入る」
「レンジャー! ですわ!」
「うむ。アリアーヌ訓練兵は返事がいい。その調子だ」
そして俺はアメリアの方を向いて、じっと視線を送る。すると彼女はビクッと体を反応させる。
「れ、レンジャーっ!!」
「うむ。アメリア訓練兵もいい返事だ」
あの時の記憶が残っているのか、アメリアもすぐに声を上げて敬礼をする。
「では、いくぞ!」
「「レンジャー!」」
ということで、大規模魔術戦に向けて本格的な訓練を開始するのだった。




