第162話 作戦会議
午後の授業も終了し、放課後になった。
これからほぼ毎日、放課後は作戦会議と訓練に時間を当てることになっている。部活動は事情を話して、しばらくは休みにしてもらった。もちろん、顔を出せる時は行く予定だ。
レベッカ先輩がとても残念そうな顔をしていたのは、大変心苦しかったが……こればかりは仕方がない。
「やってきましたわ!」
アリアーヌは放課後になると、すぐにやってきた。体力強化も兼ねて、身体強化をして走ってきているのだとか。そして、休日の前の日はアメリアの部屋に泊まるらしい。
今回の大規模魔術戦に際して、学院の生徒が他の学院に移動するのは許可されている。もっとも、いつも厳しいかと言われたらそうでもないのだが。
出場する他学院の生徒が、この学院にいることは割と目撃する。
「レイ! 早速やりますわよ!」
今日は髪をツインテールにまとめていた。一見すれば、クラリスのようにも見えるがそれは違う。
クラリスのツインテールは細めだ。曰く、一番それがいいバランスとのことだった。流石は、ツインテールを愛し、ツインテールに愛された女性だと感心したのは記憶に新しい。
一方のアリアーヌは、クラリスと比較すると太めのツインテールだった。
おそらく何かを意図しているわけではないのだろうが、とてもよく似合っている。
「アリアーヌ」
「どうしたんですの?」
「その髪型、よく似合っている」
「ふふ。レイはお目が高いですわねっ!」
「恐縮だ」
と、二人でそんなやりとりをしながら、まずはアメリアを探す作業から始める。
「あら? 今日から訓練開始ですのに、アメリアはいませんの?」
学内を進む俺たち。
アリアーヌはまるで理解できないと言わんばかりに、そう言葉にする。
「……逃亡した可能性があるな」
「逃亡?」
「あぁ。魔術剣士競技大会の時も、アメリアはよく脱走していた」
「……そうでしたの。アメリアもおてんばなところが意外とありますから……まぁ、理解はできますわ」
「しかし、大丈夫だ。特定の魔術師を捜索するなら、俺の得意分野だ」
「そうですの?」
「まぁ、見ていてくれ」
瞬間。
俺は絶対不可侵領域を展開。
アメリアの第一質料はもとより記憶している。そうして探っていると……発見した。
「なるほど。第二校舎、三階。女子トイレの一番奥の個室だな。調子でも悪いのかもしれないな」
アリアーヌに特定した情報を伝える。
すると、彼女はポカンとした表情を浮かべるのだった。
「え……今の一瞬でわかりましたの?」
「そうだ」
「……なんと言うか、本当に七大魔術師ですのね」
「力はまだ完全ではないがな。ま、とりあえず行こう」
「わかりましたわ」
移動を始める。
そうして、第二校舎の階段を登っていくと……女子トイレの前に辿り着く。
「わたくしが呼んできましょうか?」
「いや俺も行こう」
躊躇なく女子トイレの中にアリアーヌと共に侵入する。
「アメリア訓練兵! 訓練の時間だッ!!」
その声と同時に、先ほどまでしていた人の気配が限りなく薄くなっていく。
「ふむ。隠れるつもりか? しかし、そこにいるのは分かっているッ!」
「アメリア! 大丈夫ですの?」
「体調不良か? ならば申告して欲しい」
そうしてしばらく待っていると、キィィイと扉が開く。
「う……ごめん。その訓練のことを考えると、ちょっとお腹が。でも、もう大丈夫」
本当に調子が悪かったのか、アメリアは少しだけ顔色が悪かった。訓練はしっかりとアメリアの体調を考えてやるべきだな。
「それは良かった。では行こうか」
アメリアは洗面台で丁寧に手を洗い、そのまま外へと出ていく。
そして俺は、その手をしっかりと掴み取る。
「アリアーヌ。そちらの手も握ってほしい」
「? わかりましたけど」
アメリアを中央にして、左右から俺とアリアーヌで手を握る。
「ねぇ。何これ……?」
怪訝な表情でそう尋ねてくるので、すぐに返答する。
「アメリアの逃亡対策だ」
「……別に逃げないけど?」
その顔は少しだけ赤くなっているような気がした。
「念のためだ」
「まぁ……別にいいけど」
その一方で、アリアーヌはどこか嬉しそうと言うか、上機嫌だった。
「よし! では、早速やりますわよ!」
「その前に、今回の大会に関して確認しておこう」
