第一話:目覚めた先で
第一章:まずは、再会を目指して
彼女たちが辿り着いた世界は、広大な世界
茶髪の青年は、とある場所を歩いていた。
鍾乳洞みたいに反射して輝く岩などがあれば、洞窟みたいにゴツゴツした壁面の場所もあれど、特に周囲の様子も変わることもないのだが、青年は慌てることなく、ゆっくりと進んでいく。
「位置は? 進行方向、問題ないか?」
『大丈夫、間違っていない。けど、容体が気になる。なるべく急いで』
「了解」
そうは言っても、青年に焦る様子はない。
するすると迷うことなく道を通りながら、洞窟内のあちこちに仕掛けられているであろう罠などもクリアしながら進んでいく。
「っと、到着」
道中何も無いまま目的地に着くと、そのまま実況検分を始める。
『クローネ、あの子だよ。声掛けても反応が無かったから……』
一方を示されたことで、クローネと呼ばれた青年は、そちらに目を向ける。
そこにいたのはーー
「子供……?」
子供だった。それも、紺色に見えるような黒髪の。
『その子、大丈夫だよね? 生きてるよね?』
呼吸などを確認していたクローネに、子供を見つけた『存在』が尋ねる。
「ああ、問題ない。気を失っているだけだ」
そう答えたクローネだが、目を向けていた子供からは何とも言えない違和感があった。
『クローネ? 何か気になることでもあった?』
「いや……」
不安そうに尋ねてきた『存在』に、そう返しながらも、クローネの眼が藤色の光を宿る。
(ああ、そういうこと……。厄介なことをしてくれたな。あの神様は)
そう思うのと同時に、クローネの眼から藤色の光は消えるが、代わりに面倒くさいことに巻き込まれたな、と言いたげな感情が浮かんでいた。
「……おい、大丈夫か?」
とにもかくにも、子供とて起こさなくては話も出来ない。
見た感じ、大きな外傷は無いので、頬をぺちぺちと叩きながら、クローネはこの場で起こすことにした。
『起きないね』
「……」
心配そうに言う『存在』に、クローネは思案する。
「このまま、こんなとこに居ると風邪引くことになるよ」
「……っつ、」
どうやら、クローネの声は聞こえたのか、子供ーー少女の意識がようやく浮上する。
「意識が戻って早々悪いが、何か適当に話してもらえない? 名前や好きなもの、何でもいいから」
とにかく言語関係を確認するために、一言欲しかった。
「えっと……」
『大丈夫だよ! このおにーさんは、貴女の味方だから』
クローネの横から口を出した『存在』に、少女は驚いたように目を見開いた。
「驚かしてどうするんだよ」
『驚かしてないよ! それに、見つけたのは私で、クローネは治癒担当なんだから、人選は間違ってないでしょ!?』
「それ以前に、僕は管理者で、どちらにしろ報告する義務はあるけどね」
『ぐっ……!』
クローネと言い合う『存在』に、少女の視線は戸惑いながらも、二人を行き来する。
(えーっと……)
少女ーー久遠望未は、現在の状況を把握するべく、周囲に目を向ける。
洞窟らしき場所に居ること、目の前の二人が自分を助けようとしてくれていること、茶髪の青年がクローネという名前であること、彼の隣にいる女性とは主従関係であることーーなどなど。
二人が何を話しているのか分かることから、リオンの与えた力はきちんと作用しているようだ(信用度が足りてないのは仕方がないが、可哀想なリオンである)。
だが、望未が現在進行形で一番気になったのは、彼らとの目線である。
クローネは片膝付いて接してきているが、女性の方は両膝に手を付いて、小さい子に話しかけるようにして、接してきている。
異世界人だから、彼らと見た目が違っても仕方がないが、どうにも「彼らが実は巨人で平均的」とか「自分が小人になった」とかでは納得できない自分がいる。
もちろん、リオンから与えられた知識で、『人間』は自分たちと同じだとは分かっているがーーふと出てしまった考えが、一番現実的で納得できてしまう。
(それでも、確認はした方が良いよね)
こうなったら、はっきりと言ってもらおうと、望未は口を開く。
「あ、あのっ!」
「ん?」
『どうしたのかな?』
二人の目が望未に向けられる。
「私ってーーいくつぐらいに見えますか?」
これで十代前半なら顔が引きつってもセーフとは思えるが、一桁はマズい。
十代後半の自分で年齢の鯖を読むとか、何が楽しくて悲しくてそんなことをしなくてはいけないのだ。
だから、内心ドキドキしながら、二人の返答を待つ。
「正直に言っても良いの?」
「構いません」
「じゃあ言うけどーー」
