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25/25

記録25 情報収集―漆黒の戦士#1

 25話です

 春のこの季節って、とても忙しいですよね。僕もそのせいで作品に熱を入れられませんでした。と、言っても、この物語が投稿された日は既に五月。既にそんな時期は越えているでしょうね。おそらく、八月や十月もこのくらい忙しくなるんだろうな...。理由は秘密ですが

 それでは、本編スタートです

 あたり一面に広がる赤茶色の荒廃した土地。

 その肌を削ぎ、砂塵を巻き上げる暴風。視界はその影響で地平線は見えず、空に昇っているであろう月も月光の影すら見えない。

 嵐に激しくあおられ、金色の短髪は細かく何度も揺れ、白銀の長髪は大きくなびいていた。

『一番星の(うい)一閃』

『紫電乱撃』

 電撃と閃光が弾けるごとに一人、また一人と倒れていく。

 互いに背を合わせ、目の前の敵を討つ。彼らの今のやるべきことは特段複雑なことでもない、たったそれだけだった。

「――新たな敵対生体反応、ありません。損傷率、2%。消費魔力量、およそ178㏖。人型自立機器専用内臓型発電機、異常なし。継続可能です」

「銃、および装備の耐久...、共に問題なし。疲労感もないよ」

 無駄のない情報が飛び交う嵐の荒野。主従関係よりもシリアスな関係が成り立っていた。

「――ユスティティア様、こちらの遺体を――」

「まだ死んでないから遺体じゃないよ...」

「――失礼いたしました」

 安全を確保したとはいえ、一切の無駄のない丁寧な一礼をするノース。

 ユスティティアはズボンのポケットに入れてあったものを取り出すと、それを開けて柔らかそうな毛先のブラシのようなものを粉をつけて失神した者たちに慎重に細工していく。横から静かに見守るノースの指示に従い、徐々に完成形が見えてくる。

 相変わらず荒れ狂う赤茶色の砂嵐の中、いつもの機械いじりよりも多くの集中力と時間を消費した結果、完成したのは死人そのものとも言える姿だった。

「――本当にこの程度で対策できるのでしょうか?」

「分からない。もし姉さんの人格がまだ残っているのだとすれば、これでいけると思う。あの人、根は相当バカだから」

 不安気味で自身の無さげな口調で問いかけた質問に、満面の笑みでそう答えた。弟である彼が言うのであれば自論よりも圧倒的に確実性があるだろう。そうとしか彼女は解釈しなかったし、それしか彼女は感じなかった。


 倒れた兵士たちの前でかがんでいた彼はゆっくりと体を持ち上げながら自分たちの武器や機器を隈なく撫でるようにして見ていき、時々まさぐるような動作もした。

 そんな中、目もくれず見えもしない地平線をただ虚ろな瞳で見つめる。その瞳の奥で微かに緑の光を点滅させる。二人の空間には荒れ狂う魔界の嵐だけが吹き叫んでいた。

「――11時の方向に生体反応の集合体を確認。距離、およそ15.2㎞」

 機械の彼女だからこそ見える世界は、まっさらな空間の遠く離れた位置に複数種類の色が乱雑に、かつ鮮明に塗りつぶされていた。


 実はユスティティアは早朝でノースの改造もしておいた。先ほどさりげなくノースが言っていた『人型自立機器専用内臓型発電機』もその一つだ。そして今使おうとしているのが、二つ目の新機能である『高解像度魔力探知レーダー・SPACEスペース DOMINATIONドミネイション』だ。

 魔界の環境は見ての通り、毎日砂嵐が吹き荒れる荒野が広がる世界だ。よって、肉眼での視認は非常に悪く、これでは魔界の環境に慣れた住民や魔物たちにいつ奇襲されてもおかしくない。よって、こうしたレーダーは必須だ。なのだが、魔界の大気の性質上、通常の電波は全て妨害されてしまい、特に煉獄は局所的に激しくなり、その逆の凍獄は時折氷の破片も巻き込む場合がある。

