第35話 薬草の栽培
翌日の朝食後に薬草を植えるために、俺たちは家の外へ出た。ミネラルとハーブの食事を心配したが、基本は食べなくても平気らしい。ただ俺たちの料理を食べても問題ないと聞いたので、一緒に食事を楽しみたくて料理を勧めた。
ふたりともおいしそうに食べて、料理にも興味を示してくれたので、今後の料理作りにも楽しみができた。
「家と神殿予定地の間を植物栽培に考えているから、植える場所はレネに任せる」
「広い範囲でうれしいですわ。薬草の3種類はこちら側で栽培します」
家からみて、右側に広がる敷地を指さしたので全員で向かう。
レネが大まかな場所を指示してくれた。位置を確定するために黄銅で作った針金を取り出すと、ミネラルとハーブが率先して針金を使って区画を整理してくれた。
「次は土を耕したいですわ」
「全員分のクワを作ってあるから、みんなで耕せば早く終わるだろう」
収納空間からクワを4本取り出す。昨日、ミネラルとハーブが増えたので、農具は全種類で4本ずつ作っておいた。
「力仕事なら自分に任せてください」
「わたしも力はありますので、ご安心ください」
ミネラルとハーブはクワを受け取って、ミネラルはヒーリラ草の区画に、ハーブはマインラ草の区画へと向かった。ふたりがやる気だったので、俺とレネはリカバラ草の区画を一緒に耕した。
ミネラルとハーブは疲れを知らないのか、最初と同じペースで土を耕していた。俺とレネも神力の体があるので、普通の人と比べれば2倍以上の速さだと思う。少し離れた場所ではシロガネが飛び跳ねるように走り回っていた。
順調に土が耕し終わると、レネの指示に従って薬草を植えていく。薬草の種類によって区画がわかれているが、同じ薬草も4つに区画がわかれていた。
「同じ薬草の中で、肥料なし、肥料のみ、植物育成の技のみ、肥料と植物育成の技を使った区画にわけるつもりですわ。どの区画でも水は平等に与えます」
「効果の違いを確認するのか」
「そうですわ。スキルの影響を把握するには、一番分かりやすい確認方法かしら」
「たしかに単純だが効果の違いが分かりやすい」
このあたりはモノづくりでもよく実施する方法だ。さらに直交表と呼ばれる組み合わせの表を使うと、効率的に多くの項目を比較することができる。今回は肥料と植物育成の技のみだから、それぞれを確認すれば充分だろう。
「薬草を取り出しますので、指定した区画に植えてもらえるかしら」
「了解しました」
「心得ました」
ミネラルとハーブが答えてから、レネが取り出した薬草を植えていく。ミネラルはヒーリラ草をハーブはマインラ草を、俺とレネはリカバラ草を担当した。
すべての薬草を植え終わると、肥料の区画には肥料をまいてから土をかぶせる。最後に薬草育成の技をレネが唱えて、薬草栽培が完了した。
「無事に終わりましたので、毎日様子を見てみます。育てるのがむずかしいと聞いているので、植物育成の技に期待しているかしら。薬草が育ちきって種が採れれば成功で、その後は種から育てて成長した薬草と種の両方を採っていきますわ」
うれしそうにレネが話してくれた。
「どのように育つか楽しみだ。うまく育てば薬草のほかに、野菜や果物、香辛料なども育ててほしい。食材や調味料が充実すれば、日本料理にも挑戦してみたい」
現状の食事は近場で入手できる食材のみで料理している。街中で食べる料理と大差がなくて、日本で食べていた料理に近づけたいと思っている。うまく日本料理ができれば、きっとレネも喜んでくれるだろう。
「それは楽しみですわ。早めに種を集めておきます」
「キュウヤ様の料理はおいしいので、新しい料理が楽しみです」
「わたしも食事は楽しみなので、キュウヤ様の新たな挑戦に期待しています」
レネ以外にミネラルとハーブも期待してくれた。スキル生命体のふたりには食事は必修ではないが、その食事を楽しみにしていると言われてうれしかった。
「料理は気長にまってほしい。薬草の栽培が終わったから、ミネラルとハーブの実力を確認したい。拠点がある荒野には魔物や盗賊団がいるから、少なくとも追い払うレベルにはなってほしい」
