第四話:勉強の時間Ⅰ~魔法と属性編~
主に、この世界の『魔法』についてです。
ーー翌日。
「さて、それじゃあ早速始めていきたい所ではあるが、正直君にどれだけの知識があるのかも分からないから、こっちからも少しずつ質問しながら、やっていくことにする」
「はい」
昨夜、クローネにいろいろ教えてくれと頼み込んだ望未は知識と照らし合わせながらも、忘れないようにするためにノートと筆記具を机の上に用意して、彼の言葉に頷いた。
「まずは魔法について。どんなものか、説明できるか?」
「えっと、分かってきたことはあれど、まだまだ分からないことも多い、不思議な力の一種ですよね。ランクは初級・中級・上級と存在しているものの、明確な区分は曖昧。発動方法は世界中に満ち、その持ち主であれば、自らから作り出すことのできる『魔力』と呼ばれる力を使って『魔法』の発動が可能となります」
「それで?」
「ですが、いくつかの魔法を発動するためには、必要となる文言……所謂『詠唱』を必要となります。正しく必要となる言葉を告げないと、魔法が発動しないものの、その判定基準はランク同様にひどく曖昧。けれど、状況によっては、それは非効率なため、魔法によっては『詠唱破棄』が勧められるが、詠唱破棄は詠唱した時の魔法よりも威力が落ちるため、実力や魔力、状況的に余裕がある人のみが行った方が良いとされている……ですよね」
「はい、良くできました」
リオンに与えられた記憶を思い出しつつ言ってみれば、クローネからぱちぱちと拍手される。
「でも、いくつか分からないこともあるんですよね」
「というと?」
「詠唱が必要となる魔法の発動可能範囲は中級から上級です。上級判定だったものが中級判定に下っても、その魔法は詠唱が必要です。でも、初級から中級に上がったーーつまり、ランクアップした魔法の場合は詠唱しなくても良いんですよね。中級魔法で詠唱が必要なものと必要じゃないもの、混ざってませんか?」
同じ中級魔法判定でも、詠唱の有無が入り交じってる。
どう分けるべきなのか、が望未の質問である。
「そうだね。でも、そこは経験と「何となく」で分けるしか無いんだよね。たとえば、こうやって『火を付ける』」
分かりやすく説明するためなのだろう、クローネが指先に火を灯す。
「普通の人なら、これぐらいは出来る。消費する魔力は少しだからね。でも、魔力量が少なかったら? 多かったら? もし少なかったら、今出してる火は小さいだろうし、火を出しただけで倒れるかもしれない。さらに、魔力が無くて、火を付けることすら出来ないかもしれない」
じゃあ、その逆の場合、とクローネは続ける。
「魔力量が多かった場合。まずは、それをコントロールして、自分のものにしなくてはいけない。たとえ全部が無理でも、使える魔力を少しでも多くするために、やはりコントロールは必要不可欠」
指先の火を消して、クローネは告げる。
「もし、コントロール出来なければ、火は思っていた以上の大きさで、誰かを傷つけたり、火種が飛んで火事を引き起こすかもしれない」
「……」
「当然、込める魔力が多ければ多いほど、魔法の威力は上がる。けれど、それを術者が何とかコントロール出来たとして、その騒動が最終的にどうなるのかなんて、また別の話だ」
その術者が自分のやったことを収めたところで、批判や文句は待ったなしではあろうが、結局、その術者が最終的にどのような行動をしたのか、である。
コントロール出来ていれば、事が起こる前に防げただろうし、起きたとしても対処できたかもしれない。
コントロール出来ていないからこそ、みんなに迷惑は掛けるし、大きな騒動も起きてしまう。
「そして、僕たちの場合は後者ーー魔力量が多い方に傾く」
言いたいことは分かるな? とばかりに目を向けられては、望未とて頷くしかないし、この後にコントロール訓練待ったなしだろう。
「で、基礎的な話に戻るが、魔法には『属性』というものがある。種類は分かるか?」
「はい。基本的な属性は火・風・水・地の四つで、その他に光と闇、風の派生である雷、水の派生である氷、地の派生である植物とどれにも属することのない無。この十種類が現在確認されている属性……ですよね?」
「それであってる。が、実はそれ以外にも属性は存在していてな」
「そうなんですか?」
望未は自分の記憶を漁ってみるが、どうにもそれっぽいものが存在しない。
