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第十二話 分裂

俺は落ち着くまで泣き叫んだ後、事務所に向かった。

松山君に言われた、杉田のババアの"辞める辞める詐欺対策"のためだ。

現に俺は、今日もシフトの組み直しがようやく終わろうとしていた頃、杉田本人から「辞めることを辞める」と宣言され、努力を踏みにじられたような嫌な気持ちになったからだ。


「赤山さんがせっかく頑張って杉田さん離脱後のシフトを組み直してたのに、労力と時間が水の泡じゃないですか。その労力と時間を使わせた赤山さんへの謝罪はないんですか?人材管理だって大変な仕事なんですよ?振り回される赤山さんの身にもなってください!これ以上赤山さんの仕事を増やさないでください!」


誰も気にも留めてくれない「シフトの作り直しという労力」を、まさかポンコツの松山君が見ててくれたなんて・・・。

思いがけない彼の優しさに、俺はちょっとウルッと来てしまった。

しかし、俺の仕事を増やしているのはポンコツ松山君も同じだろうが!

・・・と突っ込みたいところだが、俺はウルッと来たどころかその後大泣きしてしまった。


「むしろ赤山さんは激昂しても良いと思うんですよね。それは決して"ハラスメント"ではありません。"正当なお叱り"であり"他の従業員を守るための正当防衛"ですから。」


「正当な叱り」か・・・。

俺はかつて、家庭内のうっ憤を部下に「理不尽な怒り」として八つ当たりした挙句、元妻との離婚の際に「こちらが加害者」だと判断されてしまった。

あの時の俺は、やはりどうかしていたのかもしれない。

しかし、「正当な叱り」であっても、今の時代は「ハラスメント問題」にうるさいため、うかつに声を上げられない。


「杉田さんみたいな人こそ"野放しにされたハラスメント人間"なんですから」

「赤山さんに不当な待遇を会社側がするのであれば、会社の根っこが腐っている証拠です。出るところに出ても良いと思いますし、それで圧力を掛けられるのなら、いっそ逃げ出してもいいんじゃないですか?」

「たとえ"赤山チーフ"であっても"赤山さんという一人の人間"であることにも間違いありません。ご自身が壊れてしまう前に、逃げ出してもいいんですよ。」


野放しにされたハラスメント人間。

会社の根っこが腐っている。

いっそ逃げ出す。


赤山さんという一人の人間。


人間扱いされたのって、いつぶりだろうか・・・。

そう考えながら、俺は事務所に到着した。


「山ちゃん、お疲れ~!」

「店長、実はですね・・・。」


俺は、杉田のババアの"辞める辞める詐欺対策"について店長に説明した。


「いいじゃん、それ!松山君って普段はポンコツ王子なのに、今回はなかなか良い意見を出したね!」

「随分と嬉しそうですね、店長。もしかして自分が提案しなきゃいけないことを、松山君が代弁してくれたから喜んでるんじゃないですか?」

「え~?分かっちゃった~?だって社長とか人事部の人とか、頭でっかちだから俺が意見出しても全然聞いてくれないもん!パートの人が言ったことは比較的受け入れてくれるのに。だから、松山君が提案したって伝えれば承認してくれるかもしれないよ。それに、自分が言わなきゃいけないことを松山君に代弁してもらって喜んでるのは、山ちゃんも同じでしょ~?」

「・・・sぇjぐrぉい!?」

「あ、図星だね!山ちゃんって図星を突かれるといつも宇宙語を話すもんね。付き合いの長い俺には全部お見通しだよ!」

「っんむぁ、はい。そうです、図星です。そして今日、松山君にもそこを指摘されました。」

「え!?あのポンコツ王子が、山ちゃんの卑怯な、言い逃れのための、宇宙語に気づいてたんだ!」

「卑怯な言い逃れって言い方やめてくださいよ!」

「ぶふふっ!ごめんごめん、とにかく話を次の店長会議で伝えてみるよ。じゃあ俺は明日休みだから、勝手に問題起こさないでよね。俺だって杉田さんのブチギレシーンが見たいんだから、問題を起こすなら俺が居るときにして、すぐに呼んでよね!」

「・・・はい。」


店長は仲の良い上司だし大らかな性格だから、気質は好きである。

しかし、惣菜部門内での問題を見世物だと思って第三者として楽しむ姿は腹立たしい!

