第161話 大規模魔術戦:概要
昼休みがやってきた。
しかし、今日はいつものメンバーは揃っていない。
アメリアは今日は実家の方で用事があるとかで、学校を欠席している。
アルバートとエヴィも昼休みは少し用事があるらしく、いない。まだ二人から直接聞いたわけではないが、きっと大規模魔術戦に出場するのだろう。
それは、雰囲気でなんとなく理解できた。
そして今は、俺、エリサ、クラリスの三人で食事をとっている。
「そういえばさぁ……」
と、口を開いたのはクラリスだった。
いつものようにツインテールがしっかりとキマっており、その艶やかな金色の髪はどこか神々しく見える。
クラリスの調子は、顔色よりもツインテールを見れば分かるので、今日はとても調子が良さそうだった。
「レイは大規模魔術戦に出るのよね?」
「あぁ。そのつもりだ」
「でも、大丈夫なの?」
エリサもまた、その会話に入ってくる。
「……そうだよね。だってレイくんは」
二人ともに俺の事情は知っている。
確かに俺は、当代の【冰剣の魔術師】である。しかし、その能力は自分自身で封印している状態だ。一時的に解放できたとしても、それはあくまで一過性のもの。
まだ完全に魔術領域暴走は完治していない。
しかし、確実に良くなっているのは間違いない。
自分でも詳しい原因は理解できていないが、といってもおおよその見当はついているのだが、今回のような大会に関してならばきっと大丈夫だろうと思っている。
「魔術領域暴走に関しては、まだ完治はしていない。だが、今回の大会……大規模魔術戦に限っては、俺でも大丈夫だろう」
「どう言うこと?」
クラリスは食べる手を止めて、キョトンとしている。
エリサもまた興味深そうに俺のことを見つめてくる。
そこで俺は、今回の大会の性質に関して話をすることにした。
「今回の大会は団体戦だろう?」
「そうね」
「しかも、試合はカフカの森を使う。加えて、北の最奥にある古城も使うらしい」
「へぇ……そうなっているのね」
「魔術がうまく使えなくとも、今回は俺の経験が活きると考えている。魔術剣士競技大会と異なり、今回は団体戦。しかも、勝敗を決めるルールに関しては複雑だ。勝機はある」
「そういえば、ルールってどうなってるの?」
クラリスのその質問に、俺が答えようとするがエリサが折りたたんである資料を取り出すと、それを読み上げてくれる。
「えっと……チームは三人で組むこと。それで、予選と本戦があるけど……予選は、カフカの森で拠点を取り合う試合みたいだよ」
「へぇ。拠点を取り合うねぇ……具体的には?」
「特定の場所に、時間ごとに第一質料が溢れる場所を用意するんだって。その場所で、魔道具に一定値の第一質料を貯めた方が勝利……って書いてあるね」
「……? つまり、どゆこと?」
クラリスは依然として概要をつかめていないようなので、俺がさらに詳しく説明する。
「カフカの森に、ランダムに拠点が設置される。そこは六分が経過すると、拠点の位置が変わる。その拠点の中に、魔道具を持って入ることが重要だな」
「……えっと。一人は、魔道具で第一質料を貯めて、残り二人でその人を守るってこと?」
「そうだ」
「なんだか大変そうね……」
ボソリと呟くが、確かにこのルールはなかなかに複雑だ。
魔道具に第一質料を蓄積する。それは、拠点ごとに設定されていて、ランダムに拠点は移り変わる。
つまりは、三人で移動しながらの戦闘になるということだ。
また拠点を占有しているときは、防御しなければならないが、拠点を占有されているときは、攻撃をしなければならない。
防御に関しては、一人が拠点占有。二人が防衛。
攻撃に関しては、三人で同時に攻撃できる。
つまりはこれだけ見れば、攻撃側の方が有利だ。
攻防としては余程の実力差がない限り、一方的な試合にはならないと予想している。おそらく、拠点での移り変わりが激しい試合になるだろう。
「そうだな。しかも、拠点では魔道具は1つしか作動しない」
「ってことは、絶対に相手を拠点から押し出さないといけないのね」
「あぁ。そして、一定値まで貯めるか、制限時間が切れるときに多くの第一質料を保有していた方の勝ちだ」
「制限時間は?」
「予選は一試合三十分だ」
「はぁ……なんだかすごいわねぇ」
