表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
太陽を失った世界で  作者: 飛魚ヨーグレット
4/24

4,少年達のすれ違い

『あらあら、どうしたのぉ?』


ふわりとした雰囲気に包まれた声とともに、少年の肩が優しく触れられる。

薬品臭くしわくちゃな白衣を着ているのは、家の隅で泣いていた少年の、母だった。


『まぁたアンナちゃんと喧嘩したんでしょう?』


少年は首をこくりと頷く。母親には、自分の子供がなぜ泣いているか、よくわかっていた。


『いい、輝矢? 喧嘩っていうのはね、お互いが、お互いのことを、よく知らないからしてしまうの』


少年は母親の話を聞いて、首を傾げた。


『自分がどう思ってるか。なにがイヤなのか、どうして欲しいか。ちゃんとアンナちゃんに伝えた?』


少年はふるふると首を横にふる。その時に頬を伝った涙を、母親の指が拭いた。


『じゃあ、一緒に謝りに行こっか。それで、ちゃんと聞いてもらうのよ? あなたはすぐ自分を抑えつけちゃうから。……あのね?』


母親が差し出した手を、照矢は小さな手でギュッと握った。



『案外、感じたままの本音をぶつけた方が、上手くいくものよ?』










「夢、かぁ……」


目覚めた少年は、小さく呟いた。

懐かしい気分だった。


「……おはよう、テルヤ」


起きた丁度のタイミングで、つむぎが部屋に入ってきた。

つむぎは机に朝ごはんを置くと、少年の頭を優しく撫で始めた。


「……なんで?」

「……テルヤ、泣いてる」

「……っえ、あ、いやこれは!」


少年はあわてて、気付かずに頬に流れていた涙を自分の手で拭った。

だが次から次に流れるそれは、拭っても拭っても後から溢れてきた。

「……?」

「……いや、その……ごめん」

「……いい……大丈夫だから」


つむぎの落ち着いた言葉に、少年は少しだけ昔を重ねた。


「……大丈夫、きっと」

「……うん」


そうやって、少年はちょっとだけ泣いた。




静かに朝ごはんを済ませた少年は、つむぎに送り出される形で観測室へと向かった。

昨日夜遅くまでかけて纏めた企画書を持って、研究室前に立つ。


「大丈夫、できる……できる、はず」


しかし、声に出して気合いを入れようと、一向に前に進む勇気が出ない。

もたもたしていたところで、自働ドアの方が勝手に開いた。


「……なにやってんのよ、あんた」

「……あ、いや……ごめん」

「……いいから入りなさいよ。企画書、持ってきたんでしょ?」


横目でアンナに促されて、少年は研究室に入った。


「早く寄越しなさい、実現可能か見るから」


昨日のうちに纏めた、手書きの企画書を渡す。

アンナが企画書を読んでいる間やることのない少年は、天体望遠鏡の側で空を眺めていた。


しばらくして企画書を机に置いたアンナに、少年は恐る恐る尋ねる。


「……どうかな」

「どうもなにも、本気で言ってんの?って感じね」


アンナは椅子に座って足を組み、答える。


「百歩譲って、人工太陽と超高熱プラズマの精製は認めるわ。で、これはなに?」


アンナは企画書の一部分を指差す。少年はそれを見なくても何を言われるかわかっていた。


「超重力物質に、高濃縮した資源を載せて地上から放つ? そんなことできると思ってんの? 冗談?」


アンナは鼻で笑うように、そう言う。


「あたし達だけでそんな大きいもの作れるわけないでしょ? どれだけの耐久力をもたせないといけないか考えた? どう考えても物理的に不可能よ」


少年はわかっていた。

わかっていた上で、そう企画書に書いたのだ。


「あんた、真面目に考えてきたの?」

「……うん、これでも真剣に考えてきた」

「……言い訳ぐらいは、聞かせてくれるのよね」


その責めるような問いに、少年は真面目な答えを返した。


「……行き詰まったんだ」

「……は?」


アンナは一瞬、少年が何を言ったかわからなかった。その様子を見ながら、少年は続ける。


「いや、だって正直に言って無理だよこんなの。世界を照らせなんて条件が厳しすぎるんだ。技術者一人で太刀打ちできる問題じゃないって。昔のアニメにあったみたいな、秘密道具の1つも欲しくなるよ」