くそっ!今週の四連勤が終わったら、俺はまた、この怒りを、サウンドに変えてやる!!


・・・と言いたいところだが、今週はやめておこう。

実際、最近喉の調子があまり良くないのだ。

喉の奥に何かが詰まっているような感じがするというか、呼吸をしているとヒューヒューと音が鳴っている気がするのだ。

俺は、ストレス発散ができる別の方法を見つけた方が良いのかもしれない。


* * *


"僕"は帰宅すると、"俺"に気持ちを切り替える。


杉田はとんでもない怪物だ。

彼女がいる限り、サンセットの「惣菜部門の劣悪な人間関係」を改善させるのは至難の業だろう。

また、彼女だけではない。

前野、白石、赤山さんにもそれなりに問題がある。

"俺"が一番心配な釘本さんにも課題はたくさんあるようだが、一歩一歩着実に成長が伺える。


言いたいことをいつも我慢して自分を犠牲にしがちな赤山さんも少し心配だ。

「言いたいことが言えない赤山さん」と「言いたい放題の杉田」を比較すると、その差は歴然だ。

後者はいつだって「不満を排出」しているため、たとえ頭に血が上ってもすぐに落ち着くが、前者は正反対である。


特に、彼はストレス値が上がると赤面し、大声(奇声)を上げることで溜め込んだストレスを発散しているようだが、急性声帯炎や声帯ポリープなどの物理的病気の懸念に加え、間欠性爆発性障害や適応障害などの精神的病気の懸念さえある。


"俺"のやり方はあっているのだろうか?

"俺"が「ポンコツ」を演じることで、かえって彼を苦しめていたら元も子もない。

彼の特徴をもう少し観察し、釘本さん同様に「最も適した方法で救い出す」手立てを見つけ出したい。

翌朝。

"俺"は"僕"に気持ちを切り替える。


昨日は杉田さんの"辞める辞める詐欺"のせいでとても疲れた。

赤山さんもすごい人だなぁ。

飢餓状態の野生の肉食獣みたいな杉田さんを部下に持つなんて、毎日大変だろうなぁ。


今日のシフトは、どうなるんだっけ?

昨日帰る時に聞きそびれちゃった。

以前もらったシフトでは、赤山さん、前野さん、釘本さん、僕が出勤になってるけど・・・。

昨日出勤だったはずの杉田さんがボイコットし、代わりに前野さんが出てきたから、今日は杉田さん?

まあ、僕はどちらでも構わない。


* * *


「おはようございます!」

「松山君、おはよう!」

「おはよー。」

「おはようございます。」


僕が作業場に入ると、そこにいたのは赤山さん、前野さん、釘本さんだった。

どうやら従来のシフト通り、前野さんが出勤のままのようだった。


「赤山さん、杉田さんは昨日"私は明日からまた頑張るから、どうぞよろしく!"って言ってましたけど、今日は結局休みにしたんですね!」

「うん。少し落ち着いてもらおうと思って、松山君が帰った後に俺から杉田さんに連絡したんだ。」

「え!?杉田さん、昨日は"辞めます"って言って、仕事せずに帰ったでしょー?お昼からまた来たんですかー?」


前野さんは何時になく動揺した様子で赤山さんに質問した。


「そうなんですよ。夕方、俺がせっかく"杉田さんが辞めた場合のシフト"を作り直してたのに、作り終わるタイミングで杉田さんが作業場に入って来てですよ、"辞めることを辞めるわ!"ですって。もうこれで何回目なんでしょうね。」

「え・・・結局、杉田さんは、続けるってことですか。」


僕が入口で手を洗っていると、二人はそうやり取りをする。

それから赤山さんは「シフトが!シフト作りがですね!」と前野さんに聞いて欲しそうに話しかけるものの、前野さんは前野さんで「私は杉田さんに、もう限界なら辞めた方が良いって説得してー!今後はご家族と一緒に過ごした方が良いと思うって言ったんですけどー!」と、違う愚痴をこぼし出す。

お互いの意見を聞かず、お互いの言いたいことをぶつけ合っている。

これじゃあ会話のドッジボールだよ!


(ねえ、松山。杉田の話ってどういうこと?)

