最悪のコーヒーブレイク
優子とのデートの翌日……
学校に着いて教室に入るなり、ニヤニヤしながら近づいてくるヤツがいた。
「なあ、純平君。ちょっと話があるんだけど……いい?」
「いきなりなんなんだよ。気持ち悪い。で、何の用?圭太」
圭太は同じクラスの友達で、入学式で初めて会って、次の日には意気投合して友達になっていた。今では一番の親友だ。音楽や服などの好みが驚くほど近く、それが意気投合するきっかけになった。そして、いつも一緒に帰っている友達たちの一人で優子との出会いを知っている人物でもある。
「なんか、今日は冷たいな……純平。なあ、昨日は例の逆ナンの子とデートしてたんだろ? もう少し優しくてもいいんじゃないか?」
わざとらしく大きくため息をし、がっかりしたような仕草をする。しかし、そんな圭太の仕草に気が付かないほど動揺した。なぜなら、まだ昨日のことは誰にも喋っていなかったからだ。
「ちょっと待てよ!とりあえず、こっち来い」
俺は圭太の手を強引に引っ張り教室の外に連れ出した。校舎の奥のほうまで引っ張っていき、周りに誰もいないことを確認する。
「圭太……お前なんで昨日のこと知ってるんだよ?」
「ああ、やっぱり相手は逆ナンの子だったんだ」
少し噛み合わない会話に軽く頭が混乱して、焦りが増してくる。
「はあ? どういうこと? お前が見たんじゃねえのかよ?」
「ん?俺は見てないよ」
「じゃあ、誰が見たんだよ?」
圭太は俺の混乱や焦りの見えてる顔をじっくりと観察するように見て、少し笑いながら俺の質問に答える。
「美樹が見てたんだよ。なんかさ、「純平が見たことない子とデートしてるの。誰か知らない?」って昨日の夜に電話もらってさ、もしかしてと思ったんだよ」
美樹は圭太の彼女で、同じ高校の商業系の学科に通っている。俺とは幼稚園時代からの付き合いで、家も近所で母同士が同級生ということもあり家族同士の付き合いをしている。小さいころはいつものように一緒に遊んでいた。
そもそも圭太と美樹の間を取り持ったのも俺で、時々、二人からお互いのことで相談されたりしている。
「美樹からか……で、他にも何か聞いたの?」
「いや、聞いたのはそれだけだよ。美樹も後を付いて行ったりはしてないって言ってたしな。で、俺は朝イチでこのネタで純平をからかってやろうと思って待ち構えてたわけ」
圭太が肩を揺らして笑っている。俺はその姿を見て一息ついて、ぼそっと呟く。
「性格悪いぞ、お前……」
その言葉に反応して、圭太は笑うのをやめて少しニヤついた悪い顔をする。
「そんなこと言っていいのか? 俺はさ、まだ誰にもこのこと話してないし、美樹の方にも口止めしといてやったんだぜ。面白そうだから、純平本人にも言うなってね」
「そりゃあ、ご丁寧にどうも。本当にいい性格してるよ、お前。それで……圭太、お前は何が目的なんだ?」
圭太はふと「お前は何言ってるの?」と言いたげな顔をする。
「えっ? 特に何もないよ。普段落ち着いてて、クールぶってるお前の焦った顔見れて満足だしな。あっ、昼にでも俺と美樹にジュース奢りながら詳しい話聞かせろよ」
気分よさげに圭太は教室の方に戻って行った。
昼休み……
俺と圭太はいつもより早いペースで弁当を食べ終え、美樹にご飯を食べ終わったら食堂に来るようにメールをして、二人で食堂に向かった。
食堂につくなり、俺と圭太は3人分の席を確保して、圭太を残し、俺は自動販売機の置いてあるスペースに向かった。そこで、ミルクティーとコーヒー、コーラを1本ずつ買った。
確保した席の方に戻っていると、圭太が食堂の入口の方の美樹に向かって、手を振って合図しているのが見えた。
俺は圭太の正面の席に座り、圭太にコーラを、圭太の横の席にミルクティーを置いた。
美樹が昼休みのピークを終えまばらになりだした食堂をまっすぐにこちらに向かってくる。そして、圭太の横に座るなり喋りだした。
「いきなり呼び出してどうしたの? もしかして、昨日の純平のこと?」
「そうそう。今から純平に洗いざらい話してもらうところなんだけど、美樹も詳しいこと知りたいだろ?」
「当たり前じゃない! 圭太は詳しいこと何一つ教えてくれないし……」
美樹は鼻息をあげながら喋り続け、ふと自分の座っている席に置かれているミルクティーに気付いた。
「てかさ、この紅茶はなに? 他に誰かいたりするの?」
「いない、いない。それ純平のおごりで美樹のだから遠慮なく飲みなよ」
「ほんとに? ラッキー。ちょうど紅茶が飲みたい気分だったし、遠慮なくもらうね。ありがと、純平」
圭太と美樹の会話は割り込むつもりも隙間もなかったので、二人が話している間、辺りを見回して、友達や知り合いなどがいないことを注意深く確認した。
そして、美樹が紅茶に口をつけたことで会話がひと段落したのでしたので、それを見計らって話を切り出した。
「とりあえず、どこから話したらいい?」
「私、そもそも相手の子のこと知らないから、とりあえずそこらへんからお願い」
美樹の要望に応える形になり、優子のことから話し出した。
駅での出会いのこと、優子がどういう子なのかということ、そして、昨日のデートのこと……
途中二人から何度か質問もあったけれど、ほとんどの質問を流して、大まかだが経緯を話し終えた。
「なるほどね。で、昨日私に目撃されたと……」
美樹はまだ少し腑に落ちないという気持ちが目に出ている。