クローネが口を開く。
「十歳。それぐらいに見える」
『うん』
何とも言えない評価である。
(マジかぁ……)
望未は頭を抱えた。
状況把握の時には、一緒に居るはずの幸希が居ないことには気づいていた。
(大丈夫、だよね)
今の望未にしてみれば、ついさっき会ったばかりのクローネたちを信じていいのか分からないが、一人よりは誰かと一緒に居た方がマシであることも理解している。
「ここから一番近い街って、どれぐらいで着きますか?」
「ここから一番近い街、か。“転移”使えば『王都』にも行けなくはないけど……」
望未を見た後に、女性を見たクローネは思案し始める。
『モンスターが来ないようにすればいいんだよね?』
「それはそうだが、問題は迷宮を出た後だ。無傷なまま、この子を連れて、街まで行けると思うか?」
『それこそ、“転移”使いなよ。何のための魔法なの』
女性に正論を言われるが、クローネがたじろぐような様子はない。
「貴重な人材でもある『異世界からの来訪者』をぞんざいに扱えと? 冗談じゃない。お前の所に来たことに関しては幸運だけど、僕は遠回しに世話を任されたんだよ!? あの野郎、次顔出した時にぶっ飛ばしてやる」
何やら物騒なことを言うクローネに、女性は顔を引きつらせ、望未は再度戸惑いの表情を浮かべる。
それに、聞き流せない情報も聞こえてきた。
(そもそも、この人。『異世界からの来訪者』って言った?)
つまり、クローネは望未のこと、または、それに関することを知っているということだ。
「まあ、いいや。街に出るまでは一緒に居ることになるからね。とりあえず、自己紹介と行こうか」
クローネは笑みを浮かべる。
「僕の名前は、クローネ・クオーツ。迷宮管理者だ」
「迷宮、管理者……」
「ここは僕の管理下の迷宮でね。彼女は、この迷宮の守護者なんだ」
「そう、だったんですか」
『そうなんだよ。あ、私はフィーディアって言うんだ。そのまま、フィーディアでいいよ』
フィーディア、と名乗った彼女が、その場でくるりと回れば、リボンがふわりと舞う。
「っと、申し遅れました。久遠望未です。久遠が姓、望未が名前です」
「じゃあ、ノゾミって呼べばいい?」
「はい、構いません」
どうせクローネたちの方が年上なのだから、言葉遣いは間違ってないはずだ、と望未は今の所そう判断する。
『にしても、ノゾミちゃん。丁寧に話すよね。親御さんの教育が良いのかな?』
「さっきも言ったが、彼女は異世界の住人だったんだぞ。常識も、こっちと同じだと思っちゃ駄目だとも、言わなかったか?」
『はいはい、分かってますよー』
不機嫌になったフィーディアが頬を膨らませる。
「それと、君からは僕たちの方が大きく見えるだろうけど、ちゃんと本来の身長に戻るから」
何故、この身長にしてしまった人物ではなく、クローネが言うのかは分からないが、とりあえず望未は頷いた。
「で、本来の年齢は?」
「え?」
「だって、十歳じゃないんでしょ?」
「否定はしませんが……」
この身長だって、なりたくてなった訳じゃない。
「実年齢は十七です。見えないでしょうけど」
『……え、マジ?』
「だぁーっ! 本っ当に、あいつ何してくれてんの!? 十七の女の子一人、洞窟に放置とか! フィーディアが早めに見つけたから良かったものを!」
『本当だよねぇ。四聖の中でも、ノームやイフリートのとこに行っていたら、どうなっていたことか』
喚くクローネに、彼に同情しながらも、渇いた笑みを浮かべるフィーディア。
「まあ、何だ。その身長とか見た目年齢とか、利用できるうちに利用しておこう。庶民でも姓は名乗れるから、その時の判断に任せるが、『クオン』なんて姓は一発でバレる可能性もあるから、基本的には僕の娘ってことで」
『似てない親子だよね』
「黙れフィーディア。あと、『守護者通信』で知らせといて。知らん奴がいると面倒だし」
『分かりましたよー。全く、守護者使いの荒い管理者だなぁ』
クローネはフィーディアを横目で見るが、それを分かっていながらも、フィーディアは『守護者通信』の内容作成画面を表示して、『守護者通信』を作成していく。
「『守護者通信』……?」
「ああ……まあ、いろいろと追々説明するよ」
フィーディアの「完了したよ」という言葉に、それじゃ、とクローネは望未に手を差し伸べる。
「こんな場所で悪いがーーこの世界へようこそ。『久遠望未』さん」
「これから、よろしくお願いします。クローネ・クオーツさん」
望未は差し出されたその手を握り返すと、小さく笑みを浮かべた。