(あ、そうか、釘本さんは知らないですよね。実はですね・・・。)


釘本さんは「カメレオン」に扮しつつ、「本当の釘本さん」として隠密行動で僕に問いかけてくる。

赤山さんたちは会話のドッジボールを続けることに夢中の様子なので、僕は釘本さんにざっくりとキーワードだけを伝えてみる。

釘本さんはおそらく「本当の釘本さん」を悟られたくないはずだ。

赤山さんと前野さんが話を切り上げる前に伝えなくては!


(杉田さん、朝、辞める宣言、帰る、夕方、辞める辞める詐欺、シフト変更なし。)

(え、またかよ!)


いつも的確な言葉で仕事を教えてくれる釘本さんは、さすがだ。

僕がキーワードを掻い摘んで伝えただけなのに、状況を悟ったようだ。

僕らが状況を共有し、解散直後に赤山さんたちもそれぞれの持ち場に戻る。

危な~い!隠密成功だ!


* * *


11時頃。

誰かが作業場入口の扉を開ける音が聞こえる。


「赤山さん、お疲れさま!前野さんは来てるかしら!?」

「すぁっ!?」「杉田さん!どうしたのー?」

「どうしたのー?じゃないわよ!この裏切り者が!!あんた、昨日は白石さんと共謀して私の悪口を言ってたんでしょ!昨日の夕方、松山君に聞いたわよ!」

「えっ!?」「ッシェー!?」「!?」


三人はそれぞれ驚いて、僕の方を見てくる。

なんで僕を見るの?


「あんたと白石さんで私のことを怖いだの、苦手だの、私が居なくなったら仕事しやすくなるだの言ってたんでしょ!!私をバカにしてどうなるか分かってるの!?」

「ちょっと、松山君!なんでそんなことバラしたのよ!?」


前野さんは、僕が事実を杉田さんに教えたことにお怒りのようだ。

でも、僕には引っかかっていることがある。


「前野さんはどうして僕に怒るんですか。昨日前野さんと白石さんは、周りに聞かれても良い声の大きさで杉田さんの悪口を言っていたじゃないですか。周りに聞こえる声で発した言葉というのは、それ相当の責任を伴うのです。言葉というものはそれだけ"重い責任"があるものだと、道徳の授業で習いませんでしたか?それに僕は"言わないでと言われたら言わない約束"を守ります。前野さんは昨日、そんな約束はしませんでしたよね?僕は"言わないで"と口止めされないことは言って良いと認識しています。というより、元々杉田さんの悪口を言い放った前野さんの自業自得なのではないですか?それに前野さんは、普段から"杉田さんが今日も暴れて、止めるのが大変なのー!"って他の部門の人にまで言いふらしまくってるじゃないですか。自分がやってることは棚に上げて、僕を責めるんですか?」

「は、はぁー!?!?」


前野さんは珍しく感情的になっているが、僕は間違ったことは言っていない。


「言葉は、贈り物にもなれば、凶器にもなります。責任や重みも考えずに相手の悪口を言って、もし相手が死ぬようなことがあった時、その責任はどう果たすんですか?前野さんは"私は関係ない"なんて言うんですか?前野さんは"私はそんなつもりで言ってない"と自分を正当化するおつもりですか?"言葉を発した側の軽い気持ち"と"言葉を受け取った側の重い気持ち"に大きな差があると分からないんですか?"こちらが軽い気持ちで言ったら相手も軽い冗談として受け取ってくれる"なんて単純なものではないんですよ。57年も生きてるのに、一体人生で何を学んで来たんですか?」

「・・・。」

「ほら見なさい!いい気味よ!!」


前野さんは下唇を噛み締めながら僕を睨みつけてくる。

杉田さんはなぜか得意げな顔をしている。


「杉田さん、僕は前野さんにだけではなく、あなたにも言っているのですよ。72年も生きていて、道徳を何一つ身に着けていないなんて・・・あ、杉田さんは世代が世代なので、もしかして学校にすら行ってないんですっけ?そうだったら、ごめんなさい!それとも、道徳心をも忘れるほど前頭前野が衰退したのでしょうか?今後の仕事がますます心配になります!」

