第39話 調理器具と料理
日中に購入した食材を使って夕食を作るが、その前に調理器具を新しくしたいと思っている。過去に鉱物加工で作ったが今は大型な火の魔道具もあるので、ガスコンロを思わせる高火力の火が使える。
大小と深さが異なる鍋やフライパン、お玉やフライ返しも鉱物加工と鉱物合成で作って、完成した調理器具をキッチンにあるテーブルへおいた。
「一挙に調理器具が増えて、完成する料理が楽しみですわ」
「火と水の魔道具のおかげで基本的な料理は作れそうだから、一通りの調理器具を揃えてみた。それに人数も増えたから、容量の大きな調理器具も作っておいた」
最初は俺とレネだけだったが、新たにシロガネとミネラル、ハーブが加わった。近くに住んでいるエクレスクも食事に誘いたいから、大きい容器が必修となる。
「短時間で調理器具が作れて、やはりこの世界のスキルは面白いですわ。スキルの恩恵はあると思いますが、キュウヤが作る調理器具にはこだわりを感じるかしら」
レネがひとつひとつの調理器具を見たあとに、俺へ視線を向ける。
「モノづくりになると、どうしても凝ってしまうかもしれない。各料理器具の全体は鉄鉱石から作る鉄を使って、取っ手の表面は熱くないように雲母を厚く重ねた。雲母は今まで使い道がなかったが、耐熱性があって熱伝導率も低いすぐれものだ」
ただ雲母は剥がれやすいので表面を工夫して、手が滑らないようにでこぼこもつけている。もちろん鉄表面の硬度も高くして、耐久性も考慮した。
「ほかには何か工夫はあるのかしら」
「取っ手の根元はリベットやスポット溶接で留めるので壊れやすいが、鉱物加工の特長を生かして一体物とした。これで応力集中に負けない構造になっている」
さらに取っ手の根元部分にはRをつけて、応力を分散させる形状にしている。
「キュウヤはモノづくりになると目の色が変わりますわ。でもそれだけキュウヤは楽しんでいて、私もうれしいです」
仕事でのモノづくりだったが、俺自身も好きだったから顔に出たのだろう。レネは俺がモノづくりで楽しむ姿を受け入れてくれて、俺もやり甲斐がでてうれしい。
「レネも喜んでくれるのなら、今後もモノづくりを進めるから期待してほしい。これから料理作りを始めるから、完成品を楽しみにしてほしい」
「向こうでシロガネと遊びながら待っていますわ」
レネがキッチンから出て行くと、かわりにミネラルが入ってくる。
「料理を作ると聞きまして、手伝いにきました」
「俺が最初に手順をみせるから、残りの分を作ってほしい」
「了解しました」
最初に購入した鳥肉をひとくちサイズに切ってから、肉に塩と胡椒をふって、それにローズマリーとタイムも使ってよく混ぜた。ほかにも調味料をいれたいが、手持ちにはなかった。
「肉に香辛料が染み込むように置いておくから、ここまでを一緒に作ってほしい」
「了解しました」
作るのに必要な肉を用意して下準備を開始した。手順は簡単で時間をかけずに終わったので、ひとつ目の料理をいったん置いといて、ふたつ目に着手する。
「次は野菜をこのくらいのサイズにきってほしい」
野菜はタマネギとニンジン、それにサツマイモで、ほかには薬草も用意した。タマネギは薄切りにして、ニンジンは細切りにする。サツマイモは輪切りにして、薬草はそのままの大きさを使う。
見本を見せるとミネラルが野菜を切り始めた。その間に器の中で小麦粉と水を混ぜて、鍋にはオリーブオイルを入れてから火の魔道具を使う。
「野菜が切り終わりました」
「俺の準備もできたから、切った野菜をこの器の中でつけたあとに油で揚げる」
「了解しました。ところで料理名は何でしょうか」
「今作っている料理が天ぷらで、最初の肉は唐揚げという料理だ。そのほかに豆とキャベツを煮込んだスープを作れば完成だ」
あとは買ってあるパンとワインを一緒に出せば贅沢な夕食になる。ミネラルに指示を出しながらすべての料理を作って、リビングへ料理を運んだ。レネとハーブは料理を運ぶとき手伝ってくれて、シロガネをふくめた全員で食事を始める。
「メインは唐揚げと天ぷらで、冷めないうちに食べてほしい」
「なつかしい料理ですわ」
「まだ卵がなくて調味料も少ないが、それでも近い味に再現できていると思う。レネの口に合えばうれしい」
