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太陽を失った世界で  作者: 飛魚ヨーグレット
9/24

9,壊れた機械人形

『あ、ああ、あああアアアアアアァァァァァァァ!!』


「なに、なんの音!?」


少年は急に鳴り響いた声と、何かを壊すような破砕音に驚いた。


「わからない、つむぎの研究室の方からだわ!」

「何かの故障かもしれない、行こうアンナ!」

「ええ!」


少年達は、急いでつむぎの研究室の向かった。




そこで少年達が見たのは、まるで殺害現場のような惨状だった。


「アアアアアア、ァァァァァァ!!」


一彦は、自分と同じ形をした機械人形を何度も、何度も殴り、叩き潰していた。

その度に破片が散乱して、床に散らばる。


「壊れろ! 壊れろぉおおおお!!」

「やめなさい!一彦!」


ピタッと、一彦は動きを止める。

アンナの言葉を命令と判断した機械の体は、一彦の動きを制限した。


「……いったい、何があったの?」


心配するように聞くアンナを、唯一動く目でギロリと見返す。


「俺は……なんなんだ……」


憎むような目で、アンナを睨んだ。


「……わからねぇよ、もう」


一彦は振り上げた腕をゆっくり下ろし、そのまま外に出ていった。

「……テル、ここ、頼んでもいい?」


アンナは様子がおかしい一彦をそのままにはできなかった。


「うん、お願いするよ。つむぎのことは任せて」


アンナは一彦を追いかけて、研究室を出ていった。

少年は、飛び散る破片から逃げるように隠れていたつむぎに、話しかける。

「怪我は……無いみたいだね。とりあえず、なにがあったのか教えてくれる?」

「……うん。……えっと」


言葉少ないつむぎの話を時間をかけて、少年は聞いた。



「……なるほど、残っていたデータから一彦を複製したんだね。それも、感情データを弄って」

「……うん」

「なんでそんなことしたの?」

「……だって、あの一彦は……失敗。……今回は、上手くいったのに」

「そっか……うん、大体わかった」


少年は、なんとなく理解した。


人の感情という部分にまで手を出された一彦が、暴走した。

これは、つむぎの性格を考えると、あらかじめ対処できた出来事だったかもしれないと、少年は後悔した。


「ごめんね、一彦。僕がしっかりしなかったから……」

「……テルヤ……どうして、謝るの?」


つむぎは首を傾げる。

純粋な目で聞いてくるその姿を横目に、少年は床に散らばる破片を拾い集め始めた。


「つむぎ。1つだけ、お願いがあるんだ」

「……なに?」


かき集めた破片を抱えながら、少年は言った。


「自分が産み出したなら、責任を持ってよ」


つむぎは、目を大きく開いた。

なぜか、少年のその言葉には真剣さに満ちていて。


「……わかった……ごめん」


つむぎは気がつくと、謝っていた。










「……クソッ」


一彦は、自分の部屋で座り込んでいた。

怒りと不快感が混ざりあって、異常なまでに気分が悪い。

もし生身の体なら、あまりの気持ち悪さに胃液まで吐き出してしまっていただろう。


「死ぬことも、できないんだな……」


先程、自分を壊そうとして失敗した。

