表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
太陽を失った世界で  作者: 飛魚ヨーグレット
15/24

15,やりたいと思うこと


「……アヤも……カズヒコも、嘘つき……なのかな」


確かにそう言ったつむぎは、その瞳から涙を流す。

疑いを知らなかった純粋な瞳は、影の色を映し出していた。


どれだけの葛藤があったのかは、少年にはわからない。

けれど、その言葉はそう簡単には言えるわけがない言葉だった。


あの狂信的なつむぎが、そう言ったのだ。


「どうして、そう思うの?」


少年は優しく、つむぎに聞いた。


「……カズヒコに……嫌いって、言われた」


つむぎは、話に詰まりながらも、少年の問いに答える。


「……昔は、好きって、言ってくれてたのに」


うつむいて、少しずつ、話を続ける。


少年はその様子を見てなぜか。辛い話だというのに。

笑みが沸いてきた。

涙が出てきた。


「……アヤも。……できるわけないのに……できる、できるって」


つむぎに頼られることが、ただ嬉しい。


「……っ…いくら……いのち、つなごうとしてもね」


どうしてつむぎは、こんなに綺麗に、泣くんだろう。

どうして僕の心は、つむぎの涙を見て、高鳴るのだろう。


「……みんな……っ……つかんでくれない……いのちづな、たらしても、つかんでくれない……っ!」



それなのに、どうして、この子に。

泣いて欲しくないのだろう。


「……それで、死んだら……楽に……なれないかなって」


そんな、『どうして』がいっぱい、重なって。


「……ねぇ……テルヤも、嘘つきなの?」


少年は、気付いた。





「……あぁ、ようやく分かったよ。僕のやりたいことが」





答えは、本当に近くにあったのだ。

ただ、隠れていて見えなかっただけで。


気付いてしまえば、簡単なことだった。

ただ自分を裏返したら、そこにあったのだから。




「……テルヤ?」


つむぎは突然の少年の言葉に、首を傾げた。


「……ごめんね。実は僕も悩んでたことがあってね。それが今解決したっていうか……」


少年は微笑んでつむぎを見つめる。

急に様子が変わった少年を見て、つむぎの涙は止まった。


そうだ、それでいい。

つむぎには、泣いていてほしくない。



「つむぎはさ、嘘って、なんのためにあると思う?」


「……?」


つむぎはまた、首を傾げる。

当たり前だ、今まで疑うことを知らなかったんだから。


「僕はね、どうしても必要な時に、大切な人のためにつくものだと思ってる」


少年は言いながら、なぜ一彦がつむぎを嫌いと言ったのか。その理由がハッキリと想像できた。

あの嘘もまた、つむぎの為に必要なことだったのだ。


「一彦も、綾さんも嘘をついてる。でもね、本当はつむぎのことが大切だから、そう言ったんじゃないかな」

「……理由……わからない。……なんで?」

「それはきっと、つむぎの事を信じてるから」


研究が完成しなければ生き残ることができないし、つむぎは本物の一彦に会うこともできない。

できる人がつむぎしかいないのなら、やってもらうしかない。

そして、つむぎにはそれができるのだから。


「だからさ、つむぎも信じ返さなきゃ。でしょ?」


つむぎは、少し戸惑った表情をみせた。

確かに、少し暴論が過ぎたかもしれない。


「……わたし……わからない。……みんなのこと、信じていいのか……テルヤのことも……わたしの……ことも」


つむぎには、誰のことも、自分のことも疑って欲しくない。


「……まぁ、急にこんなこと言っても仕方ないよね」


なにか信じてもらえる切っ掛けはないか考えると、1つだけ思い付くことがあった。



「ねぇ、つむぎ。今やってる研究ってさ、本当はどれくらいの時間がかかるの?」


つむぎは、驚いた様子で少年を見つめた。

隠していたものが見付かった子供のようだった。


「……なんで、わかったの?」

「んーとね、いつもつむぎの様子みてて思ったんだ。本当は5年じゃきかないような研究なんじゃないかなって」


つむぎの必死さは、どこか無理があるように思っていた。

極限まで睡眠時間を削って、迫られるように研究をしていた理由。

その理由は、今のつむぎの反応から確信を持てた。


「それで、実際はどうなの?」


少年の問に、つむぎは正直に答える。


「……どんなに頑張っても……7年だと……思う。……でも、アヤに、3年でやれって」


情けないとばかりに、声が小さくなっていくつむぎ。

そんなつむぎに、少年は言う。