 そこで使われるのが、魔粒子を探知するレーダーだ。これなら環境に左右されるリスクを排除できる。しかし、これでも魔界の環境では使い物にならない。なぜなら魔界や天界のような魔力の元となる魔粒子の密度が高い地域ほどこのレーダーは安定しないからだ。

 それを完全に克服したのが、このClairvoyanceと呼ばれるレーダー。これは、生物が発する独特な魔力と大気中の魔力を分けて判断できる優れものである。これには高性能のAI(人口知能)が必要だが、ノースのAIは想像以上だった。

 ノースのコンピュータは複数あり、それぞれが個別で役割を担っている。相変わらず二重構造になっている基盤はよくわかっていないが、各自の役割を分担し、最終的な意志決定を中枢AIが判断していると推測できる。これにより、通常のAIよりも効率的かつ高速に対処できるという構造だ。


 ノースが見えない世界を見通し、ユスティティアが全て打ち抜く。慣れた手つきでただ粛々とこなしていく。彼らが向かった箇所は点々と遺体もどきが固まっていた。

 魔界をあちこち飛び回りながら映るもの全てと戦い続ける。彼らが鋭い刃と暗い色の服装を身に纏い、本当に遺体だらけなら、それこそ死の象徴として見られていただろう。

 現状を知った魔界の兵士たちは、偽の傷口を見てどう思うのだろうか?

 姉は念を押して遺体もどきをあのサーベルで突き殺したりしないだろうか?

 長年共に暮らし、戦ってきた者だという割には自信なさげだが、そんな思いを封じ込めた。


 もう何人映っては打ち抜いただろうか。もう数えることも、そのような気力もなく、ノースでさえそんなことは無駄な労費だと判断したのかいつしかカウントを報告しなくなった。

 全体的に長く変形した銃は、無数のパーツに散らばり、意志があるかの如く、自ら彼の上着のポケットに吸い込まれていった。

「――生体反応、0。消費魔力、および持久力の消費を確認。掃討任務の終了を推奨します」

 無機質な音声を発し、無情の瞳でこちらを見つめる彼女。瞳の奥では、まだ微かに緑の明滅があった。

「うん、このへんで切り上げて、次の作戦に移ろう」

 シンプルな一丁の拳銃姿になった改造銃を腰にぶら下げ、無駄だとわかっていながらも体に付着した砂ぼこりを払い落とした。偶然ノースと動作が全く同じだったことに二人は気づくことはなかった。


 自然に燃え、溶けてしまう魔界の空気に微かな寒気を感じた気がした。ノースもその感覚を別の意味で感じ取ったのか、再び瞳の奥を明滅をさせた。

 荒れ狂う魔界の風に僅かな静けさが満ちる。

「――強力な個体が高速接近中。エレンディル様と断定」

 すぐさまノースの片手を引きこむ。その刹那、思考が遅れ、されるがままになりかけていたが、すぐさま想定された現実に対応した。

 体が複雑に折り曲がり、体に沿うようにして滑らかに平たい金属が流れていく。必要最低限に保護する金属は、全体的に丸みを帯び、彼の背部には薄く細長い翼の骨が形成されていた。

 骨に沿う紅蓮の炎はやがて無数の羽となり、今にも熱風を吹かしながら力強く羽ばたこうとしていた。

 目指すは、直線距離にしておよそ40㎞先、天界と魔界を繋ぐ唯一のポータル。

 体をひねり、大きく足をかがめる。一度、また一度と翼は羽ばたき、その度に火の粉が舞い、砂塵の空を切り裂く。炎の軌跡が残り、焼け付くほどの空気をさらに熱し、僅か一瞬だけだが、その軌道に残るものは何もなかった。時折、魔界軍と思わしき影や異形の影をした生物と衝突したが、それでも燃え盛る翼の羽ばたきは止まることを知らなかった。

 ヘルメットのガラスに薄く映る緑のレーダーに映る赤い点滅は中央にあった緑色の点と徐々に距離が離れていく。なんの以上もなく、無事ポータルに着くや否や、二人は何事もなかったかのように潜り抜け、天界の兵士の厳粛な敬礼と挨拶を受けた。


