2回目のデートと疑惑
2回目のデートの日……
またも電車のダイヤの都合で、今回は50分近く早く着いてしまった。次の電車だと待ち合わせに5分くらい遅刻する時間に駅に着くので、前回30分早い時間でも優子がいたので遅れるくらいなら早く行こうと思ったのだ。こういう時は電車などの本数の少ない田舎に住んでいることを心底恨みたくなる。
だが、そんな田舎や電車に対する小さな不満や恨みつらみは、改札を出て辺りを軽く見回した瞬間に一気に吹き飛んだ。
なぜなら、優子はもう待っていたのである。
なんだか、少し怖くなった俺は優子からは死角になる場所に見つからないように急いで移動して、優子にメールを送ることにした。
『今日の待ち合わせって11時で合ってるよね?』
今の時間は10時6分だ。携帯の時計と駅にある時計で確認したので時間に間違いはないはずだ。携帯の時計を凝視していると優子からの返事が届いた。
『うん。11時であってるよ。何かあった?』
待ち合わせ時間は間違っていないらしい。それなら、なおさら優子はなぜこんなにも早く来ているのだろうか……
前回のデートの帰り際、俺は親に頼まれていた買い物があることを思い出して、優子を見送ってから買いに行くことにした。そのときホームまで優子を見送りに行ったので、使っている路線は知っている。その路線は、俺の使ってる路線とは違い、1時間に平均3本運行している。近くの壁に掛かっている電車の時刻表を確認すると、10時から11時に到着予定の電車の時間は、9分、34分、56分だ。
このことから、優子は遅くとも9時台に到着する電車で来て待っていたことになる。
優子がこんなことをしたのか理由を考えても、どう視点を変えて考えてもまともな答えにたどり着かなかった。次第に怖くなってきた。12月にも関わらず、背中に汗が流れるのを感じる。
そんなとき携帯に電話がかかってきた。体がビクッと反応して画面も見ずに慌ててその電話に出た。
「……もしもし」
搾り出すように声を出した。
「あっ、純君?」
優子の声を聞いた瞬間、手が汗ばんできた。手だけじゃなく、額も汗ばむのを感じる。
「優子? どうしたの?」
「いや、さっきのメールなんだったのかなって気になってさ」
「ごめん。返事するの忘れてたんだよ」
「ところでさ、純君……今どこにいるの?」
口の中が急に渇いてきて、何か喋らなきゃいけないという気持ちとは裏腹にうまく舌が回らない。それでも、なんとか言葉を搾り出す。
「ご……ごめん。まだ向かってる最中なんだ」
「ほんと? じゃあ、今は電車の中?」
「いや、まだ電車には乗ってないよ。それに電車の中だったら、電車の走ってる音でも聞こえるんじゃないかな?」
優子は少し考えてるような雰囲気で少し黙っていた。
「たしかに、そうよね」
「うん。だから、もうちょっと待ってて」
「わかったわ」
俺は誤魔化しきれたかなと思い、ほっと一息ついた。
「ところでさ、純君……」
「なに?」
すーっと背中から冷えていくのを感じる。
「じゃあ、なんでもう着いているのに、そんなところに隠れてるの?」
慌てて後ろを振り向く。優子はすぐ後ろに立っていた。
「うわっ!!!!」
思わず大きい声が出て、無意識に後ずさりしたが壁で下がることはできなかった。このとき初めて全身の血の気が引いていく思いというものを体感した。
「ビックリした? てか、そんなに驚かなくてもいいじゃん。なんか傷つくなあ……」
「ご、ごめん。まさかいるとは思わなくてさ」
渇いた笑いで、その場を取り繕うのが精一杯だった。
「そう? まあ、いいじゃん。じゃあ、早く行こ?純君」
「あ、うん……」
優子は俺の手を握って引くようにして歩き出そうとする。優子はさっきまでのことは気にも留めてないようだった。怒るわけでも追求するわけでもなく、ただいつものように振舞っていた。
俺は結局優子が早く来ていた理由などわからないまま、優子に導かれるままに歩き出した。
この日のデートの予定はブラブラ散策して、どこかで昼ご飯を食べて、その後はカラオケでのんびりするというものだった。散策中もご飯を食べているときも、優子の様子に特に変わったところはなかった。
ただ、ご飯も食べ終わるというときに妙なことを言われた。
