第十九話 勘違いバカ
俺のヘアピンカーブで、観客を魅了する。
男子大学生らしき集団が、俺を囲んで羨望の眼差しを向けてくる。
次はS字カーブだ!
ここを・・・曲がれるだろうか?
「うぉおおおらあああーーーー!」
俺は男子大学生たちにカッコイイ姿を見せつける。
一度左に曲がった俺は、ハンドルを素早く右に切ると同時に、身体ごと大きく傾けた。
直立でハンドルを切るよりも、心なしかカーブしやすいような気がするからだ。
配管工の赤緑兄弟のレースゲームだって、身体ごと傾ければ曲がれる気がするし。
俺は身体を限界まで右に大きく傾けた。
その時、「女児のリズムゲーム」で使おうと思っていたお気に入りのドレスアップカードが、胸ポケットから床に落ちてしまった。
しかも運悪く、ツルツルに磨かれた床を滑るようにして、カードはレースゲームの下に入り込んでしまった!
「くぁwせdrftgyふじこlp・・・ゲームのカード落としたあああああああ!!!」
俺はレースどころではなくなり、誰かに助けを求めた。
さっき受付カウンターで、俺のカッコよさをコソコソ噂していたらしき店員がこちらにやってくる。
「お客さん、どうかしました?」
「ゲームのカードを落としたああああああ!この下に入ったあああああ!」
「そうですか。じゃあ取れませんね。諦めてください。」
「え!?だって俺の大事なゲームのカードが!!」
「いつもうるさいって他のお客さんからクレームが来てるんですよ。叫ばないでもらえません?また騒ぐなら出入り禁止にしますけど?勤務先に連絡したって良いですよ。電話番号教えてくれます?それとも、静かにしてくれますか?」
「あ、はい・・・。」
そんな!!
あのカードは特に希少価値が高いのに、助からないの!?
俺のカードが死んじまった!!
ウアァァァーーー!!
仕事が終わった私は一旦家に帰った後、おしゃれをしてカフェに出かけることにした。
私は明日からフリーよ♪
そして、おバカさんな夫のお金で"丁寧な暮らし"が始められるの♪
絵美と二人きりの、悠々自適な生活~♪
おほほほ♪
カフェの入口に立つと、皆が私を見て、モーゼの十戒のように道を開けてくれる。
そんな~、高貴そうに見えるからって譲らなくてもよろしくてよ?
私のコーディネートはパリコレモデルと同じってことかしら?
すぐ目の前にいる女の子なんて、感激してるのか手の平で顔を覆っている。
インスタグラムなんて一度もやったことが無いけど、これを機に始めてみようかしら?
おほほほ♪
私はレジの前に立つ。
「いらっしゃいませ!ご注文をお伺い致します!」
ちょっと。
せっかくイケメン店員さんに案内してもらえるチャンスなのに、なんで女店員なの?
後ろの「国宝級イケメン」みたいな爽やかなお兄さんと変わってくれないの~?
まあいい。
私が女店員と笑顔で話す姿をアピールすれば、きっと魅力的な女性だと思ってもらえるはず!
私は不満を押し殺しながらも、目の前の女店員に一から案内してもらう。
私は「良い食べっぷりの愛らしい女性」をアピールするため、フラペチーノと一緒にチーズケーキ、フルーツタルト、ガトーショコラも注文した。
私は注文が終わった後、一旦席を確保することにした。
え~っと、食べながらイケメン店員さんを拝めそうな特等席は・・・。
あ、最悪!
私が狙いを定めた席に、私よりも先に会計をしていた女性二人組が座ってしまった。
他の良い席も埋まっているため、仕方なく私は店内一番奥の、窓ガラス近くの席に座ることにした。
注文した商品が出来上がったようだ。
私がカウンターに行くと、色黒のワイルド系のイケメン店員さんが受け渡しをしてくれる。
私は、イケメン店員さんの手に触れるように商品を受け取った。
「どうも・・・ありがとお♪」
「ウ゛ェ゛ッ゛!?」
「え?」
「辻さん、どうしました?」
ちょっと、「ウエッ!」って何なの!?
