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親友の気持ちと別離

 翌日、美樹は学校を休んだ。昨日の美樹の母親の話通り、病院に精密検査を受けに行ったのだろう。検査が終わっても、学校には来ないだろう。

 昼休みになって圭太が俺のところに飛んできた。

「なあ、純平! 今日、美樹来てないみたいなんだけど、何か知らない? 俺、何も聞いてないんだけど……」

 圭太のこの様子だと、美樹はまだ何も話してないようだった。

「いや、俺も知らないよ。きっと風邪とかなんじゃないかな?」

 事情を知っているのに話せないうえに、圭太に嘘をつくというのは心が痛んだ。

「そう……なのかな? もしそうならいいんだけどさ、まじで何か聞いてない?」

「悪い……俺も何か分かったら教えるよ」

「まじ頼むな。でもな、メールしても返信もないんだよ……絶対あいつなんかあったんだって……」

 いつもはノリが軽く、明るい圭太が、目に見えて焦って狼狽してるのが分かる。

「とにかくさ、美樹から連絡あるまで待てって。お前が焦ったところで仕方ないだろ?」

「そ……そうだよな。ありがと……」

 俺は美樹の気持ちも圭太の気持ちも分かる。しかし、美樹の意思を尊重したい気持ちの方が強いのでこんなことしか言えなかった。

 その日はその後も圭太は落ち着かない様子だった。携帯をずっと気にしていて、休み時間になったら、美樹のクラスまで行き、何か知らないか美樹の友達やクラスメイトに話を聞きに行っていた。

 しかし、学校側には警察からも美樹の家からも大事にしないで欲しいいう要望があったそうで、美樹が事故に遭ったという話は学校では一部の教員しかしらないことのようだった。美樹本人もクラスメイトや友達にも話してはないようで、放課後には圭太は疲れ果ててぐったりしていた。


 その翌日も美樹は学校を休んだ。学校に行く前に美樹の様子を聞きに美樹の家に寄ったとき、玄関で美樹の母親が、「怪我の具合があまりよくないみたいなの」と言っていた。帰りに美樹の好きなケーキでも買ってお見舞いに行こうと決めた。

 学校に着くと圭太は昨日に引き続き、美樹と連絡が取れないと右往左往していた。俺も事故に遭った日に美樹の家で話して以来、美樹本人とは連絡が取れていなかった。

 昼過ぎぐらいに圭太は携帯を見て顔を真っ青にしていた。きっと美樹からメールが来たのだろう。圭太は授業中にも関わらず、理由も言わず教室を飛び出して、そのまま早退した。

 クラスメイトや先生は圭太の突然の行動に驚き、一時騒然となったが、俺だけはきっと美樹のところに行ったのだろうと理解していた。


 その日の放課後……

 駅まで友達たちと帰ってくると、バス乗り場に圭太がうつむいて立っていた。俺も友達たちも圭太を心配して声を掛けながら駆け寄ったが、その一切を無視して、今まで見たこともない思いつめた表情で俺だけに話しかけてきた。

「なあ……純平。ちょっと来い」

 明らかにいつもと違う雰囲気に友達たちは戸惑い固まっていたが、俺は言われるままに圭太に付いていった。

 圭太は人通りのほとんどない駅の裏手の路地のさらに周りからは死角になるところに連れてきた。圭太は見るからにイライラしているようだった。

「なあ、お前は美樹のこと、どこまで知ってたんだ?」

「事故のことか?」

「それ以外に何があるんだよ……」

「悪いけど、全部知ってた」

 ゴッッ!!!

 鈍い音が内側から聞こえ、吹っ飛んだ。そして、顔の左側に激痛が走った。そこで俺は圭太に殴り飛ばされたんだと気付いた。

「何で隠してた!?」

 叫ぶような声で俺に聞いてくる。俺は痛む左頬押さえながら立ち上がる。

「美樹に口止めされてたんだよ……てか、いてえな……何もいきなり殴ることないだろ?」

 口の中を切ったようで、鉄のような血の味が口の中に広がり気持ちが悪い。

「そういうことはな、口止めされても話せよ! 俺とお前は友達じゃねえのかよ??」

「友達だよ! お前に知らないって嘘ついたことは謝るよ。だけどさ、大事なことだから美樹から伝える方がいいと思ったんだよ!!!」

 圭太は苦虫を噛み潰したような顔を浮かべる。

「大事なことね……じゃあ、お前は、美樹が別れるって言い出すってことも知ってたんだな??」

「はあ? 何言ってるんだよ? 意味わかんねえよ!!」

 圭太の言っていることは寝耳に水で、呆気に取られる。圭太は携帯を取り出し、少しいじって俺に投げつけた。

「じゃあ、これ読んでみろよ」

 携帯の画面には美樹が圭太に送ったメールが表示されていた。


『一昨日から、連絡しないでごめんね。実はね、一昨日の帰りに事故にあって、怪我したの。

あっ、でも、そんなにひどい怪我じゃないから心配しなくていいからね。

あとさ、いきなりで悪いんだけど、もう圭太とは付き合えない。別れよう?

