閑話1 クリニエル王国の出来事
一方その頃、クリニエル王国では、キュウヤとレネに返り討ちにされた暗殺者たちは、非常に焦っているようだ。裏家業に身を置く者にとって、国王からの指示での失敗はやり直しがきかない。
「今度は俺たちが消される立場だ。王都へは戻らずに隠れ家のひとつへ向かうぞ」
キュウヤにやられたリーダーが、移動しながら周囲へ指示を出す。
「直接ランダーを横断して、ルシェロ王国へ向かわないのですかい」
部下のひとりが疑問に思ったのか聞いてきた。
「本来はそうしたいが、手持ち資金がなければ何も始まらない。隠れ家に行けば、ルシェロ王国で逃げ切るだけの資金を確保している」
リーダーの言葉に周囲の者たちはほっとした表情をみせた。だがすぐに険しい表情へと変わって、馬から降りて武器を構えた。
「まさか俺たちにも監視がついているとは、依頼主は相当心配性のようだ」
「相手は依頼主直属の――」
部下の言葉に、リーダーが語気を強めて言葉を上書きする。
「言わなくても分かっている。もともとそのつもりだったのだろう。すでに俺たちの失敗は依頼主へ届けられているはずだ」
暗黙の了解なのか、リーダーが周囲に目配せをすると、部下たちは先ほどと異なった陣形を作った。
「温室育ちと、泥水で育った俺たちの違いを見せるぞ」
リーダーの言葉が合図となったのか、部下のひとりがキュウヤには効かなかった猛毒の武器を茂みに向かって投げ飛ばす。茂みの中へ武器が隠れた瞬間、物が落下したような大きな音がした。
「次は誰が餌食になりたい」
リーダーが周囲に向かって叫ぶと、左右から10名近い人影が出現した。明らかに戦闘に特化した衣装と武器で、ただの盗賊とは異なってみえる。
「ここを乗り越えれば、ルシェロ王国へ逃げる時間が稼げるぞ」
両者が動き出して、生き残りをかけた戦いが始まった。
キュウヤとレネが荒野へ向かった数日後には、クリニエル王国の王宮に暗殺失敗の知らせが届いていた。知らせを届けた者は、王宮の個室でトルンチェ国王と勇者コウキと会っていた。
「その話は本当なのか」
声を荒くして国王は聞く。
「間違いありません。暗殺が行われた現場に向かいましたが、ふたりの死体はなくて何処かに埋めた痕跡もありません。暗殺者たちも逃げるように移動しています」
質問された者は淡々と答えた。
「だから俺様に任せておけばよかったと思うぜ」
「勇者コウキならすぐに倒せると思うが、今の段階で勇者が表立って動くのは不味いのだ。もう少しすれば、勇者コウキには思う存分に活躍してもらうつもりだ」
「そのときは俺様に任せてくれ」
腰に下げた聖剣シャルルーンを軽く叩きながら答えた。
「期待している。それで暗殺者たちはどうなっている」
国王は視線を勇者コウキから、知らせを届けた者へ向けた。
「抜かりはありません。すでに別部隊が彼らを追っていますので、今頃はこの世にはいないでしょう」
「確認は忘れるな。もう下がってよい」
国王の言葉に知らせを届けた者は、頭を下げてから部屋から姿を消した。
「まさか魔力なしの外れスキルのふたりが生き残っているとは、暗殺者もたいしたことがないと思うぜ。あのふたりは陛下と俺様の野望を邪魔する存在ではないが、このまま放置しておくのか。俺様ならいつでも準備ができている」
自分が倒しに行きたいような雰囲気で勇者コウキが話す。
「勇者コウキが出る幕もなく、そのうち荒野で魔物か盗賊に倒されるはずだ。それに我々にはあの方がおられるのだから、些細なことで悩む必要はない。我と勇者コウキはその先を見据えていれば平気だ」
国王は勇者コウキをなだめるように落ち着かせて、だが自分たちの目標には影響しない自信が感じ取れていた。
勇者コウキも国王の言葉に同意できたのか、楽しみだと言うだけで、もうキュウヤとレネが生きていることには関心がなくなったようにみえた。