実は事前にキャロルに申請して、放課後の空き教室を利用できることになっている。
三人で空き教室に入ると、最前列にアメリアとアリアーヌが座る。
俺は黒板の前に立って、チョークを手に持ち壇上で今回の大規模魔術戦に関する説明を始める。
「では、大規模魔術戦に関して説明をしよう。チームでの共有は大切だからな」
まずはルール確認ということで、予選の内容から触れていく。
「予選ではリーグ毎の総当たり戦となる。各リーグはA~Gまで。上位二チームが本戦に出場となる予定だ」
黒板にささっと概要を書いていく。
「予選では、拠点占有というルールで戦うことになる。場所はカフカの森。特定の場所に、時間ごとに第一質料が溢れるポイントが出現。その場所で、魔道具に一定値の第一質料を貯める、または試合終了時により多くの第一質料を貯めた方が勝利となる」
予選のルールを説明する。もちろん、アメリアとアリアーヌともに知っているだろうが、念のために確認だ。
そして、アリアーヌが手を上げる。
「質問よろしいですの?」
「もちろんだ」
「拠点占有では、ポジションはどうしますの?」
「……俺はアリアーヌの能力は、まだ全てを知っているわけではない。だが、おおよその作戦は考えてある。拠点占有では、アメリアに拠点に入ってもらう」
「え、私なの?」
ポカンとした顔で、アメリアは自分のことを指差す。
思ってもみなかったという感じだが、俺はこれが最善であると判断した。
「そうだな。まず理由はいくつかある」
チョークを一旦置くと、その理由の説明を始める。
「拠点占有だけでなく、攻城戦でも言えることだが今回の大規模魔術戦では接近戦がかなり多くなるだろう。と言っても、後方でコードを構築する時間はあるだろうが、それでも俺たちのメンバーで考えれば前線での戦闘は俺とアリアーヌが最適解だろう」
そういうと、アメリアも自分の魔術特性は理解しているので、頷いて理解を示してくれる。
「まぁ……レイとアリアーヌに比較すれば、私の近接戦闘は劣るからそれは正解ね」
「しかし、アメリアには役目がある」
「何をすればいいの?」
その目つきは真剣そのもの。
自分の役割をしっかりと知っておきたいという気概が感じ取れた。
「拠点占有に関しては、二人が防御。もう一人が拠点で魔道具に第一質料を貯め続ける必要が有る。そのため、防御に特化した魔術はいくつか練習しておいて損はないだろう」
「……因果律蝶々を使えば、絶対防御になるけど?」
アメリアがあの因果に干渉する強力な固有魔術──因果律蝶々──をずっと制御下におこうと努力しているのは知っている。
会長にノーラさん、その二人に頼まれたこともあるが、一番の理由はアメリアのためだった。強大な魔術に呑まれてしまえば、待っているのは廃人になる未来だけ。
脳の魔術領域は焼き切れてしまい、まともに生きることはできなくなる。
そのことを踏まえて、アメリアがずっと努力してきたのは知っている。
だから、ここで使ってみたいという思いも理解できるが……。
「予選では、因果律蝶々を使うのは許可できない」
「でも……」
「分かっているだろう? 使い過ぎれば、魔術領域暴走を引き起こす」
「それは……」
俺はその話を、アリアーヌにも振る。
「もちろん、アリアーヌもだ」
「わたくしもですの?」
「あぁ。予選では、固有魔術は禁止。本戦でも限られた場面でしか使うことは許可できない。今回の大会は、おそらく連戦になることもある。それを踏まえて、理解してはもらえないだろうか」
魔術領域暴走の後遺症。
それは決して、馬鹿にはできない。俺の場合は、運が良かっただけだ。もう少しで、死んでいる可能性もあったし、廃人になっている可能性もあった。
固有魔術を学生のうちに発動した、若くして才能のある魔術師が、その強大すぎる魔術に潰されてしまったこともある。
そのような背景もあり、勝ちには拘りたいが……まずは二人のことを第一に考えたいと俺は思っていた。
「わかったわ」
「わたくしも理解しました」
「ありがとう。それに、魔術師は強大な魔術を使えることだけが全てではない。何事も、基礎からの積み重ねだ。まず予選は、基本的な魔術と動き。その二つを徹底して、強化していこう」
「「おー!」」
ということで、俺はさらに話を続けるのだった。