「純君って、最近コンビニでよくパックのカルピスのフルーツパーラーだっけ? あれよく飲んでるよね? 私、飲んだことなかったけど意外とおいしいね」
話した覚えのないことだった。コンビニで買い食いしてるとは言ったことあっても、細かく何を買ったかなんて言ったことがないのだ。
それに普段はパックの紅茶しか飲まないのだが、優子が言ったフルーツパーラーは最近新しい味が出て、3日前においしいからと友達に勧められて初めて飲んだものだ。思いのほか気に入ったので昨日、一昨日も連続して買っていたもので、最近よく飲んでいるなんてことは普段一緒に帰るメンバーしか知らないことなのだ。
(えっ……どういうこと?? なんで、知ってるんだよ……そういやこの前もこんなことあったような……)
急に会話の声や周りの音が遠くなっていき、水の中に一人いるような感覚だった。だからか、酸欠のように頭がぼーっとしてきて、何を話していいか分からなくなってきて、何を言われているのかさえも分からなくなってきて、生返事だけが増えていった……
そして、当初の予定通りカラオケに行き、フリータイムで部屋をとった。部屋に入り、並んで座ると本格的に頭がクラクラしてきた。
「大丈夫? さっきから顔色あんまりよくないよ? 気分がよくないなら少し休んで」
優子はそう言っていたが、その顔色の原因は目の前の彼女なのだ。部屋でドリンクだけ注文して、一人になりたいという思いと気分転換もかねて、トイレに行くことにした。
トイレに入って、どうしたものかと考えを巡らせながら、無駄に手を洗い続けた。しかし、何も思い浮かばずに、水を止め、ペーパータオルで手を拭いた。
ふと誰かに相談しようと携帯を取り出して電話帳をスクロールさせてみても、誰に相談していいのか分からなかった。結局何もトイレに入る前と状況は変わらず、気分転換もうまくできないまま、重い足取りで部屋に戻った。
部屋に戻ると注文していたドリンクが届いていた。緊張からか喉が酷く渇いていて、イッキに飲み干した。
その後は適当に数曲歌って、優子の歌っている姿をぼんやり眺めていた。
しばらくして、急にまぶたが鉛のように重たくなっきて、今まで感じたことのない強い睡魔に襲われ、意識がプツンと途切れた……
目が覚めたときソファーで優子の膝枕で寝ていた。妙にだるく重たい体を起こし携帯で時間を確認したら、カラオケに来てから4時間以上経った後だった。
カラオケに来て、トイレに行ったところまでははっきり覚えているのだが、そこから先の記憶がぼやけている。けっこうな時間寝ていたみたいだが、フリータイムにしていたので、延長料金とか考えなくてよかったのが幸いだと思った。
「ごめん、優子。なんだかすごい寝てたみたいだね」
「いいよ、気にしないで。少し体調悪そうだったし、きっと疲れてたんだよ」
「そうなのかな……でも、なんかっずっと寝てたみたいだし、退屈させたんじゃ??」
頭がズキズキと痛み、全然働かない。優子の声も聞き取るのがやっとの感じでひどく気持ち悪かった。
「そんなことないよ。適当に歌の練習したり、純君の寝顔見たりとかしてたから」
「寝顔?? そんなの見て楽しい?」
「うん。なんかかわいかったし、飽きなかったよ」
「そっか……」
また少し頭が強く痛み出して顔が歪む。
「それに純君を眠らせた後、色々させてもらったから……」
優子が小声で呟いた。普通にしていても聞き取りにくい音量だったうえに、意識がまだぼんやりしていて、さらに頭に痛みが走った直後だったので全く聞き取ることはできなかった。
「ごめん、今何か言った??」
「ううん。何も言ってないよ。なんだか純君、顔色悪いし今日はもう帰ろか?」
優子は心配そうな顔を向けてくる。俺は優子の提案通り今日は帰ることにした。
今まで感じたことのない頭痛とだるさを感じながら、おぼつかない足取りでフラフラしながら家に帰った。
一晩経つと昨日のことが嘘みたいに体調は元に戻った。そして、いつものように学校に行き、空き時間は優子とメールをした。
何事もなかったように時間は流れ、俺は変わらない日常を送っていた。
ただ少し変わったこともある。優子に対しては疑念のようなものを抱きだしていた。
(優子は何か変だ……優子は何かがおかしい……)