「・・・ッキ゛ーーーッ!」


杉田さんは猫の威嚇のような顔で、汚いリップノイズを発する。

赤山さんはというと、いつも通り赤面してるものの、今日は奇声を上げる気配がない。


「それにしても、杉田さんと前野さんはかなり長い付き合いに見えますが、ついに友情が崩壊したんですね。杉田さん、そんなに落ち込む必要はありません。人間関係にも"賞味期限"は存在します。あなたと前野さんの関係は、これまではお互いに"独裁と追従"というメリットがあったから保たれていました。でも、期限が切れたんです。腐敗した関係を無理に続けようとすれば、お互いに毒が回るだけです。」


杉田さんは唇をわなわなさせながら、何も言わない。


「前野さんも、自分の保身のために"賞味期限"ギリギリまで杉田さんを利用したんですから、今さら被害者ぶるのは論理的ではありませんよ。賞味期限が切れた関係を、不法投棄するように捨てる。 そして裏でこっそり画策して"賞味期限の新しい関係"を手に入れ、得意げに携える。それがあなたにとっての"トップの座"・・・つまり、杉田さんのポジションを奪い取るための作戦だったのですね!」


前野さんはこちらを睨み付けながら、何も言わない。


ふと、僕はまだ業務が残っていることを思い出す。

さっさと話を切り上げて、仕事に戻らなきゃ!


「しかし、たとえ前野さんが"トップの座"に成り上がったところで、結局状況は変わりませんよ。お二人は『動物農場』という本を読んだことがありますか?人間という支配者(飼い主)を農場の動物たちが追い出し、一時は"自由"を手に入れたかのように思えますが、やがて"次の知能の高い者"が力を持ち、最終的に人間の代わりに豚が支配者として成り上がり、他の動物が奴隷のように扱われる。結局何一つ状況が変わらないという内容です。旧ソ連のスターリンの独裁政権を基にした社会風刺作品ですよ。杉田さんと前野さんがやっていることは"トップの争い"ではなく"底辺の背比べ"にしか見えませんが、傾向はよく似ていると思います。前野さん、それでもあなたは"成り上がりの豚"になりたいですか?気になるならお二人も一度本を読まれてみてはいかがでしょうか?・・・それよりも、仕事がまだ残っているので、早く取りかかりましょう!前野さん、12時までに終われそうですか?」

「・・・。」


前野さんは何も言わないが、物に強く当たりながら作業を再開させた。

全くもう、物だって道具として「生きてる」んだから、ぞんざいに扱っちゃダメだよ。

ケガでもしたらどうするのさ!


赤山さんはいつもなら何らかの奇声を上げるはずなのに、今日は珍しく大人しい。

今日は声帯を休める日なのかな?


釘本さんは相変わらず「カメレオン」だが、よく見ると密かに目が笑っている。

三日月目のような、まりもっこりのような目だ。

そういえば、まりもっこりって今も活躍してるのかな?


しんとしたままそれぞれが仕事に戻ったため、入口にいる杉田さんは放置されている。

いつもならわめき散らかすはずなのに、前野さんが加担してくれる見込みがないからか、萎れている。


「じゃ、赤山さん。私は帰ります。明日は忙しい日だから全員出勤よね。お疲れさまでした。」

「は、はい。杉田さん、お疲れさまでした!」


この短時間で、杉田さんは一気に老け込んだ気がする。

お魚の煮干しみたいに縮こまった背中を僕らは見送る。

それより、明日って忙しいの?


「赤山さん、明日って忙しいんですか?全員出勤なんですか?」

「あ、松山君にはまだ言ってなかったね!実は明日、注文弁当の予約が100個分入ってるんだよ。近くの消防団が訓練を行う日らしくて、唐揚げ弁当100個分の注文なんだよね!」

「へぇ~!そういうこともやるんですね!」


赤山さんによると、時々地元の団体がお弁当を予約するらしい。

食材や包材の発注の関係で、受付は基本2日前までしか承らないそうだが、少人数の予約かつ材料が足りそうな場合は、前日まで受付OKにしているらしい。

電話予約の時は一旦保留か折り返し対応にし、赤山さんか釘本さんに材料を確認してもらってからお客様に返答するとか、店長やサービスカウンター担当にも伝えないといけないとか、赤山さんは一気に説明しようとまくし立てて来る。


