第二章:遭遇
彼らが探索しているのは、かつて滅亡した小領主の砦跡だった。狙いは、先遣隊が仕留め損ねた野生の「灰色狼」の死骸、あるいは彼らが遺したわずかな金属製品の回収だ。
「止まれ」
ゴドリックが手を挙げた。空気中に、獣の体臭と、鼻を突くような酸っぱい臭いが漂っている。
「……ゴブリンか?」
シンがささやいた。
「いや、もっと悪い。野犬の群れだ。三匹……いや、四匹いる」
暗闇の奥から、低いうなり声が聞こえた。緑色に光る眼が四対、こちらを凝視している。ただ飢え、狂暴化した、泥まみれの肉食獣だ。
「シン、お前は左の奴を引きつけろ。殺さなくていい、盾を構えて持ちこたえろ!」
「了解!」
シンは心臓が口から飛び出そうになるのを抑え、拾い物の木製円盾を強く握りしめた。チート能力などない。だが、ここで逃げれば身元保証のチャンスは永遠に失われ、路地裏での餓死が待っているだけだ。
一頭の野犬が、泥を跳ね上げてシンに飛びかかってきた。
「おおおおお!」
シンは叫びながら盾を突き出した。凄まじい衝撃が左腕を襲う。骨がきしむ音が頭の中に響いた。野犬の鋭い牙が、ボロい木盾の端を噛み砕き、木片を飛び散らせる。生臭い息が顔にかかる。
シンは必死に右手の短剣を突き出したが、焦りから刃は野犬の硬い毛皮を滑った。
「くそっ!」
力任せに野犬を押し戻した瞬間、足元の濡れた苔に足をとられ、シンは無様に尻餅をついた。野犬がすかさず、無防備になったシンの喉元へ牙を剥いて飛びかかる。
(死ぬ――)
そう確信した瞬間、横から泥まみれのブーツが野犬の腹を激しく蹴り抜いた。ゴドリックだ。彼はすでに二頭を自慢の腕力と確かな剣技で一瞬にして斬り伏せ、シンの窮地に割り込んでいた。
「立て、シン隙を見せるな!」
ゴドリックが叫ぶと同時に、残った野犬が彼の太ももに噛み付いた。「ぐあぁっ!」と肉の裂ける悲鳴が上がる。
シンは泥にまみれながら立ち上がり、なりふり構わず、ゴドリックの足に噛み付いている野犬の首筋に向けて短剣を両手で突き立てた。
(この男を死なせるわけにはいかない。俺の、唯一の希望なんだ!)
鈍い手応え。肉を貫き、骨に達する感触が手の平に伝わる。野犬は激しく身悶えし、やがて動かなくなった。