自分の核である頭を潰そうとして、安全装置に阻まれたのだ。

結果として、自分が機械であることを再確認させられた一彦は、途方に暮れた様子で暗い天井を眺めていた。




「やっぱり、ここにいたのね」


しばらくして、アンナが部屋に来た。


「……アンナか。何の用だ」

「あんたの様子見にきたに決まってるでしょ……ったく、電気ぐらいつけなさいよ」


アンナが部屋の電気をつけて、座り込む一彦を見る。


「荒れてるわね……ほら、その手を出しなさい」


一彦は、自分の手を隠して言う。


「別に、大丈夫だ」

「そういうの、いいから」

「……悪い、わかった」


一彦はアンナに促されて、自分の手を見せる。

見事に壊れていた。


何度も本気で殴りつけていたために、まともな形を保っていなかったそれを、アンナは確認した。


「酷いわね……これもう、付け替えしたほうがいいかも。対象が人間じゃなければ本気で攻撃できるってのは盲点だったわ。……制御項目に加えようかしら」


一彦はアンナの言葉にピクリと反応した。


「……なぁ、その制御っての。やめてくれないか?」

「どうしてよ」

「自分の思うように体が動かないのは、ストレスなんだよ! それどころか、なにもかも操られて、いったい俺が何したっていうんだ!?」


一彦の溜め込んでいた不満が、悲痛な声が、部屋に響いた。


「だいたい、ただでさえ人間味を無くしてきてるんだ! こんなことされてまともでいれる方がおかしいだろ!」


「一彦、少しでいいから。落ち着いて」

「それだけじゃない! アイツは……俺だったアイツは、俺に向かって死にたいって、そう言ったんだ! だから……」


「お願い」


そこで、一彦は言葉をなくした。

一彦の手を見るアンナの目が、あまりにも辛そうだったからだ。


しばらく、言葉のない時間が続いた。


沈黙のなか、先に口を開いたのはアンナだった。


「……あんたのその、制御のことなんだけどね。やっぱり、外してあげれないわ」

「俺は……消して欲しい。これがあると、自分がわからなくなるんだよ。自分が機械だって、再確認させられる」


それを聞いてアンナは、首を横にふった。


「違うの。むしろ、逆なの。……人間らしく生きる為に、必要なのよ」


アンナは、一彦の壊れた腕に優しく触れる。


「もしあんたが、人間の体を持っていたとしたら。自分の手がこんなになるまで、暴れられると思う?」


「……ッ!?」


一彦は、アンナのその一言に驚いた。

長い間機械の体に閉じ込められていたせいで、そんな当たり前なことすら忘れていた。

人間として壊れていた自分が止まれたのは、間違いなくアンナの命令のおかげだった。


「あんたには、痛覚が無いもの。それだけじゃない、人間として必要なものがいくつも、欠けてるの。それを埋めるのが、制御なのよ」

「……そうか。そうだよな」


思い当たる節がいくつか、一彦にはあった。

働けば空腹を感じ、長時間メンテナンスをしなければ眠くなる。

もしもこの制限が無ければ一彦は、今までよりも機械的な生活を強いられていたはずだ。


「あんたが何者なのか答えるとしたら、機械よ。それはどうしようもない事実。だから、できることなら、人間らしくいられるようにしてあげたかったの。あんたは、あたしが産んだようなものなんだから」