ポケットから未来の道具でも出すことができたら、打開策はいくらでも思い付くだろう。

だが、現実はそんなに甘くはない。


「……なにそれ。あんたもしかして、諦めたの?」

「いや、そういうわけでもなくて」


落胆したと思っているだろうアンナに、少年は堂々と言う。


「僕は知らないんだ。アンナがどんな秘密道具を作れるのか」


少年が言った当たり前の事に、アンナは怪訝な表情を見せた。


「さっき言ったよね。『百歩譲って人工太陽とプラズマの精製は認める』って。それって、その装置を作る自信があるってことでいい?」

「……ええ、そうよ。あたしなら、きっと作ってみせる」

「じゃあ、超重力物質は?」

「そんなものできるわけないじゃ……ない。……あ」


アンナは気付いた。

研究という道に特化した天才と、それ以外の人の違い。


「僕には、プラズマも超重力物質も同じように、夢みたいな秘密道具にしか思えない」


そんな簡単な事実に、アンナは歯噛みをした。


「でもあんた、可能か不可能か、それくらいわかるでしょ! 高校だって、あたしの行けなかったとこに……」

「わからないよ。だって、僕の頭はそんないいわけじゃない。ちょっと前に高校もやめちゃったし」

「……それホント?」


アンナはそんなこと知らなかったという様子だ。


「本当のこと。引き込もっていた僕には、高校受験に必要だった最小限の知識だけしかないんだ。つまり僕には、『こうだったらいいな』っていう夢しか、言えない」


そう前置きした上で、少年は言う。


「だから、手伝って欲しいんだ。僕の夢のような妄想1つ1つが、実現できるかアンナに教えて欲しい」


堂々と告げる少年に、アンナはため息をつく。


「……他力本願もいいとこね。恥ずかしくないの?」

「だって、僕のできることってたかがこんなものだよ。これでいらないって言われちゃったら、僕には何も残らない」

「……誇らしげに言わないで、腹立つわ」


アンナは嫌な顔をした。そして少し考えて、返事をした。


「相談にのる、ってのなら仕方ないから許してあげる。だけど、それ以外は……」

「いや、僕はそれだけじゃなくて、ちゃんとアンナと話をしたい」


アンナの言葉を途中で切り、少年は目をそらさない。

ここで逃げたらいけないと思った。


「……嫌。なによ、それ」

「気兼ねなく話せるアンナの方が、僕はいいんだ。昔みたく、一緒になんでも話せる関係がいい」


なにを話しても馬鹿にせずに付き合ってくれた、あの時のように。


今のままでは、アンナは少年の考えたもの全てを、妄想の産物として切り捨ててしまうだろうから。


「夢を語るなら友達の方がいい。だから、駄目かな」

「なによ……今さら」


アンナの肩が震える。苛立ちを含んだ低い声が、少年に向けられた。


「……じゃあ、謝りなさいよ」


少年は、わかっていた。アンナにこう言われると。


「謝りなさいよ! 星のことバカにしたこと! あたしが受験に失敗したのを星のせいにしたこと!!」


アンナは感情の歯止めがきかなくなったように、怒鳴る。


だが、少年はここで言い返したい気持ちをぐっとこらえた。

彼女が星が好きなことは、とうの昔に知っていたこと。

自分がそれでも事あるごとに、それに触れてしまうから前に進まない。

少年が言いたいことは、他にあるのだから。


「嫌だ」


少年は、要求を突っぱねた。

その態度に、アンナは更に怒る。


「あんた、自分が何をいってるかわかってる!? 先に喧嘩ふっかけてきて、謝らないけど仲良くしよう? 馬鹿にするのも大概にしてよ!」

「……馬鹿になんか」

「あたしの気持ちわかる!? 自分と、好きなことを貶されたのが、どんなに悔しかったか……」


アンナの言い分は、確かに正しい。だが、少年はそれを受け入れるわけにはいかない。


「知らないよ、そんなの」

「……なによ、それ」


少年はばっさりと、アンナの言葉を切り捨てた。

アンナのその言葉がどれだけ自分勝手かを伝えるために。


「アンナはさ、自分だけ傷ついたって言うけどさ。僕がどれだけ苦しんだか、考えてくれないの?」

「あんたは、自分の希望してた高校にいけたじゃない。それでいったいなんの不満があるの!?」


「……っ君が、他でもない君が、そんな事言うんだね」



……我慢が、出来なくなった。


『自分がどう思ってるか。なにがイヤなのか、どうして欲しいか。ちゃんとアンナちゃんに伝えた?』


……やっぱり、ちゃんと伝えなくちゃ。



「どこがだよ! 希望してた高校? そうだね、確かに行ったよ。あのさ、僕はーーー」


少年は今までずっと言わなかったことを、口に出した。


「ーーーただ、アンナと同じ学校に行きたかった!!」


「……え」


アンナはあっけにとられたような表情をみせる。

少年目をみて嘘を言っていないことを確かめると、その意味を知って、苦い表情で目をそらした。


「この間言ったよね? やればできるクセにって。あぁそうだよやればできるよ!? 頑張ったんだよ僕は! 頭がいいキミに追いつけるように!」


