6,外の世界
「……という感じなんだけど、わかった?」
『へぇ~、今の地球ってそんなことなってんだな』
つむぎの研究が終わってすぐのこと。
なぜか彼への説明を全部丸投げされた少年は、知っている限りの地球の状態を話していた。
一彦と呼ばれる青年が埋め込まれたマシナリーは、腕を組んで納得したような様子だ。
「思ったんだけど、一彦ってなんかこう、飲み込み早いよね……」
『まぁな。でも俺からすれば、目が覚めたら半年も過ぎてたってのと、自分がサイボーグみたくなったってのが驚きなわけだ』
一彦は機械の腕を少年にこれ見よがしに見せつけて、『なんか、カッコよくね?』と言う。少年としてもその気持ちは、わからなくもなかった。
『ただ、変だよなぁとは思うな。本当に自分は生きてるのかって、考える』
「えっと、どういうこと?」
マシナリーが言うことに少年は首を傾げる。青年は自分自身が入ったカプセルの上に手を置いた。
『だってよ、このカプセルの中には、まだ眠ってる俺がいるわけだろ。本当の自分はそこにいるってのに、それを外から見ている俺がいる。……なんか変じゃね?』
「まぁ、そうだね。でも仕方ないよ、そういう風に作られた訳だし」
『……だよなぁ。まだ俺も現状を受け入れられていないっぽいな。……せめて、コイツの脳とリンクして体が動いてる、とかだったら良かったのにな』
ベタベタとカプセルを触って『実は鏡だったりしねぇか? ん?』と言っている覗きこむマシナリーを見て、少年は少し笑った。
『失礼な、結構まじめなんだぞこっちは』
「ごめんごめん、なんだか面白くって」
『まぁ確かに、俺自身もかなりシュールだとは思うがな』
自分が生きているのかを確かめるなんて、そうそうあるもんじゃない。
一彦は自分の状況を想像したのか、少年につられて笑った。
ひとしきり笑ったあと、少年は言った。
「なんか僕、君となら仲良くなれそうな気がする」
『それはほら、俺の人間関係テクニックってやつのおかげだ。友達の数には自信あるぞ』
「……僕はそっちの才能が欲しかったよ」
『閃きの才能だったっけ? いいじゃん、カッコいい』
「まさか。できるかわからない妄想語るなんだよ? 恥ずかしいだけだって」
そんな話をしていると、情けない気がしてきた。
実際なにもできていないのだから、少年は少し焦っているのだ。
「もし無限に時間があったら、君みたいにマシナリーになって研究を続けられるんだけどね……」
『確かに、隕石なんてものが降らなきゃ、時間かけりゃなんかできるかもしれねぇからな』
「……うーん」
少年は頭を抱える。
人工太陽よりも急務なのは間違いなく隕石の回避なのだが、これに関してはまったくアイデアがうかばなかった。
「……なんか、ない?」
少年は、一彦にダメ元で聞いてみた。
『相当追い詰められてるな。言っとくが俺に聞いても平凡な物しか思いつかないぞ? 俺は普通の人間だからな』
「……わかってる」
一彦は、それでも思い付くだけの事を言う。
落ちてくる隕石をロケットで破壊する。
いっその事もう一回爆発を起こして軌道を変える、など。
既にどれも、規模の大きさから現実味に欠けると、アンナに突き返されたものだった。
『あのさ、俺思うんだが……コレ無理。スケールデカ過ぎ』
「だよね。でもやらなくちゃいけないんだよね……」
『おう、頑張れ。俺の役割は多分、外での雑用がメインだろうからな』
そういって、マシナリーは胸を張った。
マシナリーの体である一彦は、外の環境で動ける労働力としての仕事が任されていた。
まだ外に残っている保存食や、研究に使える資源の調達といった、生身の人間には不可能な作業が彼の仕事だった。
『エネルギーの消費にみあった仕事をしろって……あの綾って人、なかなかの現実主義だな』
「うん、あの人はそういう人だよ。それにその体、結構電力を消費するらしいからね。確かに、ここのエネルギー問題も、無視できないよ」
『ま、そういうこった。それじゃ、ちょっくら外回りいってくるわ』
マシナリーは自動ドアを開けて、外に出ようとする。
少年はその一彦に待ったをかけた。
「あ、ごめん、ちょっといいかな」
『なんだ、もしかしてついてくるのか?』
冗談。生身で出れるはずがないほど外は寒いのに。
「いや、無理だから。そうじゃなくて。外に出るなら、後で外の様子を教えてほしい。気になるんだ」
「そういうことか。そうだな……お、いい機能あるじゃん」
彼は自身の体の機能を、内臓された仕様書で探し出した。
『見るか? 外の様子』
マシナリーの機械の瞳を、一彦はウィンと動かした。
『うっはー、様子はしてたけどすげぇなぁ、これは。瓦礫多過ぎてまともに歩けねぇよ』
「……外って、こんなことになってたんだ」
少年は、一彦の目を通して端末に送られてくる映像を見て驚く。
自分が思っていた以上に、外の様子は酷いことになっていた。
一彦が視線を動かすと、映像も動く。
彼は、凍りついた世界を少年と通信しながら歩いた。
『知らなかったのか? 半年前だっけか、あの大爆発の衝撃波でどこもかしこもメチャクチャになったハズだろ』
