第十三話 デスゲーム
俺は驚愕した。
松山君と釘本さんが、連絡先を交換する仲だって!?
釘本さんへ密かに好意を寄せている俺は、まるで松山君に先を越されたようでショックを受けた。
でも、いつ、どこで、どうやって、どんな理由で連絡先を交換したのだ?
もしかして俺が事務所に行っている間に、二人は秘密のやりとりでもしていたのか・・・!?
悔しい悔しい悔しい、嘘だ嘘だ嘘だ・・・。
ンモワッ、トゥ、ヤン、ンムワァッー・・・!
歯茎を剥き出しにしたいくらい悔しいが、今はそれどころではない。
注文弁当につき、明日は全員出勤だ。
今朝のいざこざで、杉田のババアと前野さんは完全に対立してしまってるし、釘本さんと白石さんも分裂した。
俺は前野さんに"強制同盟(杉田から守って欲しいとの公約)"を結ばされていて、万が一二人のぶつかり合いが起きれば、俺は前野さんを守らなければならない。
そうなれば、杉田のババアは俺にまで噛み付いてくるに違いない。
明日はただでさえ忙しいのにっ!
注文弁当のせいで、俺は二時間早く出勤しなきゃいけないのにっ!
ドゥオウ、スレヴァ、イイン、ドゥワァー!!
私は、松山のLINEアカウントを友だち登録することにした。
松山からもらった、連絡先の紙に書かれている電話番号で検索をすると"剛優"というユーザーネームが出てくる。
"優"はおそらく松山優の"優"という意味なのだろうけど・・・"剛"って何だ?
"僕はメンタルが剛健過ぎる"って意味なのか?
まあいいか、とりあえず登録っと。
松山のアカウントを開く。
プロフィールの背景画像は、家族写真のようだ。
「2009年」という文字を編集で入れているようなので、17年前の写真なのだろう。
ということは、松山が6~7歳ぐらいだということか。
若い頃の松山父と松山母、ピースする幼少期の松山と・・・もう一人は、誰だ?
そこに写るもう一人の男の子は、中学生くらいだろうか。
雰囲気が松山一家に似ているものの、一人だけ高身長だ。
彼は松山と肩を組んで、同じようにピースしている。
いとこか親戚なのだろうか?
気になるが、今はそれどころではない。
私はすぐさまトーク画面に移り、「明日の注意事項」を、一応松山に教える。
「松山、お疲れさま。釘本かおりだよ。」
「釘本さん、お疲れさまです!釘本さんの下のお名前ってかおりさんだったんですね!記憶にございませんでした!ちなみに釘本さんは僕の下の名前を覚えていますか?僕の名前は松山優です。優と書いて"すぐる"と読みます!」
記憶にございませんでした!って、汚職がバレた政治家かよ。
それにこの男、「僕の名前は・・・」のテンプレートを何かにつけて使ってくる。
優と書くから、"ゆう君"だとよく間違われてきたんだろうな。
私はひらがなの分かりやすい名前だから間違えられることはないけど、特殊な読み方の漢字や「キラキラネーム」の人は、間違えられるとやはり悲しいのかな?