辻と呼ばれる店員さんは、私の手を払いのけるように逃げた後、大急ぎで手を洗い始めた。
はぁ~?失礼な奴!
さすがに傷ついたんだけど!
まあ、この男は色が黒くて爽やかさが無いから私も好みじゃないし!!
他のイケメン店員さんに苛立ちを悟られないよう、私は毅然とした態度で席に戻る。
わぁ~!美味しそお~♪
店内が思ったより暑いため、私はフラペチーノをゴクゴク飲んだ。
ん~♪やっぱり甘いものって最っっ高!!
この美味しさに免じて、さっきの無礼な色黒のことは許してあげても良いかな。
私はまず、チーズケーキに手を伸ばす。
フォークでちまちま食べても美味しさがよく分からないから、私は手に取って口に運ぶ。
それに男は「小食アピールする女」よりも「食べっぷりの良い女」が好きって言うじゃん?
私は愛らしい小動物のように、微笑みながらチーズケーキを口に運ぶ。
食べて首を振る方が可愛く見えそうなので、私は若いタレントの真似をして首を振ってみる。
・・・ふ~ん、この程度か。
全国チェーンの大人気カフェだからスイーツはどんなものかと期待してたけど、全然大したことないじゃん。
これならスーパーで売ってる市販のケーキの方がよっぽど美味しいと思う。
あ~あ、高いから期待したけど損した。
やっぱり私は安くてたくさん食べられる市販のお菓子とかアイスの方が合ってる。
まあ、これも後で貰える予定の養育費の一部を使っただけだと思えば、全然痛くないわ!
それに、さっきから隣の席のスポーツマン風の男の子が私をチラチラ見てくる。
目の前の女性を「姉ちゃん」って呼んでたから、きっと姉弟なのだろう。
この男の子・・・悪くないかも。
私はチーズケーキを食べながら髪を耳にかけ、大人の色気をアピールしてみる。
* * *
この隣の席のおばさん、悪い意味でヤベェ。
チーズケーキをそのまま手に持ってかぶりついてる。
さっきからボブルヘッドみたいに首を振ってるけど、女の人が首を振る理由が俺には分からん。
っていうか・・・なんか臭いが・・・。
「姉ちゃん。」
「ん?なに?」
「ちょっとLINE開いて。」
「は?」
「お願い。」
「はいはい。」
さすがに言葉に出すのは申し訳ないので、俺は目の前の席に座る姉にLINEを送信した。
「隣の席のおばさん、なんか臭くない?部活終わりの俺の足の裏みたいな悪臭なんだけど。」
「おい!やめろ!食欲が失せる!言語化すんな!ワキガかもしれないじゃん!本人に悪気はないかもしれないからガマンしろ!」
「悪気がないにしても、周りに苦痛を与える臭いは"スメハラ"だろ!!」
「そうかもしれないけど、可哀想だからやめろって!カフェを利用するの初めてっぽいし、もしかしたら頑張って外に出てみようって思った"こどおば"かもしれないじゃん!」
「それはありえそう!"喪女"っぽいもん。服装と外見が。っていうか、あのファッション何!?洋服屋のおばあちゃんコーナーで買ったみたいな、あのデザイン何!?素材は高そうなのにめっちゃダサい!しかも髪はボサボサですっぴん!ハグリッドかと思った(笑)」
「(笑)この人にとってはおしゃれかもしれないからやめてあげて!きっとおしゃれかどうか指摘する人がいないんだよ!でも、チーズケーキを素手で食らいつくのはさすがにウケる(笑)素手はヤバイ(笑)」
「姉ちゃんもやっぱりそう思ってんじゃん!(笑)ちょうど窓際で食ってるから動物園っぽいというか、家畜みが・・・(笑)」
「やめて!!笑わせんな!!」
「姉ちゃんギャルだし、ギャルメイクとギャルファッション教えてやったら?」
「マジでやめろ!!!」
俺ら姉弟は「絶対に笑ってはいけないカフェ24時」を始めてしまい、まともにコーヒーが飲めなくなったので、店を出ることにした。
* * *
私はカフェでイケメン店員さんを吟味するも、さっき隣の席に座っていたスポーツマン風の男の子以外、誰も私のことを見ようとすらしなかった。
もぉ~、み~んな、照れ屋さんなんだからぁ~♪
今日はこのくらいにして帰るか。
また何度も通い続ければ反応が変わるかもしれないし!
