加速し始める異変
その日の夜遅く、優子から電話が掛かってきた。着信画面に表示された名前を確認した瞬間、何か嫌な予感がした。
「ねえ、純君。ちょっと話があるんだけど……」
優子の声にはいつもの張りがないように感じた。どこか暗い印象受けた。
「えっと、なに? 優子?」
優子はすぐには答えず、少し間を空けて静かだけどしっかりとした重い声で話し出した。
「昼間、一緒にいたあの女、誰??」
一瞬で鳥肌が全身に立つのがわかった。
「えっ??」
「今日、男友達と遊ぶんじゃなかったの??」
下手に誤魔化すのも危ない気がしたので正直に全部話すことにした。
「ごめん。嘘をついたのは謝るけど、変な心配かけたくなかったんだよ」
「じゃあ、何?あの女は誰なの?」
「近所に住んでる幼馴染の子だよ」
「街であんなに仲良く歩いてたよね?」
言葉に引っかかりを覚えたがそれ以上に誤解を解くことを先決した。
「あれはさ、友達へのプレゼントを選ぶのを手伝ってただけだから」
「そんなこと言って、本当はその子へのプレゼントなんじゃないの?」
「違うって! その子の彼氏へのプレゼントを選んでたんだって」
「へー。でも、あの感じでただの友達同士だなんて信じれるわけないじゃん! それにプレゼント選びが本当だとしても、それとは関係のないことやってたじゃん!」
優子はヒステリックになってるようだった。優子はおしゃれな店でランチをしたりだとか、ご飯のおかずを交換したこと、服を選んでるときの店員への対応や本屋でのこと、アパレルショップで試着して楽しそうに話していたことなど、あたかも見てきたかのようにおかしいと言ってきた。
その度に、丁寧に説明をした。美樹が彼氏持ちであること、仲良く見えたのは昔からの知り合いだからだということ、店員の誤解をわざわざ解くのが面倒だったことなど、何度も何度も繰り返し説明した。
「俺が浮気するようなやつに思えるの?」という俺からの質問に対してだけは、はっきり「そうは思わないよ」と否定するも、次の瞬間には「けど……」とまた堂々巡りになっているようだった。
俺はこうなるのが嫌で隠していたのだ。
優子は次第に落ち着いてきて話が分かってきたらしく、終わりが見えてきた。
「じゃあ、純君。ほんとに浮気じゃないんだよね???」
「そうだよ。浮気なんかしてないから安心して」
「純君は私のことが一番好きってことなんだよね?」
「うん。優子が一番好きだよ」
優子は最後の確認ができたらしく、言葉を噛み締めているようだった。俺はこのとき疲れきっていて、早く話を切り上げたくて嘘をついていた。
「よかった、やっぱり純君は、私の純君なんだ。疑ってごめんなさい。じゃあ、おやすみなさい」
「うん。おやすみ」
電話を切って、携帯を床に放り投げ疲れた体をベッドに投げ出した。
少し落ち着いてきたら優子との先ほどの話の内容を思い出して血の気が引いた。なぜなら優子の口ぶりは、今日の美樹との買い物を一部始終を見ていたかのようだったからだ。
もしかしたらすぐ近くにずっといたのかもしれない……そう思うだけで背筋が凍る思いがした。
俺の気持ちはこのときすでに優子から離れていた。事実、優子に対しては好きという感情より、恐怖に似た感情が占める割合が多くを占めていた。
しかしながら、別れ話を切り出す勇気も、何がなんでも別れるという覚悟も、このとき俺は持ち合わせてはいなかった。
次の日から次第に、俺から優子にメールを送る回数は減っていった。
勉強や補習で忙しいから、やらないといけない課題が多いからなど理由をつけてメールや電話をする時間を取れないと言って誤魔化して、逃げていた。
実際は今までと何も変わらない日常が続いていた。ただ少し前と違うのは、空いた時間に優子とメールをほとんどしなくなったことだ。
優子はこのころから、俺からの返信がなくてもメールを送ってくるようになった。メールには、今までしてたような他愛の話や、優子の気持ちが書かれたもの、クリスマスの予定を何度も確かめるようなメールもあった。
さらには、クリスマス当日の待ち合わせ場所や時間、デートでしたいことなどが書かれたメールも送られてきていた。
しかし、そのほとんどのメールを俺は無視していた。それにも関わらず、優子からのメールは毎日送られてきて、あわよくば自然消滅を狙っていたのだが、当てが外れてしまったというのが正直な気持ちだった。




