わたくしが断った方(クリスタベル視点)
今夜、大広間に入ってから十分で、わたくしを見た殿方は十一人。
悪くない数だ。先週の夜会では十分で九人だったから、二人多い。今夜のドレスは白に近い金色の紗で、仕立て屋が金貨七枚と言ったのを、お母様が六枚にさせた。そのぶん、肩の飾りを一つ減らしている。気づく人はいないだろう。
「クリスタベル様、聞きましたわよ」
扇を持った令嬢たちが、いつものようにわたくしの周りに集まってきた。伯爵家の娘が三人、子爵家の娘が二人。わたくしが王都で一番美しいと、いつも最初に言ってくれる子たちだ。
「ケンドリック公爵閣下を、お断りになったんですって?」
「ええ」
わたくしは扇を半分だけ開いて、目元で笑った。
「お見合いはしたのよ。でも、わたくしを見る目がおありにならなかったの。三年も北の砦にいらした方ですもの。仕方ないわね」
「まあ、もったいない」
「公爵閣下ですのに」
「爵位だけで殿方を選ぶほど、わたくし安くはなくてよ」
令嬢たちが小さく歓声を上げた。こういうとき、自分の声がよく通るのを、わたくしは知っている。
ところが、輪の端にいた子爵家の娘が、扇の陰でこう言った。
「でも……うちの御者が、公爵家の従者から聞いたそうですわ。閣下のほうが、その場でお断りになったって」
輪が、少しだけ静かになった。
「従者の噂話なんて」
わたくしは笑った。笑いながら、隣の伯爵家の娘の目が、わたくしの顔から一瞬だけ逸れたのを見た。
◇
わたくしは三年で、十四人をお断りしてきた。
一人目は髪の色が麦わらのようだった。二人目は声が低すぎて、何を言っているのか聞き取れなかった。三人目は靴の形が田舎くさかった。四人目は名前が長すぎて、わたくしの名と並べたときに座りが悪かった。五人目は背が高すぎて、並ぶとわたくしが子どもに見えた。それから先は、もう覚えていない。
お父様もお母様も、わたくしの目が高いのだと言ってくれた。もっと上の方が必ず来ると。わたくしは、それを信じてきた。
三年前に一人だけ、本当に上の方が来た。
ケンドリック公爵家の嫡男。王の従弟。あの年の春、お父様が書斎で手紙を読んで、顔を赤くしたり青くしたりしていたのを覚えている。夕食の席で、お父様はお母様とわたくしにだけ言った。
「公爵家から縁談が来た。ウィニフレッドにだ」
ウィニーに。あの、家のことしかできない、地味な子に。
お父様は返事を書いた。次女は本人が望まない、長女ならば喜んで、と。わたくしは当然、わたくしに話が来るものと思っていた。来なかった。公爵家からは、丁重なお断りが一通届いただけだった。そしてあの方は、北の砦へ行ってしまった。
ウィニーには、誰も何も言わなかった。お父様が言うなと言ったからだ。あの子は今でも知らない。
だから、わたくしはあの方に二度も断られたことになる。三年前と、先週と。二度も、わたくしではない方を選んだ男。
◇
楽団の曲が変わった。
広間の向こうで、背の高い銀灰色の頭が動いた。公爵閣下だ。今夜は柱のそばから離れて、まっすぐ広間を横切っていく。母親たちが、娘の背中を押す気配がした。
閣下が足を止めたのは、壁際の、叔母様の隣だった。
ウィニーが、そこにいた。
あの子は今夜、くすんだ緑の古いドレスを着ていた。二年前に仕立てたものを、袖だけ直したドレスだ。そのウィニーの前で、閣下が手を差し出した。
あの子は、困った顔で叔母様を見た。叔母様が扇で背中を押した。ウィニーは閣下の手を取り、広間の真ん中へ出ていった。
あの子が踊るのを見たのは、何年ぶりだろう。
ぎこちない最初の三歩のあと、閣下の腕の中で、ウィニーの足取りはきれいに揃った。閣下は踊りながら何か短く言い、あの子が笑った。わたくしは、あの子があんなふうに笑うのを知らなかった。
閣下が今夜踊ったのは、その一曲だけだった。
◇
わたくしの踊りの札は、前半に二つ埋まった。一つは子爵家の次男、一つはお母様が頼み込んだ年配の男爵。後半の欄は、最後まで白いままだった。
壁際の長椅子で、お母様が扇を動かしながら、わたくしの手を撫でた。
「あの方は見る目がないのよ、クリスタベル」
そのとき、後ろの席の夫人たちの声が聞こえた。
「十四人もお断りしたのでしょう。今度は公爵閣下に断られて、ご自分が断ったとおっしゃっているとか」
「まあ。妹さんのほうは、閣下と踊っていらしたのにね」
お母様の手が止まった。わたくしは振り返らなかった。振り返れば、その夫人たちの顔を見なければならない。
◇
帰りの馬車の中で、ウィニーは窓の外を見ていた。叔母様の馬車で帰ればいいのに、お父様が「家の馬車で帰れ」と言ったのだ。
「楽しかった?」
わたくしが聞くと、ウィニーはこちらを向いて、少し考えてから答えた。
「閣下は、踊りがお上手でした。お姉様の五つ目の条件は、確かめられました」
あの子は本気で言っていた。それが分かって、わたくしは膝の上で扇を握りしめた。
あの子に、あの方の隣は似合わない。わたくしより先に、わたくしより上の家に嫁ぐなど、あってはならない。お父様は「順番だ」と言う。けれどわたくしにとっては、順番などどうでもいい。あの子がわたくしの上に立つことが、許せないだけだ。
三年前のことは、あの子には一生知らせない。
次は、三日後のキャラウェイ侯爵の園遊会。お客様の多い、日の当たる芝生だ。
縁談は家と家の話だ。それを人前で蒸し返して、伯爵家の返事を嘘だと言い立てるような無作法を、王の従弟がするはずがない。あの方は黙って笑うしかない。
だから、皆の前で言ってあげる。三年前、あの方が縁談をくださったのは、わたくしだったと。