私は家に帰り、すぐさまポテトチップスに手を伸ばした。
カフェのケーキは一つ一つが小さ過ぎたため、全然おなかに貯まらなかった。
さっき食べて来たのに、もうおなかが空き始めている。
ポテトチップスの袋を持ち上げ、そのままダイレクトに口に流し込む。
「あーこれこれ!!やっぱりポテトチップスは世界を救うのよ!!」
私はパーティーサイズのポテトチップスを食べながら、動画配信サイトでイケメンが主演のドラマを堪能した。
喉が渇いてきたので、冷蔵庫の2リットル入り炭酸ジュースを持って来る。
絵美は私との約束を破って勝手に出かけたんだから、ジュースはもうママのものよ!
そういえば、幸運なことに明日は休みだから、朝一で役所に書類を提出に行ける!!
絵美はおそらく今日の夜遅くに夫が連れて帰って来るだろうし、今日は夕飯も自由よね?
今日はさらにお菓子とジュースを買いに行って、夕食は宅配ピザにしよ~っと♪
ダイエットと"丁寧な暮らし"は明日からよ!
* * *
翌朝、月曜日。
なんで?どういうこと?
日曜日の夜も、今日月曜日の朝も、夫は絵美を連れて帰って来なかった。
そんなこと、あるわけない。
き、きっと・・・そうよ、夫は夜遅くに絵美を連れて来るのは絵美に悪いと思って、きっと今日はそのまま学校に送ってあげたんだと思う!
ふん、そこだけは気が利くのね!
そして、今日学校が終わると、絵美は私のもとに帰って来るのよ!
絶対そうに決まってる!
とにかく8時30分に役所が開館するので、私は記入済みの「重要書類」一式を持って身支度を急いだ。
これらを提出すれば、ついに私は自由なの!!
マイホームと養育費、絵美が手に入る~♪
* * *
サンセットの仕事とヒーローショーの仕事で疲れが溜まったのか、昨日僕はお昼過ぎまでぐっすり寝ていた。
その後、離れに泊まりに来た絵美ちゃんと絵美ちゃんパパと一緒にヒーローごっこで遊び、夜はパソコンを開いて遊んでたら、いつの間にか一日が終わってしまった。
寝て休んだり子供っぽく遊んで過ごしたり、緩急をつけることも社会人の大事なリフレッシュだから、これで良いのだ。
ずっと気を張ってると、いつか心が壊れちゃうからね。
僕は今日のシフト表を確認する。
今日の出勤は、赤山さん、杉田さん、前野さん、僕の四人のようだ。
今日は何の揚げ物を買って帰ろうかな♪
「皆さん、おはようございます!」
「松山君、おはよう。」
「おはよー。」
「来たわね、松山君。おはよう!今日も私を手伝ってちょうだい!」
杉田さんは、僕が作業場に入るや否や「手伝ってくれ」と頼んで来た。
おそらく絶交した前野さんが二度と手伝いに来ないと踏んで、すぐさま僕にお願いしたのだ。
杉田さんは人の手を借りないと仕事がおぼつかない老人だと自覚してから、ずいぶん素直になったものだ。
「はい!よく分かりませんが、分かりました!」
「分からないの?分かったの?どっちなのよ。あなたが何を言ってるのか私も分からないけど、とりあえずありがと。でも別にあんたを認めたわけでもないから、勘違いしないでよねっ!!」
「もちろんです!僕も杉田さんが改心しただなんて一切思ってませんから、大丈夫です!杉田さんの仕事の遅さは頭を抱えるレベルですが、仕事さえ円滑に進められるコミュニケーションさえ取ってくれれば、僕は満足です!」
「・・・相変わらずね。」
杉田さんはいつものように間が抜けたチンパンジーのようなキョトンとした顔をし、そのままご自分の仕事に入った。
そういえば、僕は赤山さんがやけに静かなことに気づく。
