第43話 レステアネ神殿
アコトカ神殿から拠点へ戻ってきて、拠点の門と塀をあらためて見渡した。
「この場所がレネの神殿となるが、今の門と塀では殺風景に感じる。魔物が近寄らなくなったから、防御よりも見た目重視にしたいがレネの意見も聞かせてほしい」
勇者や盗賊が攻め込んだ場合は今の塀が重宝するが、それでも魔法や矢で塀を越える高さからの攻撃には対処できない。別に戦争するつもりはないから、神殿としての雰囲気を重要視したいと考えた。
「とくにはありませんが、垣根のように植物で飾った塀や門ならすてきかしら」
「荒野にあふれる緑の神殿。レネらしくてよいかもしれない。つる植物以外に支柱となる部分はミスリルで作れば、強度と見た目が両立できそうだ」
門と塀の方向性が見えてきた。完成させるには素材と時間が必要だが、ミネラルとハーブもいるから3日あれば大丈夫だろう。
「すてきな垣根と門になりそうで楽しみです。植物は私に任せてほしいかしら」
「俺とミネラルで支柱を立てるから、レネとハーブで植物はお願いしたい。ミスリルは足りなくなるのでエクレスクのところへ行くつもりだが、神殿を宣言するときに呼んでも構わないだろうか」
レネの素性を知っていて、鉱物ではお世話になっているから招待したかった。
「問題ありませんわ」
レネの了解も得られたので、ミスリルを掘りへ行くときに話そう。
今日の残りの時間と3日後までの予定が決まった。拠点の家でミネラルとハーブを呼んで、それぞれの役割分担も説明した。ふたりとも役割を理解してくれて、シロガネは拠点内で自由に遊ばせる。
昼食を食べたあとに、俺はミネラルと一緒にエクレスクの元へ向かった。
バルカノ山の住処にいたエクレスクに事情を説明して、3日後に来てもらえる。あわせてミスリルの採掘許可を聞いたら、近くに崩れた渓谷があってその場所が適していると聞いて場所を教わった。
大量のミスリルと大理石や宝石も採掘できて、材料が揃ったので翌日から垣根と門を作り始めた。拠点外周の垣根は高さ4メートルで、幅1メートルに3本の支柱を作った。家外周の垣根はそれぞれ半分の高さと幅で、支柱は2本使った。
「あとは門を作れば完成だ」
「どのような門を作るのでしょうか」
作業に取りかかりながらミネラルが聞いてくる。
「支柱を組み合わせた両開きの門で、垣根と一体感を作りたい。門の中央には女神像と同じく地球と桜と菊の模様を入れる」
「すばらしい考えです」
俺とミネラルで門を完成させるころには、シロガネを抱きかかえているレネと、その横にいるハーブが俺たちを見守った。つる植物の設置は終わったようだ。
最後に地球と桜と菊を鉱物加工で作る。
「これで完成だ。女神像との調和があって、神殿らしい垣根と門だと思っている」
「イメージ通りの出来でうれしいですわ。門に描かれている地球と桜と菊も、女神像と同じく懐かしさを覚えます」
レネの神殿だから、レネが喜んでくれるのが1番うれしかった。ミネラルとハーブもほめてくれて、作った甲斐がある。これで心置きなく神殿長を呼べる。
神殿を宣言する当時は、日が昇る前に俺とレネはルーペンへ向かう。普通なら明かりも点けずに移動は困難だが、神力のおかげで走りながら進めた。
朝日が昇る前にアコトカ神殿へ到着すると、ピーノスさんが出迎えてくれた。
「お待ちしておりました。こちらへどうぞお越し下さい」
先日訪れたときに案内された部屋へ通されて、中に入るとヴォルンさんとなぜか冒険者ギルドのギルドマスターであるオルソンさんがいた。もうひとりは中学生くらいに見える少女で、金色の長い髪が印象的だった。
少女の服装はヴォルンさんたちのアコトカ神殿の服装に似ているが、色合いは白色と赤色が基調で、銀色の2重円が模様のように刻まれていた。