・・・いや待て待て、またこの男のペースに飲み込まれるところだった。
「松山の名前はすぐるだって、ちゃんと覚えてるよ。それより、明日のことだけど・・・。」
私はまず、仕事の大まかな流れについて松山に説明することにした。
「注文弁当の揚げ物が多くて赤山さんが二時間早く出勤すること」と「店出し商品も8時過ぎには取り掛かれるようにするため、松山と白石さん以外は30分早く出勤すること」は「松山には必要ない情報」だと思われるので、そこの説明は省く。
「明日は白身フライの広告なのでパックも忙しい」ことも、明日言えばいいか。
・朝10時にお客様が取りに来るため、出勤したらまずは注文弁当から取り掛かること
・注文弁当が多い場合は全員で取り掛かるため、松山も明日は参加すること
・松山は、今日仕込んだ小松菜やポテトサラダのカップをひたすら弁当箱に入れていく作業担当であること
・注文弁当を終わらせてから、いつも通りの業務に戻ること
これらについて説明すると、意外にも松山はすぐに理解してくれたようだ。
「釘本さん、分かりました!釘本さんの説明は丁寧で分かりやすいのでとても助かります!」
「ありがとう。それと、もう一つ相談というか何というか・・・。」
「え?どうしたんですか?教えてください、釘本さん。」
私は「杉田・前野の分裂問題」、「私・白石さんの分裂問題」によって、明日の仕事はいつにも増してギスギスする懸念と、杉田・前野がお互い闘争心をむき出しにする懸念を松山に相談してみることにした。
こんなどうでもいい弱音を、吐いても良いんだろうか・・・。
「なるほど、僕にはよく分かりません!でも、釘本さんは"いつも通り"仕事していいと思いますよ。」
「いつも通り、"カメレオン"で?」
「はい。でも、最終的にどう行動するか決定するのは、釘本さん本人です。相談した僕の意見を、必ずしも通さなくて良いんですよ。あくまでそれは"数ある選択肢の中から、たまたま相談相手が思いついた一部の答え"ってだけなので。"相談した相手がこう言ったからやったのに、こんな結果になった。あの人のせいだ!"なんて責任転嫁をする人も世の中にはいますが、最終的に選択したのは本人なので、巡り巡って自業自得だということです。まあそれは良いとして・・・仕事中、いつも感情的に行動するのは発情期のサルと同じだと僕は思いますが、"怒るべきこと"は怒った方が良いと思います。それでパワハラだの大げさだの被害者ヅラして騒ぐ人も世の中にはいますが、元はといえばその人が周りに嫌な思いをさせることが原因なんですから。一生懸命取り組んだ上でミスをした人を責め続けるのはいじめですが、自らの意思で周りに嫌がらせする人は痛い目に遭えばいいんですよ。それが会社の問題に発展することもありますが、そんな人間を野放しにしていた会社にも責任があるんだから、会社の問題として大ごとになってしまえばいいんですよ。」
松山は例の、"何を言ってるかよく分からないけど、なんか物事の核心を突いているような理詰め"で、私にアドバイスしてくれた。
そうだよな・・・最終的に意思決定するのは、誰でもなく私なんだ。
毒親に「親の言う通りにしなさい」「父の言うことに従って生きれば人生うまくいく」と「洗脳」されて育った私は、まだその力が乏しいのかもしれない。
考えれば考えるほど息が詰まり、明日が来ることが嫌になってしまうし、何かあるたびに毒親が頭をよぎり、もっと苦しくなってこの世から居なくなりたい衝動に駆られる。
でも死ぬ選択も怖いから、結局「死にたい」と言いながら生き残るんだけどね。
なんか、今日はもう考えたくないな。
たまには松山みたいに「私にはよく分かりません!」精神で乗り越えてみるか。
「ありがとう、松山。"明日のことは明日の自分が悩んで考えて選択する"ことにする。つまり、今日はもう明日の不安は考えないことにするよ。ごめんな、変な相談をして・・・。」