「赤山さん、どうしたんですか?いつもは奇声を上げたり赤面したりするのに、今日はやけに静かですね。大丈夫ですか?何かあったんですか?教えてください、赤山さん。」
「俺のカードが・・・。」
「カード?」
「俺の大事な、ドレスアップカードが・・・昨日、ゲーセンの機械と床の間に落ちちゃった!ゲームのカード落としちゃった!あ~落とした~!ゲームのカード落としちゃった~!」
赤山さんは突如、昔のネットミームを口にし始めた。
最近になって動画サイトで、生成AIによるMADみたいな楽曲が作られたのをたまたま再生したことがあり、僕もこのネタは知っている。
なかなかの神曲で、一度再生するとずっと聴いちゃうんだよな。
どうやら赤山さんは昨日ゲームセンターで遊んでいたようで、女児向けアーケードゲームのおしゃれカードを、特に希少価値の高いカードを落としたとか何とか言っている。
なぜ落としたのかと聞くと、胸ポケットにそのカードを入れた状態で遊んでいたそうだ。
アーケードレースゲームで身体を大きく傾けたからだと本人は語る。
「配管工の赤緑兄弟のレースゲームだって身体ごと倒せばカーブしやすくなる」などと供述している。
でも、僕には引っかかっていることがある。
「赤山さん、どうしてとても希少価値の高い大事なおしゃれカードを胸ポケットに入れていたんですか?本当に大事だと思っているなら、いつ折れ曲がるかも分からない、誰からスリに遭ってもおかしくない胸ポケットに、なぜ入れていたんですか?本当に大事に思っていたんですか?赤山さんは大事なものをぞんざいに扱う人なんですか?」
「ちょっつぉっ、違うよ!ぞんざいに扱うなんて、とんでもない!レースが終わったらすぐ遊ぼうと思って、スタンバってたんだよ!!」
「スタンバるにしても、赤山さんが身体を大きく傾けることは、赤山さんご自身が一番よく分かっているでしょう。だから落ちてしまったんですよ。だから取れなくなったんですよ。それに、配管工の赤緑兄弟のレースゲームでいくら自分の身体を傾けようが傾けまいが、カーブの精度に変化はありませんよ。それ、ゲームが下手な人あるあるだって知らないんですか?つまり、赤山さんはゲームが下手な自分を正当化しているだけです。」
「んんんに゛ゃ゛あ゛ーーー!!」
赤山さんは、猫のような言語で野太い奇声を上げる。
しかし、僕は間違ったことは言っていない。
そして、珍しく「本当の赤山さん」が僕に食って掛かる。
「はーーーーあ!?そんなことありませんけどー!?俺はゲームがとても上手いんですけどー!?俺は何十年ゲーセンに通ってると思ってるんですかー!?もうかれこれ20年近くですよー!!音ゲーだってレースゲームだってリズムゲームだって、最近通い始めた中高生・大学生と比べたら圧巻ですからー!!あなたとは違うんです!!それに俺は音ゲーで鍛えた足腰で鳥人間コンテストにも出場した経歴の持ち主ですからー!!」
「え?ゴミ人間コンテスト?」
「ぶほぉぉわぁぁっ・・・!違う!!と・り・に・ん・げ・ん・コンテスト!!誰がゴミ人間じゃーー!!」
なるほど。
どうやら赤山さんは、ご自身の趣味に関する話になると饒舌になるタイプのようだ。
そして僕が「赤山さんはゲームが下手」だと言ったことで、パンドラの箱が開いてしまったようだ。
それにしても「鳥人間コンテスト」だなんて、赤山さんは勇気があるんだなぁ~。
「赤山さん、すごいですね!鳥人間コンテストなんて!」(鳥人間コンテストって、鳥の仮装をした物真似の大会なんでしょ?!)