「赤山さん、ちょっと待ってください!僕は"忙しさと全員出勤についてだけ"質問しました。別に発注方法とか食材がどうのこうのとかまでは聞いてません!"相手が必要としていない情報"まで教えようとしても、相手は困るんですよ。情報を取捨選択してから説明してください!」

「っんぇえ?!」

「赤山さん。松山さんはまだ新人で環境に慣れていません。分からないことだらけ、覚えることだらけでいっぱいいっぱいだと思います。少しずつ基礎を身につけた後で、余裕ができたら応用編を教えましょう。」

「く、釘本さんまで!・・・分かったよ。松山君、ええと・・・明日は忙しい、それと全員出勤です、はい。」

「なるほど!分かりました!」


専門知識を一方的にぶつけてくる赤山さんを釘本さんが静止してくれたおかげで、僕は「必要な情報」をようやく理解することができた。


そして12時になる。


「じゃあ帰りまーす。お疲れさまでしたー。」

「前野さん、お疲れさまでした!」

「お疲れさまです。」

「お疲れさまです!」


フルタイム組の僕ら三人は、前野さんの後ろ姿を見送った。

お昼休憩の後、明日の注文弁当に向けて、釘本さんと一緒に仕込みを行うことになった。

夕方のタイムサービス用の揚げ物は、赤山さんが揚げ物をしながらパックも並行するらしい。

揚げ物がフライヤーに入ってる間にパックをやるなんて、職人みたいでカッコイイや!


僕らがやるのは、小松菜とポテトサラダをそれぞれ100個カップに小分けする作業だ。

小松菜はカップ半分くらいの高さ、ポテトサラダは小さじ一杯分を入れるらしい。


これらは、業務用の大袋に入ったものを使用する。

こっちのポテトサラダはキットのように混ぜる必要がないので楽だ。

小松菜は袋の上を横一線にハサミで切り、ポリエチレン手袋を付けた手で摘み取る。

ポテトサラダは一角を小さく斜めにハサミで切り、ホイップクリームのように絞り出す。


「松山さん、ポテトサラダは1カップ目だけ小さじを使って一杯分小分けにしてください。あとは、1カップ目の真似をしながら入れれば、だいたい同じ量になります。」

「なるほど、賢いやり方ですね!・・・それにしても、何か前より副菜の量が減りましたか?サンセットで働く前はもっとたくさん入ってた気がするのですが・・・。」

「はい。物価高の影響で、副菜を少し減らすことになったんです。食品問屋から発注するにも結構高いんですよ。」

「そういう背景があるんですね!」


物価高により正味量が減るのは、お菓子業界だけではないようだ。

僕としては、多少高くなっても良いから量を減らして欲しくない。


「赤山さんが以前周知したんですけど、杉田さんは"長年のやり方"を変えたくないらしく、未だにカップに盛り盛り入れようとします。そのせいで、ポテトサラダがすぐに無くなって困るんですよね。ポテトサラダは自動納品で、納品日と個数を変更できないのでたまに足りなくなるんですよ。今日は運良く注文弁当分が残ってたので良かったです。」


そうなんだ。

昨日は杉田さんがボイコットし、代わりに前野さんがお弁当担当に入ったから、前野さんが上手に量を調整したのかな?


* * *


17時になった。

作業場を出る準備をしていると、ふいに釘本さんが話しかけてきた。


「松山さん、今日仕事が終わった後、暇ですか?」

「え?はい、僕はいつでも暇です。趣味と"研究"に没頭するという意味では忙しいですが、それ以外にスケジュールが入ることはほぼありません!」

「・・・今日、LINEして良いですか?この前紙でもらった連絡先の、電話番号をLINEで検索したら"剛優"って出てきたんですけど・・・あれ、松山さんので間違いないですか?」

「はい、僕ので間違いないです!ご連絡、良いですよ。ただ僕は夜11時に寝るので、時間になったら既読でもスルーします!」

「分かりました。打刻して車に戻ったら"友だち"に追加するので、後で確認をお願いします。」

「分かりました!やった~!両親以外では二人目の"友だち"です!」

「!?!?」


赤山さんは揚げ物のパックをしながら、シベリアンハスキーが目をかっぴらいたような驚愕の表情を見せる。

どうしたんだろう?赤山さんも友だち登録数が少ないのかな?


僕と釘本さんは作業場を後にした。

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