表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
太陽を失った世界で  作者: 飛魚ヨーグレット
10/24

10,指導者と救いの手順

たった今、1匹の生物が死に絶えた。


その原因はわからない。

単純な食料不足か、もしくは極度のストレスによるものなのか。

わかることは、病気では無かったというそれだけだった。


「私でなければ、救ってやれたかもしれないのにな」


ペットすら飼ったことのないというのに、これだけの生物の面倒をみろというのだ。

飼われる側こそ可哀想だと、綾は思う。


「何ができるというんだ、こんな私に」


気がつけば、涙が頬を伝っていた。


それが目の前の生物への、悲しみの涙なのか。

導かれている答えすら守れない自分への、悔しさの涙なのか。


おそらく両方なのだろうと、綾は思った。


「……むぅ」


拭っても止まらないそれを、しばらく放っておくことにした。

どうせ、めったな事ではここに寄り付く者はいない。



そう思っていた綾の足元に、すり寄ってくる生き物がいた。


「……クゥン」


ちび太は寄り添うようにして、綾の側から離れない。


「ちび太か。お前、さっき出ていったばかりだ……ろ……」


そして、気付いた。

その犬が連れてきた、機械人形に。


「あんたでも、そんな顔するんだな」


腕の潰れたマシナリーは、そんな率直な感想を言った。







「これで、大分片付いたね」

「……うん」


少年とつむぎは、バラバラになった機械人形を集め終えて休憩していた。

飛び散った破片で故障した機器は無く、一彦のカプセルも無事だった。



「つむぎはさ、寂しかったの?」

「……?」

「あ、いや。わざわざ2人目の一彦を作っちゃったぐらいだから、そうなのかなぁって」


少年はつむぎに思っていた事を話した。

初めてここに来たときに自分を支えてくれた彼女の支えに、少年は少しでもなってあげたかったのだ。


つむぎはその言葉に躊躇いなく頷いた。

声をかけてくれれば話をすることくらいは出来たのにと、少年は思った。


「……うん……でも、それだけじゃない」

「聞いてもいい?」


つむぎはこくりと頷く。


「……一彦と結婚する……それが、夢」


「結婚、かぁ……それはまた、大きな夢だね」


少年は、頑固なほどに気持ちを強く持ったつむぎに苦笑する。

狂信的とはいえ、それでもこれだけの一途さを見せるつむぎをみて、少年はなぜか少し安心した。


だんだん、つむぎらしさというのが分かってきた気がする。


「……予習、みたいなもの……だった」


反省したように言うつむぎを、少年は責めることはしなかった。


「……それに、昔、言ってくれた。……守ってくれるって」

「一彦、いいやつだよね、ほんと」

「……うんっ」


つむぎはまるで、自分が褒められたかのように嬉しそうに頷く。

一彦の人の良さが、つむぎが惚れる理由なのだろうと少年は思った。


そして、自分の目的がハッキリしているつむぎが、羨ましくも思った。


「つむぎには、自分のやりたいことが見えてるんだね」

「……テルヤには、ないの?」


つむぎは首を傾げる。

少年は腕を組んで考えてみた。


「うーん。一応、目の前にやらなきゃいけない事はあるんだけどね、これといって無いかなぁ」


少年は何度か、実験が成功して太陽が戻った世界を想像した。

しかし、その世界に自分を立たせてみても、そこに生きる価値は見いだせなかった。


「『やりたいことを見つけなさい』って。昔、母さんに言われたんだけど、駄目だな。見つかりそうにないよ」


少年がそう言った事に、つむぎは反応した。


「……アヤに、教えてもらえば……いいと思う」

「あー、綾さんかぁ。とりあえず何か言ってくれそうな気はするけど。僕、あの人苦手なんだよなぁ」

「……テルヤ」


つむぎは真剣な目で少年を見つめる。少年は少しだけ気圧された。


「……アヤは、いい人」


またしても、わかって欲しいという言いかただった。

少年は、つむぎがそう主張する理由を知りたくなった。


「いい人ねぇ……つむぎはどうしてそう思う?」

「……えっと」


つむぎはしばらく考えたあとに、首を傾げた。


「……優しい?」

「んー、もうちょっと具体的な根拠ないの?」

「……?」


少年は悩む。つむぎがここまで言うというのだから、根拠はないまでも、そう感じるところがあるのかもしれない。


そうして、つむぎはふと思いついたかのように言った。


「……アヤは、間違わない」


「……それ、アンナからも聞いたよ」


彼女も、綾の事をそう言っていた。

少年は、疑問に感じたことを口に出した。


「なんにも間違えない人って、本当にいるのかな」


「……?」


つむぎは、少年の言葉に首を傾げていた。









見られたくなかった姿を見られた綾は、涙で濡れた目元を隠した。


「……喜べ一彦、今日の晩飯は焼肉だ。それも、地球最後の豚肉だ」

「いや、そんな様子で言われても……だいたい俺、肉食えねぇし」

「……それもそうだったな」


綾は意地で涙を止め、顔を拭いて一彦を見返した。


「で、何の用だ一彦。ここはお前が来るような場所じゃないだろ」


「用事っつーか、ちび太を追いかけてたらいつの間にかここに来てたんだよ。そしたらあんたがその、泣いてたからな。男としてはそのまま立ち去るのもどうかと思って」

「……ふん、余計な事を……いいか、2人には絶対言うんじゃないぞ」

