閑話6 クリニエル王国の出来事
一方その頃、クリニエル王国では、100名以上の騎士団が街道を移動して、その中央には勇者コウキがいた。表向きは訓練となっているが、向かった先がランダーでもあったので、大規模な中位魔物討伐との噂もあった。
集団はランダーに隣接する最後の街を通り過ぎて、荒れた大地が広がる荒野へと到着した。これから荒野を移動するために、最後の休憩をしている。ひときわ大きなテントの中で、勇者コウキはひとりで休んでいた。
「ここから俺様の伝説が始まる。陛下が心配している元第1王子と元第2王女を俺様が解決すれば、俺様の地位も揺るぎないものになるぜ。陛下が世界の王となれば、その片腕である俺様は、神殿で召喚される勇者を超えた最強の勇者になれる」
聖剣シャルルーンを眺めながら、勇者コウキは心の声がもれていた。周囲にその言葉を聞く者はいなかったが、仮に聞いていた者がいたとしてもふだんの態度から納得のいく表情をするかもしれない。
「本当に魔力なしの外れスキルである、あのふたりがいるのだろうか。俺様くらいの強さなら中位魔物も問題ないが、どうみても荒野を渡れたとは思えない。きっと誰かの協力を得ているのだろう。その協力者もろとも俺様の踏み台になってもらう」
実際にふたりを見ていないためか、勇者コウキには荒野で生き抜いているふたりを未だに信じられないようだ。ただどのような状況であっても、自分が得する展開しか考えない発言だった。
「あのふたりが俺様の力にひれ伏す姿が見物だ。女性のほうは俺様の近くに置いておけるくらいの美しさがあるから、傷つけないように倒すのが大変だぜ」
自分の言葉に酔っているのか勇者コウキは、にやついた表情を見せていた。勇者コウキの視線は遠くをみていて、まるで未来を想像しているようにも思える。
自分の世界に入っていた勇者コウキの元へ、ひとりの騎士が入ってきた。
「勇者コウキ殿、そろそろ出発の時間です」
「わかった。俺様はいつでも平気だ」
勇者コウキは椅子から立ち上がってテントの外へと出た。程なくして、勇者コウキと騎士団は、別の騎士団が発見した拠点へと向かって進行した。
ルーペンに滞在しているアオトとコハルは、宿屋の部屋にふたりだけでいた。となりの部屋には護衛の騎士たちがいて、街中では常に騎士たちが着いてくるが、宿屋では比較的自由にできた。
「あのふたりはキュウヤとレネだったのか」
声を落としながら、アオトがコハルへ聞く。
「間違いなかったよ。会話まではできなかったけれど、顔を見て確認できたかな。危険、逃げてと言ったから、きっとあのふたりなら大丈夫だと思う」
コハルもアオトのみに聞こえる音量で答えた。
「それはよかった。荒野に追放されたときは、もう会えないと思っていたじゃん。少なくとも、おれとコハルがこの世界へ来た直後に荒野へ追放されたら、1日と持たなかったと思う」
ほっとした表情を見せながら、自分たちなら無理と客観的に判断していた。アオトは荒野を渡ったキュウヤとレネについて、言葉をつけたした。
「キュウヤとレネと別れるときに自信のある満ちた言葉だったけれど、魔力やスキルに関係なく、ふたりとも強いかも知れない」
アオトの言葉にコハルも頷いた。
「わたしも同じ感想よ。よく分からないけれど、キュウヤとレネには神秘的な雰囲気があるから、もしかしたらこの世界の神様に加護でももらっているのかな」
女性としての勘なのか、あながち間違っていない感想であった。
「神頼みも悪くないじゃん。明日にはアコトカ神殿とアコトマ神殿に訪れて、神様にお祈りしようじゃん」
「それには賛成よ。ルーペンに情報収集に来ているけれど、私たちはお飾りの感じがするから、観光として楽しむのもよいかな」
アオトとコハルは明日の目的ができたので、ふたりでとなりの部屋へ行って騎士たちに説明した。神殿でのお祈りは一般的な行動と判断したのか、騎士たちからは反対の声は上がらなかった。