 体にしつこく纏わりついていた砂ぼこりを払い落としながら颯爽(さっそう)とその場を後にしようとする。しかし、すぐさまその足は止まることになった。緑のフリルのドレスと長髪がなびき、彼女の背後に昇っている白昼の陽光の影響か前回よりも瞳の色に変化が見られた気がした。

「――おかえり、ユスティ君」

 上品で棘も毒もない清らかな声でそう話し、柔らかなに咲く花のようにふわりと開く笑顔を見せる。細くしなやかな腕は丁寧にへその下あたりで触れ合っていた。だが瞳を見つめ続けていると、どこまでも引きこまれそうな感覚を覚えた。どうにかして目をそらそうとしたいが、彼女の前で不信な言動をすれば、何が起こり、何をされるか何も予想できない。それが例え、想像の中であっても、思考であっても。

 ユスティティアはさりげなく首筋に手を回した。額に力が入っていたが、深呼吸と共に抜けていく。

「――やっほ、千華。ここまで来て待ってくれるとは思っていなかったよ」

 ふわりと心地よい風がスカートの裾と長髪をなびかせながら近づいてきた。

 仕草や表情こそ、風に乗ってやってくる綿だが、胸の深い所まで突き刺す蛇の視線で常に睨みつけていた。

「どうしたの?私がここに来て何か困ることでもあった?」

「いや、少しびっくりしただけだよ。だって、千華って基本魔界に行かないし、魔界のポータルの前ですら行かないじゃん」

 変わらず睨まれる視線の中、微塵も動揺せず、それどころかにこやかに答えてみせた。しばらくの間、燃え盛る炎のような緋色の瞳を見つめては胸元の水晶をせわしなく見返した。

「――...確かにそうね。ここにいたら、私、燃え尽きちゃいそうだし。さっさとデートしましょ!」

 彼女の瞳はたちまち鮮やかさを取り戻し、二人の手を掴んで歩み始めた。二人も彼女に引っ張られるままに体を委ねた。


 歩き続け、別のポータルへと足を踏み入れると、つい数日前に来た生命組の海岸だった。分厚い靴底からでも僅かに感じる温かな白い砂浜、押し寄せては引いていく小さな白波、白昼の陽光に照らされ眩い光を水面の揺らぎに合わせて光り輝いていた。

 海岸には既に多くの人だかりができていたが、どうやらその人々の目的は海水浴でも、釣りでも、漁でもないらしい。やや遠目で等身大の鋼の銛を片手に人だかりを慌ただしく(さば)く屈強な男たちが目についた。大勢の人々は小さな紙切れのようなものを渡し、それを慣れた手つきで彼らは確認した。

 確認が終わると、一片の笑みも出さず鋼の銛を天に向けたまま二度地面を叩くと、海面に穴が開き、海底の道が開かれた。一組の天使たちはその中へと吸い込まれていき、完全に見えなくなったのを目視で確認すると、もう一度銛を二度地面を叩いた。流れる海水が激突し、小さな白波と水しぶきがたつ。

 ユスティティアたちもその列に並ぶ。白昼の陽光が二人の肌を焼き、思わず汗が滲む。すぐさま大きく平たい蓮のような葉を生成すると、軽く地面から引き抜き影を作った。許可をもらうよりも早く千華は彼らを影へと引き込んだ。