一彦の手をキュッと握って、アンナは声を落とした。

自分の体は機械だというのに、一彦はそこに確かな体温を感じた。


「……でもよ、つむぎはそこを悪用しただろ」

「ええ、わかってるわ。あの子は、許されないことをした。それでも、許してあげて欲しい。あたしはあの子を責めることはできないのよ」

『……何でだ?』

「あたしだって、人の感情を操れたら……そう考えたこと、無かったわけじゃないもの」

アンナはそう言って、口を閉じた。


その様子を見て、一彦にはわかってしまった。

アンナは輝矢の事を考えているとき、いつもこうやって口をつぐむのだ。


「お前、ひょっとして……」



「ウゥー、ワンワン!!」


詳しく聞こうとすると、唐突な乱入に遮られた。

思わぬ乱入者に、一彦とアンナは驚く。


「……ちび太!? あんたなんでこんなところにいるのよ!?」

「迷い混んできたのか?」


問いかけを無視して、ちび太は一彦のまわりを一周する。

そうして、一彦の足元にすり寄って来た。


「……なんでだ?」


人間でもない相手にすり寄るちび太に、一彦は疑問を抱いた。


「俺は、人間じゃないんだぞ? ほら、人の匂いもしないだろ……」

「……クゥン」


それでも足元から離れようとしないちび太に戸惑いながら、一彦はとりあえず頭を撫でた。


アンナはその様子を見ながら、話し始めた。


「……この子ね、嗅覚が無いの。だから、あんたが人間なんだと思ってるんじゃないかしら」

「そうなのか? 犬なのにか?」

「詳しくはわからないわ。テルが拾ってきた時からなのよ。障害を持って生まれてきたのか、なにかが原因で嗅覚を無くしたのか」

「……そういや、コイツは捨て犬だったな……おかしい、なんでか急に可愛く見えてきた」


一彦はちび太に対して、妙な連帯感を感じた。

作られた瞬間から失敗作と言われ、つむぎに無視されてきた自分と境遇が似ているように思った。


「ホントは、もう1匹いたの。目に傷があって、大きい子が。テルと一緒にボスって呼んでた」

「強そうな名前だな。そいつはもういないのか?」

「ええ。お互い、親に内緒で面倒みてたんだけどね。子供にできることなんて少なくて。多分、病気だったんだと思う」


アンナが思い出を懐かしそうに語るのを、一彦は大人しく聞いていた。


「それがテルのお母さんの耳に入って、めちゃくちゃ怒られたの。『面倒を見るなら責任を持ちなさい』って。普段めったに怒らなかった人だから、身に染みたわ」

「それが、俺の面倒を見てくれる理由なのか?」


一彦の言葉にアンナは頷く。


「……だからあたしは、この子も、あんたも、責任をとると決めた以上は絶対に見捨てないから」


その真剣な態度に少しだけ、一彦は安心した。


「……俺は、ペットと同じか?」

「手がかかるって意味ではそうね。もちろん、扱いがまるでちがうけど。お望みなら、ペットでもいいわよ?」

「……はは、そりゃ勘弁願いたいな」


一彦はアンナの気持ちを聞いて、そんな軽口を言う。

こうやって話していると、今の自分を受け入れられたような気がした。


「……ちょっとその子の面倒見てて。あんたの腕のスペア、持ってくるから」

『あ、おい!』

アンナは立ち上がって部屋を出ていこうとする。

さっきまで感じられた温もりが、一彦には少しだけ惜しかった。


「そうそう、つむぎの事だけど。安心しなさい。もう絶対あんなことはしないから」

「……どうして、そう思う」


「だって、テルがいるじゃない」


自信満々にそう言って出ていくアンナを、一彦は微妙な気持ちで見送った。



「……ちび太。お前の主人、複雑な性格してるよなぁ」

「……アウぅ?」


一彦は足元のちび太に声をかけながら、思う。

なんとなく、アンナの言うことはわかる。責任を持つということが大事だということも。


実際に今まで、アンナに命令されたのはあの瞬間の1度きりで、それは一彦自身の体を守るためのものだった。


『根が優しいのか……世の中、あいつみたいなのだけじゃないのがなぁ。つむぎとか綾とか、もう少しマシになんねぇもんかな』


一彦がそう言った時、ちび太は耳をピンと立てて立ち上がり、そのまま部屋を出ていった。


「ウー、ワンワン!!」

「ちょ、お前! どこ行くんだ!?」


一彦はその後を追いかけて走る。

アンナにちび太の面倒を任された以上、ここで追いかけなければいけない気がした。


「ワンワン!!」

「ま、待てよ! クソッ、すばしっこいな!」


一彦はうまく動かない両腕をぶら下げながら、滑稽に走り回った。

バランスの悪い走り方をしているとしだいに、一彦の顔に笑みが浮かび始めた。

……だんだん、楽しくなってきた。


「なんだ、大丈夫じゃないか」


こうして、人間にはできない速度で走っていても、シュールな光景を演じていても。


『……だからあたしは、この子も、あんたも、責任をとると決めた以上は絶対に見捨てないから』


あの天体好きの少女を思い出せば。

自信を持って人間をやれていると、そう言える気がした。




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