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記録24 揺らぐ陽炎

 24話目です。

 そろそろ話すことが尽きてしまいそうです。僕自身、そこまで話し上手ではないので、正直話す内容にはいつも困ってしまいます。それゆえ、もしかしたら物語にもそのような影響があるのかもしれませんね。もしそうだとすれば、まずはネット友達とまともに話せるようそのようなゲームを探さないといけませんね。

 それでは、本編スタートです。

 翌朝、まだ日が昇っておらず、真っ暗な夜空に星々が輝く中、手元灯が出す明かりを頼りに作業を進めていた。

 それをただ静かに見つめるノース。ただ静かに、冷静に。帰りの頃の感情的な様子が嘘のようだった。

「――――......あとは、ここを締めてやれば......、よし」

 黒い木で作られた机の上に散乱した工具や様々な材質の破片や屑の中に三種類の特徴的な機械たちが出来上がっていた。

「それじゃ、まずはこれを姉さんの部屋の前に置いておこう」

 一枚の紙きれを手に持ち、黒く長い生地のバンドを数本抱えて部屋を出る。ある程度、腕に巻き付けていたが、一本だけうまく巻けておらず、地面を引きずっていた。だが、そんなことを気にするどころではなかった。

 目的の場所にたどり着くと、音をたてないよう細心の注意を心掛け、ゆっくりと四本のバンドを剥がしてそっと扉の前に置いた。さらにその上に一度だけ折り返された紙切れを置いた。

 すぐさまそこを離れ、自室に戻った。扉を開ける時でさえ、音をたてないよう慎重にドアノブをひねり、閉める時もまたドアにある三角を引っ込めさせた。

 再び机に駆け寄ると、人差し指の先端に乗せられるほど非常に小さなをつまみ上げた。

「あとはこれを首筋につけて......」

 指先に乗せられたパーツにつけられた無数の細かな針はしっかりと彼の首筋に突き刺さると同時に眉がピクリと動く。ノースの丁寧な確認を済ませ、ベッドの上に無数の装備を並べ、点検を始めようとする。

「ユスティティア様」

 その声で振り向くと、彼女は机に山積みされた書類の束を指さした。一瞬、嫌そうな表情を見せ、背を向けて無言で作業に戻った。その後も何度も彼の名を呼ぶが、全く無反応のまま作業を黙々と進めた。変わらず無視を続ける主人に思わず思考を始めるノース。静寂な室内には微かな排熱音が響き始める。

 どうすれば主を説得できるだろうか?

 最適な言葉や表現は何だろうか?

 そのようにしていくつもの工夫を考慮しては不必要な情報を排熱と共に排除していった。


「――......現時点で、このような事務仕事を務められるのは、ユスティティア様、あなた様しかおりません。もし放棄すれば、炎組の崩壊は免れないでしょう」

 その言葉で、彼の心の炎が揺らぐ。力強く、ただ目的を果たさんと燃え盛る意志の炎。それが今、一時的に己の感情という燃料が止まり、それ以上燃え上がることはなかった。

 炎組は、ユスティティアとエレンが築き上げた『居場所』。その事実は、姉に異変が表れたあの日以来であっても変わらない。

 多くの者が、あの天界襲撃事件で何もかも失った。彼らもまた、同じだった。だからこそだった。もう二度と、誰にも奪われないよう、守るために創ったのだ。

 柔らかな感触が体を包み込むのを全身で感じた。それは、鋼のような冷たさではなく、確かな人肌の温もりだった。せわしなくその箇所をまさぐるが、そこには何もなかった。後ろを振り向くと、二、三歩ほど離れた位置で真剣な眼差しでこちらを見つめる彼女がいた。

 暫時の沈黙の中、機械の無感情の眼差しと嫌気と葛藤の入り混じった目つきで睨む視線が交差する。短くも、彼にとっては長い時間の末、深いため息をついて書類の山の前の椅子に腰かけた。行動一つ一つに乱雑さがにじみ出ていたが、そこに誰かに対する負の感情はなかった。

