断られた男たちの会(ローワン視点)
長い卓に十三人。扉は一つ、窓は二つ。全員の顔が見える上座は、なぜか俺の席になっていた。
十月二十三日の夜、騎士団の兵舎の、古い食堂の奥の部屋。壁には先々代の団長の肖像がかかり、卓には羊の煮込みの大鍋と、安い葡萄酒の瓶が八本。会を開いたのはバーソロミューで、名前もあいつがつけた。
「では、始める。第一回、フェアファクス家に断られた男の会だ」
バートが杯を掲げると、卓のあちこちから笑いと、半分やけになった拍手が起きた。
集まったのは、三年のあいだにクリスタベル嬢に断られた十四人のうち、王都にいた九人。二十日ほど前に次女への縁談を断られた、ハリントン子爵家の次男。姉君に条件を一つ足されたバート本人。二日前の園遊会のあと、自分から縁談を断る手紙を出したキャラウェイ侯爵。それに、断ったのか断られたのか分からない俺である。
「俺が一番新しい。顔に傷のない方、だそうだ」
バートが頬の傷を指でなぞると、また笑いが起きた。
「では古い順に。一人目から」
◇
一人目は、麦わらのような髪の男だった。本人がそう言ったのだ。
「麦わらのような髪だと言われました。三年前の春です。翌年、妻と結婚しましたが、妻はこの髪を、秋の野原みたいで好きだと言います」
二人目は声が低すぎると言われた男で、確かに卓の端まで地鳴りのように響く声だった。三人目は靴の形が田舎くさいと言われ、今日もその靴を履いてきていた。
四人目が立ち上がった。
「名前が長すぎる、と」
男は胸に手を当てて、自分の名前を最後まで名乗った。六つの名と二つの家名が続き、名乗り終わるまでに、バートが葡萄酒を一杯飲み干した。
卓じゅうが笑った。俺も笑った。北の砦を出てから、こんなに大勢で笑ったのは初めてだった。
だが五人目の話で、笑いが止まった。
「僕は、背が高すぎると断られたんですが」
五人目は、子爵家の嫡男だった。おとなしそうな青年で、杯を両手で持っていた。
「実は見合いの帰りに、伯爵に申し上げたんです。長女の方とはご縁がなかったようですが、もしよろしければ、次女の方とお話をさせていただけないかと」
俺は杯を置いた。
「伯爵は、何と」
「次女には決まった相手がいる、と」
卓が静かになった。
七人目が、ゆっくり手を挙げた。
「私も、同じことを言われました。二年前の夏です」
八人目も、九人目も手を挙げた。九人目は、去年の冬だったと言った。
四人。
俺は頭の中で数えた。妹君が知っているのが四度。ハリントン家がその四度目だ。三年前の俺の分が一度。そして今夜分かった四度。
少なくとも、九度。
あの父親は、三年のあいだに九度、次女への縁談を断っている。そのうち五度は、本人に知らせもせずに。
「一つ、いいですか」
ハリントン家の次男が、遠慮がちに言った。
「先日いただいた断りの手紙なんですが。伯爵のお名前でしたが、字が、伯爵の字ではありませんでした。女の方の、きちんとした字で」
次男は、懐から折りたたんだ手紙を出した。
俺は、その字を知っていた。叔母上の家を通して受け取った手紙と、同じ字だった。癖がなく、きっちりとしていて、一字も崩れていない字。
彼女は、自分への縁談の断り状を、自分の手で書いていた。
俺は黙って手紙を次男に返した。手の中で杯が鳴りそうだったので、卓に置いた。
◇
それから、話は妹君のことになった。
「見合いの日、僕が座る椅子だけ、背もたれが高かったんです。昔、落馬して腰を痛めていて。誰にも言っていなかったのに」
これは二人目、声の低い男だった。
「私は、茶会でジャスミンの茶が出なかった。あれを飲むと咳が出るんです。翌月、別の家で出されて、初めて気がつきました。あの家では、出なかったと」
三人目の靴の男は、帰りに雨が降り出したとき、玄関に傘が二本用意されていたと言った。一本は自分の分、一本は御者の分だった。
「長女の方の顔は、正直もうよく覚えていません。でも、廊下で傘を渡してくれた人のことは覚えています」
一人が話すたびに、誰かが「うちもだ」と言った。俺は口を挟まずに聞いた。
彼女はこの三年、姉の見合いの席を、ずっと一人で整えていたのだ。客の一人一人の顔を見て、誰にも礼を言われず、自分の名も出さずに。
キャラウェイ侯爵が、杯を置いて言った。
「母が、昨日から何度も聞くんです。あの、薔薇の一輪の話を最後まで聞いてくれたお嬢さんは、どなたかと」
◇
「なあ」
葡萄酒の瓶が六本空いたころ、四人目、名前の長い男が言い出した。
「十一月の二日、季節納めの舞踏会がある。王妃陛下の舞踏会だ。王都中の家が来る」
「それがどうした」
「僕たちで、妹君に踊りを申し込むのはどうだろう。一人一曲ずつ」
卓が、一瞬静かになった。それから、誰かが拳で卓を叩いた。
「いいな」
「それなら、社交界の全員に分かる。俺たちが、本当は誰を見ていたのか」
「伯爵は嫌な顔をするだろうな」
「するだろうな」
笑い声が、さっきよりずっと大きくなった。バートが俺を見た。
「ロウ。お前はどうする」
全員がこちらを向いた。
俺は少し考えてから、言った。
「俺は最後でいい」
「最後?」
「順番待ちだ」
部屋が揺れるほどの笑いが起きた。バートが俺の背中を、骨が鳴るほど叩いた。
◇
会がお開きになりかけたころ、扉が叩かれた。
入ってきたのは、俺の従者だった。手に一通の手紙を持っている。
「旦那様。屋敷に届いておりましたので、急ぎお持ちしました。フェアファクス伯爵からです」
卓の全員が、手紙を見た。
俺は封を切った。伯爵の字だった。今度は、間違いなく本人の字だ。
『先日の園遊会での件、深くお詫び申し上げます。つきましては、長女クリスタベルとの縁談を、改めてお考えいただきたく』
俺は手紙を読み終えて、卓の上に伏せた。
バートが、低い声で言った。
「……順番、か」




