第002話 ハキリアリの能力
ダンジョン交戦に立候補したポックルたちはお城にあるシロマ様の執務室に案内された。
鮮やかな刺繍の施されたソファーに高級感あふれるセンターテーブル。
触れるのも躊躇われるような家具が至る所に置かれている。
シロマ様はポックルたちにニッコリ微笑むとソファーに腰掛けるよう促してきた。
「みんな立候補してくれてありがとう……でも、今回のダンジョン交戦は投降しようと思っています」
「え!? どうして?」
予想外の言葉に思わずポックルから間抜けな声が漏れる。
「リザードマンにあなた達が挑むのは無謀だからです。
レッドオークには傭兵として名を馳せたバッカスがいます。
勝ち目のない戦いに子供を送り込むようなマネは出来ません」
少しやつれた顔で理由を語るシロマ様。
バッカスの名前はポックルでも聞いたことがある。
歴代のレッドオークの中でも最強と噂されるリザードマンの英雄だ。
ポックルたちのいる辺境の大陸から遠く離れた中央大陸で名声を上げたリザードマンでもある。
だからこそポックルは不思議に思っていた。
他のリザードマンより能力面で優秀なバッカスが何故このタイミングでダンジョン交戦を仕掛けてきたのか。
ダンジョン交戦は仕掛けた側が不利になる。相手の土俵で戦うことになるからだ。
本来であれば相当な戦力差がなければダンジョン交戦など申し込まれない。
敗戦すれば自国が無くなるリスクを背負ってまでトネリコの国のダンジョンを求める理由などあるのだろうか。
「……でも、投降したらシロマ様はどうなるの? 打ち首にされたりしないわよね?」
「私のことは心配いりません。敗戦した王族が打ち首になるなど根拠のない噂話です。きっと大丈夫だと思います」
心配そうな顔で問いかけるケシィにシロマ様は誤魔化すように微笑みながら答える。
だがシロマ様の肩が震えているのをポックルは見逃さなかった。
噂話だとしても自分の命が掛かっているのだ。怖くないはずがない。
「シロマ様、あと数日だけ投降するのを待って。ボクにも試したいことがあるから」
意を決した表情を浮かべるポックルにシロマ様はキョトンとした顔を向けてきた。
「……分かりました、では3日だけ待ちます。ちなみに何をする気なの?」
「傀儡の加護のレベルを限界まで引き上げてみる。一応、特異加護に分類される加護だから」
この世界で授けられる加護は汎用加護と特異加護の2種類に分けられる。
戦士の加護や僧侶の加護といった所持者が複数いる加護のことを汎用加護といい、所持者がひとりしかいない加護のことを特異加護と呼ぶ。
ポックルの傀儡の加護がまさにその特異加護だ。
一般的に特異加護は強力な能力を秘めていると云われており、ポックルは傀儡の加護に隠された能力に賭けていた。
加護のレベルを上げれば戦闘向きのスキルが身に付くかもしれない。
シロマ様の許可を得て執務室から出たポックルはお城の外にあるダンジョンの扉まで一直線に向かうのだった。
◇ ◇ ◇
お城の中庭を横切り敷地内にあるレンガ造りの建物に入ると、派手な装飾の施された扉が姿をあらわす。
トネリコの国のダンジョンに通じる扉だ。
扉の中央にはダンジョンの核が嵌めこまれており、トネリコの国民であれば誰でも自由に出入りできる。
立ち止まって扉を見上げていると、肩をすくめたレプリオがおもむろに口を開いた。
「今日から3日でレベルアップなんて無理ずらよ。
このダンジョンにはスライムしかいないことポックルでも知ってるずら?
倒したところで微々たる経験値しか得られないずらよ」
「もちろん知ってるよ。だけど目的はスライムじゃないんだ」
「じゃあ何しに行くの?」
不思議そうな顔でケシィが尋ねてきた。
「ハキリアリだよ。
ダンジョン内にハキリアリの傀儡を放つと何かを作りはじめることに気付いたんだ。
昨日もずっと様子を見てたんだけど……そろそろ完成してる頃だと思う」
ポックルの扱える傀儡は操作型と自律型の2つに別れる。操作型はポックルの意思で操る必要のある傀儡だ。
今時点で扱える傀儡だとカンパヤンマが操作型に該当する。
一方、自律型の傀儡は自らの意思で行動するためポックルの介入を必要としない。
ハキリアリの傀儡がこれに該当するのだが、今までずっと葉を運ぶだけで役に立たないと思っていた。
その考えが変わったのが1ヶ月ほど前だ。葉を一箇所に集め終わったハキリアリがなにかを作りはじめたからだ。
ハキリアリの習性に気付いて以来、ポックルはダンジョンまで毎日足を運び様子を伺ってきた。
そして昨晩、ほぼ完成していた物体をカンパヤンマで分析すると驚くべきことが分かったのだ。
はやる気持ちを抑えポックルがダンジョンの扉を開くと、いつもの見慣れた草原が視界に飛び込んできた。
心地よい風が草の穂をそよがせ、小鳥のさえずりや虫の羽音がどこかしこから聞こえてくる。
レプリオとケシィに手招きし、草原の奥地にある大木まで案内するとハキリアリの姿が徐々に見えてくる。
触覚の生えた頭部に胸部から伸びる6本の脚。見た目は木で出来たアリの玩具だ。
リンゴほどの大きさの傀儡が数匹、大木の根元で何かを守るようにうごめいていた。
「これって……キノコ?」
怪訝な顔を浮かべたケシィが根本に生えている緑色のキノコを指差して呟いた。
「うん、そうだと思う。やっと完成したみたい」
ポックルはトンボ型の傀儡であるカンパヤンマを呼び出し、ハキリアリが産み出したキノコを分析する。
『名称:EXPブースト茸
効果:
食べると大量の経験値が付与される
オートマタのみに有効
オートマタ以外が食べると食中毒になる』
昨晩分析した情報から変わっていない。
脳裏に浮かぶ大量の経験値が付与されるという記載にポックルの心臓の鼓動も思わず高ぶる。
ただ、オートマタのみに有効という記載が昨日からずっと気になっていた。
「カンパヤンマの分析だと、これを食べれば大量の経験値が手に入るみたい。
ただ、オートマタだけに有効なんだって。
オートマタってなんのことか分かる?」
ポックルが緑色のキノコを手に取りケシィとレプリオに聞いてみる。
ケシィは怪訝な顔で首を左右に振り、レプリオは手のひらを上に向けお手上げのポーズをとった。
「まさか食べるつもり? 大丈夫なの?」
「うん、これしか手がないから。仮に毒キノコでも食中毒になるだけみたいだし……食べるだけで経験値が手に入るならチャレンジしてみるよ」
ポックルは引きつった顔でそう言うと覚悟を決め、ハキリアリの作った不気味なキノコを口の中に放り込む。
目を閉じておそるおそる咀嚼するも何も味がしない。
まるでスポンジを噛んでいるような食感だ。
そのまま飲み込み数分待ってみるも体に変化が生じる気配はなかった。
やはりオートマタという制限に引っかかったのだろうか。
ガックリと項垂れつつ念のためカンパヤンマを操作して自分の姿が見える位置に飛ばすと、脳裏にステータスが浮かびあがってきた。
『名称:ポックル
特性:傀儡の加護 Lv.10
スキル:
・ハキリアリ(自律型)
・カンパヤンマ(操作型)
・シビレヤモリ(自律型)
・バクスパイダー(操作型)
・我樹丸(操作型)』