「いいえ、僕は何も有難く思われることは言ってませんよ!釘本さんの"明日は明日の風が吹く"という選択、とても良いですね!前日に悩みに悩んだものの杞憂に終わる場合もありますし!その選択、僕も応援しますよ!今日はゆっくり過ごしたり、たまには羽目を外して遊んだりしても良いと思います!本とかゲームなら僕の家に選びきれないほどたくさんありますから、借りたくなったらいつでも借りに来てください!僕ら家族は夜11時には寝るので、それまでなら今日借りに来てもいいですし!それと僕の母はお花が好きで、お花屋さんでアルバイトをしています。お庭にいくつかお花の鉢植えがあるので、いつでも遊びに来て良いですよ!」
「ありがとう。そう言われると、なんか助かるわ。そうしたくなったら、また連絡するね。」
「はい!お待ちしています!それと、LINEの時は感情を剝き出しにしても全然問題ないですよ!本音で話すことも"自立"です!それでは、おやすみなさい!」
・・・。
「明日仕事行きたくねぇぇー!!!じゃ、明日頑張ろうな!!おやすみ!!」
私は最後に感情剥き出しで返信し、LINEを終えた。
* * *
翌朝、僕は打刻をして作業場に向かう。
すると、僕と白石さん以外はもう出勤していて、お惣菜コーナーの廃棄商品の片づけや値引きなどを、杉田さん、前野さん、釘本さんで行っていた。
「皆さん、おはようございます!早いですね!」
「おはようございます。注文弁当を作っている間に開店時間が来てしまうと、前日の廃棄商品が店内に出しっ放しになるので、私たちは30分早く出勤して片付けをしていました。」
「・・・。」
「・・・。」
釘本さんだけが挨拶と返事をしてくれた。
杉田さんと前野さんは一言も喋らず、お互い不機嫌そうに片付けを行う。
どうして二人が睨み合っているのかよく分からないけど、僕はとりあえず作業場に入ることにした。
赤山さんは、まだ8時なのにたくさんの揚げ物を貯めていた。
8段カートに唐揚げのバットがたくさん並べられている。
「おはようございます!皆さん、もう出勤されているんですね!」
「おはよう、松山君!他の皆さんは30分早く出勤してもらって、廃棄商品の仕分け作業をしてもらってるよ。もうすぐ終わると思うから、それ次第注文弁当開始ね!俺なんて、今日は二時間も早く出勤して揚げ物を揚げているんだよ!それに加えて、今日に限って白身フライの売り出し日があるし、お昼には惣菜チーフ会議も入ってて・・・。」
「赤山さん、僕は"他の皆さんがもう出勤している話"をしているんです。赤山さんが二時間も早く出勤してるとか白身フライの売り出しとかチーフ会議がどうのこうのとかまで聞いてません!」
「・・・。」
赤山さんは、急に目をギュッとつむり、梅干しのような皺くちゃの顔になる。
揚げ物の湯気が目に入って辛いのかな?
それにしても、赤山さんは昨日から奇声を上げないから、なんか寂しいなぁ。
そうしていると、表で作業をしていた三人が作業場に戻って来た。
ほどなくして、いつものように7時59分頃白石さんがやって来た。
「おはようございます!すみません、今日も娘の体調があまり良くなくて!」
「白石さん、おはよう!」
「おはよー。」
「・・・おはようございます。」
釘本さんが珍しく、白石さんを視界にすら入れずに、取って付けたような挨拶を返す。
そして、突然杉田さんが火山のように大噴火した。
「来たわね、白石さん!この裏切り者!!いや、元々仲間なんてこれっぽっちも思ってなかったけどね!!」
「え・・・す、杉田さん?」
「あんた!私が帰って前野さんが代わりに出勤した日に、私の悪口で盛り上がってたんでしょ!?私が怖いとか、私が居ない方が仕事がしやすいなんて!!あんたも偉くなったわね~!!」
「!?ど、どうして!?」
「そこの松山君が教えてくれたのよ!松山君だって休みのはずなのに、なんで知ってるのかは知らないけど!前野さんも白石さんも、私の敵よ、敵!!親しくして来ないで!!」
なぜか白石さんと前野さんは、僕を睨みつけて来た。
なんで僕を見るの?