俺とレネのように魔物や盗賊団を簡単に倒せなくても、目的は拠点の管理だから追い払えれば充分と考えている。
「了解しました。自分の体は鉱物でできていますので、期待に応えます」
「心得ました。わたしは植物と一体ですので、柔軟に対応できます」
「ふたりとも頼もしいですわ。せっかくですから、ふたりで手合わせをして頂けるかしら。武器が必要ならキュウヤが作ってくれますわ」
レネが俺のほうへ視線を向ける。
「利用する素材はミスリルになるが、好きな武器を作ることが可能だ」
「キュウヤ様に武器を作って頂けるとはうれしく思います。ですが鉱物加工の技の使用許可を頂ければ素手で充分です」
「ミネラルはどのような加工が可能なのか」
技を使えるのは知っていたが、中身にも興味があった。
「自分の体の一部を取り出して形状を変えられます。現状では長剣と壁、それに小石程度の大きさを飛ばせて、戦闘には充分に役立ちます」
接近攻撃と守り、飛び道具とそろったバランスのよい技だ。体の一部ならミスリルを使うから強度も充分だが、心配事項もあった。
「便利な技だが、体への影響は平気なのか」
「心配して頂いて恐れ入ります。ただ相当数を作らない限りは、体への影響はほとんどありません。どうしても数が必要な場合は、キュウヤ様の収納空間にある鉱物を使わせて頂きます」
見た目の量が使われる訳ではないようなので、ひと安心した。
「ミネラルに使っている合成のミスリルは大量に保管しておくから、必要なときは遠慮せずに使ってほしい」
「了解しました」
ミネラルがお辞儀で態度を示してくれた。
「ハーブはどうかしら」
今度はレネがハーブへ武器について聞く。
「わたしも技の使用許可があれば武器は不要です」
「技の中身はどのような感じかしら」
「蔓で作った細剣と網、また蔓を自由自在に伸ばせます。どれも通常は体には影響しませんが、大量に使う場合はレネ様の収納空間を利用させて頂きたいです」
植物育成から戦闘には不向きと思っていたが、植物を急成長させて使用するみたいだ。ハーブの技も戦う上で攻守ともに揃っている。
「もちろん構いませんわ。3種類の薬草はつねに在庫を置いておきますから、好きなだけ使用してください」
「心得ました」
ハーブもお辞儀でレネに気持ちを示していた。
ミネラルもハーブも武器については問題ないようだ。あとはどのていどの強さかを確認できれば、このまま拠点を任せられるか、鍛える必要があるのかが分かる。
「武器は平気そうだから、このままふたりの実力を確認したい。ここだと植えたばかりの薬草があるから、まだ使っていない敷地へ移動して手合わせをしてほしい」
ミネラルもハーブも頷いて、移動を開始した。拠点の中央から入口側の敷地は、歩道以外は何もないので思う存分に手合わせができる。
俺の横にはシロガネを抱きかかえたレネがいて、離れた位置でミネラルとハーブが向き合っていた。それぞれ長剣と細剣を作り出して構えている。
「それでは開始」
俺の合図とともにミネラルとハーブが近づく。両者の剣がぶつかった音が周囲に響くが、蔦で作った細剣は折れる気配はなかった。鉱物と植物なので強度に関しては植物が不利だと思ったが、どうやら特殊な蔓のようだ。
その後もミスリルの壁や小石、蔓の網や蔓自体を駆使しながら攻撃や防御を行っている。攻撃が命中して相手にダメージを与えるが、切られた場所はすぐに再生していて、思った以上に再生能力は高かった。
「力強い攻撃で中位魔物を退治できそうだが、レネの目にはどのように映った?」
「キュウヤほどではないですが、この強さがあれば充分に任せられますわ」
「俺たちが留守の間も拠点が安全になるのは精神的にもうれしい。今は入口を塀で塞いでいるが、普通に使用できるように門を設置しておく」
「お願いしますわ」
しばらくの間、ミネラルとハーブの手合わせをみてから終了の合図をだした。ふたりとも問題ない強さがあると説明すると、笑顔を見せて喜んでくれた。
いつの間にか昼になっていたので、門を設置してから家へ向かった。