圭太のこと嫌いになったわけじゃないんだけど、ごめんね。今までありがとう。』


 メールを読んでもいきなりすぎて話が見えなかった。

「なんだよ、これ??」

「俺の方が聞きたいよ! 純平は全部知ってたんだろ? こうなること含めて知ってたんじゃないのか?」

「これはまじで知らないって! 美樹はお前に何か言ってなかったのか? 今日早退したのだって、美樹に会いに行ったからなんだろ?」

「ああ、そうだよ。でもな、玄関で顔も見せずにドア越しに、「会いたくないから帰って」って言われたんだよ。納得できないから事情聞かせろって食い下がったら、「ごめんね、圭太」って何度も繰り返し謝ってたよ」

 俺には美樹の取っている行動が理解できず、信じられずにいた。

「美樹は本当にそう言ってたのか?」

「ああ、何度も言わせるなよ! てか、何で俺が美樹の家に行ったこと知ってるんだよ? 美樹本人から聞いたのか?」

「聞いてねえよ! 俺は美樹の事故のことを知ってたから、お前が学校飛び出して行ったとき、美樹のところに心配で飛んでいったんだろうなって思ってただけだ」

 圭太は感情的になっていて、さらに、突然のことで混乱しているようで、聞く耳を持とうともしていなかった。さらに、信じていたものが崩れ去り、全てのことに欺瞞と疑念を抱いているという心理状態だったのだろう。

 俺もそんな圭太にあてられるように、冷静さを失っていった。

「なんかもう何も信じられねえよ! それに、お前ら最初から怪しかったんだよ!」

「何がだよ?」

「高校に入ったばっかの頃は、毎日美樹と登下校一緒だっただろ? 幼馴染にしては仲良すぎなんだよ、お前ら。本当はあのときから付き合ってたりしてたんじゃねえの?」

 圭太は無茶苦茶な因縁をつけてくる。

「はあ? 付き合ってねえよ! それに、もしそうならお前が一目惚れしたから、美樹を紹介してくれって頼まれたときに紹介なんかしねえよ!」

「じゃあ、年末からか? 二人でデートしただろ??」

 圭太の中では美樹にフラれる理由は俺が関係していると思い込んでいるようだった。

「あれはお前も知ってるだろう! お前へのクリスマスプレゼント買いに行っただけだ!」

「それを口実に、本当はデートを楽しんでたんじゃないのか?」

「なんでそうなるんだよ??」

「じゃあ、あれか? 携帯が壊れたあたりか? 携帯が壊れたくらいで、何でわざわざ会社まで変えて美樹と同じ携帯にする必要があるんだよ? 壊れただけなら修理か機種変で十分だろ?」

「あれは……」

 携帯のことを説明するには、まず優子とのことを全部話さなければならない。しかし、自分の中では未だに整理できてなくてうまく言葉で表すことができない。俺はすぐに圭太を納得させるほどの説明が浮かばず黙り込んでしまった。

「おい、答えろよ!!!」

 圭太は語気を荒げている。それでも、優子がらみのことは俺の中ではトラウマになりかけていて、思い出すことさえ無意識に避けてきたことなのだ。

 だから、必然的に俺はこの質問には答えることはできないし、沈黙すること以外できずにいた……

 そんな俺を見て圭太の怒りは最後の枷が外れる。

「俺はな、お前のことを親友だと思って、ずっと信じてたんだよ! このクズ野郎!!!!」

 圭太が殴りかかってくる。今度は顔だけは守るようにしたが、それでも腹と防御していた腕を中心にかなりボコボコに殴られた。

 圭太は殴りながら、「なんでこうなったんだよ」、「どうしてだよ」、「意味わかんねえよ……」と号泣しながら何度も何度も悲痛な声で呻いていた。

 その後、心配になって様子を見に来た友達たちが圭太を止めるまで、しばらく殴られ続けた……


 圭太とのことでいっぱいいっぱいだったにも関わらず、それでも気にかかるほど不思議な出来事があった。友達たちが止めに入ったすぐ後に警官が飛んできたことだ。

 俺と圭太がいた場所は、周囲には誰もいなかったし、まず人が来ないうえに死角になっているところだ。さらに、友達たちは誰も警官を呼びに行ったりだとかしていないのだ。

 もしかしたら、たまたま見かけた人が呼んだのかもしれないし、警官がたまたま巡回してたのかもしれないが、なんとなくそうではない気がした。

 警官に事情を聞かれたが、みんなで口裏を合わせて、うまく誤魔化しきった。ひどく怒られたが友達同士の喧嘩ということで注意だけですませてもらった。圭太は一言も喋らず、解放されると足早にどこかに消えていった。

 俺はこの瞬間、一番の親友だった圭太を失ってしまった……

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