「流れは分かったんだけどさ……純平、一つ聞いていいか?」
「なっ……なんだよ?」
圭太がいつにも増して、真面目な顔と口調で言うものだから何を言われるのかと身構えた。
「優子ちゃんとどこまでやったの?」
「………はあ!???」
予想もしてない質問に驚き、変な所から声が出た。
「圭太のアホ! 普通いきなりそんなこと聞く?」
「いやいや。聞くだろ、普通。それに美樹だって本当は気になってるんだろ?」
「まあ、そりゃあね……気にならないって言ったら嘘になるけどさ……いやでも、友達のそういう話聞きたいの?」
「俺は聞きたいよ。でさでさ、純平。正直そのへんどうなのよ?」
俺は軽く頭を抱えていた。美樹の制止に少し期待したけれど、圭太には効果はなかったみたいで、美樹もいつの間にか「言わないの?」という目でこっちを見ている。
どうやら言う以外の選択肢はなさそうな空気だ。なので、二人に聞こえるギリギリの音量まで絞って言った。
「……キスまでだよ……」
少し変な沈黙が辺りを包む。次の瞬間、圭太が盛大に吹き出した。
「お前、まじかよ!!! 1回目のデートで?手出すの早すぎだろ!!!」
圭太は喋りながら爆笑している。
「てかさ、本当に言っちゃう?」
美樹は必死で笑いをこらえているものの、目尻を抑えているのでこらえ切れてはないようだ。そんな二人を見ると、なんだか理不尽さを感じ、だんだんイライラしてきた。
「なんだよ! 悪いかよ? てか、そんなに笑うようなことじゃないだろ??」
「いやいやいや。笑うって。俺、純平のそういう浮いた話、今まで1回も聞いたことなかったからさ、なんかツボに入っちゃってさ」
「それは、俺がそういう話をお前にしてないだけだから、知らないのは無理ないよな」
圭太は顔が素に戻る。
「えっ? まじ? もしかして、美樹は知ってたりするの?」
「私? うーん……純平の付き合った子はたぶん全員知ってるよ。付き合ってる子に純平のことで相談されたこともあるし、フラれた後の泣きそうな顔したこいつを慰めたこともあるからね」
「おいおい。俺がいつ泣きそうな顔したよ?」
「そんなことあったの? それはそれで見てみてー!!!」
圭太は再び笑い出した。美樹は圭太のことはスルーして、
「あったじゃん! ほら、高校入ってすぐに真理ちゃんにフラれた時とか」
「ああ、あったかも……てか、そのことは忘れてくれ、まじで……」
美樹は少し思い出し笑いをしている。俺はどっと疲れが出てコーヒーに手を伸ばす。
美樹のいう真理ちゃんは小学生の時からの同級生で、中学校のとき同じ部活だった子だ。同じ部活になったことで話す機会が増えていき、だんだん仲良くなって、中学3年の夏に告白されて付き合うことになった。しかし、違う高校に進学してことで、時間が合わなくなり、すれ違うようになったことが原因で、4月の中頃にあっさりフラれたのだ。
そのときかなり凹んだ俺は美樹に励まされたり、慰められたりしたということがあったのだ。
そんなことを思い出している間も圭太は笑い続けていて、まともに話を続けれるような状況にはならなかった。そうしているうちに、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り、急いで教室に戻った。
午後からの圭太は、ひどい有様だった。授業中や休憩時間に関わらず、俺の名前が誰かに呼ばれたり、顔を見るたびに、思い出し笑いをこらえているようだった。休憩時間は耐え切れず何度か声を出して笑っていて、周りに何事かと変な目で見られていたが、「なんでもない、なんでもない」と誤魔化していた。しかし、俺もその圭太の煽りをくらい圭太と同じように冷たい視線を浴びることになった。
さすがにここまで笑われたり、バカにされたり、変な目で見られたりすると腹が立ってきてしまい、学校からの帰りは一人で帰ることにした。帰り際に圭太が謝ってきたが、誰とも一緒に帰ろうという気にはなれなかった。
俺は一人の時の移動時間や空いた時間は基本的にイヤホンで音楽を聴きながら、英単語帳か小説を開いていることが多い。最近は優子とメールすることも増えていたが習慣化しているのでほぼ無意識にこの態勢になる。
今日の帰り道は音楽を聴きながら、小説を読んでいた。帰りの電車の中で小説を読みふけっていると、突然イヤホンの片側の音が聴こえなくなってしまった。今使っているイヤホンは長いこと使っていた上に安物だったので、線が切れたかなんかで接触不良を起こしたのだろう。
音楽を止め、イヤホンを鞄にしまい、ラストのクライマックスシーンに差し掛かっていた小説の続きを読もうと思ったが、降りる駅が近く時間的に読みきることはできなさそうだった。さらに、イヤホンの故障で熱が冷め、集中も途切れたので続きは家に着いてからにしようと決め、小説も鞄にしまった。
流れる景色に目をやりながら、今日一日を思い返した。
(はあ……なんか最悪だな、今日は。明日学校帰りにイヤホン買いに行かなきゃな……ついでに、新しい小説も探そうかな……)
そうなんとなく思い、明日の放課後の予定が不本意だが決まった。
最悪だと落ち込んでいた気分も優子のおかげで癒された。昨日のデートの楽しかったこと話や、惚気に近い小っ恥ずかしい話をして、嫌なことを考えたり話したりしなくてすみ、優子のことだけを考えていられて、気分もすっきりできた。俺はこのとき優子に心底惚れていた。




