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「は?篭絡?」


「うん、俺、顔がいいでしょ?恋愛対象が同性の木佐くんなら、まあ簡単に落とせるかなと思って」



最低である。



「最低」



あ、口に出てた。



「あはは、最低だよね。ごめん」



あっけらかんと笑う猪瀬春太に、綾斗は首を傾げる。



「ていうか、さっきからずいぶん明け透けにネタ晴らししてるけど、俺が嘘言ってると思わないの?」


「嘘って?」


「たとえば、本当はもう言いふらしてるとか」


「あー」



綾斗の言葉に不安を覚えたというよりかは、どう伝えるかを考えているような「あー」である。



「ほとんど感覚だから、言語化難しいんだけど、さっき木佐くんに怒られたとき、木佐くんは嘘言わないってなんとなく思ったんだよね」


「え?ただムカついたから、それをぶつけただけなんだけど」


「うん、それもわかってるんだけど・・・」



猪瀬春太は、己の心に問うように虚空を見つめて、そこに浮かんだ言葉を思いついたまま口にした。



「なんていうか自分と向き合ってる?自負がある?とかそんな感じ。

勇樹たちに揶揄われても反撃しなかった木佐くんが、赤面させようとした俺に怒ったのって、それだけ赤面症で苦労してきたからでしょ?

まあ、自分が散々苦労してきたことを安易にネタにされたら、怒って当然だけどさ」



自身を省みて苦笑する猪瀬春太の言葉に、綾斗は否定も肯定もせず、黙って続きを促した。



「けど、その苦労って、周りのせいにできるじゃん?

赤面しちゃうって弱みがあったとしても、その弱みに付け込んで笑いものにする人の方が確実に悪いんだから。

それでも、さっき木佐くんは赤面症のせいで苦労してきたって言ってて。

なんか、他の誰のせいでもなく、自分に責任を向けてるなって感じたんだ。

で、責任を自分に向けているからこそ、その苦労を誰にも預けずに自分で全部引き受けて立ってるっていうプライドがあるんじゃないかな、と。

俺の勝手なイメージだけど、そういうプライドがある人は、自分が苦労しているから他人にも同じ苦労をさせてやろうとか、ダサいこと考えないんだよ。

だから、木佐くんは信用できる気がする」



買い被りだと思った。


自分はいじめっ子に言い返すこともできず、ヘラヘラしながら心の中で呪詛を吐くだけのダサい人間だからだ。


けれど、それ以上に嬉しくて泣いてしまいそうだった。


今までほとんど話したこともないような、ほぼ初対面の人間の言葉で泣くなんてあまりにも悔しい。



マスクで見えないのをいいことに、唇をぎゅっと噛みしめる。


ゆっくりと鼻から息を吐き、肺の中を空にして、体の力を抜いた。


今度はゆっくりと息を吸って、自らの意志で猪瀬春太と視線を合わせた。




「言わないよ。

あんたが失恋したやつみたいに、他人を貶めるようなダサいことはしたくないから」




綾斗の言葉に、屈託なく笑った猪瀬春太は、やはり人間離れした美しさだった。









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