「じゃあその期限、僕が延ばすよ」


「……ぇ」


何を言い出すのかという目で、つむぎは少年を見た。


「……でも……アヤは3年って……」

「それは多分、隕石の衝突に間に合うようにってことだと思うよ。綾さんは多分、そのタイミングで人手が必要だと想定してるんだ。だからね……」


少年は、自信を持って答えた。


「僕が人手を使わない解決法でその問題を解決してしまえば、期限なんて無くなっちゃうんだよ」


少年は堂々と、困難なことを言ってみせた。

その少年を、つむぎは不思議そうな目でみる。


「……でも……テルヤ、なにもできない……よね」


「やれるよ。僕はつむぎに嘘はつかない」


本当はできるかなんてわからない。


「だから、できたなら、僕を信じて欲しい」


でも、もしできれば、つむぎに信じてもらえる。

僕が嘘をつかない証明になる。


「そうしたら次は、僕が信じる『つむぎ』を、信じてくれないかな?」


そして少年は、つむぎの支えになることができる。

それで、充分なのだと、思えた。





そうしてしばらく、たっぷりと時間をかけて。

つむぎは、少しうつむいて、少しだけ頬を染めて。


「……うん」


そう、答えた。












「少し前まで自殺願望を持っていたというのに、どういう心境の変化だ? 少年」

「……見てたんなら、止めてくれたらよかったじゃないですか。危なかったの知ってたでしょ」

「なに、私は輝矢少年を信じていたのだよ。実際、上手くやってくれたじゃないか」


何を根拠にしていたのかわからないというに、綾という女性は想定通りといわんばかりに答える。

それを聞いて、少年はため息をついた。


「……なんの用ですか。からかいに来たんですか」


少年はつむぎを寝かしつけた帰りに、綾に声をかけられた。

彼女は壁に背をもたせながら、待ち構えるように廊下で立っていた。


「いや、そういう訳ではないさ……それしても、大きく出たものだな。つむぎの研究抜きで問題を解決か。少年にはそれができるのか?」

「……わかりません。でも、やります」

「まぁ、できなければつむぎが傷つくだけだがな」


少年は、綾を睨み付けた。


「……白々しい。さすがの僕だって気付きますよ」


結局、自分はこの人の元で動かされていたに過ぎなかった。

この人は、人の大事な感情を揺さぶってでも目的を遂げようとする人だった。


「僕はやっぱり、あなたが嫌いです。というか、一彦と結託して、二人して僕にはっぱをかけて……」

「いったいなんの事だ?」


わざとらしい様子で、綾は答えた。

気づかれたところで、本当のことは言うつもりがないらしい。


「……まぁいいですよ。ただ、僕が綾さんの想定通り動くとは、思わないで下さい」

「無論だ。もとより、お前にはそれしか期待していない」

「……絶対、見返してやりますからね」


そう言って去ろうとした少年の背に、綾は声をかけた。



「少年。やりたいことは、見つかったか?」


どこまでも人を見透かしたかのような言葉。

だから、この人が嫌いなのだ。


「えぇ。おかげさまで、そりゃもう、ばっちり」


少年は、それだけを答えた。






ーーーーーーーーーーーーーーーーー



少年が去ったところで、綾は一人、昔を思い出す。


「本当に似ているよ、あいつら親子は。動機も、考え方も……恋の仕方も」


懐かしいその感覚に、綾はそっと身を浸した。


「喜べ、なつみ。お前が守ろうとした世界は、お前の息子が守ってくれるらしい」


一人、そう呟いた。







ーーーーーーーーーーーーーーーーー





『あなたは、やりたいと思う事をみつけなさい。それが、きっと力になるから』


結局のところ、僕はつむぎを通して自分の感情に向き合っただけだった。

そこで見たのは、数えきれないほどの『嫌』ばかりで。


『人に嫌われるのが嫌だ。』


『人に疑われるのが嫌だ。』


『人の期待に応えられない自分が嫌だ。』


『大事な友達が泣くのが嫌だ。』


『なにも変えられない、今の自分が嫌だ。』


そんなたくさんの『嫌』ばかりが自分を構成していることに気付いて、そして。



裏を返せば、それが全部『やりたいこと』を秘めていた。



なら、もう迷うことなんてない。


この思いに素直に従えばいい。

この溢れ出る気持ちは、決して嘘じゃない。



僕は、大切なことを1つ、見つけたのだから。












評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