第34話 スキル生命体
農業ギルドをあとにして、ルーペンから拠点に戻ってきたのは夕方だった。本来なら中位魔物がいるランダーを短時間で移動できるのはおかしいが、俺とレネなら散歩感覚で可能だった。
「もう夕方だから、薬草を植えるのは明日で大丈夫か」
「平気ですわ。その代わりに新しい技を確認したいです」
俺が聞くとレネが答えてくれて、たしかにスキルの新しい技は早めに中身を把握したい。俺もレネの考えに賛成だった。
「家の中だと何かあったとき大変だから、家の庭で技を試そう」
旧拠点の塀がある内側の広場で、スキルの技を調べることにした。技を使う前にステータスボードで表示されていた内容をレネへ伝える。
「鉱物生命だが、収納空間内の鉱物を使ってスキル生命体の核を誕生させる。その核を元にヒューマン族の体を作るらしいが、よくファンタジーにあるゴーレムと似ているのかも知れない」
「私の植物生命も同じようでした。ほかには私の命令に従い絶対に裏切らなくて、体が破損すると収納空間にある同じ植物で自動再生されるらしいですわ」
レネの説明と俺が覚えている内容を照らし合わせると、鉱物と植物の違いはあったが同様であった。
「俺も同じ内容だった。核が壊れると収納空間に戻るが、時間が経てばまた作れるらしい。使用鉱物も変更できて、核が壊れても過去の記憶は継続するらしいから、優秀なスキル生命体だと思う。つねに1体のみなのはその性能が理由だろう」
書かれていた内容はここまでだが、レネの植物生命も同様であるとわかった。スキル生命体は物理的に壊れる心配はあるが、記憶を継続して再度作れるメリットは非常に大きいと思う。
「俺とレネの技から作られるスキル生命体は、鉱物と植物の違いはあるが似たようなヒューマン族が作れそうだ。まずは俺から技を試してみる」
「任せますわ。シロガネは私が抱きかかえていますから安心してください」
レネとシロガネから離れるように庭の中心へ歩いて行く。この場所なら何かあっても大丈夫だろう。
鉱物生命は収納空間にある鉱物を使うから、どの鉱物を使うのかが重要だ。手持ちではミスリルが一番よさそうだから、ファンシカラー・サファイアを合成したミスリルを使うことにした。
頭の中で収納空間にある、合成したミスリルを思い浮かべながら技を唱える。
「ミスリルを使って作ってみる。鉱物生命」
収納空間内から合成したミスリルが消えて、目の前にこぶし大の塊が出現した。塊を中心に周囲へ光が発散して、光は収束しながら人の形へと変化した。
出現したヒューマン族は20代後半くらいの長身の男性だった。黒色のタキシードからは執事をイメージさせて、青色の髪が印象的だった。
「主様、お初にお目にかかります。自分は執事として主様を仕えさせて頂きます」
男性のていねいな挨拶とお辞儀におどろいていると、レネが近寄ってきた。
「彼がスキル生命体かしら」
「その通りでございます」
レネの問いかけに男性がていねいに答えた。レネが来てくれたおかげで、俺も平常心となって状況を把握できた。
「俺がキュウヤで、鉱物生命の技を使った本人だ。それと彼女がレネで、オオカミの子供がシロガネという名前だ」
「キュウヤ様、了解しました。ところでオオカミという話しですが、自分にはフェンリルに見えますが、何か理由があるのでしょうか」
俺の発言を単純に訂正するのではなくて、嘘をついている可能性も考えるとは、スキル生命体は相当に優秀らしい。
「フェンリルは希少な幻獣だから、街中で分かると騒ぎになら嘘をついている」
「さすがはキュウヤ様です。そこまで考えていたとは自分は気づきませんでした」
「ありがとう。ところで名前はあるだろうか」
さすがにスキル生命体とは呼べないから、決まった名前があれば使いたかった。
「自分に名前はありませんので、キュウヤ様が決めて下さるとうれしいです」
男性を見ながら名前を考える。
見た目は執事なので執事から発想する名前が候補のひとつで、ほかには鉱物から作られた生命体なので鉱物関連もよさそうだ。いくつかの案を頭の中で考えて、最終的にひとつの名前が残った。