「……僕、家に引き込もってたから」
『そういや言ってたな。どんな丈夫な家に住んでたんだよお前。俺なんか学校が倒壊して巻き込まれたんだぞ』
「え、大丈夫だったの?」
『あぁ、たまたま瓦礫がいい感じに支えになってな。一緒にいたつむぎと、俺は助かった。その後の事は、あんま覚えてねぇけど』
ちょっと前に聞かされていた事を、少年は確認する。
「そっか、つむぎと一緒の学校だったんだっけ」
『つっても、俺はスポーツ推薦だったから、頭は悪かったけどな。そんでアイツ、学校で一人だったから、声かけたんだよ。そしたら、なんかすげぇなつかれてな』
一彦は思い出すように言う。
少年にも何となく、つむぎが一彦の後を付いていく、その状況が想像できた。
しばらくの間そうやって話していると、倒壊が比較的軽い場所についた。
『この辺は、まだ被害がマシな方だな』
「ちょ、ちょっと待って!」
『急になんだ?』
少年は画面越しに映る光景に、見覚えがあった。
下に落ちている看板を見てみると、いつも使っていたスーパーの名前が書いてあった。
「もしかして……ここ、僕の家の近くかも」
『ん? そうなのか?』
「うん。そこの建物、スーパーだったから、多分なにか有るよ」
『OK、ちょっと探ってみるぞ』
一彦が歪んだドアを開けて中を探る。
少年は、こんな近くに自分の町があったことに驚いていた。
『保存食、保存食っと……クソ、ねぇな』
「もしかしたら、誰かが持ってっちゃったかもね。あの時食料不足だったし」
『そうかぁ……なんか悔しいから、もう少し探してみるわ』
一彦がそうやって食べ物を探しているとき、少年のいる部屋のドアが開いた。アンナだ。
「テル、探したわよ。こないだの研究案のことなんだけど……あんたこんなところでなにやってんの?」
「あ、アンナ。調度良かった。これ見てよ」
少年は自分の端末をアンナに見せる。
アンナも少し見ただけで、近所だったスーパーだとわかった。
「なるほど、さっそく外に出てるみたいね。一彦、体の調子はどう?」
『全然大丈夫だ。ただ、寒さを感じないってのは普通に違和感なんだが』
「仕様よ。我慢して」
『へいへい』
画面がしっかりと映ることにアンナは満足しているようで、さっきから何度も頷いていた。
『お、面白いもんみっけたぞ』
一彦が手に取ったのは、『ポンポンポップコーン』という、一昔前に流行ったものだ。
電子レンジでチンすると、その名の通りポップコーンが袋の中でできるというもの。
「あー、懐かしい。テルの家でよく食べたやつだ。あたしそれ食べたい。もって帰って来てよ」
「あの、いいのそれ。なんかあんまり栄養なさそうだけど」
ノリノリで指示を出すアンナに、控えめな注意をする。
そんなに勝手なことをして、怒られないだろうか。
「いいのよ、お腹満たせばそれで」
「うーん」
『じゃあ、輝矢の分は無しだな。俺も食いたいけど無理なんだよなぁ……と、おっ、塩と醤油もみっけ』
「……ごめん、やっぱり僕の分も」
想像すると、食べたくなってきてしまった少年だった。
他にも、小麦粉や乾麺などが、少し残っていた。
それを抱えて、一彦はスーパーを出る。
「パッと見た感じが食べ物に見えないものは、まだ残ってるみたいだね」
『そうだな。またスーパー見つけたら入るわ』
「ダメよ、そろそろ帰ってきなさい」
そう言って、アンナは一彦を止める。
さっきとは様子が違い、真面目な声だった。
『まだバッテリーは残ってるぞ?』
「あんたはまだ起動して間もないから、初期の段階でエラー出やすいのよ。いいから戻ってきなさい。自己メンテナンスの方法も教えなきゃいけないんだから」
『んー、じゃ、仕方ないな』
一彦は言うことを聞いて、帰路につくことにした。
「あ、僕の家だ」
帰るとき際、偶然通った場所に少年の家があった。
被害が少ない他の家と比べても、綺麗だった。
『これが輝矢の家か。確かに、壊れてない』
「まぁそうよね。テルのお母さん、家の丈夫さに凄いこだわってたもの」
「……そうなの?」
「あら、覚えてない? よく『うちの子を守る家だもん、頑丈じゃないと!』って言ってたわよ」
『ま、実際それで救われてるんだから、輝矢のお母さんってのは凄い人だったんだな』
「……そっかぁ」
少年は、知らなかった母親の気持ちに触れて、少しだけ暖かい気持ちになった。
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少年達が外の世界を覗いている間のこと。
「……ということだ。あの研究はわたしのほうで直しておいた」
綾は予定通り、つむぎに成功を伝えていた。
それを聞いたつむぎは、パッと笑顔になる。
「……成功?」
「あぁ、だから、次の実験に移るといい」
「……ん」
つむぎは、次の研究テーマを見据える。
『冷凍人間の蘇生』
不可能かもしれない、その研究を。
「……できるか……わからない」
「できるさ、お前なら。絶対に」
ただ、その一言を信じて。
「……頑張る」
なんの根拠も在りはしない、その研究を。