「炎組は、私たちの拠点であり、もう一つの家でもあります。これからのスムーズな作戦のためにも、現状を保っていきましょう」

 ようやく笑みや喜びを見せたと思い、ふと彼女の顔を見つめた。顔は慈母の如く優しい笑みを見せたが、すぐさまその発言でそれは所詮、皮だけのものだと認識した。


 外は既に青白い空の中、陽光が照らす午前6時過ぎ。自室の扉を勢いよく開き、書類の山を抱えてロビーへ向かう。

 いつもの改造銃といつもの防弾チョッキと両腕を包み込む黒い無地の戦闘用アームバンド、いつもの細かく編み込まれた黒いズボンとそれをきつく締め付けるベルト。そのベルトに取り付けられた弾倉のポケットの隣に最後の機械がぶら下げられていた。トランシーバーのようなその機械には、緑色の画面があった。


 二階から広々としたロビーへと階段を下っていくと、食堂から微かに油が跳ねる音が聞こえたので、誘われて来てみた。そこには大きな窓から射す陽光の中、支給された古風で少し年期の入った洋風の鎧の上から全く似合わないピンクのエプロンを着け、紅く輝く魔法陣が出す小さな炎の揺らぎとフライパンの上で跳ねる油と複数の卵を見つめる破浪(ポーロン)がいた。

 思わず吹き出しそうになり、書類の束が小刻み震える。一種の気配を感じとり、完全に冷め切った目つきで見つめてきた。

「.........なんですか?その反応は」

 とうとう我慢の限界に達してしまい、大笑いしてしまう。と同時に、ギリギリ持ちこたえていた書類の山は上から順に音をたてて崩れていった。

「.........せっかく俺の誕生日にエレン団長がくれたものですから...。使わないと、もったいないじゃないですか」

 そう、彼には変なこだわりみたいなものがある。彼はどんなに自身に合わない代物だと理解していても、貰い物を大切にするという癖がある。これもその一つだった。

「にしてもだよ!姉さんのファッションセンスは君も知っているだろ!?」

「分かってますよ...。前々回なんかも、ダメージジーンズに白の上着、中に赤のTシャツをセットで渡してきたんですから」

 笑いが止まらず、次々と崩れていく中、文句一つも言わずに散らばった書類を拾い上げ、慎重にまだ崩れていない書類の山に積み上げた。

「ダサいって思ってるなら着る必要はないだろ!?」

「.........だって、あの善意100%の顔を見たら断りずらいじゃないですか...」

「あー、確かに姉さんはあんなヤンキーみたいにいっつも目つき悪い癖にすっごい純粋で鈍感だからな~...!」

 ようやく笑いが納まってきたころにはノースは既に散らばった書類を片付け終えていた。


「――にしても副団長。いくら面倒だからってノースさんに全任せするのはどうなんですか?それでも副団長ですか?」

 聞くまでもない周知の事実であるように話す戦闘員育成部門のチーフ。ようやく笑いが納まってきたとはいえ、まだにやけが止まらない彼の顔はすぐさま不服そうな顔に急変した。

 一応、不真面目で面倒くさがりな性格だという自負があるつもりだが、他人が言う、それも勝手に他人任せにしたと決めつけられるのは漠然とした違和感を感じた。

「なんだよ?確かにノースに手伝ってもらったけど、大半は自力でやったよ」

 それを聞いた育成のプロは、終始理解不能のあまり硬直していた。何度も、何度も聞き直して、まるでそれがありえない事実だと言わんばかりだった。

「ええ!?副団長が真面目に書類仕事を!?」

 ようやく事実だと認めたかと思えば、酷く驚き、慌てふためいた末、エプロンを脱ぎ捨て、火も止めずにどこかへ走り去っていった。まだ寝ていた団員たちの部屋の扉を蹴破って入っては大声で叫んだ。