「ミネラルという名前にしたい。俺とレネの故郷では鉱物を意味する言葉だ」
安直に思われるかも知れないが、俺の中では納得のいく名前だった。
「ミネラルとはすばらしい響きでうつくしい名前です。有り難うございます。キュウヤ様、レネ様、シロガネ様、今後ともよろしくおねがいします」
ミネラルが執事の見本となるようなお辞儀をしてくれた。
「喜んでくれてよかった。仕事はもうひとり呼ぶので、そのあとに決めたい」
「了解しました」
ミネラルが答えると、横にいるレネが俺にシロガネを渡してきた。
「次は私の番ですわ。使用する植物はすでに決めています。薬草でヒーリラ草、マインラ草、リカバラ草を使いますわ」
レネが技を唱えるようなので、俺とミネラルは少しうしろに下がった。
「いつでも平気だ。どのような結果となるか楽しみにしている」
俺が声をかけるとレネが技を唱えた。
「植物生命」
空中に塊が出現すると、俺のときと同様に周囲に光が発散されて、そのごに光が収束しながら人の形へと変わっていく。
現れたヒューマン族は、20代後半くらいの小柄な女性だった。白いエプロンに黒いメイド服を着ていて、ポニーテールにしている緑色の髪が風に揺れている。
「主様のお世話をするために、メイドとして生まれました。わたしに何なりとお申し付けください」
ミネラルと同様に、女性もていねいな挨拶とお辞儀で態度を示してくれた。
「私が呼び出したレネですわ」
レネは自分の紹介のあとに、俺たちを紹介してくれた。
ひととおりの状況を説明したあとに、レネが女性の名前を決めることになった。少し考えたあとにレネが口を開く。
「名前はハーブですわ。私とキュウヤの故郷では薬草を意味します」
「心得ました。わたしにすてきな名前を有り難うございます」
ふたりのスキル生命体が誕生したので、簡単にいまいる拠点や地理を説明する。
俺とレネの言葉や説明内容は理解してくれたが、俺とレネ以上の情報は知らなかった。どうやら技を使った俺とレネの情報が元となっているようだが、今後情報を吸収していけば、問題ないだろう。
『俺たちの情報は何処まで話そうか。俺たちを裏切らないようだから、異世界から来たことやレネが元女神まで話したいと思っている』
この拠点にレネの神殿を建てる予定があって、クリニエル王国が俺たちを見つけるかも知れないので、ミネラルとハーブには状況を知ってほしかった。
『構いませんわ。エクレスクに会うでしょうから、知っていたほうがよいです』
『分かった。そういえばエクレスクにはレネが元女神とは話していないから、機会があるときにでも打ち明けよう』
『今後、長いつきあいになりますから、それがよさそうですわ』
俺とレネの念話が終わって、視線をミネラルとハーブへ向ける。
「現状は把握できたと思うが、これから俺とレネの秘密を話す。知っている者以外には、決して他言しないようにお願いする」
「了解しました」
「心得ました」
ミネラル、ハーブの順に返事をしてくれた。
「俺とレネはクリニエル王国の国王のスキルによって、異世界から召喚された。さらにレネは元いた世界の女神で、この世界では女神と認識されていないが、俺はこの拠点にレネの神殿を作るので協力してほしい」
秘密を打ち明けてふたりの顔を覗く。
「キュウヤ様とレネ様の秘密は誰にも話しません。自分はレネ様の神殿作りに協力できるのをうれしく思います」
「わたしもミネラルと同じです。秘密を守りながら、レネ様とキュウヤ様の新たな生活に協力させて頂きます」
ミネラルもハーブも俺たちの秘密を守ってくれて、あわせて拠点の充実に協力してくれる。頼もしい仲間が増えてうれしい限りだ。
ふたりの仕事は、実際の得手不得手を見ながら決めるが、ミネラルは俺の世話係でハーブはレネの世話係をしてもらう。また俺とレネが不在時の拠点管理と、シロガネを連れて行けない場所では、拠点でシロガネの面倒を見てもらう。
新しい仲間と一緒に拠点での夜が過ぎていった。