「み、皆さん!お願いです、落ち着いて下さい!!今から注文弁当に取り掛かりますから、それまででいいので、どうか穏便に!!」
赤山さんは珍しく奇声でその場しのぎをせず、感情的な懇願により場を落ち着かせる。
杉田さん、前野さん、白石さんは不服そうな顔だが、仕方なさそうに注文弁当の準備を始めた。
すると、作業場入口付近の作業台からお弁当の容器を並べ始めていた釘本さんに、白石さんが近づく。
作業場奥の赤山さん、冷蔵室から食材などを出し始める杉田さんと前野さんには聞こえない小声で、白石さんはこう続ける。
僕が近くにいることは気にも留めていないようだ。
「釘本さん、この前はその・・・松山さんの家からあなたが出てくるところを見てびっくりしちゃって、杉田さんたちに思わず言っちゃったんだけどね!悪気は無かったの!」
「・・・。」
「わ、私もお弁当の容器一緒に並べるよ?」
「あっち行って。」
「え?」
おや!?釘本さんの、ようすが・・・!
「だからあっち行けって。容器並べる程度の単純なことに手伝いは要らないだろ。私の軌道に立たれると流れが止まるんだけど。杉田さんか前野さんの作業を手伝えば?」
「・・・っ!」「!?」「!?」「っのぇっ!?」
おめでとう!カメレオン釘本さんはジャックナイフ釘本さんに進化した!
釘本さんの予想外の発言と声量と迫力に、白石さんに続いて杉田さん、前野さん、赤山さんも驚く。
不機嫌低音ボイスだから、余計にドスが効いている。
「だから邪魔だって。早くどけよ。時間泥棒。」
「・・・。」
釘本さんに拒絶され、邪魔者認定された白石さんは、絶望の顔で前野さんの手伝いに入った。
その様子を見ていた赤山さんが、ニワトリのような首の動きで、釘本さんと白石さんをそれぞれ二度見した。
* * *
赤山さんの指示で、それぞれの担当が決まる。
僕は小松菜のカップを容器上部のポケットに入れていく。
白石さんは杉田さんと釘本さんの顔をチラチラ気にしながら、ポテトサラダを僕と同じ手順で容器下部のポケットに入れていく。
釘本さんは千切りキャベツを少量、おかず用のポケットに敷いていく。
前野さんはキャベツの上にバランを敷きつつ、唐揚げを4個ずつ乗せていく。
杉田さんはご飯を200g広げていく。
ご飯を早い段階で入れるとカチカチになるため、本来は最後に入れるそうだが、杉田さんは「前野さんが唐揚げを置けるようにバランを敷いてあげる」のが嫌だからと、ご飯を早くから入れ始めたそうだ。
赤山さんは「広告の白身フライまで揚げなきゃいけない」「何かの手違いでチーフ会議が中止になれば良いのに」などとぼやきながら、一人フライヤーと戦っている。
そんな中、杉田さんと前野さんはまるで競争でもしているかのように、今にもお互いを肘で押し退けそうな迫力で我先にと作業を行う。
「あら~?唐揚げはまだ入れ終わらないのかしら~?私はもうご飯を入れ始めてるのに!」
「赤山さーん!ご飯ってこんなにも早くから入れたら、固くなりますよねー?なんでもう入れ始めてるんだろー?タイミングってものがあるのにねー!」
二人は睨み合う。
お互いに誰も取りかかっていないところから食材を入れていけばいいのに、わざわざお互いがいるところから入れていこうと、お互い邪魔をしている。
と、その時。
ガッシャーーーーン!!
唐揚げのたくさん入ったバットが、ひっくり返っちゃった!!
ああー、唐揚げがもったいない!!
作業場が静寂に包まれる。
赤山さんが頭を抱えてしゃがみこむ。
「やったわね、前野さん!あ~あ、弁償かしら~?」
「違います!赤山さーん!さっきから杉田さんが妨害行為をして来るから、ぶつかったに違いありませーん!」
「・・・もう、お願いです、落ち着いて・・・。静かに仕事したいです!どうして私は、いつもこんな目に遭うのっ!?」
杉田さんは前野さんの過失だと言い張るし、前野さんは杉田さんの妨害行為を訴えるし、なぜか白石さんは関係ないのに「悲劇のヒロイン」の立ち振舞いで泣き出し、作業場はてんやわんやしている。
僕には引っかかることが多すぎて、頭が追いつかないよ!