「みんな大変だ!!副団長まで頭おかしくなった!!今日は副団長の分も含めで俺たちで頑張るぞ!!」

 油が跳ねる音しか聞こえなかったが、徐々に激しくなる足音にかき消されていく。

 心なしか温度が上がった気がする。ノースはとりあえず火を止めるが、一向に下がる気配がしなかった。それどころか、どんどん上昇していく。

 試しに窓を開けて風を通してみるが、やはり下がる気配がしない。

 不思議に思い、あたりを見渡す。

 ふと主の姿が視界に映った。

 にやけ顔はすっかり冷めており、持っていた書類の下の一部は黒っぽく変色していた。ゆっくりとコンロの隣にある何もない空間に置いた。

 硬く握り締められた右手から猛炎が表れる。

「――少しきつめの躾が必要のようだね......」

 太陽神、いや、天界の住民にあるまじき顔だった。不気味で不敵な笑みを浮かべ、ゆっくりと食堂を出た。その後、騒ぎはより激しくなり、時折、断末魔まで聞こえてきた。



 ノースはその声を静かに聞いていた。



 通常、『断末魔』というものは決していいものではない。そのことはノース自身も()()()()()()()十分に理解していた。

 しかし、彼らはどうだろうか。彼らは体育館のように広いロビーを縦横無尽に飛び回りながら激しい逃亡と追跡を繰り広げており、誰も武器を持っていないものの、魔法も飛び交い、まさに死闘とも言えるほどだった。

 中には怒り混じりの表情をしており、特にユスティティアはとんでもない形相で団員を追いかけまわしていた。

 下手をすれば死人も出かねないだろう。


 ――――そのはずなのに、どこか微笑ましく感じるこれは一体何なのか?

 ――――なぜこの光景に思わず釘付けになってしまうのだろうか?

 ――――この温かで心地よい胸の感触は、一体何なのだろうか?

 ――――これもまた、ノース()という存在を知れば理解できるのだろうか?

 ――――この感覚、どこかで感じた気がするのに、なぜ思い出せないのだろうか?

 ――――心地よいはずなのに、どうして妙な胸騒ぎがして落ち着かないのだろうか?


 いくつもの仮説と葛藤が彼女の頭の中をぐるぐると巡り、いくらCPUを稼働させても結論は出ることはなく、無駄なエネルギーを労費しただけだった。それどころか、胸騒ぎが一層強く感じるようになっただけだった。


 ――――――......きっと、この感覚も近いうちに全てわかることになるだろう。そんな気がした。根も葉もないのに。

 これがあの方がいつも言っている『勘』というものなのだろうか?

 これもまた、いずれわかるだろう。


 あれから一体どれほどの時間が経過しただろうか。いい加減飽きたのか、それともくたびれたのかわからないが、徐々にほとぼりが冷めていった。

 綺麗に整えられたカーペットは裏面が見えるほどひっくり返され、煌びやかなシャンデリアも所々キャンドルがなくなっており、黒く焦げた箇所も所々見られた。

 面倒くさそうに後片付けをする団員たちに混ざる。彼女のキレの良さは圧倒的だった。最高率を常に突き詰め、たった一人で十人分の仕事をやってのけてしまうので、それを見て一部の団員は言いがかりをつけてさぼり始めた。

 破浪が喝を何度か入れるが、そのころには全ての仕事が終わっていた。いや、終わらせてしまったというべきなのかもしれない。


 こうして無事...かどうかはさておき、唐突に始まった朝の大乱闘はしっかり後片付けまで済ませてようやく朝食を食べれるようになった。

 皆が集まり、部屋の端から端まである長いテーブルに統一感覚で並べられた椅子と食器、その上に置かれた温かな食べ物たちがあったが、一つだけ他とは決定的にないものがあった。