「はいはい、了解。というか、そんなに心配なら記憶の消去とかすればいいんじゃないか?」


きっぱりとそう言い切る一彦から、綾は前とは違う雰囲気を感じた。

綾の目に、一彦の壊れた腕が映る。


「……えらく堂々としてるじゃないか。それにその腕、なにかあったのか」

「……まぁ、なんだかんだ吹っ切れたんだよ」


一彦は憑き物がおちたような、清々しい表情をみせる。


「親に捨てられた子供が駄々をこねてきた結果ってところだ。どうだ、人間らしいだろ?」

「……何を言っているんだお前は」


そう言いながらも、綾はなんとなく理解していた。

今こうして足元で寄り添うにしているちび太。

先程この犬が駆けつけていったということはつまり、そういうことなのだ。


「ちび太、お疲れ。お前は本当によく働く犬だ」

「……クゥン?」


綾はちび太にねぎらいの言葉をかけた。


「働くって、コイツ逃げ出して来たんじゃなかったのか?」

「馬鹿言うな。ちび太はそんな頭の悪い犬じゃない」


一彦の言葉を否定して、綾は言う。


「ちび太はな、鼻がきかない代わりに『人の感情に異常に敏感』なんだよ」


「……つーことはなんだ、コイツは俺を慰めに抜け出して来たってのか?」

「事情は知らんが、そういうことだろうな。こいつは鼻の代わりに、耳やら、そういう勘が異常に発達している。大方、お前の悲痛な叫びでも聞き付けたんだろう」

「なるほど、道理で……」


一彦は納得した様子でちび太を見る。

自分の味方が思わぬところにいて、一彦は少し嬉しい気持ちになった。


それと同時に、新しい疑問が生まれた。


「なら今のあんたは、ちび太の慰めが必要な状態ってことなんだな?」


否定できないその言葉に、綾は露骨に嫌な顔をした。


「お前また、気付かないでいいことを……」


ちび太が一彦の次に駆けつけたのが、綾だったという事実に違いはなかったからだ。


「話して楽になるってことなら、俺が相手になるぞ?」

「……ふん、必要ない。お前は自分の役目を全うしていればそれでいい。それも『結論の出た問題』だ。余計な気を回す暇はないぞ」


綾は難くなに一彦を突き放す。

それがよりいっそう、一彦の疑問を強くした。


「なぁ……あんたはなんで、そうやって自分を隠そうとするんだ?」


綾は一彦を睨む。

一彦にはそれが、まるで意図的に人の介入を拒んでいるにも思えた。


「……それこそお前に関係のないことだろう」

「いいや、そうでもない。なんつーか、これが元々の俺のスタンスだからな」


一彦は自信を持ってそう返す。


「今まで俺は、自分の体が機械だからって、それだけで気が引けていた。だが、もうそんなことは関係ない。どんなことでも、いくらでも深入りしてやる」


「……お前、いい加減ウザイぞ」

綾は怒っていた。自分の抱えているもの、それが理解できる訳がない。

そう思って、一彦を睨む。


「いいや、俺には自信がある。今まで培ってきた経験がそう言ってるんだ。本当のあんたは、自分を理解できる人間を欲しがってるってな」


一彦は引かなかった。

今まで通り、人間の体を持っていた時のように、人の相談を受け止めようとする。


人であった時と同じ生き方を、貫くために。


綾はそこに、異常な程の必死さを感じた。


「……いいだろう。だったら、みせてもらおうじゃないか」


一彦のその態度に、綾は試してみたいという気持ちになった。


綾は、読み返し過ぎてすりきれてしまった、一冊の書類を一彦に叩きつける。

その表紙には『人類生存プロジェクト』と書かれていた。


「先に言っておく。お前がこれを読んでしまった場合、間違いなく記憶の一部を消さなければならない。消去の対象はそうだな……現時刻以降の出来事全てだ」


一彦はそれを聞いて、怪訝な顔をした。


「……それって、俺に意味あるのか?」

「私が、これを読んだ後のお前の反応が気になるというそれだけの話だ。気に入らないと言うのならそのまま帰ればいい」


綾は、この書類を他人が読んだ場合の反応が気になっていた。

読んだ上で、自分の無能さを責められるというのなら。


……それはそれで、スッキリすると思ったのだ。


「……わかった。読むから、少し時間をくれ」



一彦は書類を読み始めた。最初のページをめくって、驚く。


[この手順で研究を進めれば、地球は救われる]


見開きにはそう書いてあった。


それは、まるで未来人が書いた日記帳のような、予定帳だった。

過去の開発、完成時期と書類との合致具合に、一彦は目をむく。


一彦は、壊れた腕がもどかしいとばかりに書類を読み進めた。


「……なんだよ、コレ」


ページをめくるたび、理解してしまう。


自分の誕生が必然であったこと。

『結論の出た問題』という言葉の、本当の意味。

輝矢の母親である、東藤なつみが発案した計画。


そして、綾が犯してしまった罪について。


「これが、現実だ。お前にも理解できただろう」

「……あぁ、あんたの隠してたこと全部な。あんたそうやって、厳しい指導者でいる理由も」


一彦は最初のページに再び戻った。


[この手順で研究を進めれば、地球は救われる]


「……俺が聞きたいことは1つだ」


綾はまるで、その質問が来るということをわかっていたかのように、目を伏せた。


「どうしてこの中に、輝矢の名前が無いんだ?」




救いの手順と呼ばれるその予定帳には。

東藤 輝矢の名前は、何処にも無かった。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