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第四章 夏の予定表


「夏祭り、今年どうする?」


七月の初め、千夏が九人のグループチャットにメッセージを送った。


「行くに決まってんだろ!」


健太が即座に返信した。


「去年、金魚すくいで三千円使った人が何か言ってる」


梨花が書き込む。


「それは俺じゃない!」


「健太だよ」


「お前ら、記憶力よすぎだろ!」


「今年もやるの?」


紗季が尋ねた。


「やらねえよ!」


「どうせやるって」


陸が言った。


「今年は俺、彼女と回るかもしれないから」


「はいはい、彼女持ちは帰ってください」


千夏が返した。


「お前、俺にだけ厳しくね?」


「日頃の行い」


「納得いかねえ!」


そんなやり取りが続いた。


俺はスマートフォンを見ながら、何度も美咲の名前を探した。


まだ、返信はなかった。


その日の夜、俺は美咲に個別のメッセージを送った。


『夏祭り、一緒に行かない?』


送信ボタンを押してから、心臓がうるさくなった。


別に、告白したわけじゃない。


幼馴染を祭りに誘っただけだ。


今までだって、何度も一緒に行っている。


そう自分に言い聞かせながら、返事を待った。


しばらくして、スマートフォンが震えた。


『ごめん! その日、バスケ部のみんなと行く約束しちゃった』


続けて、メッセージが届いた。


『今年、初めて同じ部のみんなで夏祭り行くんだ。楽しみ!』


俺は画面を見つめた。


『そっか。楽しんでこいよ』


そう返信した。


すぐに返事が来た。


『うん! ありがと!』


それで終わりだった。


たった数行のやり取りなのに、俺はしばらくスマートフォンを置けなかった。


「……そうだよな」


誰もいない部屋で、俺はつぶやいた。


美咲には美咲の友達がいる。


その友達と出かけたいと思うのは、当たり前のことだ。


俺たち九人だって、最近は全員が集まることが減っていた。


梨花は彼氏と出かけることがある。


陸も彼女との予定を優先する日がある。


健太は相変わらず暇そうだが、だからといって全員が健太に合わせる必要はない。


それと同じだ。


俺は、そう考えた。


それから、数日後。


「花火大会、どうする?」


今度は真帆が話を持ちかけた。


「行く!」


健太が手を挙げた。


「お前、夏休みの予定、それしかないの?」


千夏が笑う。


「あるわ! ゲームの大会!」


「家から出ろよ」


「花火大会は外だろうが!」


「それはそうだけど」


「俺も行くよ」


陸が言った。


「ただ、途中で彼女と合流するかもしれない」


「はいはい」


「なんでそんな冷たいんだよ!」


「リア充だから」


「ひどくね?」


「梨花は?」


真帆が聞くと、梨花は肩をすくめた。


「私は彼氏と行く予定。会場で会えたら合流するね」


「紗季は?」


「行くよ。悠斗も行くでしょ?」


「ああ。予定は空いてる」


悠斗が答えた。


「千夏は?」


「もちろん。屋台があるからね」


「目的が食い物じゃねえか!」


健太が突っ込んだ。


「花火も見るよ!」


千夏が言い返す。


「真帆は?」


「行く。みんなと行くの久しぶりだし」


全員の予定が決まり、俺は美咲の名前を見た。


「美咲は?」


千夏が尋ねた。


「……私は、まだわからない」


美咲が少し間を置いて答えた。


「部活?」


「うん。ちょっと確認してみる」


「そっか。わかったら教えて」


「うん」


その場では、それ以上話題にならなかった。


けれど、その夜、俺はもう一度、美咲にメッセージを送った。


『花火大会、一緒に行かない?』


今度は、少し時間がかかった。


画面を見つめているうちに、送らなければよかったと思い始めた頃、返事が来た。


『ごめんね。その日、部活の人と行くことになったんだ』


そして、もう一通。


『エースの翔太くんも来るんだって!』


翔太。


男子バスケ部のエース。


入学以来、何度か名前を聞いていた。


背が高く、運動神経がよく、勉強もそれなりにできるらしい。


女子バスケ部の練習にも顔を出すことがあり、美咲が彼の話をすることもあった。


『そっか。楽しんでこいよ』


俺は、同じ言葉を送った。


『うん! ありがと!』


返事も、前と同じだった。


俺はスマートフォンを伏せた。


胸の奥が、少しだけ重かった。


夏祭りのときよりも、ずっと。


けれど、それでも俺は動かなかった。


『じゃあ、別の日に遊ぼう』


そう送ることもできた。


『翔太って、どんなやつ?』


そう聞くこともできた。


『俺も美咲と行きたいんだけど』


そう伝えることだって、できたはずだ。


けれど、俺は何も言わなかった。


断られた理由は、正当だった。


美咲には予定がある。


それだけのことだ。


俺が勝手に寂しくなっているだけなのだから、仕方がない。


そう思って、気持ちをしまい込んだ。


そして、その気持ちは、しまい込めばしまい込むほど、重くなっていった。




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