このデスゲーム、どう片付けたら・・・。
「っくぉrrrrらあああーーー!!いい加減にしろクソババアどもがあー!!俺が二時間早く出勤して作った手作り唐揚げがあーー!!食品をムダにしてまで争ってんじゃねえー!!ニワトリの気持ちも考えろおー!!コ゛ケ゛コ゛ッ゛コ゛ー゛!!」
おめでとう!言い逃れ赤山さんは罵詈雑言赤山さんに進化した!
そして、僕が待ち望んでいた奇声も復活した!
「でも赤山さーん!邪魔をしてきたのは杉田さんですよー!」
「いいや!バットの近くにいたのはあなたでしょ?だからあなたが落としたに決まってる!」
「もう二人ともぉっ!お願いだから争わないでっ!」
「お前らうるせええーー!!白石は悲劇のヒロインぶってんじゃねえー!!そして杉田のババアも前野も同罪だろがあーー!!責任から逃げるなあー!!逃げるな卑怯者ーー!!」
ん?卑怯者?
僕の中で引っかかったことがあるので、赤山さんが息継ぎをしたタイミングで指摘してみる。
「赤山さん!いつも言い逃れという卑怯なことをしてるのは、赤山さんも同じですよ!卑怯者という言葉を使うなら、赤山さんは二度と大声でその場しのぎしないでください!それと"逃げるな卑怯者ーー!!"って、炭治郎の真似ですか?あんまり似てないですね。赤山さんは動物の鳴き真似の方が似合います!」
「うるせえー!!松山のクソガキがああーー!!」
僕が赤山さんの普段の言い逃れを指摘すると、赤山さんは噴火レベル5で、大噴火した。
* * *
焦土と化した作業場。
その時、フライヤーに揚げ物を落とす音が聞こえた。
「くあっ?釘本すぅわん?」
「手作り唐揚げがダメでも、いつも店出しに使ってる冷凍唐揚げで代替えできそうだから、これでカタをつけるぞ、赤山さん。残念ながら次の納品日まで、店出し分の唐揚げは数を減らさないと足りねぇけどよ。」
「へぅ?」
「客が手作りを望んでるなら、事情を話して全員で土下座でもして、落とし前つけりゃあいい。でも客から手作りの指定がなくて赤山さんの独断で手作りしてたなら、残念だが不要な気遣いだったな。」
「んみゃ・・・。」
「お前ら。感情に飲み込まれるな。機械に成りきれ。」
「へぁ?」
「へぁ?じゃねぇよ。仕事に感情を持ち込んだ時点で負けだ。杉田はクソ、前野はゲス、白石はアホ、赤山はカス、松山はバカ。そして私はクズだ。この職場にまともなヤツなんて一人もいねぇんだよ。同じ穴の狢ってやつな。お前ら、手ぇ止めんな。客が来るまでに間に合わなくなっても良いのか?」
釘本さんは、僕の代わりに「釘本式・謎理論」でその場を鎮圧させた。
言葉遣いの汚さと落ち着いた迫力が、どことなく任侠ゲームのキャラクターみたいでカッコイイ。
釘本さんってすごいや!
「コ゛ケ゛コ゛ッ゛コ゛ー゛!!」
惣菜部門の作業場から、山ちゃんの奇声が壁を貫通してお惣菜コーナー周辺に響き渡る。
すぐ近くのパンコーナーで商品管理をしていた俺は、「これはトラブルに違いない!」と勘づき、急いで自分の仕事を終わらせた後、惣菜部門を覗きに行く。
俺は、従業員に翻弄されて奇声を上げる山ちゃんが滑稽に見えて面白いため、「赤山新喜劇」だと思って楽しみにしている。
惣菜部門をこっそり覗き込むと、杉田さん、前野さん、白石さんの三人が床掃除をしており、山ちゃんは死んだ顔でフライヤーの作業、釘本さんと松山君は注文弁当の作業を行っていた。
なになに?何で三人は床掃除をしてるの?