クラリスのツインテールはぴょこぴょこと忙しなく動いていた。きっとそれは、彼女の感情を表しているものなのだろう。もう慣れてしまったので、特に新鮮に感じることはない動作だが。
「レイくん。すごいね。もうちゃんと覚えてるんだ」
「出場するからには、ルールは叩き込んである。しかし、拠点占有よりも……問題は攻城戦だな。これは本戦からになるらしいが」
「えっと……」
俺がそういうと、エリサはもう一度じっと資料を見つめる。
「攻城戦は、初めから攻めと守りに分かれてやるんだね」
「そうだ。攻め側は城の中に置かれているフラッグを奪って、外の所定の位置に持っていけば勝利。守り側は、制限時間内で守り切れば勝ち。制限時間は二時間だな」
「……これって、どっちが有利とかあるのかな?」
その質問に対する答えは、俺はまだ明確なものは持っていない。こればかりは、試合をしてみないと分からないかもしれない。
「そうだな……一概にはいえないだろう。こればかりは、チームの構成によるとしか言えない。それに、攻めと守りは試合前に代表者がくじを引くことで決まる。つまりは、不確実な要素が多い。どちらにも対応できるように、バランスよく訓練しておくべきだろうな」
「そっかぁ……なんだか、やることが多いね。レイくんたちは、大丈夫なの?」
「……でも、大丈夫なんじゃない? だってレイだし」
「それもそうかもね。あはは」
クラリスの言葉に、エリサは微笑を浮かべる。
しかし、今回の大規模魔術戦は俺も油断はできないと考えている。
三人のチームの構成。得意な魔術、不得意な魔術。さらには、この大会の性質上、身体能力があるに越したことはない。
魔術剣士競技大会では一対一の戦いで、特に移動などの要素はなかった。
ただ真正面からぶつかればいいだけだった。
一方で、今回の大規模魔術戦は、拠点占有と攻城戦という特殊なルールだ。
移動しながらの戦闘。それに、戦闘をするか、離脱を選択するか、適宜対応が求められる。何もずっと真正面から戦っていればいいわけでもない。
あらゆる戦略を考慮した上で、戦うのがこの大規模魔術戦。
このルールを考えたのは、おそらくアビーさんだろう。
それは軍人時代を振り返れば明らかだった。もちろん、俺はこの手の訓練には覚えがあるので有利なのは間違いない。
だが、今回は団体戦。残りの二人である、アメリアとアリアーヌはこのような魔術戦の経験はない。そのため、しっかりと訓練を積んだ上で、連携も適宜確認した上で大会に望む必要がある。
やはり……どれだけ考えても、一筋縄ではいかないようだ。
「いや、俺一人ならばどうにかなるが……今回は団体戦だ。仲間との連携が大事になる。安心はできないだろう」
「そういえば、レイは誰と出るの? アメリアは聞いてるけど」
「アメリアとアリアーヌだ」
「え……あの、アリアーヌ=オルグレン?」
「そうだが、何か問題でもあるのか?」
少しだけ驚いたような表情を見せるクラリス。それは何を思ってのものなのだろうか。
「いや……でも思うと、あんたとアリアーヌって相性良いわよね」
「クラリスはアリアーヌのことを知っているのか?」
そう尋ねるが、クラリスはこれでも上流貴族。おそらく、以前から交流があるのだろうと理解する。
「まぁ、パーティーとかで会うし、何度か会話したことあるけど……熱血よね」
「……それは間違いないな。アリアーヌは熱いな。その魂が」
「あんたたち二人に挟まれるアメリアはきっと大変でしょうね……」
「ふ。そこはアメリアに頑張ってもらうしかないな」
「あの魔術剣士競技大会の訓練を知ってるから、きっと今回もすごいことになるんでしょうね」
と、その言葉を聞いた瞬間。
エリサもまたボソッと呟く。
「あぁ……あれは凄かったけど……そっか。アメリアちゃん。大変だねぇ」
「そうよねえ。ま、私たちでフォローしてあげましょ! ね、エリサ!」
「うん! そうだね。色々とサポートしてあげようよ!」
女子二人は妙にやる気だった。
確かに、男性の俺ではアメリアのサポートを完璧にできるわけではない。同性の方が話しやすいこともあるだろうしな。
そんなことを考えながら、二ヶ月後に迫る大規模魔術戦に向けて俺はさっそく、準備を開始するのだった。