俺が催促するとレネは天ぷらから食べ始めた。その姿を見て俺が食べ始めて、シロガネは唐揚げから、ミネラルとハーブも料理を口へ入れた。
「タマネギとニンジンの天ぷらは、食感と味わいが重なり合っておいしいですわ。サツマイモもほんのりとした甘みが感じられます。次は唐揚げを食べようかしら」
「レネが喜んでくれてよかった。これから食材を増やしながら、料理の種類も増やしたいから楽しみにしてほしい。シロガネにミネラルとハーブもどうだった?」
視線を移動させて全員の顔を伺う。
「ウォーン」
おいしいと言っているような鳴声に聞こえた。
「自分が手伝った料理が、これほどおいしくなってうれしいです」
「唐揚げと天ぷらは、それぞれの味わいがおいしいです」
ミネラル、ハーブの順に答えてくれた。
全員がおいしそうに食べてくれて料理を作った甲斐があった。俺も料理を食べながらワインを飲んで、みんなと会話しながら楽しい時間を過ごした。
翌日は水と火と浄化の魔道具が揃ったので、トイレと風呂を改修して水洗トイレと暖かい風呂を作れる。どのような鉱物を使うか考えたときに、エクレスクからもらった鉱物に大理石にもなる石灰岩があるのを思い出した。
「トイレと風呂は大理石にしたいから、バルカノ山の麓へ行って採掘してくる」
朝食が終わったところでレネに話した。
「私も一緒に行きます。ミネラルとハーブは、シロガネと一緒に拠点で留守番をお願いしますわ」
「ウォーン」
「了解しました」
「心得ました」
シロガネが鳴いたあとに、ミネラルとハーブが頷いてくれた。
俺とレネは拠点をあとにしてバルカノ山の麓へ向かった。距離的にはルーペンよりも近くて、走りながら向かったのであまり時間をかけずに到着した。いくつかの場所で採掘して、大理石が多い場所を見つけて重点的に採掘した。
すべての鉱物は収納空間に入れるので、かさばる心配もない。
「トイレと風呂以外にも使えるくらい、多くの大理石が採掘できた。今から走って戻れば昼食前には拠点へ戻れそうだ」
「走ったあとにスキルを使っていますが、体や精神の疲れは大丈夫かしら」
レネが確認するように聞いてくる。
「いまのところ疲れは感じていない。きっと神力のおかげだと思う」
「キュウヤの体や精神に、神力が馴染んできたようです。キュウヤのスキルも興味深いですから、これからの活躍が楽しみですわ」
最近は神力を気にしていなかったが、それだけ当たり前になっているようだ。スキルも自然と使えて、どの技でも頭で考えるだけで思い通りに実施できている。
「俺ひとりでは無理だったが、レネが一緒だから使えこなせるようになった。改めていうと恥ずかしいが今日までありがとう。これからもよろしく頼みたい」
「神力もスキルもキュウヤの努力で、私はそのきっかけに過ぎませんが、キュウヤが喜んでくれれば私もうれしいです。これからも一緒に拠点で楽しみたいですわ」
何だか少し恥ずかしい会話になったが、これからもレネと一緒に生活できるのは素直にうれしかった。うれしい気持ちを心に刻んで、レネと一緒に拠点へ戻った。
昼食を食べたあとに、大理石を加工しながら魔道具も利用して、日の高いうちに水洗トイレと風呂が完成したので、レネの薬草栽培の手伝いを始めた。
ふと遠くから物音が聞こえてきた。
「何か物がぶつかる音が聞こえないか」
「門のほうからだと思いますわ」
俺の問いかけにレネが答えてくれた。
「わたしが確認してきます」
ハーブが走り出して門へと向かった。しばらくしてハーブが戻ってきた。
「何の音だった?」
「門と周辺の塀に、拠点の外から何かをぶつける音でした。複数の話し声も聞こえましたので、魔物ではなくて人族か獣族だと思われます」
「何人もいるのか。全員で見に行こう。レネはシロガネを守ってほしい」
「もちろん大丈夫ですわ」
レネはシロガネを呼んで、近寄ったシロガネを抱きかかえた。門に着くと塀の内側に階段を作って全員で拠点の外が見える高さまで登った。
拠点の外には100名を超える集団がいて、魔法や武器で塀や門を壊そうとしている。炭素鋼で作った高さ4メートルの塀は頑丈だから壊れる気配はないが、よい気分ではなかった。
視線を移動させると、前方で指示を出している勇者コウキと目が合った。