「おう!そうだよ俺はすごいんだよ!昔、バンド仲間と出場してテレビにも映ったんだ!ニュース番組にも映像が出されたことあるし!」(ロックなデザインの人力飛行機が話題になって、ニュースにも取り上げられたんだぞ!)
「へぇ~!それはすごいです!そりゃ話題になりますよ!!」(赤山さんってすごい!そりゃ、いつも動物の鳴き真似をやる人だもの!鳥の仮装で鳴き真似をしたら誰も勝てないよ!!)
「だろ!?なんだ、松山君も分かってるじゃないか~!」(松山君も俺の卓越した才能を理解したようだな!)
鳥人間コンテスト(鳥の仮装大会)に出場する勇気を褒めると、赤山さんはご機嫌になった。
「ゲームが下手」だと指摘されたことへの感情は、もう上書き保存されてしまったようで安心した。
* * *
相変わらず杉田さんと前野さんは、お互いの目も見ないほど心を閉ざし合っている。
でも、業務に必要な確認事項は他人礼儀ながらちゃんとやるようなので、そこは割り切れるんだな。
12時になったので、先に前野さんが退出した。
杉田さんは前野さんが出て行くのを確認すると、僕の方に向かって来た。
「あれ?杉田さん、定時になりましたよ?」
「松山君。いつも手伝ってくれてありがと。少しだけど、これあげるわ。ついでに赤山さんにもあげるわ。」
「杉田さん、ありがとうございます!」
「あ!"神田饅頭"だ!杉田さん、これってもしかして・・・。」
「そうよ、私の母方のお饅頭屋さんの看板商品よ。昨日、たまたま兄夫婦が東京から遊びに来たのよ。最近あなたたちは私の手伝いをしてくれるから、このまま何もお礼しないなんて恩知らずだからね!ちょっとしかないけど、良かったらお食べなさい!」
「やった~ありがとうございます!いただきます!」
「釘本さんにもあげたいんだけど、明日は白石さんも出勤だから渡しづらいわね・・・。」
どうやら杉田さんは、最近お弁当を手伝う赤山さん、釘本さん、僕の三人にだけお饅頭を渡したいようだ。
一歩間違えたら「お菓子外し」だけど、自分の悪口で盛り上がっていた前野さんや白石さんには、そりゃあげたくないよね。
「杉田さん、もし良かったら今日の仕事帰りに、僕が釘本さんに渡しておきましょうか?」
「あら、本当?助かるわ!」
「!?!?」
「でもあなた、釘本さんの連絡先は知ってるの?」
「はい!最近僕と釘本さんはLINE友達になったんです!でも、それ以上でもそれ以下でもありません。つまり、僕たちに恋愛感情は無いということです。そこは勘違いしないでください!」
「あら、そうなの。分かったわ。」(そういえばそんな話、誰かが言ってた気がするけど・・・忘れたわ。)
「釘本さんの分のお饅頭、僕がお預かりしますね!」
「悪いわね!お願い!でも、釘本さんの分まで食べないことよ!?」
「はい!僕は"人の分"と言われたものは食べずに約束を守るのでご安心を!」
「はいはい。じゃ、帰ります!赤山さん、松山君、お疲れさま!」
「お疲れさまでした!」
「お疲れさまでした・・・。」(恋愛感情が無くてもやりとりできるだけで羨ましいぜ・・・。)
さっき元気になったはずの赤山さんが再び萎れている。
忙しくて「構ってちゃんアピール」でもしてるのかな?
「赤山さん、この前教えていただいた容器の発注、今日は試しに僕がやってみても良いですか?」
「え?やってくれるの!?ありがとう!じゃあ、お願いしても良いかな!?」
「はい!やってみます!」
僕が発注にチャレンジしてみると言うなり、赤山さんは急に元気を取り戻した。
なんでなんで!?