「キュウヤさん、レネさん、よく来て下さいました。こちらの女性はアコトマ神殿の神殿長であるチェレスアさんです。男性は知っているかも知れませんが、冒険者ギルドのギルドマスターであるオルソンさんです」
「俺がキュウヤでとなりの女性がレネです。今回は俺たちが建てる神殿に立ち会って下さると言うことでうれしいです」
相手は少女だが、神殿長でもあるのでていねいに話した。
「わたくしがチェレスアです。長い間、神殿長を務めていますが、新しい神の神殿は初めてで驚いています」
「長い間ですか」
思わず聞き返してしまった。幼いうちから神殿長になっていたとしても、10年くらいだから長い間とは考えにくい。
「彼女はエルフだ。キュウヤはエルフを見るのは初めてか」
オルソンさんが会話に入ってきた。
「種族としているのは知っていたが、実際に会うのは初めてだ」
オルソンさんに顔を向けて答えてから、ふたたび視線をチェレスアさんに戻す。
「エルフは初めてですか。これをみて頂ければ納得してもらえますか」
チェレスアさんが耳元にある金色の髪をあげると、俺がイメージするエルフ同様に長い耳が現れた。どうやらエルフ族は長寿らしい。
「ありがとうございます。今日はよろしくお願いします」
エルフとは分かったが、さすがに何歳かは聞けないので、ありきたりの回答で誤魔化した。俺たちの挨拶が終わると、出発するために部屋をあとにした。
神殿長がふたりも一緒に移動するので護衛がすごかった。神殿関係者の護衛のほかに、3パーティーの冒険者が護衛で参加している。そのひとつが疾風の牙で、オルソンさんは彼らのまとめ役らしい。
道案内を兼ねて俺が先頭で進み、中央に神殿長が乗っている馬車とオルソンさんがいて、最後尾はレネが引き受けている。
俺とレネがいるためか魔物があまり近寄らないので、先頭で一緒にいた疾風の牙のメンバーは驚いていた。たまに近づく魔物は下位魔物で、冒険者のパーティーだけで充分に対応できた。
拠点の門に到着すると、シロガネにミネラルとハーブ、エクレスクも一緒に待っていてくれた。シロガネたちを紹介したあとに、女神像がある中央まで移動した。慣れていないと緊張する移動なので、いったん休憩を入れた。
オルソンさんが俺とレネの元に近づいてきた。
「ランダーとは思えない場所だ。おしゃれな壁や門にも驚かされたが、芸術にうとい自分でもこの女神像のすばらしさはわかる。仕事上、詳しい内容は聞かないがキュウヤとレネが強い理由が分かった気がする」
「俺が信仰している女神だから、女神像をほめてもらえるのはうれしい」
オルソンさん以外にも女神像をほめる言葉が聞こえた。
「キュウヤとレネはこの場所で暮らしているのか」
「この奥に家があって、さきほど紹介した者たちと一緒に暮らしている」
オルソンさんと話していると、ピーノスさんが俺たちの元へ歩いてきた。神殿長の疲れも取れたので、いつでも新しい神殿を宣言しても平気と言われた。
俺とレネが女神像にある土台の階段を上って、女神像をうしろにして門がある方向を向いた。俺たちに1番近い場所にはふたりの神殿長がいて、そのうしろに整列した神殿関係者がいた。冒険者は周囲を警戒するためにちらばっている。
この世界に来てから叶えたかった、レネの神殿が造れる。ゆっくりと深呼吸してから、あたりに響き渡るように声を発した。
「女神レステアネの加護を受けしキュウヤの名において、神器である女神像の設立をもって、この土地を女神レステアネの神殿と宣言する」
俺の言葉を受けて、ふたりの神殿長は了解した旨を答えて頷いてくれた。それと同時に気のせいかも知れないが、神界に似た雰囲気が女神像の周囲を過ぎ去った。
この瞬間に、この世界にレステアネ神殿が誕生した。