「――......総長、今日も食べないですね...」

 炎組の心臓、団員の尊敬そのもの、いついかなる時も希望の光を照らし、温もりを与えてくれる太陽、挙げてしまえばキリがないほど様々な意味を持つもの。それがなかった。

「...大丈夫、姉さんは確かにちょっと感情的な所があるし、今回もきっと何か感情的になる何かがあったんだ。すぐにほとぼりが冷めて戻ってくるはずだよ」

 彼らしくない確証も何もない戯言(たわごと)を言うが、団員の不安は取り除かれず、風景に見合わない沈黙と憂鬱さが漂っていた。

 険しい顔を見せた後、さらに発言しようとした。それをノースは目配せと首の動きだけで否定した。


 朝食を済ませ、新たな書類を大量に持って自室に戻る。扉を閉めるや否や、肺の底から負の念を押し出すようにして深いため息をつく。

 頭をかきながら全体重を椅子に預ける。腰かけた瞬間、鈍い音が微かに響く。

「――ユスティティア様、――――」

「いや、大丈夫」

 身を起こし、今度は片肘を机にたて、その手で額を覆う。

 炎は先ほどより激しく揺らぎ、勢いはほとんど尽きかけていた。

 これから先、いつ何が起きてもおかしくない。

 あまりにも多くの出来事が一度に彼に襲い掛かった。

 それを正しく対処しなければ、その未来に光どころか温かさすらないだろう。

 ()()あの日のようになってしまうだろう。

 それを思い返す度、彼の脳は酷く焼かれるような痛みを味わう。


 それをただ見つめる一人の機械。いくら機械と言えど、主が苦しんでいることは感じ取れる。だが問題は、それに対する適切な対処法が見つからないことだ。


 いくら分析しても、数値として現れるステータスはどれも参考にならない。

 いくら観察しても、その行動や所作では何も感じ取れない。

 いくらアンテナを伸ばして受信を試みても、その心情を読み取ることはできない。

 いくら過去のデータや記録を見返しても、関連性を見出すことはできない。

 いくらそのような思考を巡らせても、永遠に結論が出ることはない。


 この時、機械は初めて『苦悩』を己の身で体験し、理解した。

 主のため、必死に思考を巡らせる。

 だがそれでも何も変わらない。

 排熱音は徐々に大きくなっていき、暴風が吹き荒れるような轟音を発する。

 耳を裂くような警報音が鳴り響き、頭部から白い煙が出ていることもお構いなしに絶えず続けても、事実は変わらなかった。


 警報音が鳴って体が反射的に反応し、考えるより先に整備用ハッチを開いた。

「ノース、止めろ」

 その言葉で初めて思考を止めた。

 すぐさま内部を確認すると、奥の方に黒い基盤を発見した。それを引っ張りだそうと触れた瞬間、激しい熱が伝わってきた。幸い、彼は炎や熱に非常に強い体質なため火傷どころかひるまず手掴みできた。

 配線を傷つけないよう慎重に取り出すと、その基盤から焦げ臭さが鼻を刺した。

 机の引き出しから同じく黒い基盤を取り出すと、慣れた手つきですぐさま基盤につなげられた線を繋げる。

 ハッチを閉めると、機械はすぐさま無事再起動した。

「どうしてそこまでして思考をした?」

 彼女がした行為は機械にあってはならない行動だった。それも、高度な人工知能を持つ優秀な機械であればなおさらだ。

「――――私はただ、少しでもユスティティア様の支えになれるよう、独自の方法で思考していただけです......」

 相変わらず冷静さが目立つが、目線は合わせず、瞼はいつもより細く開き、瞳の奥にはなんとなく彼女なりの申し訳なさが見えた。

 しばらく彼女の顔を見つめる。

「――――ありがとう...」

 それだけ漏らし、大量に積み上げられた書類の束に向かい始める。

 口角が少し上がり、耳が赤くなっていた。

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