おかしい・・・そんなこと、あるわけがない!
学校が終わる時間になっても、絵美は一向に帰って来ない。
も、もしかして、また公園に寄り道でもしてるのかしら?
全くもう!早く帰って来なさいよ!
そういえば、土曜日にあいつ(離婚届は提出したから、もう夫じゃない)と絵美がどこかへ泊りに行ってから、私は一度もあいつの部屋を見ていない。
もしかしたら、何か手がかりがあるかもしれない!
私は急いであいつの部屋を覗きに行く。
何もない部屋の床に、今朝私が提出に行った「重要書類」とは別の紙が落ちていた。
「な、なによ・・・これ!?」
その「警告書」には、このようなことが書いてあった。
【児童虐待の疑いおよび警告】
・娘(絵美)に対し、「殴る蹴る」などの脅迫および過度な行動制限の疑いあり
・父(和也)から証拠となる音声データを受理済み
・それに伴う娘(絵美)の発育不足の懸念
・母(仁美)への接近禁止令発令
・親権は父(和也)のものとし、娘(絵美)接近禁止令を守らなかった場合、さらなる法的処置を辞さない
令和〇年〇月〇日 代理弁護士 松山晃
私の今までの「教育」が「児童虐待」ですって!?
違う!そんなつもりじゃなかったの!
娘が・・・絵美が、私の言うことを利かないのが悪いの!
夫がちゃんとしないから悪いの!
私は悪くないの!!
「接近禁止令」と「親権」が信じられない私は、その警告書を握りつぶそうとした。
その時、下に隠れていたもう一枚の手紙の存在に気づいた。
「は・・・!?嘘よ嘘よ・・・嘘よぉぉーーーーーー!!」
その手紙には、こう書いてあった。
「仁美さんへ
こんにちは。白石和也さんの代理弁護士・松山晃と申します。和也さんからあなたのお話はよく聞かせていただきました。きっとあなたのことなので、これまでの重要書類や警告書の内容は"分かる部分しか"目に留めていないことでしょう!したがって、私があなたのために、これまでの内容を分かりやすくおまとめしました!
・マイホームは仁美さんのものです!(書類に書いてます)
・マイホームの所有権が仁美さんに移ったので、維持費や固定資産税も仁美さん負担です!(書類に書いてます)
・親権は和也さんのものです!(書類に書いてます)
・和也さんに親権を譲ることにより、養育費をあなたに渡す必要はないということです!(書類に書いてます)
・重要書類を全て提出したら、それはもう「二度と和也さんと絵美ちゃんには会えない、接触してはいけない」という約束がなされたということです!(書類に書いてます)
・もし絵美ちゃんの学校帰りなどを待ち伏せしたり、マイホームに連れて行こうとすることがあれば、ストーカー被害および誘拐事件として警察に報告させていただきます!(書類に書いてます)
以上
この説明で、分かりましたか?(笑)
全て重要書類に書いてあったのですが、もしかして気づかなかったなんて・・・さすがにありませんよね?気づかないまま役所に提出しましたなんてアホなこと、さすがにありませんよね?(笑)
この手紙を読んだらさすがに分かると思うので、あとはそれに従ってください!間違っても、今後一切絵美ちゃんに近づいてはいけませんからね!では、私からは以上です。
今後の生活費、一人で稼ぐのは大変だと思いますが、せいぜい頑張ってください! 代理弁護士・松山晃」
私はようやく、事の重大さを思い知らされた。
絵美は、帰って来ない。
お金も、入って来ない。
時短勤務じゃ、生活できない。
どうしようどうしよう!?
これから"丁寧な暮らし"が始められると思ってたのに!
赤山さんに・・・早川店長に・・・フルタイム勤務に変えてもらえるよう、相談しなきゃ・・・。
絵美を私に従わせられなくなる・・・。
嫌だぁーーー!!
誰か、私を助けてくれる救世主様はいないのぉーーー!?




