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【完結】断罪追放された悪役令嬢、辺境の村で第二の人生始めます~こんなお人よしだらけの村を守れるのは極悪人の私しかいませんわ~  作者: ぶしのぶ


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第6話 vs.勉強

 私がヒエメ村に来て、今日で二週間がすぎた。


 私はすっかりシュベルトさんの家の居候(いそうろう)が板についていて、一家も私を歓迎してくれている。朝晩みんなと一緒に母屋で食事をとり、夜は子どもたちにまみれて馬小屋で眠った。


 大人たちが畑で働いている昼間に四人の子どもたちの遊び相手をするのが私の主な役割だったけれど、最近では簡単な読み書きや計算を教えてとても喜ばれている。


「この村には学校がないのね」


 私自身は科目ごとに専任の家庭教師がついて学んでいたが、王都の一般市民の子どもたちは確か学校に通っていたはずだ。庭で摘んだハーブを煮出した朝食後のお茶を飲みながら私がふと問いかけると、ネネさんは膝に乗せたリリーの髪を編みながら苦笑する。


「この村には教えられる人ばおらんきね。じっちゃ……アタシの父が前は教えたりもしてたんじゃけど」

「シュベルトさんが」

「せよ。けんど今は男手が足りんき畑仕事で手いっぱいやし。街の学校は山向こうやし」

「リリー、母ちゃと離れて行くなんてぜったい嫌や!」


 ネネさんの膝に座って大人しく髪を編まれていたリリーが、不意に顔を上げて叫んだ。「ほら、動かんといて。三つ編みが変になるよ」とネネさんに言われて、リリーは渋々また前を向く。そしてぽつりとつぶやいた。


「父ちゃも、(あん)ちゃも、すぐ帰って来る言うとったのにぜんぜん帰って来ぃへんし」

「リリー」

「……さみしい」


 そう言ったきり、リリーは黙ってうつむいてしまった。リリーの父と兄は貧しい村のために出稼ぎに行っている。村には年に一度、数日ほど戻れるだけらしい。ふたりだけではない。男手は同じようにほとんどが出稼ぎに取られていて、村に残されているのは女子供と老人だけだ。そのことには私も気づいていた。


 場の空気がしんみりしてしまったので、ネネさんが気を取りなおすように明るい声を上げる。


「せやからね、ミリアちゃんがリリーの先生になってくれてアタシもとっても嬉しいって話よ。ずっとこの村におってくれてええんやからね。ミリア先生」

「えっ……」


 私が、先生。

 前世も今世も勉強嫌いで成績も悪くて、学のある女なんて可愛げがないからと言い訳をしては勉強から逃げ回っていた私が。先生。


「私が、先生……」

「せやよお。アタシにも今度教えてねえ」


 にこにこと言って「はい、可愛く編めた」とリリーの頭をぽんとなでるネネさんに、私はうなずいた。


「もちろん。いつでも」



 生徒が増えた。


 最初は手遊びのついでに馬小屋でリリーに簡単な読み書き計算を教えていただけだったのが、まず幼い弟妹が参加してきて、さらにその友達たちも好奇心に目をキラキラさせながらやってきた。


 やがて畑仕事の合間に女性や老人たちも顔を出すようになり、その頃には馬小屋がすっかりきゅうくつになってしまったので私はシュベルトさんと相談して家の前で青空教室を開くことにした。


 木材だけは余っているからと、女性たちは山の木を切り出して板を組み合わせてあっというまに人数分の簡単な机と椅子を作ってくれた。そして私は時々村にやってくる行商人と交渉して、古い黒板を手に入れることができた。この村に来るときに着てきたピンクのひらひらドレスと交換することで合意したのだ、私にはもはや必要のないものだったから。


「ミリア先生」

「ミリア先生、ここばもう一度教えてけろ」


 村中の老若男女が私を先生と呼び、慕ってくれる。本当に簡単な読み書き計算を教えているだけだけれど、王都の教育レベルはやはりそれなりに高かったらしい。貴族の中では底辺だった私の学力でも基礎を教えるくらいならなんとかなっていた。

 

 けれどぶつけられる質問は次第に難易度を増し、私はシュベルトさんが昔教えるのに使っていたという教本を貸してもらって、夜中にろうそくの明かりでこっそり猛勉強することで毎日の青空教室に臨んでいた。夜に知識を頭に詰め込んで、それを翌日には何食わぬ顔で村のみんなに教えていくのだ。


 前世でも今世でも、こんなに机にかじりついて勉強したことはない。さながら涼しい顔で泳ぎながら水面下では必死に足をバタつかせているアヒルのごとし。結局、根っからのみえっぱりなのだ。私という女は。


 けれどその見栄(みえ)に虚しさはなかった。私ががんばればがんばるほどみんなが喜んでくれる。先生と呼ばれ、お礼にと抱えきれないほどのヒエメイモを始めとする野菜をもらう日々。「こんなの、うちでも腐るほど採れるんやけどねえ。ほんに、他になにもない村じゃわあ」と言ってネネさんは笑い、それでもヒエメイモのパンや蒸しものを張り切って作っては嬉しそうに振る舞ってくれた。


 そしてある日、私はひらめいてしまったのだ。

 このヒエメイモ、土との相性があるのか名前のとおりここヒエメ村でしか採れない。そして育てれば育てるほど無尽蔵にどんどこ増える。しかも一地方の特産品として終わらせるには惜しいほど美味しい。ーーつまり。


 可能性のカタマリでしかなかった。

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