閃きなんてよくわからない能力以外が平凡な少年が、頭の作りから違うアンナについていくだけで必死だった。


「星ばっか見て、ろくに試験対策しなかったから落ちたなんて、意味わかんなかったよ! 僕は何のために頑張ったのさ!?」


アンナ以外に友達ができなかった少年は、高校にいっても一人だった。面と向かって話をしてくれる人はいなかった。

ただ苦痛で、それで学校を辞めた。


「アンナがいなきゃ、全然楽しくなかったよ!」

「……それはーーー」


「星と僕、どっちが大事なのアンナは!?」


アンナは苦い表情を見せた。

少年の問いに、彼女は答えられなかった。


「あんた、その聞き方卑怯よ……?」

「どうとでも言ってよ。僕はアンナと仲直りするのに必死なんだ」

「……急に素直になるなんて」


アンナは少し黙った。言っていいのか、よくないのか。それを迷っていた。


「話して。僕になら何いってもいいでしょ」


少年は幼馴染みの本音が知りたかった。

それをそのまま相手に伝えた。

あとは、アンナ次第だった。


「……あんたこそなんで、寂しいのが自分だけだったと思ってるのよっ!?」


小さな声で聞こえた言葉に、少年は震えた。やっと聞けた本音が、少年の胸を揺さぶる。


「あ、あたしだって、楽しくなかったわよ!! 後悔したわよ!? 『やっておけばよかった』って!! 『一人になっちゃった』って!!」


アンナは、今までの我慢を吐き出すように、怒鳴る。


「あんたに図星指されて、悔しくて……それでも、高校はダメでも、次の機会があるって、努力、して……なのに、あんたは」


幼馴染みの少女は、少し泣いていた。

少年は嬉しかった。そう思ってもらえているという、それだけで。


「……ありがとう」

「……ごめん、ちょっと、見ないで」


アンナの言葉に、少年は素直に従って後ろを向いた。

これでもう、充分だった。


後ろから聞こえてくる、しゃくりあげるような声に、少年は久しぶりの感覚を思い出した。


「感じたままの気持ちを伝える、か」


母親の言葉は、まだ自分の中で生きているのだと、実感した。




少しの間少年は、幼馴染みの嗚咽を聞きながら、星空を眺めていた。この部屋は本当にいい場所だと、少年は思う。


「あの、さ……」

「なに?」


互いに振り返ることもせず、話を始める。


「ホントはあたし、あんたが来るまで、何もできなかった」

「……なに言ってるの。そんなことないよ。すごいよアンナは」


やっていることは、本当に凄いことだ。

そうアンナに伝えると、彼女は首を横にふった。


「ううん、違うの。あたしは、何をすれば良いのか、わからなかったの。あたしは、新しいものを作ることができないのよ」


幼馴染みの少女は今まで、指定されたものを作るということだけを繰り返してきた。

つまり、発想力というものが欠けていたのだ。


「だからとりあえず、あんたの言ってたプラズマってのを作ってみようと思う」


少年は目を見開く。

意外だと思った。

あの案はなかったことにされたと思っていた。


「ほら、地球を照らすってどうやっても太陽が必要じゃない? じゃあもうそれに必要なものから作っていこうかなって」

「いやでも、どうやって太陽を空に」

「それは、あんたが考えること」

「そんな無茶を……」

「いいじゃない、これからあたしが1つ1つ相談に乗ってあげるんだから。超重力物質でもなんでも、思い付いたこと全部もってきなさい!」


「もちろん、出来ないものは容赦なくボツだから」と、アンナは振り向いてそう言った。


少年は、自分を指差すアンナを見て笑う。昔の関係が戻ってきたのが嬉しかった。


「なにがおかしいのよ」

「いや、なんかいろいろあったけど、今から一緒なんだって。一緒に研究できるんだって思うと、嬉しいなって」

「……そうね、いいじゃない。世界を救う研究? 上等よ、誰にもできない研究なら、あたしたちがやってやるわよ」

「頼もしい言葉だね」


少年は、これから忙しくなるだろうこの研究に、少しだけ楽しみを感じた。











少年は落ち着いたところで、あることを思い出した。


「そうだ、つむぎにお礼言わないと」

「……あの子が、どうしたの?」


アンナは少年の言葉に首を傾げる。


「いや、僕らのこと話したんだけど、大丈夫って後押ししてくれて……」

「……あの子が、ね」


アンナは、微妙な顔をした。それが少年は少し気になった。


「どうかしたの?」

「ううん、なんでも……いや、テルには知っておいてもらったほうが……」


言葉を濁すアンナに、少年は聞いていいものかと迷った。少しして決心したのか、アンナは話した。


「天才って、大体は異常というか、なにかしら普通じゃない感性を持ってるって言ったら、わかる?」

「それって、アンナが極端に星が好きだとかそんな感じ?」

「うるさいわね。あんただって無駄に子供っぽいとこあるじゃない……それで、なんだけど」


アンナは、吐き出すように言った。


「多分、あの子はあたし達の中で一番、異常よ」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