 陽光のせいで感じられなかったが、今なら感じられる海風。魔界から持ち帰ってしまった砂ぼこりと熱気を残さず吹き飛ばしてくれるような心地がした。

 しばらくさざ波の音だけが響く。

 ユスティティアは列の先を見つめる千華を眺めていた。

 それになんとなく気がついたのだろうか、千華はすぐさま見つめ返す。

「――どうしたの?」

 それに答えようとした。

「......あー、なるほど。あの黒い戦士のことについて知りたいんだ」

 軽く息を吸った瞬間、言おうとしていたことを言われてしまい軽いため息を出してしまう。

「――......そうだよ...」

「でも、そんなこと聞いてどうするの?」

「......参考にしようと思って――」

「...ふーん、復讐の手助けをしたいんだ。てっきりユスティ君なら、『そんなの忘れろ』とかっているのかと思ってた」

「――僕も、千華と同じでそいつのせいで人生を捻じ曲げられたからね。気持ちは同じだから手伝いたいな~、なんて...」

 やや不器用ながらもなんとか言葉を絞り出し、かろうじて笑ってみせた。

 しばらく空虚とも言える瞳で彼をじっと見つめる。視線を外したかと思えば、すぐさま水晶を見つめた。相変わらず水晶は透き通る輝きを放っていた。

「――――それじゃあ、少し話をしよ。ここで話すのは場に合わないし、少し場所を移してからね」

 ようやく先頭になり、千華は人々が渡していた紙切れとは全く違う物を男に渡した。自身の身分を証明する緑のカバーが付けられた手帳だった。物が違っても、慣れた手つきは変わらず、表情も相変わらずだった。

「――確認、完了いたしました。それでは、お通りください」

 手帳を返すと、先ほどからずっとしているように、二度銛を地面に叩き、海に穴をあけた。千華は地面に大きな葉の傘を置くと、たちまち地面に溶けるように消えていった。


 三人は水の壁と天井、海底の地面を進む。その先にあったのは、無数の水泡のように点在しているガラス張りの巨大な都市が見えてきた。この道は、一つの巨大なガラス球へと通じていた。ガラス球にたどり着くと、さっきまで通ってきた海底の道は海水で満たされ、入れるよう開かれたガラスの扉も閉ざされた。

 中は何人もの人々であふれかえり、中には半魚人の姿や人の姿から人魚の姿へと変える者もいた。その逆もまた然りだった。魚市場、八百屋、書店など地上の生物と大差ない商店街が広がり、少し進んだ先には魚たちの華麗なパフォーマンスも披露されていた。

外は陽光が海面を通り、白無垢なオーロラを形成していた。時折、別のガラスの穴から人魚や半魚人、兵士たちが中へと出入りを繰り返していた。中にはこちらに手を振る者もいた。


 人混みをかき分けて進む千華について行く。少しずつ千華との距離が遠ざかりながらも、姿だけは見失うまいと必死について行く。やがてもう見失いかけそうだという時、千華は立ち尽くした。彼女の正面にあるのは、紛れもないレストランだった。高級でも何でもない。ただの一般市民で溢れかえる飲食店だった。

 既に予約をしていたおかげで待ち時間もなく席に座ることができた。せっかくのガラス張りの海の風景を壊さないためか、壁や椅子、机、店員の服装までもが流水をイメージするような色彩と模様、そして魚の絵が描かれていた。二人は席に着くや否や、すぐさまメニュー表を確認し、どれにしようかと悩み始めた。そんな姿もどうでもいいと言わんばかりに頬杖をつきながら外の風景を放心したシアン色の瞳で眺める千華。

「――どうかした?」

 この空間自体はとても明るい。この時間帯だからこそ、多くの人で溢れかえり、楽しく食事と会話をするのが定番だ。

 だが彼ら三人を纏う空気は一体どんな者だろうか。

 一言一言が重苦しい場にそぐわないものだ。

 少しは笑って、楽しくすればいいというのに。

 デートと言うのだから、もっとそれらしいことをすればいいのに、二人は隣の席に座ろうともしない。

 同行してきたノースも、一切場の空気を変えようともしない。

 なのに、どうしてこんなにも三人を黙らせてしまっているのか。

 ユスティティアは自分の発言に後悔を抱いてしまった。

「――大丈夫よ、ユスティ君。私も、そのために呼んだようなものだから」

 どれだけ自然に見せた笑みでも、苦し紛れの笑みだという事実を拭いきれず僅かに滲み出てしまった。店員を呼び、各々求める料理を注文する。ようやく彼女の中でひと段落でも着いたのか、体を背もたれに完全に任せ、深めのため息をつく。

「――...それじゃ、何から話そうかな?」

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