「あの馬鹿含め……まあ、来たばかりの君が知らないのは無理ないし、順を追って話していくよ」
「お願いします」
クローネの「あの馬鹿」が気にならないわけではないが、そこを聞いていると、話が大幅に脱線しそうな気がするので、望未は気づかなかった振りをする。
「魔法としての名称は『時空間魔法』。はっきり言って、属性とは言いにくいんだが、種類が種類故に属性としても認知されているわけではあるが、『時間魔法』と『空間魔法』が正式名称だ」
いつの間に用意したのか、クローネは飲み物に口を付ける。
「これも、空間魔法の一種だ。で、話を戻すが、先程君自身が言った通り、属性区分もランクの区分も、酷く曖昧なのが実情だ」
ほら、と目の前に出された飲み物に、望未は恐る恐る口を付けながらも、クローネの話を聞いていく。
「で、だ。その時間魔法をメインに使うのが『時間魔導師』、空間魔法をメインに使うのが『空間魔導師』と呼ばれいる訳だが、時間魔法や空間魔法とは普通のーー火属性とかの属性系魔法とも、光や闇みたいな特殊属性系から派生したわけでもない魔法だからな。一応、新たな属性区分としての『時間属性』や『空間属性』は存在はしているものの、属性系魔法とは能力的にもまた別に分けられている上に、ほとんど属性系魔法として認識、扱われていないのも事実だ」
「えっと……つまり、『属性』とは付いているし、属性名も存在はしているけれど、『魔法』という認識の方が一般的。でもって、属性系魔法のどれとも関係していない、別系統の属性にして魔法……ということですかね?」
長ったらしいクローネの説明に、望未がそう纏める。
「まあ、今はそれで良い。要するに、『時空間』に関しては、普通の属性系魔法とは違うと思っておけば、大体は間違ってないから、その認識でいろ。詳しく分類しようとなると、こっちがパンクする」
クローネの説明が若干怪しかった時点で、何となくそう思えていたので、望未も頷かざるを得ない。
「あと、これは先入観とか与えたくないんだが、言っておかなきゃなんないからな。時間魔導師も空間魔導師も、各々でその力量は高いし、能力が能力なだけに、尊敬だけじゃなく、畏怖の感情も人々に抱かれてるのも事実だから、気にしたところでほとんど意味がない」
強い能力を持つ者の宿命とでも言いたげな言い方をするクローネに、望未は疑問しか抱けないーーいや、分からない振りをしているだけなのかもしれない。自分がそうなのかもしれないことを予感し、そうではないことを望もうとする自分がいる。
「あの、何でそこまで……?」
きっと、知っておいて損ではないはずなのだが、先程から脳内で警鐘が鳴り止まない。
「どうやら、自覚がないみたいだし、まだ可能性の段階で断言するような真似はしたくはないんだが。こっちも能力上、見分けられるから、言っておいた方がいいと思ってな」
「……はい」
「多分、君も空間魔導師である確率が高い。もう少し一緒にいないと断言は出来ないが、空間魔導師は自分と同じ空間魔導師が何となくでも分かるからな」
可能性とはいえ、そんなことは知りたくはなかったーーけれど、どんな魔法が使えるのか、気にならないわけでもない。
「もし、それが本当なら、私は属性系魔法が使えないということですか?」
「いや、寧ろ逆だ。『時間』を除く、全ての属性が使える。普通なら、というのもおかしな話だが、全ての属性が使えるのは、時間魔導師と空間魔導師の面々ぐらいだ」
「全て、ですか」
全ての属性を使えれば、確かに便利ではあろうが、でもそんなのは普通ではないために、一般の人たちからすれば尊敬と畏怖の意を持って当たり前なのだ。
それを、自分が、受ける。
「空間魔法は限定的でな。能力が強力であるがために、それなりの代償も必要となる」
「代償……?」
それもそうだ。そんなものが無い方がおかしい。
何かを求めるのであれば、対価が必要になる。
そして、空間魔法の場合は対価が『代償』。
「何故、『代償』なんですか? 『対価』ではないんですか?」
「それはな。『対価』というよりは、『代償』という言いかたの方が合ってんだよ」
クローネらしくもなく、どこか寂しげに目を逸らす。
「ついでだ。この先、他の空間魔導師たちに会うかもしれないから、その能力と代償について説明してやるよ」
そう言って、クローネは順に話し出した。