俺は興奮する気持ちを押さえながら、「店長が注文弁当の進捗状況を見に来た」テイで作業場に入る。
「皆さん、お疲れさまです!あれ?今日は注文弁当の日ですよね?お三方は床掃除をして・・・どうかされたんですか?」
「あら、店長!お疲れさまです!申し訳ありません!!前野さんが注文弁当用の唐揚げを床にぶちまけちゃって!作り直しになったんですよ!」
「違いますー!店長、杉田さんが私の作業を邪魔して来たから落ちたんですー!」
二人のそれぞれの言い分を聞いてみると、どうやらお互いに「私の方が格上!」と言わんばかりに押し合い圧し合い仕事を進めたことで、唐揚げのバットにどちらかがぶつかってしまったらしい。
くっそぉ~!リアルタイムで見たかった~!
「それより店長!赤山さんったら、私のことをクソババア呼ばわりしたんですよ!?酷いと思いませんか!?パワハラよ!パ・ワ・ハ・ラ!」
「んっねぁ!っつぉわっ!!」
「店長ー!そんなことより、床に落ちた唐揚げ分の代金は、私の作業を妨害してきた杉田さんが払うべきですよねー!?」
「て、店長・・・私、もうストレスの限界です~。どうして私ばかりこんな目に遭わなきゃいけないんですか?」
あ~、うるさいうるさい。
園児じゃないんだから、一人ずつ喋れよ。
ガキがそのまま年だけ重ねたみたいな人たちだな。
それにしても、山ちゃんはついに杉田さんにクソババアって言えたんだね!
本当は俺もそのシーン見たかったけど、残念だ!
でも、杉田さんがそう言われた事実を知っただけでも、何か清々するわ~!
「皆さん!落ち着いて~!唐揚げの代金は業務上の出来事として、何とかこちらで始末書を書くので気にしないでくださ~い!それと、お互いもっと思いやりを持って、穏便に、お仕事しましょうね~!ほ~ら、白石さんも泣かない泣かな~い!忙しそうだから、俺も今から手伝いますから~!杉田さんも元気出して~!あなたの力が必要なんです~!」
「あら!店長も手伝ってくれるの?!分かったわ!私も気持ちを切り替えて頑張るわ!!」
「・・・。」
前野さんは「公約を結んだのに・・・」と言わんばかりに不満な顔で俺を見つめるけど、ここはどうにか察してくれ。
杉田さんを持ち上げとけば、とりあえずなんとかなるんだって!
「前野さんも、唐揚げが落ちた時に火傷などしませんでしたか~?いつも前野さんが頑張ってるのは俺も分かってますから~!さあ!気持ちを切り替えて頑張りましょ~!」
「・・・はーい。」
「白石さんも泣き止んだ~?大丈夫大丈夫~!」
「っくすん。はい、私も、作業に戻ります。」
やれやれ。
手のかかる人たちばかりで、山ちゃんはよくやってるよ。
それより、松山君は今日、やけに大人しいな。
「釘本さんと松山君も、ケガには気をつけて仕事してくださいね~?」
「はい。」
「僕はそもそも仕事中、俊敏に動き回ることができないので、ケガをすることは無いに等しいと思います!僕たちの心配はしなくて大丈夫なので、杉田さんと前野さんの"ぶつかり合い"を、今日は店長が監視していてください!これ以上唐揚げがひっくり返ったら、本当に足りなくなります!」
「あははっ!了~解~!」
やっぱり松山君は通常運転だった。
その後、なんとか注文弁当を完成させることができた。
俺は、詳しい話を夕方の仕事終わりに山ちゃんに聞くことにし、作業場を後にした。




